ep16-3 前哨戦! 今までの戦いとはちょっと違うわよ?
暴れていたバッドバットメンがピタリと静止し、それと同時に周囲の人々の視線が先ほどの声の出所に集中する。
そこには夕日をバックに立つ一人の少女の姿があった。金髪は陽に照らされキラキラと輝きまるで後光が差しているようにも見える。あたしの宿敵、心を乱す憎き存在。その横にすっと一つの影が並び立つ。ギッと奥歯を噛みしめるあたしや人々の見守る中そいつらはいつものようにポーズを取りながら名乗りを上げた。
「マジカルパワーで幸せ守る! 魔法少女マジカルブリス!!」
「マジカルパワーで勇気を灯す! 魔法少女マジカルカレッジ!!」
わっと沸き上がる歓声。二人は意気揚々とオドモンスターに向かっていく。ふんっ、今のうちにせいぜい調子に乗っておけばいいわ、今日こそがあんたたちの最後に日になるのだから……!
「オプファー! ヴァーンズィン! どうせどっかで見てるんでしょ!? 隠れてないで出てきなさい!!」
ブリスが声を上げる。あらら、バレちゃったか、ま、当然と言えば当然ね。あたしは背後で控えるファウルハイトに「あなたはまだ出ちゃ駄目よ?」と視線で合図を送るとヴァーンズィンと共にビルから飛び降りる。
「出たね、変態僻み魔女!」
ピクピクッ……! カレッジの言葉が鼓膜を打った瞬間、あたしの脳内が沸騰するような激しい怒りが込み上げてくる。
くっ、落ち着け、落ち着くの……! こんなのただの安い挑発、あたしを怒らせて冷静さを失わせ戦いを有利に進めようとしているだけの単純な手口、乗る必要なんてないわ。――でも、むかつく。
「ご挨拶ねカレッジ、相変わらずの口の悪さじゃない? 正義の魔法少女としてそれでいいのかしらね?」
「悪には容赦しないってのが正義のあるべき姿だとアタシは思ってんの」
ああ、そうですか。
「ふんっ、とにかく挑発合戦をしてても何も始まらないわ、あたしたちはあんたらを倒したい、あんたたちはあたしたちを止めたい、ならシンプルに行きましょう?」
あたしが二人を睨みつけると、カレッジはさっと身構える。しかし。
「オプファー、それにヴァーンズィンも、いい加減もうこんなこと止めにする気はないの? こんなことをして一体何になるの? わたしたちを倒した先に、一体何があるというの?」
ブリスがそう訴えてくる。ああ、もう、またそれか……。本当にこいつは人の神経を逆なでするのが得意ね……。
「ブリスさぁん、今更何をいってるんですかぁ? ヴァーンズィンたちアントリューズとあなたたちは決して相容れない存在、あなたたちがヴァーンズィンたちの目指す『幸せの国』創造の障害となる存在である以上、倒すしかないんですぅ。これは避けては通れない道なんですぅ」
ヴァーンズィンが煽るように言う。あたしも同意見だ。こいつらが邪魔をするのなら全力で排除するだけ、それだけだ。
「いい子ちゃんのマジカルブリス、あんただって本当は分かってるんでしょ? あたしたちの間にあるのは戦いのみだと言うことが。それでも戯言を繰り返すのは『正義の魔法少女』としての体裁を保ちたいからよね? 知ってんのよあたしは、あんたがあたしたちを『正義の力』で蹂躙する時笑っているのを、楽しんでいるのを!」
あたしの指摘にブリスはビクッと肩を震わせる。図星だったのだろう、彼女は悔しそうに唇を噛みしめる。ざまあみなさい。
「いいじゃないですかぁ。どちらが正義でどちらが悪かは、いわば戦いの結果で決まるもんですからぁ。どちらかが負けて死に絶えればそれが答えになるんですよぉ?」
ヴァーンズィンがにっこりと笑いながら言う。うん、いいこと言うわねヴァーンズィン。そうよ、大切なのは過程じゃなくて結果。どちらが正しいのか、それを決めるのは勝者だけ……。
「さあ、『お話合い』はここまで! あの子もすっかり退屈してるわ!」
言ってあたしはバッドバットメンと視線で示す。
「まずはあの子と戦ってもらうわ、倒せたらあたしたちが相手をしてあげる」
「自分らは高みの見物しようっての?」
「お約束って奴よ。まずは手下のモンスターからってね」
あたしはそう言うと後ろに下がり、ヴァーンズィンもそれに倣う……ちょっとだけ残念そうな顔してるけど今はまだ我慢よ我慢。
「オプファー……前から思ってんだけど、あなたって、もしかして……」
ブリスがボソッと何かを言いかけるが、それがあたしの耳に入るより早くあたしの号令が飛ぶ。
「やりなさい、バッドバットメン!!」
あたしの声に応じてバッドバットメンが雄叫びを上げる。まさに待ちくたびれたといった感じだ。そして、一気に加速しブリス達へと殴りかかった。しかし、彼女たちはそれを難なく回避し、カウンターの一撃を叩きこむ。
あっさり吹っ飛んで行くバッドバットメン。それを見たカレッジが「なんだ、大したことないね」と口角を歪める。
だけどまだまだ、本命ではないとはいえあの程度でやられるあたしのオドモンスターじゃない、それに……。
ゆっくりと立ち上がり構えるバッドバットメンに、「せっかく起き上がったところ悪いけど、もうちょっと寝てていいよ?」と言いながらブリスがステッキを振りかざし光の矢を放つ。
「ライトアロー!」
迫る一撃がまさにバッドバットメンに直撃しようとした瞬間。横から飛び出してきた影がその攻撃を受け止める!
「なっ……!?」
目を見開くブリス。
「もう一体いたの……? い、いや……!」
驚愕の声を上げるカレッジの言葉を遮るようにさらにもう一体、そしてトドメにもう一体、どこからともなく現れた蝙蝠男達が二人を囲むように展開する。
ほほほ、どうやら驚いてるみたいね。そう、あたしが作ったオドモンスター、バッドバットメンは一体ではなかったのだ! もとより向こうは二人、一体のオドモンスターで相手に出来るなんて思っていない、囮みたいなものとはいえ負け戦をさせるつもりはないのよ!
「ほーっほっほっほっほっ、驚いたようね、ブリスにカレッジ? だけどあんたたちにもう少し注意力があれば気づけたはずよ、あしたはあいつを『バッドバットメン』と呼んでたのだから」
「つまり、複数形だったってこと? 間違えてたわけじゃなかったんだ……」
おいっ! あんたあたしをバカだと思ってたわね!? ブリスが漏らした言葉に内心で激しく突っ込むが、努めて冷静さを装う。
「くくく、さあバッドバットメンたち、あいつらをボコボコにしちゃいなさい!」
あたしの命令を聞いた計四体のバッドバットメンたちが一斉にブリスとカレッジに襲い掛かる。
「数が増えても雑魚は雑魚! このくらいじゃあ実力差は覆せないよ?」
カレッジ……! やはり接近戦では一日の長ありね。二対一でも全く引けを取らない、いやそれどころか圧倒してすらいるわ。さすがの運動神経だわ、さすがは体育会系魔法少女……!
「確かに雑魚だけど、意外と動きが素早い!? パワーも……。これって、こいつらを生み出したオプファーの力が前よりアップしてるってことだよね……」
一方のブリスもバッドバットメンたちの攻撃を難なく捌きながら一体、また一体となぎ倒して行く。おっと、まさかのここで意外な情報、まさか敵であるブリスの口から自分の成長具合を聞くことになるとは思わなかったわ。
「センパイセンパイ。これでヴァーンズィンたちの勝利確率はさらに上がりましたねぇ。センパイも以前よりパワーアップし、ファイルハイトもこの戦いを見ることでさらに奴らの力を学習してますぅ、もちろんこのヴァーンズィンちゃんも」
こそこそっとあたしにヴァーンズィンが耳打ちしてくる。むっふっふ、そう、その通り! ほどなくバッドバットメンたちはやられてしまうだろうけど、あたしたち勝利のための布石は着実に打たれているのよ……。
「ふふん、オプファーの奴、ちょっとは力をつけたみたいだけど、それで魔法少女に勝てると思ったら大間違いだよ? もうこいつら倒してあんたたちと決着つけてあげる!」
と、カレッジがそう啖呵を切る。だけど、その言葉を聞いたあたしの口元は自然と吊り上がって行った。油断、している……! 完全に狙い通りなのよ!!
「そーれ、ブリスこいつらを一まとめにするよ! 後はあなたの例の技で!!」
「OK! はああっ!!」
カレッジが三体のバッドバットメンを両手で抱え上げ上空へと放り投げ、さらにブリスが残る一体をアッパーの要領でかちあげる。
「マジカルバニッシュシュート!!」
ステッキを掲げたブリスが叫ぶと眩い光球が生み出され一直線に放たれ、そのままバッドバットメンたちを包み込んだ。
「ゲゲゲゲゲーッ!」
苦悶の声が上がるが次の瞬間、ボフンと煙に包まれ彼らは元のコウモリへと戻り、そのままパタパタと夕闇の中へと溶け込んで行った。
「ふう、終わったよブリス」
「うん、でも油断しちゃ駄目だよ、まだ本命の二人が残ってるんだから」
「へへ、わかってるって」
さて、と。二人はあたしたちへと向き直ると臨戦態勢を取る。
「さあ、オプファーにヴァーンズィン、あんたたちの悪事もここまでだよ! 観念してアタシたちにやられちゃいなさい!」
「カレッジの言う通り、あなたたちをこれ以上放置しておくわけにはいかない、覚悟はいい?」
二人が自信に満ちた笑みを浮かべる。そう、それでいい、そうやって余裕を見せて油断してなさいな。
「くっ、よくもやってくれたわね……!」
さらにこうやって悔しがるふりもして見せれば、ふふふ、こいつらはもう完全にあたしたちの術中にはまってるわ。
「どうします? センパァイ、あいつら強すぎですぅ。このままじゃヴァーンズィンたちの完敗になっちゃいますよぉ? このまま逃げちゃいましょうかぁ?」
ヴァーンズィンが焦った表情を作る。よくやるわね……。ただ、あんまりやり過ぎるのもどうかと思うけど、逆に不信感抱かれかねないし。
「弱気になってどーすんのよ、ヴァーンズィンあんたらしくないわ。奴らに見せてやるのよ、暗黒魔女はオドモンスターのようにはいかないってとこをね」
「……! そ、そうですねぇ、ちょーっと弱気になり過ぎでしたねぇ。わかりましたぁ、ヴァーンズィンも覚悟を決めましたぁ! センパイと二人で、やりますぅ!!」
あたしの言葉にヴァーンズィンはすぐさま乗ってくる。あたしは大きく頷くと、「行くわよ!」と叫び駆けだした!
お読みいただきありがとうございました。
よろしければ、評価やブックマーク、感想お願いします。




