こんがるこんがる
真穂は強く目を拭う。
涙を隠し、笑顔を作った。
医者を呼び、現状を知ろうとする幸太を落ち着かせて、食事を用意した。
幸太は目の前に置かれたオートミールを口に運ぶも、「嫌いなわけじゃないけど……、肉が食いたいなー」と不満をこぼす。
真穂はその軽口を聞いて、『ああ、もう大丈夫なんだ……』噛みしめる。
「ゴロゴロ肉はひとまずお預けだよ。病み上がりなんだから」
「分かってるよ。ちゃんと食ってちゃんと治す。
だから今なにが起こってるのか話してくれ。聞きながら食う」
「はいはい」
世話を焼けるのが嬉しい。
真穂は黙々と食べる幸太の横で、語り始めた。
あまり楽しい話では無いので、言葉を選びながら話す。
嬉しいと感じてしまうのは不謹慎な気がして、感情は閉じ込める。
全てを話し終わる頃には、幸太の食事は終わっていて、じっと視線を下に落としていた。
その目は何かを見ているのではなく、自分の考えを自分の中でまとめているようだった。
「真穂……」
「ん?」
「俺さ……、試練を受けたんだ」
「うん、僕も受けた」
「そうか……、まぁ、お前も力場に行ったんだもんな。その……、試練内容は?」
「え!?!?!?」
言うべきか迷う。
『いや、言えないよ』
あきらかに動揺する真穂を見て、幸太は笑う。
「言えないなら言わなくていいさ。たぶん俺とは違う内容なんだと思う」
「そ、そうなのかな」
「俺のは言って困るようなもんじゃないからな」
一呼吸おいて続ける。
「俺はさ、自分と戦わなきゃいけないんだ。
自分を鍛え、律する。自分を強くする」
「なんだか抽象的だね」
「お前のは具体的なのか?なんだか分からないけど、ちょっと羨ましいかも……、いや、そうは言い切れないか……。なんか悩んでそうだ……」
なんとなく気まずくなる。
居心地の悪いような、むず痒いような空気が流れた。
「幸太、なんか言いづらいことがあったりする?」
「ああ、分かるか」
「こ、幸太が、分かりやすいんじゃないかな」
「そうか?」
「そ、そうだよ」
『なんでこんなに動揺してるんだろう』
気のせいか、心臓の音が大きいように感じた。
真穂が考え込んでいると、幸太が再び話を始めた。
「まぁ、それでさ、俺なりに自分を強くするってことを考えてみたんだ。自分を見つめ直すって言うか。
そしたらさ、お前に告白したことを思い出したんだ。
あの告白って、お前のことを無視した自分勝手な感情の押し付けだったんじゃないかって……。
お前が異世界に来て、夢芽のことで色々大変なのにさ、顔が好きだとか言って、なんか、もう、そりゃ腹も立つよなって……。
だから…」
一度言葉を止めて、顔をあげる。
まっすぐ真穂を見て言った。
「告白のやり直しをさせてほしい。
この世界の事が落ちついて、夢芽が理不尽な罪を背負わなくていいようになるまで、恋愛の話はなしにしよう。
それまでに、俺はもっとちゃんとした男になるから。
お前はそれを見届けた上で答えをだしてくれ。
もちろん、受け入れてくれなくてもいいから」
「え…………あ……」
「今言ってることすら、勝手だって分かってる。
でも、あれもこれもを同時になんて、やっぱり出来なくて、今大事なこと、後回しにしちゃいけないことって考えると、やっぱりこの世界のことや夢芽のことだと思うんだ。
俺…、なんだかんだでこの世界を他人事だと思ってたのかもしれない。巻き込まれただけだからって……。
自覚してたわけじゃないけど、心の何処かで思ってたのかもしれない。
でもそれじゃダメだ。
もっと強くなると決めたなら、ぶつかっていく覚悟をまず持たなくちゃ。
俺が変わる為に、協力してくれないか?」
真穂の思考が止まった。
止まっているにも関わらず、不思議と言葉が出た。
「もちろんだよ!」
笑顔を浮かべている自分が、自分なのに信じられなかった。
その後、何を話したのかはあまり覚えていない。
お互い笑いながら、軽い話をしていたように思う。
不安定な空間にいるような感覚。
でもなぜか、少しホッとしたようにも感じた。
『僕の試練をどうするか、決めるのがますます難しくなってるに……』
ぬるま湯のような関係。
『いいわけが無いのに……』
真穂は平静を装いながら、脳内で脱力し突っ伏した。




