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望んだ変化 望まれぬ変革

「退院おめでとー」

「ありがとー」

人魔術研究室の一角、簡素な長椅子に座った夢芽と幸太は、ハードパンで乾杯し、まるごと大きな口をあけて頬張った。

「「んまーーーーーー」」


「パンで乾杯するなんて、初めて見たわ。それって薄く切って食べるものなんじゃないの?」

エレナは研究結果をまとめた書類を片手に、やや呆れた表情を隠さず零した。


「ナイフが視界に無かったし、今食べたかったし」

「真穂の土産、うまいよな」

口いっぱいに頬張るとゴクリと飲み込み、口の中に広がるライ麦とドライフルーツの余韻を楽しむ。


「で?真穂はどうなった?人魔術は使えそうなのか?」

幸太の言葉からは、どことなく暗いものを感じ、やはり心から賛成しているわけではないということが伝わってきた。

しかしそれを理解しつつも気にしないといったように、あっけらかんとした明るさでエレナが答える。

「あなたと一緒で魔石を持参してくれたから順調よ。

魔石はアーシャ神から授かる以外で手に入らないから、なかなか研究が進まないのよね。

彼が持っていた魔石の属性は水。特に問題なさそうだから、これから移植に入るわ」

「移植………。切って開いて石を入れるの?」

夢芽の発言に、エレナは目を大きく開いて驚く。

「し、しないわよ!危険すぎるわ!あなた怖いこと言うのね」

「この世界、外科治療はあんまり進んでないから」

幸太が夢芽に耳打ち。

「じゃあ、どうするの?」


「術式を組んで、体内に魔法陣を刻み込むの。そうすれば自然と対応した魔石が体内に取り込まれていくの。

切って開くなんて、危険で非現実な方法よりずっと安心安全現実的よ」


夢芽はフフンと笑うエレナの得意そうな表情を目にし、言いたいことがあったにはあったが、言っても仕方ないことなのでググっ食いしばり黙った。


「でもさー、けっこう副作用がでて大変なんたぜ?大丈夫かな」

「そうなの?」

「入れた後は気持ち悪くなったし、使った後は筋肉痛だし。夢芽、その顔の痣みたいなの、痛くないのか?」

「私のは全然」

「興味深いわよね。本当はあなたの体を調べてから真穂の方を診たかったんだけど、教会側の許可が遅いから」

「あ、それなら、クリフが立ち会うことを条件に許可がおりたって。

今から書類持って、ここに来るって」

夢芽がそう言ってニッコリ笑うと、複雑な顔をしたエレナとものすごく嫌そうな顔をした幸太の顔が並んだ。


「嫌われてるーー」

「「嫌ってまーーす」」


「なんで!?議会派だから???」

「それも無いとは言わないけど、そんな首輪するような奴、良い印象うけるわけないでしょ」

「これは私が納得してるんだからいいでしょ?話してみたら、二人にもクリフの良さが分かると思うんだけど」

「「ダトイイデスネ……」」


しばらくすると研究室のドアが開き、クリフが書類を持ってきた。

「夢芽をよろしくお願いします」

ニコリと微笑むクリフ。

「姉さんはあなたのものじゃないんだから、そんな言い方しないでください」

移植の前に声をかけに来ていた真穂は、怒気をあらわにクリフに言い放つ。


「真穂!」

「姉さんは深く考えられてないだけだよ。僕は納得できないし許せない。僕は力をつけて、そんな首輪外してみせるから」

「あのね真穂……、私は…」

「夢芽、いいんだよ」

「でも……」

「私に集まる非難は当然のこと。それに……」

クリフは夢芽にだけ聞こえるように小さく続けた。

「俺はこれからも、君にひどいことをするから」

その表情は一見毅然としているように見えた。

たが、夢芽には奥底に潜む悲壮を感じた。

『クリフは、本当に優しい人なんだ。

皆にも分かってほしいって思っちゃうのは、私のエゴなのかな……』



次の瞬間

地面が沈むような振動と、這うような音をその場にいる全員が感じた。


すぐに研究室の外が騒がしくなり、人々は動き出し声を荒げる。

ただ事ではないということは、部屋の中にいても伝わる。それぞれがその雰囲気を強く感じ取り、動揺を隠せなかった。


「何があったの?」

夢芽が研究室の外へ出ようとした瞬間、バーサルが勢いよくドアを開けて入ってきた。

「大変です!今、そこの騎士団の方に聞いたんですが……」


次の言葉に、全員が息を飲んだ。


「龍神が街で暴れて、多数の死者を出した……とのことです」

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