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忠誠と愛情と信頼

夢芽は天井を見ていた。

『あそこのシミ、顔に見えるなぁ〜。あっちは猫……』

呑気だと我ながら思った。

自分のしたことを忘れたわけじゃない。

戦場に出て、人を殺し、今はベットの上だ。

治療中であるそこは、治療が必要な犯罪者が収容される、ある意味牢屋なのだ。

現に寝返りをうって視線の先を変えれば、そこには頑丈な鉄格子が出入り口をふさいでいた。


自分の冷静さに、驚きはあった。

なんでこんなに冷静なのか。

動けないベットの上で時間はたっぷりあったので、暇つぶしのように分析した。

たぶん、とっくに覚悟はできていたのだ。

この首輪をつけていれば、いつ死んでもおかしくはない。自分の命はもう全てクリフにゆだねているのだから。今こうして治療され、生きていることそのものが、とりあえずは殺されないという証拠なのだ。

そして何より、

『真穂、生きてた』

その言葉を、噛みしめるように反芻する。

涙が出そうになるほど嬉しかった。

胸の中がギュッと掴まれるような、想いがせり上がってくるような感情に身を震わせた。

『良かった……。本当に良かった』


今は幸太のところで保護されているらしい。

『幸太なら安心だ』

夢芽は思った。

なぜかは分からないが、幸太は真穂のことを大切に思っている節があった。

真穂は幸太の人生を狂わせた一人である。

なぜそれが好意に変わったのかは分からかないが、悪意でないならそれでいい。

自分の人間観察能力が、自分を安心させてくれる。


先日、医者が夢芽に鏡を見せてくれた。

体に浮き出た、妙なツタのような柄の痣があった。

そして「あの武器は、今も出せそうかい?」と聞いてきた。

「わかりません」と答えた。

再び暴走されては困るからだろう。

「やってみようとは思わないように」と念を押された。

「やりませんよ。コントロールできる自信ないですから」と答えた時の医者と、その隣にいた護衛の騎士の顔は、あまり思い出したくない表情をしていた。


『表情と言えば……』

そう考えて、夢芽は一旦思考を止めた。

なんともむず痒いような感情を覚えたからだ。

だが、嫌な感情じゃない。

クリフが一度ここに来た。現状の報告といったところだ。

真穂や幸太の現在。

それから、夢芽と戦った少年、名前はディザイ。

盗賊団の頭として逮捕されたこと。ほかの盗賊団も次々逮捕され、自分たちのおこないを反省している……らしい。

夢芽は動けるようになったら、面談があるとのこと。

『二人の巫官士との面談。教会のツートップ。一人はファナだよね。もう一人は初めて会う。どんな人だろう。あんまり怖くない人がいいなぁ』


クリフは言った。

「残念だけど、俺は同席できないんだ。

良官士なんて特別枠みたいな役職で、本当に権力のあるトップはあの二人だから。

でも、これを信じて。

俺は俺でやれることをするから」

これとは、その時、指でコンコンと軽く叩かれた首輪のことだ。

夢芽の命の最終決定権は、クリフにある。


「俺………かぁ」

夢芽はポツリと言った。

今までずっと、クリフは自身のことを『私』と言っていた。

だが、その前話した時、クリフは『俺』と言った。

だからなんだと言われればそれまでだ。

ただ、なんだが何かが変わったような気がしたのだ。

クリフを取り巻いていた雰囲気が、表情が。

あたたかく、朗らかで、どこか幼さを感じた。

それがなぜなのかは分からない。

けれど嬉しかった。

クリフの本質のような、普段隠されている一面を見ることを許されたような特別感。

それを感じた時の感情。

今すぐ走り出したくなるような、飛び出すような感覚。

目を閉じれば何度でも自分の中を息づいていることを実感する。


夢芽は目を開いて、そして大きく深呼吸をした。

ここからでは外は見えない。

春はもう終わり、夏が来る。

この国の夏はどんなものなのだろう。

夢芽は自分が知る夏を思い浮かべた。

まだ蒸し暑さを感じない初夏。

花々が咲き、華やかさと甘い香りにつつまれる。

そして深い深い、青々とした新緑はどこまでも美しいものだ。

『私が殺した竜も、同じような色をしていた』

あの竜はなんだったのか……。

まるで殺されたいかのように現れた。そう見えたのは、夢芽の中にまだ罪を軽くしたいという甘えがあるからなのだろうか……。

『とてもきれいな竜だった。

ごめんね。それでも、私は……、

大切な人を守る為に、この力を使い続けるよ』



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