取り戻したもの
カチャリと音がした。
不思議と騒音の中でも耳に届く。
人骨が激しい戦いの振動でズレたのか。
しかしエレナには、それが天啓のように感じた。
神を信じぬ者が天啓を受けるなど笑い話だと、心の隅でもう一人の自分が笑った。
骨の間に落ちている装飾品。
エレナはあることに気づき手を伸ばす。
きらびやかな宝石に紛れて気づかなかった。
魔石だ。
「でも、これって火の魔石……。よりにもよって」
水なら有利。風や土でもなんとかなるかもしれない。
しかし火の龍神に火の力では……。
クリフや幸太たちは、現在も交戦している。
クリフは水の魔術をぶつけているが、威力が足りない。
火の魔術もちの幸太は、そもそも使い手として未熟である上に龍神と同属性だ。酷なようだが戦力になっていない。
エレナは更に思考する。
『もういっそ、神とは考えない。我を失った獣。なら……』
そして叫んだ。
「クリフ!幸太!倒すんじゃない!殺すんじゃない!捕獲することを考えて!
水でダリアを取り囲んで、幸太はこれを使うの!」
投げた魔石は、幸太の手の中に届いた。
本来、敵を前に大声で作戦を叫ぶなど馬鹿なことだ。
しかし、今の龍神に作戦を把握するほどの心は失われていたのだ。
それはもう、怒れる獣と呼べる存在。
「自分の中にある魔石と同調させて!一時的に力が増大するはず」
「待ってくれエレナ!そんなことして、彼の身体は大丈夫なのか?」
「ごめん!絶対に大丈夫だなんて言えない。でも、これしか思いつかなかった。幸太、やらない自由もあるわ」
その言葉に対する答えは、そう待たずに返ってきた。
「じゃあ、やるしかないだろ」
幸太はクリフと目を合わせ、いっせいに動いた。
クリフは網目のように細かい水を膜のように展開した。
それは龍神を取り囲み、吐き出す炎を的確に消していく。
動きを制限された龍神は、後退し止まる。
その瞬間、幸太は渾身の一撃を龍神にぶつけた。
更にクリフは水の網で龍神を締め上げる。
「いくら同属性でも、それぐらいの力なら、多少は効くみたいだね」
「でも………、水の網のが………、苦しそうで……」
幸太は息も絶え絶えだが、それでも身体を駆使し、縛られて体勢を低くしている龍神の眉間に一撃をくらわせた。
龍神は目を閉じ動かなくなった。
どうやら気絶しているようだ。
クリフとエレナは満身創痍の幸太に駆け寄り、エレナは脈を取り、クリフは治癒術をかけた。
「できればすぐに戻りたいわね」
「私が背負うよ」
「ま、待ってくれ……、ダリア様を……」
「あんた、今はそれどころじゃ…」
エレナが言い終わる前に、龍神の声が聞こえた。
先ほどまでとはまるで別の生き物、上品で艶やかな音だった。
「クリフさん……」
「ダリア、正気に戻ったんだね。良かった」
「ワタシは……、皆さんになんて恐ろしいことを……」
「君のせいじゃない。何があったの?」
「分かりません。突然意識がぼんやりして……」
「…………………………」
「クリフさん?」
「ごめん、私は君を……」
「いいえ、もしあなたが彼らよりワタシの命を優先していたら、ワタシは貴方を軽蔑しました」
「ダリア………」
クリフが水の網を解く。
龍神は身体を起こし、エレナと幸太の前で頭を下げた。
「お二人とも、申し訳ございませんでした」
「いえいえ」
「正気に戻ってくれて助かったわ。命のやりとりでは勝てないもの」
「改めましてご挨拶を。ワタシは火の龍神ダリアと申します」
「幸太です」
「エレナよ」
「ダリア様!俺……、火の魔術を……持ってるんです。
もっと……強くなるために…、力を貸してください!」
幸太の身体はボロボロで、限界なのは誰の目にもあきらかだった。
「お願い……します。お願いします!!」
それと同時に、このままでは引き下がれないという信念も声の端々、目の奥から見て取れた。
龍神は少し考え、身を起こした。
「分かりました。ですが、貴方の希望が叶うかどうかは貴方次第です」
「もちろんです」
龍神は頷くと、力を込めるかのように目を閉じた。すると、小さな炎が現れる。
それはすうっと幸太の胸の前まで進み、そのまま中へと消えていった。




