ep15-3 マリス様とクリッターの謎な関係
「私はとある目的のために宇宙を旅していたのですが、その途中たまたま降り立ったのが惑星プレイヤでした。そこでクリちゃんと出会ったのです」
「そうクリ。あの時は本当にビックリしたクリよ。宇宙船に乗ってプレイヤにやって来た彼女を初めて見た時、頭の中に電撃が走ったような感覚を覚えたクリ。これは運命的な出会いに違いないと思ったクリよ!」
興奮したようにクリッターは捲し立てる。マリス様は微笑を浮かべたまま頷いた。
「そして話しているうちに判明したクリ。なんとビックリ、マリスは“真の魔法使い”だったクリ」
「真の魔法使い?」
あたしは思わず聞き返した。するとクリッターは得意げに鼻を鳴らす。
「さっきから言ってる『マムリ』、魔法石の接種によって後天的に誕生するそれとは違い生まれながらに魔法の力を行使できる者のことクリ。僕たち妖精も一応それに含まれるクリけど、人型知的生命体で先天性魔法使いってのは極めて珍しいクリ。おまけにマリスはその中でも飛び切りの才能を持ってるクリ。天才って奴クリ」
そう言ってクリッターはマリス様を見やる。マリス様は相変わらず穏やかな笑みを浮かべたままだ。美少女でこそあるがそれこそ白井姉妹やあたしと同年代のただの小娘にしか見えない。しかし、あたしはこの目の前の美しい女性がいかに強大な力を持っているかということを身をもって知っていた。
(真の魔法使い、そして天才、か……。マリス様の正体の一端がわかったわね……)
同時にそれはまだほんの少しあたしの中で燻っていたマリス様=白井優希説を完全に否定するものでもあった。少なくとも1年以上前から宇宙で活動していたマリス様が数か月前までは地球で普通に暮らしていた優希であるはずがないのだから。
ただ、一つ、今度は別のことで少し気にかかることが出来てしまった。それは――
「僕は『これだ!』って思ったクリ。彼女を上手く利用すれば僕の理想が叶う、と。そして、僕の計画を話したクリ。怯えて逃げ出す可能性や、断られる可能性も考えたけど、意外とあっさりとマリスは僕の話を受け入れてくれたクリ」
あたしの疑問をよそにクリッターは滔々と話を進める。
「ふふ……」
するとマリス様が笑みを零した。不思議に思ったあたしが彼女の方を見ると、彼女はクリッターへと視線をやったまま微かに笑みを浮かべていた。
「クリちゃんの目はとても魅力的でした。純粋で真っ直ぐで、それでいて澄んでいる。その目を見た瞬間私は思いました。彼について行ってみようと。それが新しい扉を開く鍵になるかもしれないとね」
……う~ん……これって、まさか、本当に……。
いや、でもそれは信じたくない、だって、ねぇ……。
「そして、僕たちは手を結びアントリューズを結成したクリ。そして、『帝国』の連中がやってこないようなどこか辺境の惑星で戦力を整えることにしたクリ。そして、ピティーが逃げ込んだこの地球こそが最高の選択肢だと考えたクリ」
「私の力を用いれば、魔法石摂取による『マムリ』化と同じようなことができます。強化魔法という奴ですね。地球の皆さんは持って生まれた魔力こそありませんが基本性能が高いですから素材としては非常に適しているんですよ」
それがアントリューズ四天王! あたしはアクアさんやエンさんら四天王たちの姿を脳裏に思い浮かべる。彼らはマリス様によって力を与えられた、いわば強化人間・改造人間のような存在だったのだ。まあ、もちろん普通の人間ではないとは思ってたけどね。
それにしても、流石マリス様、凄い能力だ。おまけに少女しかなれない『マムリ』と違ってエンさんのような男性やアクアさんみたいなおば――妙齢の女性でも魔法使い化できるなんて、チートにもほどがある。
「とはいえ数を揃えようと思えば私の魔力の消費も激しいですし、色々な面を考慮した場合、やはり『マムリ』の方が優れています。梨乃ちゃん、キョーコちゃん、眠夢ちゃん。今はまだ四天王にも及ばないあなたたちですが、最終的には彼ら――いえ、私をも超える存在になる可能性を秘めているのです。これが『マムリ』最大の特性、上限というものが存在しないのです」
なんとっ!? 四天王どころかマリス様より強くなれる可能性すら秘めているなんて……!!
あたしは、そっと自分のお腹に手を当ててみる。気のせいだろうけど、少し熱を持っている気がする。体内に宿る魔法石ダークネスストーン。その力に高揚感を覚えた。
「もちろんそれは魔法少女たちも例外ではないのですがね……」
ボソッと呟くように続けるマリス様だったが、それがあたしの耳へと届く前にクリッターが話を再開する。
「マリスというカリスマを総帥に据えた僕の判断はまさにドンピシャだったクリ。様々な理由で社会の中で居場所を失ったり居心地の悪さを感じている者たちを惹きつけ組織の構成員を集めていける。僕が総帥やってたらきっと誰もついてこなかったクリよ。――いや、梨乃みたいな魔法少女オタだったら、『僕と契約して魔法少女になってよ☆』とかで釣れたかも知れないクリね」
「うるさいわね! 過去の話を持ち出して揶揄わないでよ!」
クリッターのセリフに思わず噛み付く。だいたいその誘い文句だったらあたしゃ絶対乗らなかったわよ! 魔法少女は魔法少女でもああいうダーク系はお断りなの! ……皮肉にも今のあたしはまさにそのダーク系魔法少女さながらの世界で魔法少女ですらない暗黒魔女とかいう妙な存在になってるんだけどさ……。
当のクリッターはといえばあたしの怒鳴り声にも一向に堪えた様子もなくニヤニヤ笑っているだけだ。
「ごめんクリごめんクリ。ともかく、そうして僕とマリスはアントリューズを創設し地球で戦力を養い続けているというわけクリ。魔法少女たちの邪魔はあるけど、順調に仲間は増えているし、梨乃やキョーコ、眠夢みたいな優秀な人材も集まって来てくれている。夢が叶う日も近いクリ」
「優秀……」
あたしはその言葉に心臓がドキンと跳ね上がった。正直嬉しい言葉だ。
「あのぉ、一つ質問いいですかぁ?」
あたしが喜びを噛み締めているとキョーコが挙手をして言った。
「何でしょう?」
答えたのはマリス様である。キョーコはそちらに視線を向けると小首を傾げながら言った。
「なーんか、今の話を聞いてるとキョーコたちってそのうち、『帝国』とかいう宇宙のヤバい人たちと戦わされそうなんですけどぉ、そんなのは聞いてないというかぁ、アントリューズの目的って『幸せの国』の建国じゃあないのでしょうかぁ?」
それはあたしも気になったことだ。てっきりアントリューズの最終目標は地球上の国家を全て亡ぼして自分たちの理想郷を作り上げることだと思っていた。しかし、話を聞く限りではそんな話も出てくることなくいつの間にか宇宙規模での戦いに巻き込まれそうな雰囲気だ。
「それは、この先の展開次第、ですね」
「どういうことですかぁ?」
「誰もが自由に生きられる『幸せの国』の建国、これがアントリューズの目的であることにはなんら変わりはありません。そのためには地球を征服する必要がある、これに関しては理解できますね?」
マリス様の言葉にあたしとキョーコは「はい」と頷く。
「よしんばこれが上手くいった場合どうなるでしょう? 今度はその『幸せの国』を守る必要が出てきます。もしも、『帝国』やその他の連中が地球に来たならば戦う必要が出てくるのです」
「ま、まあそうですねぇ……」
「ですから展開次第だと言いました。『帝国』からして見れば地球など取るに足らない辺境惑星、来るにしても他の星の制圧後になるでしょう。それはそんな近い将来の話ではないでしょうし彼らが地球に目を付け来る頃にはこちらの戦力も整い、仮に全面対決になったとしてもまず負けることなどないでしょう。あなたたちが戦うまでもなく、ね。またそれ以前の話として、連中は宇宙政府に鎮圧され勝手に瓦解している可能性もあります。皇帝がいくら有能とはいえ永遠の繁栄などあり得ないですからね」
あたしはホッと胸を撫で下ろす。つまり宇宙での戦いなんてものは当分先の話か起きないかも知れないということか。
「ともかく、これがアントリューズ誕生秘話。そして僕の目指すべき世界の話クリ。これでわかったクリ? アントリューズは白井優希なんて子の儀式で誕生したものじゃなくて、僕とマリスが共に描いた理想の未来を実現するための組織だってことが……」
クリッターはそう言って話を締め括った。確かに、その点については納得できた。しかし、別の疑念が生まれてしまった。
それは、あたしの認識を根本から壊してしまう想像。実はマリス様はクリッターの操り人形に過ぎないのではというものだ。
クリッターは常々アントリューズは自分とマリス様で共同で設立した組織で、自分と彼女は同格だと主張していた。あたしはクリッターはどうせマリス様に上手く乗せられ彼女の目的のために利用されているだけだと考えていたのだけど、今の話が真実だとすれば基本的にアントリューズというのはクリッターの野望から誕生した組織で、マリス様はたまたまクリッターに見初められ仲間に引き入れられた人材ということになってしまう。
それどころか、クリッターははっきりと『マリス様を上手く利用すれば自分の理想が叶う』とか『マリス様というカリスマを総帥に据えたのは自分の判断』とか言っていた。ということはつまり、組織を結成してから今までの流れもクリッターの掌の上で行われていたことになるのではないだろうか……?
ただ、マリス様にはマリス様の何かしらの目的があるようだし、以前仰られていた『ノヴァ』という宿敵と『極光の力』とやらの持ち主に対抗するための謎の計画のこともある。二人の利害は一致していてお互いの目的を果たすために協力しているだけなのかもしれない。
結局色々とわかったようでわからないことだらけのアントリューズとマリス様、そしてクリッターだが、ただの意地が悪いだけのマスコット的存在だと思っていたクリッターも確かにマリス様に比肩しうるかもしれない怪しい妖精だということがはっきりした。やはり侮れない奴である。
……だからと言って、あいつのことを敬ったり態度変えたりはしないけどね! あいつが何であろうと、少なくとも心の中ではあいつはあたしより格下だから!
「おや、どうしましたか? 梨乃ちゃん。顔色が優れないようですが……」
あたしの様子がおかしいことに気づいたのかマリス様がそう尋ねてきた。あたしは慌てて首を左右に振ると「いえ、大丈夫です!」と答える。
「そうですか。しかし何か悩みがあるのでしたら遠慮なく相談してくださいね。私たちは仲間なのですから」
そう言ってマリス様は優しい笑みを浮かべた。あたしはそれに救われたような気持ちになり思わず涙腺が緩んでしまうのだ。
ほんと、マリス様が総帥で良かった……。
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