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感情は心の奥底に

「エレナ、いる?」

幸太は、勢いよく研究所のドアを開けた。

「幸太、いつも言ってるけどノック」

「ごめんごめん、急いでて」

「それは、急いでいないときはノックをする人の発言よ」

「う……、次は気をつけます」

部屋の主の名はエレナ、《信仰を介さない魔術の研究》人魔術の研究所所長、そして騎士団長ゴートンの妻でもある。

透けるような白い肌と、ブルーパープルの長い髪は後ろでまとめあげ、髪と同じ色の瞳は凛としたつり目。意志の強さが印象的なとても美しい女性である。

「で?どうしたの」

「夢芽に、エイリの生まれ変わりに会った」

「そう…。どう?こちらに来てくれそう?」

「気持ち的にはどうだか分からないけど、物理的には無理だな。誓いの首輪なんてものつけてるし」

幸太は、夢芽のこと、そして真穂のことを詳しく話した。真穂捜索のことを考えればエレナの協力は絶対に必要だったからだ。

もっとも、エレナの興味は真穂より、夢芽と首輪にむいているようだった。

「首輪!?あーやだやだ。あいつらがやりそうなことよね。

だーから嫌いなのよ、教会派って。

自分達は善人です〜って顔してやることエグいんだから」

エレナは元々教会嫌いである。だからこの話題だと饒舌になった。

「君だってけっこうエグいと思うけど」

「私は自分が善人だと思ったことなんてないわ!エグいことはエグいと自覚を持って……って、あらゴートン、いたの」


幸太の後ろにゴートンが立っていた。

そしてニコニコしながら意図的にエレナの話をチクリと刺し、そのまま幸太の方を向いて話の軌道を変えた。

「幸太くん、もし弟くんをこちらで保護することが出来たら、彼女もこちらに来たいと思ってくれるんじゃないかな?

彼女さえ決意してくれれば、首輪を外す手段を模索する意味も生まれる。エレナもその方が色々都合がいいんじゃないか?」

エレナは無言だが、その表情には同意の意志が見えた。

ゴートンの言葉に幸太は目を輝かせる。

「今それを言うってことは、何か手でかかりが見つかったということですか?」

「最近市内に盗賊が続出してね。何回か部下を送り込んだんだがどうにも逃げられる。

だいぶ優秀なボスがいると踏んで慎重に捜査してたんだが、最近になって奇妙な格好の青年を荷台に積んでいたと報告があった。なかなか見目のいい青年だったという話で近々売られるんじゃないかと」

「売られる???」

「人身売買なんて、胸糞悪い話ね。根絶してもらいたいものだわ」

「そう!根絶したいんだ。

だから泳がせて盗賊も人身売買連中も一網打尽にする。

幸太くん、その青年が弟くんかどうかは分からない。でも、賭けてみる価値はあると思わないかい?」

「思います!」

「決断がはやくて助かるよ。協力してくれるね?出発は明日の朝だ」

「はい!」

幸太は元気よく返事をすると、一目散にかけだした。

ゴートンは、幸太の後ろ姿を微笑みながら見届けると、その表情のままエレナに声をかけた。

「幸太くんには一網打尽の計画内容を聞いてほしかったんだけど、まぁ、とりあえずいいか。

エレナ、少し時間をくれないか?研究者としてではなく、俺の妻として」

エレナはほんの一瞬動揺を見せて、「え、ええ」と小さく返事をした。



「で?何よこれ」

そこはゴートンとエレナの自宅の調理場。

テーブルの上に置かれた黒い液体にエレナは顔をしかめる。

「りんごとかトマトとかニンニクとか玉ねぎとか、色々炒めて煮込んで作ったソースなんだが、揚げ物が合うと思うんだ」

「で?」

「アジを揚げたいんだが、骨が邪魔だろ?」

「いやなんで、私があなたの骨取りに参加しなくちゃいけないの?」

そう言いつつも、エレナは椅子に座りピンセットを手に取る。そしてエレナとゴートン、二人は向かい合ってひたすらピンセットでアジの骨を取り始めた。

「どうせ研究行き詰まってるんだろ。気分転換につきあってくれ」

「ちまちましてて、イライラするんだけど」

「研究者のくせに大雑把だもんな」

「喧嘩うってんの?言っとくけど、細かな作業ができないわけじゃないのよ。嫌いなだけ」

「ソースの出来栄えどうだろうな〜。楽しみだな〜」

「え?無視?」

「パン粉つけたら凍らせておいてくれ」

「………………………」

凍らせるには、エレナの冷却人魔装置を使う。

エレナが初めて人魔術を成功させた……と言えば聞こえは良いが実際は冷却範囲が狭すぎて軍事転用できず、失敗作確定だったものだ。食材を凍らせて保存することが出来るとゴートンが自宅の調理場に持ち込んだ事によりその装置はとりあえず体裁を保っている。

「帰ってきたら、一緒に食べよう」

ゴートンはそういって微笑んだ。

「帰ってこなかったら、私が全部食べるわ」

「君の脂肪が無駄に増えることのないよう、ちゃんと帰ってくるよ」

「嫌な言い方しかできないのね」

「そっくりそのままお返しするよ」

時間がゆっくり、言葉は軽快に流れていった。

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