決断
「美しいでしょう?アーシャ様は、ただそこにいらっしゃるだけで、人々に加護と救いをもたらしてくださる。
あなたはその聖域を汚しているのですよ」
夢芽の後ろから、ファナの声がする。
痛みがひどくて振り返るのも苦しい。しかし振り返らずとも、ファナが怒りに満ちているだろうことは理解できた。
カチッという音が届く。
ファナ武器を持ち直したのだろう。思わず息を呑む。
「まぁまぁ、落ち着いてファナ」
「クリフさん」
『クリフ』
ドクンと心臓がはねた。
クリフには、今の状況がどう映っているかなど、聞かなくても分かる。それで青き鳥を手に入れるなんてどう考えても不可能。
『万事休す』
クリフは夢芽の前に立ち、腰を下ろした。
夢芽が顔を上げれば、お互いに見つめ合う形になる。
『違う。まだ終われない。クリフの目は、私に聞いてる。どうするか。どうでるか』
夢芽は口を開いた。
「弟が、見つかったかもしれない。盗賊に、捕らえられているかもしれないって……。だから、私は行かなければいけないの。その為に、青き鳥を貸してください」
「なっ」
怒りとも驚きともとれる言葉は、ファナからのものだった。
クリフは無表情で、夢芽を見ている。
「正直、盗むつもりだったの。今となっては無理な話だけど」
「だろうね」
「だから、お願いすることにした。貸してください。もちろん、タダで貸してくれなんて言わない」
『私がクリフに差し出せるものなんて、ひとつしか思いつかなった。これがダメならこちらに手札はない』
「私は、私を差し出します」
「え?」
「この首輪は、私がリマの木を越えたら毒が出るって話だったよね。
その条件を変更して。
リマの木とか、そんな条件はなしで、いつどんなときでもクリフの望んだ時に使ってくれていい」
「私の気まぐれで、命を差し出すってこと?」
「そう。私は何があろうとクリフを裏切らない。でも、好き勝手動いちゃうことがあると思う。そのことで、クリフが納得できないことがあったら、どんな些細な理由でも、ううん、理由なんてなくても、いつでも首輪を作動していい。
この条件に、変更してほしいの」
少しの間があいて、クリフは言った。
「自分の言ってること分かってる?
怖くないの?いつどこで何をキッカケに死ぬのか、分からないんだよ?
私と君はついこの間会ったばかりだ。そんな私のことを、信用できるのかな?」
夢芽はクリフの顔を、目の奥を見つめ続けた。
『敵じゃない。クリフは今までずっと、クリフが出来る最大限の範囲で、方法で助けてくれた。
私はそう信じてる。
これまで色々な人のことを見てきたつもりだ。
私の家族を、生活を守るため。
その目を、今最大限に生かして決断したい。
クリフは信じることの出来る人。
私の命を捧げるに値する人』
「信用してる。クリフがもし私を殺すなら、それはきっとそうしなければいけない時だったんだって。
私が今しようとしたことだって、泥棒だもん。悪いことでも、しなきゃいけないことがあるって、今ほど思ったこと無いよ。
……………………………………………。
だからクリフ!!どうかあなたに、私の運命を捧げることを許してください!!!」
体の痛みを忘れたかのように、声が大きく張り裂けるように飛び出した。
その声は祭壇に高く高く響いた。
響いた声が消えたとき、クリフはこれまで見たどの表情よりも温かく微笑んだ。
「なんか、直球すぎて、びっくりすると言うか、なんというか……。
うん、いいよ。わかった」
頬をポリポリのかいて、その表情は少し無邪気さを匂わせて、クリフは夢芽の首元に触れた。
クリフの指が首輪をなぞり、ゆっくりその手は離れ、今度は夢芽の頭を撫でた。
「あれ、痛みが……」
夢芽の体が軽くなる。
「治癒術。でも完治してるわけじゃないから気をつけて。あくまで一時的な応急処置だよ。
これから、青き鳥に乗って真穂君を助けに行くんだろ?
私と君の契約は、君の望み通り変更された。
さぁ、行っておいで。青き鳥は、祭壇の向こうに安置されてる」
「クリフ………、ありがとう!!!」
夢芽は立ち上がり、全力で走り出した。
「クリフさん」
これまで黙っていたファナは、我慢の限界とばかりに不満の声をあげた。
「何かあれば、ちゃんと責任はとるよ。彼女は、夢芽は私のものになったのだから」
「よろしいのですね。これから先、彼女がどのような行動をしたとしても」
「ああ、私も決断したよ」
ファナは武器を収めた。
「なら、もうこれ以上言うことをはありません」
「ありがとう、ファナ」
「いいえ。あなたが望むなら、きっとアーシャ様も望むでしょうから。
あなたも夢芽さんの所に行ってあげて。おそらく操縦の仕方が分からないと思います」
「あ、そっか。ごめん夢芽。教える教える」
ファナを残し、クリフは夢芽の後を追った。




