ep16-2 ヒーロー登場!? 暗黒魔女の遊戯!
阿久野町――あたしたちの住むこの地域はどういうわけか他と比べて犯罪の発生率が高い。
しかもそれは、あたしたちアントリューズが引き起こす事件を差し引いたうえでの話だ。何しろ、アントリューズが活動を開始するよりずっと前からそうだったのだ。冗談半分でこの町は呪われていると噂する者もいるくらいだ。
もしかしたら、アントリューズ――クリッターやマリス様もその呪いに惹かれたからこの町を拠点として選んだのかもしれない――なんてね。
余談はともかく、そんな阿久野で今日も事件が起こった。
「きゃああああ!」
女性の叫び声と、「ひったくりだ!」の声。一人の男が人でごった返す夕暮れの駅前を器用に駆け抜けていく。
ドン! 男が突如前方に現れた人影にぶつかり跳ね飛ばされる。彼はすぐに起き上がりギッとその人影を睨みつけるが、すぐにその表情が驚きと困惑に満ちたものに変わった。
「ま、まさかあれは……」「え? 嘘でしょ……?」「何の冗談なの……?」
そいつの姿を見た街の人たちの間にも動揺が走りざわざわとざわめきが広がった。
全身を覆う濃紺のスーツ。角のような、耳のようなともすれば可愛さを感じさせる意匠が施された頭部を覆うカバーカウルからは口元のみが露出しており、口元は引き締まっている。
スーツの胸元には、コウモリをモチーフにしたマークが施されている。その姿は明らかに――
「なんだ、てめぇ! コスプレか!? アメコミオタクのヒーローごっこか!?」
男が懐からナイフを抜き放ちながらそのアメコミヒーローもどきに向かって凄む。しかし、そいつは無言のまま男へと近づくとその腹に強烈なパンチを入れた。
「ぐえぇ!?」
胃液を撒き散らしながら吹き飛ぶ男。男の手から離れたバッグが持ち主の女性の足元まで飛んでいく。女性がそれを拾い安堵した表情を見せ、人々が歓声を上げながら謎のヒーローに向けて称賛の拍手を送る。――が、すぐに異変は起こる。そのヒーローは倒れたままの男に近寄ると、足を大きく振り上げ思いっきり踏み下ろしたのだ。
ゴキン! 人体から発生してはいけない音が周囲に響き渡る。
「ぎゃあああああ!!!!」
断末魔の如き絶叫が轟き、駅前の人々は息をのむ。
「お、おい、やり過ぎじゃないのか……?」「いくら犯罪者でもあれは……」「いや、あれぐらい痛めつけた方が……」
周囲のざわめきも無視しヒーローは呻き声を上げ男の胸倉を掴み上げる―――
「止めなさい! これ以上やるとあなたを暴行容疑で逮捕しなければならなくなるぞ!?」
男の顔面が打ち砕かれるまさにその時、駆け付けてきた警官がヒーローの腕を掴み制止する。ヒーローはゆっくりと警官の方へと顔を向けるとニチャァッとその口元を歪ませた。
「ジャマダ……!」
ガシッ! と警官の腕を掴み返し捻り上げる。痛みに悶絶する警官を愉快そうに眺めながらヒーローは残ったもう片方の手で警官の首を掴み、持ち上げた。
「や、やめ……! ぐうう!」
足をバタつかせ、必死に抵抗するも徐々にその動きは鈍くなっていく。
「う、うわああ! あいつ警察官も殺す気だ!」「ま、マジかよ!?」「に、逃げろ!」
ようやくヒーローの危険性を理解した人々が蜘蛛の子を散らすように逃げ出していく。
『こらこら、オドモンスター『バッドバットメン』。あんまりやり過ぎないように注意しなさいっての! 脅かすだけでいいのよ、脅かすだけで』
あたしがテレパシーを飛ばすと、アメコミヒーローもどき改めあたしがコウモリを素体に生み出したオドモンスターが警官を投げ捨てるように解放する。
そして、「グワアアッ!」と一声吠えると、その場で暴れ始めた。
その光景をビルの上から見下ろしながらあたしはほくそ笑む。後はブリスたちが出てくるのを待つばかりよ。
「それにしてもセンパァイ、流石ですぅ!」
「まぁね。せっかくコウモリを素体にするんだもの、ちょっとは遊び心ってもんを見せないとね~」
はしゃぐヴァーンズィンの言葉にあたしは胸を張り鼻を鳴らす。
そう、今回のオドモンスターは『バッドバットメン』――名前からも分かる通り、とある有名なアメリカンヒーローにインスパイアを受けたコウモリ怪人型オドモンスターだ。
ヴァーンズィンがコウモリを見つけた時に、あたしはこれだと思ったのだ。まあ、まさか偶然ひったくり犯と出くわすとは思わなかったけど、おかげでヒーローかと思わせて実は悪人でした~というギャップを演出できたのだから結果オーライだ。
「いつも通りのお寒いネーミングセンスクリね~」
クリッターの嘲笑があたしの胸に突き刺さる。うるっさいわね、どうせあたしはネーミングセンスがありませんよーだ!
「ファウルハイト。作戦はわかってるわね? まもなくブリス達が現れ、あのバッドバットメンと戦闘になるわ。まあ、あいつらは十中八九負けるだろうけど、いい頃合いであたしとヴァーンズィンが出て行き、奴らと戦うから、隙を見てあいつらに一撃! わかったわね?」
これは出撃前にマリス様への言い訳のためにとっさに(キョーコが)考えた作戦だが、正式採用することにしたのだ。
「私の判断で動いていいの……?」
「できれば、こっちからタイミングを教えてあげたいところだけど、おそらく戦闘に入ってしまえばそんな余裕はないわ。とにかく、この作戦の成否はファウルハイト、あなたに掛かってるのよ、だから思い切りやってちょうだい!」
あたしの言葉にファウルハイトは少し考え込んだ後、こくんと頷いた。
「ん、わかった……。全力で、やってみる……」
その言葉を受けてあたしは満足げに微笑むと再び眼下へと視線を移す。バッドバットメンはあたしの指示通り、一般人への被害が出過ぎない範囲でしっかり暴れてくれている。
――しかし、なかなか来ないわねブリスたち。まあ、近場にいなかったのかもしれないけど。いや、あるいは、もしかしたら白井優華と……。
しかし、次の瞬間。
「止めなさい!」
さらに薄暗さを増しつつある夕闇を切り裂きその凛とした声が響き渡ったのだ……!
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