ep16-1 夕闇への出撃! 三人の暗黒魔女!
眠夢ちゃんがあたしたちの待機する部屋に戻ってきたのは約10分後のことだった。
「わざわざ待ってたの……?」
10分もあったのだから変身でもして出撃準備を終えていると思ったのか、眠夢ちゃんは意外そうにそう口にした。
「あたしは変身しておこうと思ったんだけど、キョーコがね……」
「だってぇ、せっかく三人での初出撃ですよぉ? 変身もカッコよく、三人で並んで決めポーズとって! とかやりたいじゃないですかぁ♪」
キョーコのテンションの高さに眠夢ちゃんは呆れた視線を送る。眠夢ちゃんと一緒に来たクリッターも呆れ顔だ。だがまあ、キョーコはキョーコなりに眠夢ちゃんの初出撃ということで色々と考えてくれてのことだろうからあたしもそれ以上何も言わないことにした。
「ところで……」とあたしは再び眠夢ちゃんの方へと視線をやる。
「『処置』とやらは問題なく終わった、ってことでいいのよね?」
何をしたのか、されたのかわからないが、眠夢ちゃんは外見上もその様子も変わっているようには見えなかった。
「うん……。その代わり、マリス様はまたお休みになってしまったけど……」
「そう……。それで――」
「さあさ、無駄な話をしてないで、さっさと出撃するクリ。こうしている間に魔法少女たちと白井優華が接触してしまうかもしれないクリよ?」
眠夢ちゃんが受けた処置について詳細を訊ねようとするも、クリッターに話を遮られてしまう。
あたしはギロっと奴を睨みつけると苦々しく「わかったわよ!」と吐き捨てた。しかし、クリッターは一向に堪える様子もなくニヤニヤ笑ったまま「さあさあ」と再びあたしたちを急かした。
まったくムカツク奴! こいつの言いなりになるのは癪だけど逆らうわけにもいかない。マリス様のご命令でもあるしね……。
気を取り直して、キョーコと眠夢ちゃんに視線で合図を送ると二人は小さく頷き返しあたしの両隣に並び立った。
「ダークエナジー・トランスフォーム!」
「ダアァァァァァァァァクエナズィィィィィィィ・トラアァァァァァァァァンス、フォォォォォォォォォォォムッ!!」
「ダーク……エナジー……・トランスフォーム……」
ポーズを決めつつ変身ワードを口にするのだけど全く合わない!
キョーコのやたらと気合の入った叫びと眠夢ちゃんのボソボソッとした呟き、そしてあたしの声が変に混ざり合い不協和音となって部屋の中に響き渡る。それぞれの個性が出ているとはいえ前途多難な出だしだわ……。この調子で上手くやってけるのかしら? 不安しかないんだけど……。
しかし、そんな思考はすぐにかき消されることとなる、変身が始まったのだ。それぞれの言葉に呼応し首から下げていたダークトランサーが黒く輝きそこから発生した黒い光が体を包み込む。そして――
「「「きゃああぁぁぁん♡ あはぁぁぁん♡ んんっ♡ あぁぁん♡」」」
そう、いつものこれである。快楽があたしの全身を貫き、思わず喘ぎ声を上げてしまう。あたしとキョーコ、そして眠夢ちゃんまでもが堪え切れずに上げた甘い悲鳴が重なり合い、黒い光の中であたしたちのシルエットがまるでダンスを踊るようにクネクネと動く。だがそれもほんの僅かな間だけのことで、光が収束したときにはもうそこにそれまでのあたしたちの姿は無かった。
闇の衣を纏いし暗黒魔女に変身したあたしたちの姿があった。
「んんっ♡ はぁっ♡ あぁっ♡」
最後の仕上げとばかりに全身を締め付けるような感覚と共に、胸や股間などの敏感な箇所を刺激する快感に襲われ、あたしはつい声を漏らしてしまう。
「マギーオプファー……! 変身完了ぉ♡」
「あはぁん♡ マギーヴァーンズィン……変身完了でぇす♡♡」
「んんっ……。マギーファウルハイト……変身完了……」
完全に変身が完了すると、快楽は消え去って行く。少しの名残惜しさを感じつつ、あたしたちはそれぞれ息を整える。
全く、毎度のこととはいえいや~な変身! これがアニメだったら深夜行き確実、いや深夜アニメでも性的すぎるって炎上するわ。あたしは日曜日の朝に放映されるような全年齢対象の健全な魔法少女モノがいいのに!!
「さ、それじゃさっそく出撃するクリ~!」
あたしの心の中の嘆きなど(当然)気にすることなく、見た目だけなら全年齢対象、中身は腹黒暗黒物質の邪悪妖精がその可愛らしい手をグッと握り込み楽しそうにあたしたちに号令を掛ける。
「偉そうに命令しないで! この暗黒魔女チームのリーダーはあたし! あんたはただのイカれたマスコットなんだから!」
改めてクリッターに主張しつつあたしはカッコよくマントを翻しながらヴァーンズィンとファイルハイトに向けて叫ぶ。
「行くわよ、二人とも!」
「きゃ~♡♡ センパイカッコいいですぅ♡♡ どこまでもついていきますぅ♡♡♡」
テンション高く答えるヴァーンズィンの横でファウルハイトは小さく頷く。
「リーダー……ね、梨乃ってば前よりさらにやる気が満ちてるクリね。いいことクリよ……クリックリッ……」
クリッターの笑い声が響き渡る中、あたしたちはアジトを後にした。
**********
街――とあるビルの屋上。
「ん~、いい感じの時間帯じゃあないですかぁ。いかにも何かが起こりそうって雰囲気がビンビンですよぉ」
妙なことで時間を潰してしまったせいか時刻はもう夕方。照らされた街を見下ろしながらヴァーンズィンが言った。
確かに彼女の言う通り、こう、なんというか不穏な雰囲気が漂っているというかなんというか……。
まあ、そもそもあたしたちが出撃してきた時点で、その日はもう平和なんて望めないのだけど、何かが起こりそうじゃなくて、これからあたしたちの手によって何かが起こるのだ。
「そうね……。ま、ともかく、あたしたちのやることは魔法少女をぶっ飛ばすこと! さっさと作戦を開始しましょう」
そう宣言するとあたしは周囲に視線を巡らせる。魔法少女どもをおびき寄せるためにはオドモンスターを暴れさせるのが一番である。だからその素体となる生物でも探そうと思ったのだけど――。
と、あたしの視界に入ったのは、カラスと戯れているファウルハイトだった。なるほど、変身前の眠夢ちゃんもカラスと仲良しだったけど、変身してもそれは変わらないようだ。
「ねぇ、ファウルハイト――」
「ダメ」
あたしが何かを言う前にそんな言葉が返ってくる。
「この子たちをオドモンスターにするのは……ダメ……」
さらに、拒絶の言葉を放つファウルハイト、そんな彼女にクリッターが声をかける。
「別にオドモンスターにしたからって悪影響なんてないクリよ。後で元に戻すことだって出来るクリ」
「それはわかってる……でも、この子たちはダメ……。それに、この子たちには別のことで手伝ってもらうの……」
ファウルハイトの拒絶の意思は固いようだ。まあ、唯一の友達を(悪影響がないとはいえ)怪物化してしまうことに拒否反応が出るのは仕方ないことだけど……。
ともかく、ここで強引にカラスをオドモンスター化すればファイルハイトとの間に亀裂が入り、初陣だというのに空中分解なんてことになってしまう可能性もある。ファウルハイトには何やらカラスたちを使った考えもあるようだし、ここは無理に押さずに大人しく彼女の言うことに従うことにした。
「センパイ、あれならぴったりですよぉ」
次のターゲットを探そうと視線を動かしかけたあたしにヴァーンズィンがある一点を指差しながらそう言った。彼女の指し示す先には――
なるほどぉ。今の時間帯にはピッタリね。それにあれを使えば少し面白いことも出来そう……。
ニィッと口元に邪悪な笑みを浮かべると、あたしはダークスティックを取り出し叫ぶ。
「オドエネルギー照射! 覚醒せよ! オドモンスター!!」
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