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羊たちへ愛を込めて

かつて青き鳥を得るために全力疾走した道を、夢芽は再び歩いていた。

今度は正式に呼ばれたわけだが、歓迎とはほど遠いものだった。

信者たちの視線は侮蔑と畏怖、そして彼らの中にある龍神と女神への正義の心が、夢芽を拒絶していた。

追い詰めなければならい。

排除せねばならない。

この世に存在するあらゆる汚い言葉と暴力を浴びせなければならない。

まとわりついてくるような感情をその身に受けながらも、視線のみで済んでいるのは、皮肉にも恐怖という名の感情が、彼女を守っていたからだった。

仕方ないことだ……と、夢芽は感情と向き合わず思った。

『竜はここでは女神アーシャと同じく、大切な存在。私は悪女エイリの生まれ変わりで、その悪女が竜を殺した………』


たどり着いたのは誓約の間。

入口の前で入出を許され、女神の像と二人の巫官士に頭を垂れる。

女神アーシャは、やはり美しかった。

女神の前には二つの椅子と、そこに鎮座する巫官士。その椅子から少し離れた所に、もう一つ椅子がある。

空席であるその椅子は、おそらくクリフのものであろう。


ファナは複雑な表情でこちらを見ていた。

ファナの隣にいる一人の巫官士はゼンと名乗り、静まりかえる湖のように笑った。

銀髪でありながらその髪は、光にあたると虹のように輝いていた。流れるように体をつたい下ろされた長い髪。髪と同じ色の瞳。

圧倒されるような美しさと、蹴落とされるような存在感。

表情は静かに微笑んでいるようにも見えるが、どこか機械的で、言葉は優しそうに聞こえるが、どこか突き放すような感覚を覚えた。


「あなたが夢芽ですね。はじめまして」

「は、はじめまして」

「あなたは、我々が敬い身を捧げる龍神を手にかけましたね」

「は、はい。その、あの時はいっぱいいっぱいで…、魔術なんて使ったことなくて。その……、ごめんなさい」

「ファナはどう思いますか?」

「え?」

なぜか話をふられると思っていなかったのか、ファナは驚きの声をあげた。

「そ、そうですわね。由々しき問題だと思います。

本来なら極刑です。

しかし、目撃証言では、龍神さまは抵抗することなくまるで自ら命をたつかのようにも見えたとあります。

龍神さまの真意を見誤ることのないよう、慎重な対処が必要かと思います」

「その証言は、騎士団からのものですね。

あなたは騎士団の言葉を無視し、極刑を言い渡すかと思いました。意外です」

「わ、私をなんだと思ってらっしゃるのです?

本来、騎士団は中立です。確かに昨今の騎士団は議会に寄りすぎていると思いますが、無下にしていいとも思っていませんわ。

まずはアーシャ様の意思を確認すべきです。

私たちの心はアーシャ様と共にあるのですから」

「そうですね。

夢芽、何か言いたいことはありますか?」


言いたいこと……。

夢芽は、頭の中にあることをとりあえずまとめた。

「私は、クリフ……、クリフ様に感謝しています。

クリフ様がいたから、私は家族を助け出せた」

ふと、クリフの座る席であろう椅子の位置が気になった。

巫官士から少し離れたその位置は、彼が名ばかりの立ち位置にいることをなんとなく察してしまうものだった。

『私はクリフに恩返しがしたい。

クリフを守りたい。

そう……、ここに来るまでいた人たち。

きっとクリフが守ると決めた教会の人たち。

不安とか恐怖とか、それってもちろん私のせいたけど、もっとこの国が私が暴れる隙がないくらい平和だったら違ったのかも。

私が死ぬのはいつでも出来る。

死ねるのなら、死ぬ気になるなら、なんだって出来るんじゃないかな。

なら………』


「この身体にある血肉、魔力、その全てはクリフ様とアーシャ様、龍神様の為にあります。

それを害なすものがこの身に宿るエイリであるなら、いつでも切り捨ててください」

『私はクリフと、クリフの守るものを守る』

叫んだ言葉が反響し、夢芽に降りそそぎ染み込んでいく。そしてそれは夢芽の決意を固くするかのようだった。


しばらく、その場を静寂が包む。


口を開いたのはゼンだった。


「わかりました。

私は、彼女は当面教会の監視下におく。クリフに一任するのが良いと思います。

アーシャ様には逐一お伺いをたて、もし、アーシャ様が彼女を悪しき者と判断するのであれば、クリフに手を下させるのが良いかと。

ファナはどう思います?」

「…………………。

私もそれでかまいません………」

「では、そのように話を進めましょう。

夢芽、下がって良いですよ」


ゼンは、最後まで淡々としていた。

一切の感情を見せることなくその場を去る。

夢芽は、その姿に戸惑いながらも安堵した。

「とりあえずおわった………。とりあえず……、生きてる」

全身から力が抜け、夢芽がその誓約の間から退出できたのは、しばらく時間がたった後だった。

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