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魅力の優劣

「うわ、何それムカつくわー」

「まぁ、腹が立ったということは理解できますが、暴力はいけないと思います」

「えぇ?殴られて当然よ。見た目で好きって言われて喜ぶ人っているかしら」

「少なくとも僕は嬉しくありませんが、暴力に訴えたことにより、こちらの正当性が失われるのが納得いかないんですよね」

「失われるかしら」

「失われるでしょう」


テーブルの上には珈琲とチョコレート。

真穂はテーブルに顔を突っ伏していた。

後悔と、その後悔を覆ってしまうほどの怒りと、正体の分からない悲しみが真穂の頭に重くのしかかっていた。

本来実験中であったのだが、見かねたエレナとバーサルが休憩を理由にお茶会を開いたのだ。


「あ、これも食べる?」

「あんこですか?珈琲とあんこ?しかもあんこだけ」

「ゴートンと幸太が好きなのよね。で、ゴートンがこの前大量に作ったのが余ってたのよ。意外と珈琲と合うわよ」


幸太の名前にピクリと反応した真穂は、テーブルの上に置かれたあんこに視線をうつす。


「あんこ…、あるんですね」

食事はパンやスープが多かった為、なんとなくこの世界には無いような気がしていた。

「メジャーになれるのに、なれないのよ」

「なんですか?それ」

エレナはよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに、鼻息を荒くして語り始めた。

「この国はね、高温多湿なの!小麦より稲のが育つの!小豆とか大豆も育つわ!なのに、アーシャ様や龍神の好物だからとかで育ったものはほとんど教会に納めちゃうの!

で、育ちにくい小麦を必死に作って国民はそれを主食としてる。効率が悪いと思わない?

石像は米なんか食べないわよ。龍神なんて、私たちにずっと姿なんて見せたことなかったくせに、来たと思ったら町を襲ったってんだから、米も小豆も大豆も人間が食べればいいんだわ」


「え?育ちにくいんじゃ、流通が滞るでしょう?よく国民たちは黙ってますね。

っていうか、じゃあこの目の前のあんこは、なんなんですか?」

「滞らないんですよ。

魔術で多少の地水火風を操れますし、どうしょうもない状況になると、ここぞとばかりに巫官士がでばってきて『アーシャ様の加護〜』とかやると、天気が変わったりします。

ちなみに祝い事があれば、私たちも多少の米や小豆は食べれます。お値段が高いので、あまりメインにはしません。ゴートンは騎士団長で貴族で、まぁ、金持ってますから」

バーサルの最後の言葉には、あきらかに棘があった。


「米なら魔術も加護もいらないのよ!食べもしない神様にあげなくても良いじゃない!!!」

「彼らの中では食べてるんですよ」

「ちょっとバーサル!あなたどっちの味方なの?」

「事実を言ったまでです」


軽快なやりとりに、真穂の顔が緩む。


「ありがとうございます。今は大変なことばかりなのに、僕の私情でお手を煩わせて」

「いいのよ。あれから龍神は来てないし、武力強化と国民の沈静化は私たちの仕事ではないもの。

それにしても、幸太は腹立つわね。もっと内面を見てほしいものだわ」


「なんの話だい?」


ゴートンが部屋に入ってきた。

疲弊したその表情からは、連日の忙しさが見て取れた。

「あら、お疲れ様」

その表情があまりにもひどいものだったので、珍しくエレナが立ち上がり珈琲を入れてゴートンを労った。

その際に、幸太と真穂のやりとりも説明した。


「ふむ、幸太君の言ったこと、それほどひどいとは思わないけどな。顔もその人の魅力のひとつだろ?」

「顔よりも、その人の努力や性格を見てほしいじゃない?顔なんて、本人の意思とは無関係にくっついているものだもの」

「運動をしたり食事に気をつけたりすれば、それは見た目にも反映されるものさ。

もちろん、努力ではどうにもならないものもあるが、それは勉学が性格にも言えることだ。

一日中だらけた生活をしてる人は、精悍な顔つきはしていないと思うよ?」


ゴートンの言葉は、真穂の心をいくらか穏やかなものにした。

『今まで、顔で判断されるのは嫌だったけど……、その言葉だけで拒絶するのも違うのかもしれない。

幸太は……、きっかけはともかく、顔を通してでも少しでも僕の内面を見てくれてはいるのだろうか…』

確認したいような、怖いような、不思議な感覚を味わった。


「私は、食事も運動もしてないけど……、ついでに充分な睡眠も」

「「それは、彼(私)が管理してるから、とりあえずなんとかなってるだけでしょう(だろ)」」

エレナの発言は、バーサルとゴートン二人に突っ込まれて撃沈した。


「そ、それにしても、ゴートンさん、忙しそうですね。それこそ、ちゃんと寝れてますか?」

真穂が話題をゴートンに向けると、その意図を汲み取ったゴートンが苦笑いをした。

「寝れてると言ったら嘘になるかな。

本当に忙しいよ。せっかくの夏だし、かき氷のシロップとか自作しようと思ってたんだけどな」


「「かき氷………」」


「ん?なんだい?」


「「あれって水を固めた糖分の塊じゃない(ですか?)

食べる意味ある?(りますか?)」」


今度は、エレナと真穂の言葉にゴートンが撃沈した。

『嗜好品の良さが分からない者たちめ……』

ゴートンは空気を読んで反論を飲み込んだ。


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