ep15-2 惑星プレイヤの悲劇、堕ちた妖精クリッター!!
「戦乱の渦?」
クリッターの口から飛び出した言葉に、あたしは思わず聞き返した。クリッターはこくりと頷くと淡々と続ける。
「そうクリ。この起こりはとある惑星の統治国家の皇帝が全宇宙支配の野心を燃やしたことから始まったクリ。その『帝国』は強大な科学力と軍事力をバックに侵略の手を広げていったクリ。もちろん、宇宙政府もそれに対抗するクリけど、旗色が悪いのが現状クリ。そして、それをきっかけに宇宙の各地でならず者たちが台頭しはじめたクリ」
あたしはポカンと口を開けて話を聞いていた。突然SFチックな展開になったので頭が追いつかないのだ。でもまあ、考えてみればクリッターが宇宙からやってきた妖精である以上おかしくはない話ではあるのだけど……。
「ま、まさか宇宙ではそんなことが起きてたなんてね……」
「なんか、実感が湧きませんねぇ。ま、どーせキョーコたちには関係ない話なんでしょーけどねぇ」
能天気なキョーコの言葉だが、まあその通りだろう。宇宙規模の戦争の話なんて、あたしたちの日常には関係ないことだ。アントリューズはともかくとして、少なくともあたしたち地球人が巻き込まれることはまずないだろう。
同じ地球の中で起こった戦争ですらいくつか国を隔ててしまえば無関係なものなのだ。ましてや地球から遠く離れた宇宙での話ならば尚更だ。
「んで、そこまでの話はわかったけど、いつ本題――あんたがいかにしてアントリューズ結成に至ったかの話に繋がってくるのよ?」
あたしが問いかけるとクリッターは、「せっかちクリね、今から話すクリよ」と肩をすくめる。
「そんな事態になっているとは知る由もなく、僕たちプレイヤの妖精たちは面白おかしく暮らしていたクリ。だけど今から約1年前のあの日、僕は知ってしまったんだクリ。プレイヤの指導者層が一般の妖精たちにひた隠しにしていたその事実を……。それを知った時僕の心の中には様々な感情が湧いたクリ。怒り、恐怖、憤り、失望――それが頂点に達してはじけた時、僕の中にある一つの考えが生まれたクリ。“殺られる前に殺ってやれ”ってね」
そう言ってクリッターは不敵に笑った。その笑みを見てあたしは背筋に寒いものを感じる。クリッターが一瞬だけ悪魔のような形相に見えたのだ。
「考えてみればおかしいクリ。なんで僕たちが――『マムリ』という最強の存在を生み出すことのできる僕たちが、その気になればこの宇宙の覇者になれちゃうかもしれない僕たちが! 『帝国』だのならず者たちだの怯えて暮らす必要があるクリ? 宇宙政府なんかに気を遣って生きなきゃならないクリ?」
「そ、それは……」
「宇宙の平和のために? 平和を壊そうとする者がいる時点でそれは意味を為さなくなるクリ。自分たちのことを棚に上げて綺麗事を並べる欺瞞だクリ!」
クリッターはそう言うとキュッと小さな拳を握りしめた。その瞳は怒りに燃えているように見えた。
「クリッター……」
あたしは思わず声を漏らす。彼の想いを思うと胸が締め付けられるような気がした。悲壮感すら漂わせながら彼は話を続ける。
「僕は、指導者クリプト、そして惑星の政治を司る賢人連中に進言したクリ。打って出るべきだと、僕たちプレイヤの民のプレイヤの民による理想郷を創るために戦おうと。そして僕たち妖精族を隷属しようと企むならず者どもを殲滅し奴らが所有する土地と資源を奪ってプレイヤの繁栄に役立てようって。だけど、僕の提案に彼らは顔を真っ赤にして怒り狂ったクリ。それは邪悪な考えだ、そんなことをすれば魔道に堕ちてしまう、と」
あたしは思わず口を挟んでしまった。
「で、でもさ。それが正しいんじゃないの? いくらあんたたちが凄い存在だからってその力をそんなことのために振るうのは間違ってるでしょ? それじゃあ、結局あんたが言った『帝国』と一緒じゃん」
そんなあたしの言葉に答えたのはマリス様だった。彼女はあたしを諭すように優しい口調で言った。
「梨乃ちゃん、あなた、そしてプレイヤの妖精たちの意見は確かに正しいでしょう。しかし、そのようなある種の綺麗ごとだけでは世の中は出来ていないのですよ。梨乃ちゃん自身も実感しているのではないですか? この世は強いものが弱いものを食い潰していくのです。そうでなければどうしてこの地球で争いが絶えないのですか? 飢餓がなくならないのですか? 貧困が消えないのですか? それは結局のところ力なき者は淘汰されていくという摂理があるからです」
マリス様の言葉にあたしは唖然としてしまう。あまりにも衝撃的でショックを受けたのだ。けれど彼女の言葉は酷く正しいように思えた。だからこそ反論することが出来なかった。
「平和な社会の中ですらそれは変わりません。力がないから社会で爪弾きにされ、望むべき姿にいつまでもなれないでいる、違いますか? あなたにもっと力があれば陰キャぼっちなどと呼ばれずに済んだでしょうし、今なお憧れている魔法少女になれるのにそのチャンスを掴めないなんてこともないはずです」
あたしは俯いてしまう。彼女の言う通りだ。あたしに力が無いから望みが叶わず苦しんでいるのだ。あたしの沈黙を見計らいクリッターが話の続きを再開する。
「指導者たちの態度に、僕は深い落胆と失望、そして怒りを覚えたクリ。僕は何も間違ってない、なのにあいつらは……。だからね、だから……」
そこでクリッターは言葉を止めた。何があったかはもう察しがつく。あたしはおそるおそる訊ねる。
「それで……その後どうなったの?」
するとクリッターは一拍の間をおいてから答えた。
「皆殺しにしてやったクリ! 自分でも信じられないほどスイスイと出来たクリ。きっと僕は妖精族の中でも特別な存在だったんだクリ! 圧倒的な力を持っていたはずの十三賢人たちも、クリプトも、全てこの爪で八つ裂きにしてやったクリ!!」
そう言ってクリッターは目を爛々と輝かせながら両腕を広げてみせた。その姿はまるで悪魔のようだ。あたしは背筋に寒いものを感じて思わず後ずさってしまう。
「そ、そんなことを……」
同胞たちを虐殺……こいつが……今まで散々邪悪妖精だの何だのとこいつに対して悪態をついてきたあたしだったが、まさかそこまで恐ろしいことをしでかしているとは思わなかった。
「まあ、正直あれに関しては自分でもどうかしてたと思うクリよ。殺される直前のクリプトが言ってたように、本当にあの時は悪魔にでも憑りつかれてたのかも知れないクリ。それだけ鬱憤が溜まってたってことクリけどね。今の僕はたとえ腹が立ってもあそこまでの真似はしないし出来ないクリ。だから、梨乃たちは安心して欲しいクリ。君たちに危害を加えるつもりは一切ないクリよ」
あたしは思わず唾を飲み込んだ。一時は驚愕に目を見開いていたもののすぐに平静を取り戻すと彼は淡々と続けた。
「ともかく、そんな感じで僕はプレイヤで反乱を起こしたクリけど、その時に逃げ出したのがピティークリ。ピティーは僕を倒して敵を討つとともに野望を阻止してもらうためにその理想に沿った『マムリ』の適格者を求めたクリ。そして、地球までやって来て、あいつが見つけ出した少女が魔法石の力で『マムリ』――魔法少女化したのがマジカルブリスってわけクリ。まあ、これは余談クリ」
あたしの宿敵の誕生の経緯に関わる話をさらっと終わらせたクリッターは改めて話を再開する。
「一方僕はちょっと困ってたクリ。感情に身を任せて多くの同族を殺し絶滅寸前にまで追いやってしまったせいで、プレイヤの妖精みんなで結託して『マムリ』を作りまくって数に任せて敵を圧倒するという最初の計画が実行不能になってしまったクリ。一匹の妖精が生涯に生み出せる魔法石は10個まで、つまり『マムリ』も10体が限度クリ。そんなんじゃ宇宙征服なんて夢のまた夢、そんな時出会ったのが――」
言って視線をつつつっとマリス様へとやるクリッター。マリス様は軽く微笑むと、「私というわけですよ」と頷いた。
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