表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/59

火の試練 戦

「こ、これは……」

幸太は恐る恐る胸に手を当てる。

胸の中に、痛みも冷たさも、温かみも感じない。

すでに身体はボロボロなのだから、その痛みで感知できなくなっているのでは?と思ったが、龍神曰く、何かを感じることはないらしい。


龍神ダリアは、柔らかく温かい口調のまま続ける。

「あなたがワタシとの約束を守っていだだけた時、あなたの中でワタシの力が発動することでしょう」


「約…束……?」


「はい、ワタシの力の根源はいくさ、戦うことです。

戦い。それはもちろん人と人とが争い、傷つき合うことです。でもそれだけというわけでもありません。

自分との戦い。

それも立派なワタシが求めるいくさなのです」


「俺に………、自分と…戦えと」


「そうです」


「えっと……、具体的には……」


「それは自分で考えなければなりません。

争うことが戦う全てではないように、前に出ることもまた、戦うことの全てではないのです。

逃げるという選択肢すら、時に戦うことと判断されるこもあるでしょう。

自分を律し、何を得て、何を捨てるのか。又は捨てることが正しいのか、選ぶべき道はなんなのか、何が己を成長させるのか、それを模索し、選ぶことこそが自分との戦いなのです。

ワタシがあなたと交わす約束、試練は、あなたが己にかした戦いに打ち勝つことです」


幸太の頭上におびただしい量の「?」が飛び交った。

もうわけが分からない。


エレナが見かねてそっと助け舟を出す。


「あの……、哲学的すぎて、彼の脳にまったく届いていないのだけれど……」


「まぁ」


「いや、『まぁ』じゃなくて」


クリフが苦笑いしながら補足する。

「ダリア、彼は今体調が万全じゃない。

一度帰ってゆっくり休んでから、改めて考えるよう促すべきじゃかいかな?そもそも、考えることそのものが試練でもあるわけだし」


「確かにその通りですね。

急ぐことで得ることがあるわけでもありませんし、どうかゆっくり考えてください」


明るい口調の龍神ダリアとは裏腹に、完全にフリーズしている幸太。

再起動までは時間がかかりそうだ。

エレナとクリフは、お互いの顔を見て一息ついた。

そしてクリフは幸太を背負い直し、力場をあとにする。


エレナも続くように一度は背をむけたが、振り返りダリアに問う。


「聞いときたいことがあるのだけれど」


「なんでしょう」


「あなたに異変があったように、町を襲った龍神は、心を失っているのね。

もしかしたら、これから他の龍神が同じように変化し、人間を襲うかもしれない。

私は、それをなんとかしたい。

心当たりがあるのなら、教えてくれるのかしら」

秘密の多い存在。

意図的に隠されていることがあるということは、エレナにも理解できた。


「ありません。

あなたが察しているように、この世界には打ち明けられない真実、知らないほうが幸せな現実があります。

けれど、今回のことはそれとは無関係。

本当に知らないのです」


「あなたたちが分からないだけで、本当は繋がっているかもしれないのに……。

話してくれれば、見えてくるものがあるかもしれないのに……」

エレナの言葉から感じるのは憎しみや恨みではなく、手を差し伸べているのに、理解しようと歩み寄ろうとしているのに、なぜ拒絶するような行動をするのか、そのことに対しての悲しみだった。


龍神は、それを理解した上で答える。


「ごめんなさい……。

それでも、どうしても言えないことがあるのです」


「………………………。分かったわ、もう聞かない」

エレナは一瞬だけ怒りを見せるが、目を閉じ表情を消した。

そして、再び背を向ける。

「でも、諦めたわけじゃない。教えてくれないなら、私は自分で調べる。どんなに隠しても繕っても知ったことじゃないわ。

グイグイ進んで、全てを暴いてやるわ」


龍神ダリアは、その答えに戸惑いや怒りを見せることは無かった。

「はい、それがあなたの戦いだと言うのであれば、ワタシがどうしてそれを否定できましょう。

どうか、あなたはあなたのままで……」


不思議と嬉しそうにも見える。

龍神ダリアは、大きな羽を広げ飛ぶ。



風が立つ。



龍神ダリアを取り巻く炎は、先ほどまでの荒々しさはなく、まるで紅葉のように美しく舞う。

ハラリハラリと落ちる火の葉は不思議と熱さは感じず、幸太が試練を乗り切れるよう祈りを込めた激励か、龍神の敷いたレールから逃れようとするエレナを祝福かのように見えた。


「何よ………、こんなの………、嬉しくなんかないわ。私はあんたたちの敵みたいなもんなんだから……」

そう呟いたエレナの表情は見えなかったが、足どりには誇らしさ、プライドを垣間見せるものがあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ