表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/58

矛盾の理由

どこまでも続く深い青をもった空と、それに負けじと広がるどっしりとした白い雲、そして視線をずらさずとも光り輝く太陽。

おそらく誰が見ても美しい夏の空と言えるだろう。

響き合うのは剣と剣がぶつかり合う音。

それすらも大きな空に広がっていくように、美しく響き渡っていた。


幸太はその美しさにすら悪態をつけたかった。

むしゃむしゃとバナナを頬張れば、甘みとバナナにしては少し強い酸味が口に広がった。

『もう少し待てば良かった』

いつもなら気にもしないことにも、妙に腹が立つ。

食べ終われば皮が邪魔だ。仕方ないので手の中にしまい込んでみる。ぐにゃりとした感覚すら不愉快になった。


剣の音が止む。


真穂とゴートンが手合わせをしていたのだ。


「ありがとうございました」

真穂は深々と頭をさげた。

「なかなかのものだよ。本当に騎士訓練の経験はないのかい?」

「はい、一般的に、僕の国では剣技は他者を殺傷する為に使用しませんので、騎士訓練というものはありません。もちろん騎士に相当する役職はありますが、剣が主体ではないのです。

剣技は主に、精神を鍛えるための競技といったところでしょうか」

「ふむ。よくわからないが、腕がいいことには違いない。

では次、私はこれで戦おう」

ゴートンは、練習用の武器から、普段自分が使用している鞭に変えた。


「私たちの国では、戦うのにいちいちルールは存在しない。相手が予想外の武器を持ち出すこともある」

「はい!よろしくお願いします」


「待ってください!危険じゃないですか?」

声をあげたのは幸太だ。

「大丈夫だよ。手加減するし、もし戦場に出ることになればもっと危険だよ」

「戦場……って、出る必要ないじゃないですか!」

「君も夢芽さんもなんだかんだで出てるじゃないか。彼もそうなる可能性はあるだろう?

現に、彼はエレナの実験対象として契約した。それは力が欲しいからだろう?」

「俺は反対です」

「幸太」

真穂が幸太を制止する。


「捕らえられていた僕を、頼りなく思っているのは分かるよ。

でも、僕も戦いたい。

君や姉さんを守れるように。

そもそも、僕が剣道やフェンシングを学んでいたのは、いつどんなことにも対応できる精神や力が欲しかったからなんだ。

ここで引き下がったら、今まで何のために努力してきたのか分からない。

やらせてくれないか?」


「真穂、俺を巻き込んだことを気にしているならやめてくれ。俺は気にしてないと言ったはずだ」

「その気持ちはとても嬉しかったよ。でも、僕だってその言葉だけで後ろに控えていられるような人間じゃない」

「真穂!!!」

「はいはいはいはい、そこまで」


ゴートンは複雑な笑みを浮かべながら、二人のやりとりを止めた。


「そこまで心配しなくても、おいそれと前線には立たせないよ」

「けど……」

「武器の扱いに関しちゃ、君より真穂くんのが上手だしね」

「俺は……、その、拳と人魔術があります」

「うん、幸太くんは剣と、これからは人魔術が出来るかもね」

「俺が、もっと強くなります」

「うん、真穂くんも強くなるよね」


どうにもならない会話を繰り返したあと、ゴートンは小さなため息をつき、真穂に告げた。


「とりあえず、今日はここまでにしようか。

まだ時間は沢山あるし、ディザイや夢芽さんのこと、色々やらなきゃならないことも多いしね」

「す、すみません」

「真穂くんが謝ることじゃないだろ?」

爽やかに微笑むと、そのまま幸太の横に立ち、呟く。

「君のそれは、一人の為の騎士としては理解出来るけど、一人の為の仲間としては間違ってる。

この世界で、ただ飯を食うだけの人間は、なんの特権も得られない。それは地獄だよ。

優しく生きられるのは、優しい世界を作ってくれる誰かが強いからさ」


立ち去るゴートンに、何も返すことが出来なかった幸太は、拳を強く握りしめる。

手の中に、バナナの皮があったことを忘れていた。その握りしめた不快感も相まって、ますます自分の未熟さを思い知る。


その行動をどう捉えたのか、真穂はまっすぐに幸太を見つめて言った。


「僕はここで、できる限りのことをする覚悟がある。

今は情けない姿に映るかもしれないけど、信じて欲しい。

そして、全てを解決したら、幸太と姉さん、僕、三人で日本に帰ろう。

必ず」


幸太は目をつぶり、自分に何かを言いきかせるように息をのみこみ、再び目を開いた。


「分かった。でも、無理はするな」

「うん、ありがとう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ