離れていても
青い鳥が空を駆ける。
幸太は夢芽の運転する飛行艇に乗っていた。
形状はオープンカーのように座席の上部は開いているので、全身に風を受ける。
心地よく感じはするものの、風量はかなり強い。シートベルトという便利なものはなく、そもそも後部座席なんてものもない。人が乗れるスペースが、運転席を含め少し広めにあけられているだけだ。
そのため、振り落とされないようにと、幸太の腕はしっかりと夢芽の腰に手を回されていた。
「ねぇ幸太、あそこで馬に乗って走ってるのが騎士団で、その先に盗賊がいて、更にその先に盗賊のアジトがあるんだよね」
「そうだけど、あまり前に出ないほうが良い。
騎士団はつかず離れずで距離をとっている。その方がアジトに誘導しやすいからな。変に感づかれると混戦になるかもしれない。この機体は目立つから、むしろもっと高く、後方からつけるんだ」
「た、高く……。うん、分かった」
「で、できるか?」
「感覚的には自転車乗ってる感じだから、うん、できる」
自分に言い聞かせてるように聞こえるが、とりあえず突っ込まないでおいた。
『正直なところ、夢芽が来てくれて助かった。
ゴートンの作戦は聞いてはいたけど、どうにも自分が合流する手段があいまいで、ああ、これは自力で合流できないような奴は足手まといという、無言の指令なんだって思ったんだよな』
ゴートンは幸太に危険な任務はさせない。
実力がともなわなければ、善意の名の元に優しくさりげなくはぶかれる。
幸太の実力なら、国の中ならまぁ安全だが、おそらく国の外。国を囲う塀の外である可能性が高いのだ。
そこは魔物や無法者が闊歩する、国の法が及ばぬ世界。
ゴートンの倫理観なら、「ああ、すまない。手違いがあった」の一言で蚊帳の外になりかねない。
そうなることはなんとしても阻止したかったのだ。
そんな幸太の思惑など知る由もなく、夢芽は無邪気に話す。
「青い鳥はね、風の魔力を定期的に入れないといけないんだって。充電式ってやつだね。当然私には出来ないから、クリフにやってもらったんだ。
クリフは地水火風、全部の魔術を使えるんだよ。それってめっちゃレアなんでしょ?すごいよね」
「そうだな。俺なんて火の人魔術がちょこっと使えるだけだもん」
『しかもまだ未完成な技術なもんだから、まるで筋肉痛のように翌日節々が痛い……ということはなんかカッコ悪いから黙っていよう』
明日間違いなく訪れるであろう痛み。
考えたところでどうにもならないなら、深く考えない。
ならば明るい話題を続けよう。
「クリフ様には感謝だな。俺の伝言も伝えてくれたし、青き鳥も貸してくれた。
本当にありがたい」
『思っていたよりずっと信頼できる人だったんだな。認識改めないと……』
「え?伝言?なんのこと?」
「え?」
詳しく聞いてみると、真穂の件を聞いたのはエレナからで、クリフは何も言ってなかったと……。
でもなんだかんだで青き鳥は貸してくれたと……。
でもとんでもない契約はしたと……。
『こ、これは、本当に何を考えてるのか分からない……』
敵なのか味方なのか……。
いや、立場を考えるならやはり敵なのか。
しばらくの沈黙の後、夢芽は少し気まずそうに言った。
「あのさぁ、まぁ、そんなわけで、私、完全に教会側の人間になっちゃったわけなんだけど、それでも、その……、友達でいいかな」
幸太は迷いなく、まっすぐに答えた。
「当たり前だろ?」
精神的肉体的に離れていても、夢芽と幸太の関係になんの変わりはない。
幸太は心の底からそう思った。
「そっか!そっかそっかそっかーーー」
夢芽はニカッと笑って、幸太の返事を心の底から喜んだ。
その姿には素直に好感が持てる。
幸太がまっすぐに贈った言葉を、夢芽はまっすぐに返してくれる。
『夢芽が人に好かれるのは、こういう所なんだろうな。夢芽自身は否定しそうだけど、真穂が言った通り、愛されやすい性格をしてるんだろう………。
もし真穂が、同じ状況だったら、こんなに素直に友達かどうかなんて聞かない。
自分の中に抑え込んで考え込んで苦しむのだろう。
誰にも気づかれずに………』
真穂と幸太が共に過ごした日々はとてつもなく短い。
自分が知る幸太の姿など、本当にほんの一部にしか過ぎない。
分かっているはずなのに、それでも幸太は自分の中にある幸太のイメージになんの疑問も持たなかった。
そして、続けてこうも想う。
『そんな不器用な真穂の力になってやりたい。
夢芽の性格に好感は持てるが、それはイコールして真穂の本質を否定できるものじゃなくて、むしろ守ってやらなくてはならないって気持ちになるんだ……。
だから…、真穂……
待ってろよ。この世界のどこにいても、必ず見つけ出して助けてやるからな』




