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情と自己満足

ゴートン率いる騎士団は、目の前に広がる広大な森に目を見開いた。

「まさか森の中に盗賊のアジトがあるとは、予想外だったな」

ポツンと佇む一軒家と楽観視していたわけではないが、それでもある程度見渡せる範囲の集落があるのではないかと予想していた。

しかし、予想は裏切られ、鬱蒼とした森が無慈悲に騎士団を威圧した。


「いかがいたしますか?」

最初に口を開いたのは、騎士団の副官だった。

「斥候を出せ。作戦は長期に渡るということを視野に入れ、その上で野営の準備をしろ」

「撤退を視野には……、」

「ここまで大がかりな作戦の結果、おめおめと何も成果をあげずに帰りました……で納得していただける人間は、残念ながら敵にも味方にもいないよ」

「………………、失礼しました」

「気にするな。この作戦の責任は私にある。何かあれば、これを返上するさ」

これとは、ゴートンの手の中にある武器のことだ。

騎士団長は代々受け継がれる武器がある。

鋭い刃がグニャリと曲がり、縦横無尽に攻撃をしかけられる。一言で伝えるならば、刃のついた鞭だ。

ゴートンが団長の地位につくまでは、部下たちと同じ剣を使っていた為、特殊な武器に慣れるにはだいぶ時間がかかったものだ。

それでも訓練にあけくれたのは、団長になること、国を守ることに対する誇りがあったからだ。

そしてその誇りは部下の為なら捨てられる。

全てを背負い、全てを捨てる。

それがゴートンの胸に宿る強い信念だった。


しばらすると、青き鳥に乗った幸太と夢芽が到着した。

ゴートンは複雑な感情が湧き上がるのを感じた。

幸太は人魔術が使える。

しかしその威力は騎士団の人間には遠く及ばない。

一時、剣術を指南した時があったが、幸太の不器用さは生半可なものではなく、盾も剣も何故か壊す。次々壊す。仕方なく武器を使わず、拳で戦うようになり、人魔術はそれをフォローするような形になった。


ゴートンは騎士団の中に、教会派がいることを快く思わない。

しかし、本来は中立である騎士団で、教会を否定することはできるはずもなく、女神アーシャに誓いをたてるか否かは個々の判断に任されていた。

魔術欲しさに誓いをたてる者もいるのも事実。

しかしそれは、教会を裏切るようなことが出来ないということでもある。

女神アーシャを裏切った代償はどのように支払われるのか、ゴートンは知らない。

公表されていないからだ。

『女神アーシャを裏切るような者はいない』

それが教会の見解だ。


『いないわけがない』

鵜呑みにできるほど、ゴートンは純粋ではなかった。


詳細が分からなければ動きに支障が出る。

だからゴートンは、騎士団から魔術を使う者が増えることを望まなかった。

人魔術が完成すれば、少なくとも力欲しさに教会に下る者を無くせる。

しかし、理想は足踏みする。

幸太の人魔術は、その程度のものでしかなかったからだ。

ならば、疑いの種をまく。

それがゴートンの妥協案だったのだ。


しかしそれは幸太が悪いわけではない。

幸太はあくまで巻き込まれた被害者だ。無事に故郷に帰してやりたいという思いもあった。

だから可能な限り危険からは遠ざけたい。それを幸太が望まなくても。


利用するのが自己満足なら、安全を保障したいのも自己満足。

ゴートンは言葉にならない感情に、皮肉な笑みで答えた。


「やぁ、幸太、夢芽」

「ゴートンさん、許可なくここまで来てしまってごめんなさい。私、どうしても確認したいんです。ここにいるのが弟なのか」

「怒られるなら俺も同罪です。青い鳥が、夢芽がいなければ俺はここに来れなかった」

頭を下げる二人にゴートンは微笑む。

「怒ったところで、君たちは引かないだろう?なら、私の下で動いてもらった方が得策だ。

だが、それはいつでも守ってあげるというわけではないよ。特に夢芽さん、君は戦えるのかい?」


夢芽は言葉に詰まった。

それが全てを物語る。

『さて、どうするか……。いや、考えるまでもない』

「もし、何かあっても、私は君を助けない。それを理解した上で、ついてきたいなら来なさい」

「はい」


野営が始まった。

春とはいえ、夜と朝は冷えた。

食事はお世辞にも美味いとは言い難い保存食とお湯。

数日がすぎ、時折戻ってくる斥候の報告内容が進展し、侵攻の指令が行き届く。


ついに盗賊のアジトへと踏み入ることとなった。

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