ep14-8 アントリューズ、その裏には何がある?
あたしはマリス様に昼間の学校での出来事を話した。流れから魔法少女やアントリューズについての話になり、そこに白井優華という少女が接触してきたこと。
彼女は妹の失踪にアントリューズが関わっていると考え、情報収集しているらしいということ。
美幸や灯との微妙な友人関係なんかのこの件には特に無関係かつ自分に恥部とも言える部分には触れないよう注意しつつ出来る限り詳細に説明した。
マリス様はただ静かにあたしの言葉に耳を傾けていた。もしかしたら、白井優華や優希の名を出せば何か反応を見せてくれるんじゃないかと思っていたのだけど、彼女は眉一つ動かすことはなかった。白井姉妹との関係についてはともかく、組織を嗅ぎまわる人物が現れたというのに一切動じていないのは流石だ。しかし、だからこそ、その反応を根拠にマリス様やアントリューズが優華や優希とは無関係であると判断することは出来ないとあたしは思った。マリス様はどのような状況においても冷静沈着に振舞うことができる御方だから。
全てを話し終えたあたしはマリス様の言葉を待った。緊張のせいか妙に長い間に感じられたが、実際はマリス様はすぐに口を開いた。
「なるほど……。そんなことがあったのですか。それで梨乃ちゃんは少し様子がおかしかったのですね」
ドキッと心臓が跳ね上がる。やはりマリス様は凄い方だ、あたしの微妙な違和感など簡単に見抜いていたようだ。
「も、申し訳ありません。アントリューズの事を調べようとしている人間に、しかも学校で遭遇するなんて思いもよらなかったもので……。し、しかし、ご安心くださいこの浦城梨乃、腐ってもアントリューズの一員。迂闊なことは何もしておりません!」
あたしはマリス様の顔色を窺いながら懸命に弁明した。マリス様はくすりと笑みを漏らすと小さく首を左右に振った。
「わかっていますよ。それに、梨乃ちゃんの動揺も当然です、正体露見のリスクを考えれば、ね」
「あ、ありがとうございます……」
「それにしても……ふふふ、白井優華があなたに接触してくるとは……偶然か、それとも必然か、どちらにせよ興味深い事象です」
ピクッとあたしは体を震わせる。今の言葉……間違いない、知ってるんだ……マリス様は白井優華のことを知っている!!
思いもよらず、しかもあっさりと白井優華とマリス様の繋がりらしきものを感じ取り、ミステリー小説で犯人を当てた時のような高揚感があたしの全身を包む。――が。
「マリス様はぁ。優華さんのことを知ってらっしゃるんですかぁ?」
遠慮も空気を読むことも知らないアホ娘キョーコが横からズバッと核心を突く問いを投げかける。
ちょっと! それはまずいって! もっとこう、オブラートに包むというかさぁ……!
あたしは内心焦るがすでに言葉はマリス様の耳に届いてしまっている。
どうなる!? と内心ヒヤヒヤするあたしだったが、マリス様は意外なほどあっさりと首肯して見せた。
「無論です。日本有数の資産家白井財閥、その令嬢のことを私が知らないとでも思いましたか?」
……あ……。そうだよね、言われてみれば当たり前の話だ。日本屈指の大金持ちのお嬢様のことを知らないなんて方がおかしいよね……。
ましてやマリス様――アントリューズは世界征服(あえて単純な言葉を使わせてもらう)を目指しているわけで、日本の有力者、権力者のことは把握しておくのは当然と言えば当然なのだ。
「もちろん白井家の次女、優希の失踪騒動についても把握していますよ。警察のシステムへと入り込み捜査状況を把握することも我々にとっては容易いことなのですから」
う、ううむ……。どうやらあたしはまだ、アントリューズやマリス様を甘く見ていたらしい。正直言ってここまで強大な力を秘めているとは思いもしなかった。そして、そんな組織に身を置いていることに恐怖を感じた。しかし、同時にどこか心が踊る自分もいる。
「さて、それで梨乃ちゃんは何を聞きたいのでしょう?」
あたしの思考がまとまらないうちにマリス様が尋ねてくる。そうだった、あたしは白井優希とマリス様の繋がりを確認するためにこの話を切り出したんだった。
「その……優華は……妹の失踪にアントリューズが関わっていると疑っているようなのです……」
「なるほど……。まあ、そういう考えに至るのも理解は出来ますがね。妹の失踪とほぼ時を同じくして活動を開始した“謎の悪の組織”、関連付けて考えるなと言う方が無理というものですね」
マリス様はそこで一旦言葉を切るとどこか意地悪くニヤッと笑う。
「そして、梨乃ちゃん達もそう考えた。そのことを私に問いただしたかった、そういうことですね?」
ドキィッ! とあたしの心臓が大きく跳ねる。見透かされている……全部……。
「あっ、ああああの……。その……」
あたしは言葉に詰まってしまった。しかしマリス様は咎めるような視線を向けたりせず、むしろ興味深げな表情であたしの様子を観察しているようだった。
と、その時である、黙って話を聞いていたクリッターが横から口を挟んできた。
「もしかして梨乃は、優希が行った儀式のせいで僕たちが呼び出されアントリューズが誕生したとか、下手したら優希がアントリューズの真の黒幕とか考えたりしてるクリか?」
幾分――いや、かなり呆れを含んだ口調でクリッターがそう言った。
あたしはギクリと肩を震わせる。こいつもなかなか勘が鋭いのよね……こっちの考えを読み取るのが早いわ……。
「し、仕方ないじゃない。優華の話を聞いた時、そんな可能性もあるかな~って思っちゃったんだから! あ、も、もちろん本当に少しだけ、心の片隅で思っただけですから!!」
クリッターに反論しつつ、マリス様にフォローの言葉を並べるあたし。しかしクリッターはそんなあたしの様子などお構いなしに続けた。
「残念だけど、その推理は大外れクリ。優希がアントリューズ誕生に関わってるとか、黒幕とか、そんなことは絶対にありえないクリ」
「どうして……断言できるの……?」
クリッターに対してそう言ったのは眠夢ちゃんだった。話に参加できず退屈だったのか、それともクリッターの自信満々な態度が気になったのかはわからないが珍しく彼女の方から口を開いた。
クリッターは眠夢ちゃんへと視線を向けるとその小さな指を一本立てる。
「眠夢、梨乃、キョーコ、そして優華たち組織外の連中もそうクリけど、根本的に一つ間違ってることがあるクリ」
「間違ってること?」
あたしの問いかけにクリッターはコクッと頷くとそのまま続ける。
「確かにアントリューズが表立って活動を開始した時期はちょうど白井優希が失踪した直後ぐらいクリ。だけど、僕とマリスが出会い、アントリューズを結成し地球に目を付けたのはそれより前の話クリ。つまり、優希が儀式を行う前からアントリューズはあったし、地球へと来るつもりだったってことクリ。」
「そ、そうだったの……?」
思わず聞き返すあたしにクリッターは、「こんなことで嘘ついて何になるクリ」と少々ムッとした様子で言った。その様子からしても何かあたしを騙そうとか隠そうとかしているようには見えない。少なくとも今の話に関してだけは信じてもよさそうだと思えた。
「わかった……。疑って悪かったわ……」
あたしは素直に謝罪の言葉を口にする。クリッターは「わかればいいクリ」と鷹揚に頷いた。勝手に誤解したこっちのせいとは言えなんかムカつくわね……!
元はとはいえばあたしがアントリューズに入ることになってしまったのもこいつに騙されたからなわけで、組織についても未だにほぼ何も知らないのがあたしの疑念の原因とも言えるのだ! むしろ謝らなければならないのはこの憎たらしいネズミもどきなのではないか!?
「だけどさあ、あんたも悪いのよ。隠し事ばっかりでろくに組織のことも教えてくれないもんだから……」
ついつい悪態をついてしまう。マリス様の手前怒鳴りつけたりはしないけど……。
そんなあたしの言葉にマリス様が「確かに、それはその通りですね」と加勢してくれる。
やはりマリス様はクリッターと違う。このお方の言うことなら信用できる。
「梨乃ちゃんもそろそろアントリューズの一員として馴染みつつあることですし、色々と教えてあげてもいいころかも知れませんね。さしあたってはクリちゃん。私たちがどうやって出会いアントリューズを結成することになったのか、梨乃ちゃんに教えてあげてください」
「えぇ? 面倒くさいクリねぇ。まあ、でもいい機会だから話しておくクリか……」
二人の会話に耳を傾けながら、あたしは好奇心に胸を躍らせていた。マリス様とクリッターの出会い……あたしにとっては気になる話だ。
「それじゃあ、心して聞くクリ。アントリューズ誕生秘話を……!」
そして、クリッターは静かに語り出す。
彼の口から紡がれる物語は、事情を知らないあたしたちに大きな衝撃をもたらすことになるのだった――。
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