逮捕の理由
前線では盗賊たちが次々と捕縛されていた。
ゴートンの指示は的確かつ迅速で、盗賊たちはまさにアリの子を散らすように逃げまどい、そうなればたちまち勢いも無くなった。
「ボス!おれたちはどうすれば……」
盗賊の一人が声をかける。
傷だらけの日焼けした肌、強い感情を表現したようなつり目とひとくくりにされたボサボサの長い髪はダークグレー。細身で小さく、八重歯が特徴的。
相手まだ15才の子供だった。
そしてその子供の口からは、冷たく厳しい言葉が伝えられる。
「はあ?ガキか?てめーらは?見ればわかんだろ?負けだ負け。
死にたくなけりゃ降伏するんだな。別に止めやしねーよ」
「そ、そんな……、だって捕まれば俺たちは殺される」
「殺しゃしねーよ。たぶん……。」
「たぶんってなんだよ!たぶんって!命の問題なんだぞ!」
盗賊たちは次々と悪態をつく。
命の前では、盗賊のボスという肩書きは紙切れのように価値を失っていた。
少年は、あからさまにくだらないという表情をうかべながら怒鳴る。
その声は憎しみからではなく、盗賊の頭である彼なりの手下たちへの愛情だった。
「いいか!俺たちは族だ。族と名乗り好き勝手生きてきた!
女神だ竜だなんだと崇めた所で、信じてくれなきゃ魔術ひとつも恵んじゃくれねぇ奴らを、ファーレガビャの連中を笑い馬鹿にし、挙句それを理由に略奪行為重ねる外道。それが俺たちが選んだ道だ。
その道の途中で殺したやつがいねぇなんてことは言わせねぇぞ。
好き勝手生きたんだ。だから相手もこっちに好き勝手してくる。当然なんだよ。
そして俺たちに残されたものは、これからどう対処するかを決める権利だ。
降伏して運命を他人に委ねるか、死ぬまで戦う覚悟で活路を見出すか、今決められるのはそれだけだ。別にどっちも間違っちゃいねぇ。
秒で決めろ」
その言葉で活気づく者、怖気づき嗚咽する者、様々だ。
少年はサーベルを抜き、その刃を眺めながら思案する。
『しかし、まさかここまでの軍勢を率いて来られるとは予想外だ。
この森が目的……ってわけじゃなさそうだ。
誘導させられたみたいだ。この森の存在そのものを知らなかった可能性が高い。
なら、おそらく………』
視線を変えれば、そこに一人の男がいた。
後手で縛られ猿轡。それでも瞳には生気が宿り、怒りをあらわにしていた。
宇佐美真穂
その不思議な格好と麗しい外見は、売り物として上等だった。
『道化かと思ったが、中身はクソ真面目でユーモアの欠片もねぇ。
遠い国から来たって話は、まんざら嘘ではなさそうだが、その国の話を正確に語れねぇってことも加味すると、とんでもねぇ厄介者だったってことかもな……。
身ぐるみ剥いで、外と中身で倍儲け!なんて、下手なこと考えず、捨てときゃ良かったか……』
今更考えても仕方ない。
イラつきついでに殺しとこうかとも考えたが、殺そうと思えばいつでも殺せるし、ギリギリまで交渉用に残しておくか。
少年は真穂の猿轡を解き、ニヤリと笑う。
「騎士団様が来るってよ。
お前さんはどうなるかね。お前の利用価値って何?」
「知るわけないだろ。そもそもお前たちは山賊なんだ。捕らえられて当然じゃないか」
どうやら何も知らないらしい。本人が知らないだけか、それとも騎士団の行動と真穂の存在に関連性はないのか…。
とりあえず一発腹を殴っておいて、そのまま転がした。
うめき声がしたが、特になにも思うことは無かった。
少年は気力のある手下たちに命令をくだす。
「このまま死ぬにしても、ただ死ぬんじゃつまらねぇよな」
フヨフヨと漂う光の玉が、少年の近づいてきた。
その玉は言葉を話し、意思をもっていた。
「暴れるのか?死ぬのが分かってるのに?人間ってのは本当に変わってるな」
「うるせぇ玉っころ。お前が金になるって言ってきた野郎を拐った結果がこれだぜ。たぶん。
責任取って一緒に死にやがれ」
「たぶんで心中なんて冗談じゃないや。オレは逃げるぞ」
「じゃあ、真穂は無関係か?」
「……………………………………………」
「おっし!行くぞ!玉っころ」
「みぎゃああああぁぁあ」
少年は光の玉を鷲掴みにすると、手下をひきつれて歩き出した。




