幸福な毒
地下牢は城の中にあった。
石造りとポツリポツリと灯るロウソクの明かり、薄暗い階段を下れば、お世辞にも清潔とは言い難い牢屋があった。
その中には盗賊の頭であるディザイが、まるで主のような堂々とした態度でこちらを見据えていた。
「よぉ!久しぶりだな。来てくれて嬉しいぜ」
その笑顔には嘘が無かった。
「私のせいで捕まったのに、なんだか嬉しそう」
「あんたが強かったのは事実だからな。んで、俺が弱かった。真正面から戦って負けたんだ。いっそ清々しいぜ」
ディザイは格子の近くまで身体をよせ、夢芽の顔を見る。
「何しに来たんだ?俺に聞きたいことでも?」
「ディザイと戦った時の私、どんな感じだった?」
「そりゃあもう、めっちゃくちゃ強くて、獣みたいだったぜ。惚れ惚れすらぁ」
興奮気味に語られるも、夢芽は複雑そうな表情を浮かべるのみ。
ディザイは顔を歪ませて更に笑う。
「すまねぇな。あんたの期待に応えられる話はねえ。
だけど違う話題なら提供できるぜ」
「え?」
「玉っころを探せ」
「玉っころ?」
「気づかなかったか?俺と一緒にいた丸い玉さ。
この国の外にはけっこういるんだ。ホコホコ族って呼ばれてるが喋る姿は初めて見た。
ペラペラ喋るホコホコ族を探すのさ。俺に真穂を誘拐するよう唆したのはソイツなんだから」
「は?その話、もうちょっと詳しく!!」
今度は夢芽が前のめりになる。
二人の距離は格子を挟んではいるものの、とても近くなった。
夢芽の関心を引けたことを確信したのか、ディザイの目は更に輝く。話すために開いた口からは八重歯が見え、彼の持ついたずらっ子のような怪しげな魅力をより一層引き立てた。
「俺たちはさぁ、捨て子や穀潰し、まぁ、色々あって、いつの間にか盗賊なんて呼ばれるようになった鼻つまみモンの集まりなのさ。
この国のどこにいても居場所はねえ。だから自然と国の外に住居を作った。
それがあのアジトさ。ある日あの玉っころが訪ねて来て、『変わった格好の美男子がいる。煮るなり焼くなり好きにしろ』って近づいてきた。
喋るホコホコ族も珍しかったんだが、綺麗な人間はそりゃあもう用途が沢山あるだろ?だから俺たちのアジトにご案内したってワケ。
ところが結果はこうよ。
まさか騎士団があそこまでデカい隊をゾロゾロ引き連れて、チンケな俺たちとやり合うなんて思いもしなかったよ。
おかげでこのザマだ」
夢芽は顔を格子から離し、考える。
「それって………、玉っころとやらはもちろん気になるけど、騎士団も……」
「御名答!
そんでもって、アジトも今は騎士団の管理下。
あのアジト、森の中に文明の跡があんだよ。人が何かをしていた。なんだかは分からねぇがな……」
喋るホコホコ族、騎士団が求めるものは
真穂か
アジトか
それともその両方か。
「騎士団に聞いたら、何か分かるかな……」
その言葉に、ディザイは吹き出して答える。
「ッハ!やめときな。あんた教会のモンだろ?案内してきたやつがそうだったもんな。
騎士団は本来中立なんて言ってるが、現在の騎士団長ゴートンはバリバリの議会派だ。まともな返事なんてこねぇよ」
夢芽は行き詰まった思考を八つ当たりするかのように、冷たくディザイに言い放つ。
「やけに親切だね。なーーーんか裏があったりして」
本当はそこまで思っていなかった。
ディザイは真っ直ぐこちらを見ていたからだ。
奇妙な言い回しだが、ディザイはひねくれていて、それでいて嘘がなく、真っ直ぐな不思議な少年だった。
そんな夢芽の心境を理解してか、ディザイは少し落ち着いた声色で答えた。
「まぁ、いじけなさんなって。
これは俺からゴートンへの意趣返しでもあるんだ。
えげつなかったぞ……、あいつの尋問」
「そ、そうなんだ……」
夢芽はゴクリと息を飲んだ。
「あと、俺から仲間を引き離す方法もな」
「何したの?」
おそるおそる聞いてみる。
「罪を極力軽く、衣食住や仕事の世話までしてた」
予想外の答えに、夢芽は呆気にとられてしまう。
「い、良いことでは?」
盗賊の罪を軽くすることが良いことなのかは分からないが、少なくとも盗賊側からしたら良いことだろう。
そう思った夢芽を、ディザイは顔を歪ませて鼻で笑う。
「その分、俺の罪が重いのさ。
国の外は、何だかんだで不便でな、その不便さ貧しさをバネに国を恨み、力にしてきたのさ。
一度国内の安定を知っちまっなら戻れねぇ。
あんなに胡散臭いとほざいていた連中も、今だって心の奥底ではそう思ってるクセに上っ面で国王万歳!ファーレガビャ万歳!と叫んでる。
目の前にニンジン吊るされた馬のようだ。
それはもう、盗賊でも、俺の仲間でもない。
俺は、もう仲間を取り戻せない。その仲間は、以前の仲間じゃない。手を差し伸べても、受け取ってもらえねえのさ」
「淋しいの?」
かつての仲間は、彼をもう見ることはない。
「情けねぇのさ。
あいつらだって、罪が軽くなったって贅沢な暮らしが出来るわけじゃない。
あくまで底辺さ。
それでも、あいつらは気づかずありがたがる。
かつての俺たちは金が無くても、誇りはあった。その誇りを簡単に投げ捨ててその生活を取る。かつての仲間、言い換えるかならかつての家族の有り様がさ」
その瞳には憂いがあった。
夢芽には、新しい生活を取った盗賊たちが間違ってるとは思えなかった。
しかし、それを口にするのは、あまりにも残酷なようで出来なかった。




