感情の必要性
「食べ過ぎた」
真穂は大きくため息をついた。
なぜ餅は食べ過ぎるのか。
『カロリー高いの分かってるんだけど……』
罪悪感がこみ上げる。
これを幸太に言ったところで、
「運動すりゃいいじゃん。あ、一緒に鍛錬しようぜ」
と満面の笑みで返されることは分かっていた。
『確かに動けばいい。それはそうなんだけど、僕の場合、それで体重が増えなくても罪悪感が消えないんだよな〜』
理由は分かっていた。
結果変わらなくても、自分が誘惑に負けて食べ過ぎたことには変わりないからだ。
そもそも、その誘惑に負けなければ、鍛錬を多くする必要もなく、その時間を他のことにむけられたのでは?
いや、鍛錬はできるだけしなければ。
強くなりたいんだから。
いや、強くなりたいから鍛錬するのと、自堕落を巻き返す為に鍛錬するのとでは、結果は同じでも意味は違うのでは?
結果が同じならいいのでは?
『いやいやいやいや』
頭の中で考えを巡らせていると、ひょっこり脳内に夢芽が出てきて言った。
「悩むを趣味にするな」
「はい……」
そんなことを考えていること自体が時間の無駄だと考え直し、真穂は騎士団訓練場に来ていた。
幸太は誘わなかった。
こちらから言わなければ幸太は来ない。
おそらく、ここは幸太が真穂に告白をした、言わば思い出すだけでも顔から火が出る場所だからだ。
別に場所がどうこうと考える必要はないと思っていた。
しかし、それを口にできない理由がある。
「真穂」
「ゼン様、こんにちは」
真穂が鍛錬をしていると、時折ゼンが訪れる。
そして迷うことなく一直線に真穂に声をかけるのだ。
『別に、やましいことをしてるわけじゃないんだけど』
真穂はそもそも剣の、魔術の技術を磨きに来ているのだ。この広さ、剣技、魔術、両方をおもいっきり使える場所は少ない。
よそ者である真穂ならなおさらだ。
そこにゼンが来ているにすぎない。
『一直線にこちらに来ているのだから、僕と話す為っていうのはあきらかだよね。
もう来ないでくださいって……、教会の最高権力者に言っていいとは思えないし……。
だからと言って、幸太に見せたら絶対怒りそうだし……。
いや、そもそも付き合ってるわけじゃ……』
「真穂?どうしましたか?」
「え?いや、なんでも……、それにしてもゼン様、今は、教会も議会も何かと忙しいと思うのですが…」
「問題ありません」
ゼンの表情はまったく変わらない。
と言うよりも、今まで真穂はゼンの無表情が変わるところを見たことが無かった。
「そうですか……」
別に何か楽しい話題をふってくれるわけじゃない。
挨拶をかわした後は、ただいるだけだ。
邪魔してるわけではないが……。
『き、気まずい』
「あ、あの」
意を決して聞いてみる。
「よく、ここにきて、そうしてますよね?あの、僕になにか……」
「特にありません。私はあなたの顔が見たいのです」
「そ、それはなんで……」
「特に理由はありません」
『こ!れ!だ!か!ら!!!』
叫びたい気持ちを抑え込んで、会話をこころみる。
「あの!僕!その!強くなりたくてここで場所を借りて、鍛錬してるんです。
その、あの、そんな風に見てられると、集中できなくて、だから!!!」
「私がいるだけで乱れてしまうのは、あなたが弱いからではないですか?」
『!!!!!!!!!!!!!!!!』
これまで、何度か『この人は僕のことが好きなのでは?』と思ったことがあった。
しかし、探りをいれてみると、こういった失礼ともとれる言葉が返ってくる。
『いや、これ絶対好きな人に言うことじゃないよね』
真穂は腹が立つやら、自分の自惚れが恥ずかしいやらで、顔を赤くし口をパクパクさせてしまう。
ゼンを見れば、間違いなく目が合うこともわかるので視線はずっと前だけを見て、一心不乱に剣を振る。
気がつけば、ゼンはいなくなっている。
これが繰り返されるのだ。
『ああ〜〜〜!!!もう!!!』
しかし今日ばかりは負けていられない。
「そうです!僕は未熟者です。弱いです。だから強くなりたいんです。
そのためにはまず、誰もいない状態で集中し、強くなっていくしかないのです。
ですから、申し訳ありませんが、僕があなたがいても集中できるくらい強くなるまで、ここに来ていただくのをやめてもらってもいいでしょうか」
『言った!言ってやったぞ!』
真穂は心の中でガッツポーズをとるも
「嫌です」
ゼンの言葉に崩れ落ちた。




