ep14-6 美幸と灯の怪しい動きとやっぱり気になる優華の話
あれからは特に何事もなく放課後になった。あたしはこっそりとスマホを取り出し、美幸にメッセージを送る。
『今日この後アミーガに行かない?』
すぐに既読が付いた。けれども、返ってきた返事はあたしの期待を裏切るものだった。
『ごめん、今日は無理なんだ』
今日は無理? 何か予定でも……ハッ、ま、まさか……本当に灯とデートでもするつもりなの!?
放課後灯と何やら約束してたようだが、すぐ終わる程度のものだと思ってたのに……!
あたしはスマホを握りしめ、キョロキョロと辺りを見回す。美幸を探さなきゃ……!
幸いにも美幸はすぐに見つかった。彼女は教室の出口近くに立っていて、ちょうど灯が近づいてくるところだった。
「この後、わかってるよね?」
灯がそう言うと、美幸は少し躊躇うような様子を見せた後、「うん……」と小さく頷いた。そして二人は手を繋ぎ昇降口へと向かっていく。
その光景を見た瞬間、あたしの胸の中で何かが爆発したような感覚に襲われた。
そりゃあの二人は友達同士だよ? 美幸は心を許した相手――あたしがその筆頭だった!――とは触れ合いたがるタイプだから、灯と手を繋ぐのは別におかしいことじゃない。恋人繋ぎとかをしてるわけでもない。だけど! でも……!
「あたしからの誘いを蹴って、なんであんなのと……!!」
怒りと嫉妬で頭がいっぱいになり、体が勝手に動き出した。こっそり後でも付けようと一歩踏み出したその時だった。
「センパァイ、見つけましたぁ♡♡」
背後から聞こえたその声に、あたしは全身を硬直させた。振り返るまでもなく、その声の主が誰なのかは明らかだった。
「キョーコ……」
イラつきながらもそう呟くと、キョーコは満面の笑みを浮かべてあたしに駆け寄ってきた。
「センパイったらぁ、今日は一人でどこに行こうとしてたんですかぁ? キョーコ寂しいですぅ!」
「あんたには関係ないでしょ! それよりあたしは今急いでるの!」
美幸と灯のことが頭から離れず、苛立ち混じりにそう言い放つと、キョーコは不思議そうに首を傾げた。
「急いでるって……何をするつもりなんですぅ?」
「あんたには関係ないって言ってるでしょ! いいからどっか行って!」
しかしキョーコは全く引く様子もなく、あたしの腕にしがみついてきた。
「イヤでぇす! キョーコはセンパイと一緒にいたいんですぅ!」
「ああもう! 本当に邪魔なのよ!」
思わず大声を上げてしまい、周囲の生徒たちがこちらを見ているのに気づいた。慌てて声を抑えると、キョーコはニヤニヤと笑いながら言った。
「センパイったら照れちゃってぇ♪ でもキョーコはわかってますよぉ。センパイが今どこに行こうとしてたのか……」
「な、何言ってるのよ!」
キョーコの言葉にドキッとした。まさか……あたしが美幸と灯を追おうとしてたのを見抜いたの?
「センパイはぁ、あの二人に嫉妬してるんですねぇ、それで追いかけようとした、そうでしょう?」
「……し、嫉妬なんかしてないわよ」
言葉に詰まりつつもなんとかそう返すと、キョーコはさらに笑みを深めつつ、「誤魔化さなくてもいいんですよぉ、センパイったら可愛いんですからぁ♡♡」などとのたまう。
(こいつ、ぶん殴ったろか!)
一瞬本気で考えたけど、そんなことしたら面倒なことになるだけだし……。我慢我慢……!
キョーコはあたしの葛藤を楽しむかのようにニヤニヤしていたが、ふと少しだけ真剣な表情になると、「ですけどセンパァイ、キョーコたちにはあの二人に構ってる暇なんてないですよぉ」と言った。
「何言ってるのよ、急に真面目な顔して……」
「今日はこれからアントリューズの会合の予定でしょう?」
「あっ……」
すっかり忘れていた! そうだ、今日は午後からアントリューズのアジトビルに行く予定だったんだ……。
チラッと美幸たちの方に目を向ければもうかなり遠くまで行っており背中がかすんで見えるくらいだった。くそっ、タイミング悪いなぁ!
後ろ髪を引かれつつもあたしは「……そうだったわね……」と返すしかなかった。
「そうですよぉ。キョーコたちはあくまでもアントリューズのメンバーなんですからねぇ。個人的な感情は二の次ですよぉ」
キョーコはそう言ってあたしの腕をぐいっと引っ張る。
「さぁさぁ、センパイ。早く行きましょうよぉ。遅刻しちゃったらマリス様に怒られちゃいますよぉ」
「わかったわよ! もう、いちいち引っ張るなっての!」
あたしはキョーコに抗議しながらも、仕方なく彼女に従うことにした。
美幸と灯のことは気になるけど……今はアントリューズの会合が優先だ。それに、美幸とはまた明日話せるだろうし……。そう自分に言い聞かせながら、あたしはキョーコと共に学校を後にした。
**********
「センパイセンパイセンパイィィ♡ 手ぇ繋いで行きましょー♪」
「うるさいわね! 近いっての! 離れなさいよ!」
あたしはキョーコの猛攻を必死に振り払いながらアジトビルへと向かう。こいつ、毎回毎回ベタベタしてきて鬱陶しいったらありゃしないわ……。
「センパイったら照れ屋さんなんだからぁ♪ そんなに拒否しなくてもいいじゃないですかぁ~」
「拒否って当たり前でしょ! あんたと手を繋いで歩く趣味はないの!」
「むぅぅ~~! じゃあキョーコ一人で行きますぅ~~!」
拗ねたように唇を尖らせながらもキョーコはあたしの隣を歩いてついてくる。本当にもう、面倒くさいったらありゃしない……。
ふと、あたしは昼間の白井優華との会話を思い出した。優華はアントリューズが妹の失踪と何か関係があるのではないかと考えているようだったが……。
「ねぇキョーコ」
「何ですかぁセンパイ?」
「あんたさ、白井優華の話――特に妹のこと、どう思う?」
あたしが唐突にそう尋ねると、キョーコは「ああ~」と思い出したように相槌を打つ。
「なんか変な話してましたねぇ。そんなに気になるんですかぁ?」
「まあね。気になるっちゃあ気になるわね。自分たちの属する組織が生まれたきっかけがその子の行った“儀式”にあるかもしれないなんてさ」
「そうですかぁ。でも、キョーコはそんなに気になりませんねぇ。キョーコはセンパイといちゃいちゃできればそれで満足なのでぇ」
「そういう問題じゃないでしょ!」
こいつはホントにマイペースというかなんというか……。人の話を聞かないというか……。
まぁ、それは置いといて……。
「じゃあ質問を変えるわ。キョーコ的にはあの話はどう思う?」
「さすがにあり得ないと思いますよぉ。だってぇ、センパイは当然ご存じでしょうけど、アントリューズってマリス様とクリッターちゃんが共同で起ち上げた組織なんですよぉ?」
キョーコの言葉にあたしは、「そりゃそうだけど……」と返す。
『アントリューズは僕とマリスが共同で設立した組織クリ。だから、僕とマリスは同格。別に僕のことを敬う必要はないけどそこはしっかり認識しておくクリ~』
以前クリッターが言っていた言葉が脳裏を過る。
クリッターはその言葉通りマリス様に対しても対等な態度を崩さない。
あの二人の出会いは謎に包まれており、どういった経緯でアントリューズが設立されたのかはあたしはもちろん他のメンバーも詳しくは知らない。だが、あの二人(一人と一匹?)が中心となって組織が造られたということだけは確かなのだ。そこに白井優希という単なるオカルト趣味の少女の介在する余地はないはずだ。
しかし、そこであたしはハッとする。クリッターは宇宙からやって来た妖精。マリス様の出自に関しては完全に不明だ。もし、もしもよ、あの二人が優希が行った“儀式”によってどこかから召喚された存在だとしたら……?
「たとえば、こんな考えはどう?」
あたしが自分の考えを伝えるとキョーコはどこか呆れたような、それでいて面白そうな表情を浮かべた。
「センパイもなかなか想像力豊かですねぇ。ミステリーとかお好きなタイプですかぁ? でも、キョーコ的には流石にそれはあり得ないと思うんですよねぇ。仮にそうだとしたらおかしいですよぉ。もしもあの二人が白井優希の呼びかけによってやって来たのだとしたら、アントリューズの背後には優希がいるってことになりますよねぇ?」
「ま、まあ確かにそうなるわね」
あたしが頷くとキョーコはピッと指を立てる。
「センパイは組織内に白井優希の気配を感じたことがありますかぁ? マリス様やクリッターちゃんが自分以外の誰かの意思で動いてるような素振りを見せたことが一度でもありますかぁ?」
「う……っ」
流石にここまで真正面から問われるとあたしとしても何も言い返せない。
確かにあたしもすでにそれなりの期間アントリューズの一員として活動しているけど、組織内に白井優希(に限らずあたしの知らない何者か)の気配なんて感じたことはないし、マリス様やクリッターが誰かの指示を受けているように感じたこともない。
「確かにそうなんだけど……。でも、気になるのよね……」
あたしもあの白井優華と同じだ。真実が知りたい。白井優希の件がアントリューズと関係あるのか関係ないのか、それをハッキリさせたいのだ。
「どーしても気になるならお聞きすればいいんですよぉ」
「は?」
唐突なキョーコの提案にあたしはポカンとしてしまう。
「つまりですぅ。センパイのその推察が正しいかどうかはマリス様かクリッターちゃんに直接確認するのが一番早いと思いませんかぁ?」
そ、それは、確かに道理ではあるけど……。
「いやいやいや! そんなことできるわけないでしょ! それに仮に確認したとして正直に答えてくれる保証はないし……」
あたしが慌てて否定するとキョーコは「だいじょーぶですよぉ」とお気楽な声を上げる。
「センパイが聞けばマリス様は必ず答えてくださいますよぉ。センパイはマリス様に気に入られていますからねぇ」
「そ、そうなのかしら……?」
キョーコから言われあたしは体の芯が熱くなるのを感じる。マリス様は基本的に組織の皆を平等に愛し、慈しんでくれる素晴らしい御方だ。でも、その中でも特別な存在になれるとしたら……。
ニィ――
ふと、キョーコの口元が小さく歪んだような気がした。しかしそれも一瞬のことで次の瞬間にはいつも通りの笑顔に戻っている。
「とにかく、そうと決まればこんなところで話してる場合じゃないですよぉ。センパイ。早くアジトに行ってマリス様にお尋ねしないとぉ」
「ちょっ、ちょっと、あんた勝手に……」
抗議の声を上げるあたしだったが、結局のところアジトへは行かなければならない。キョーコに引っ張られながらあたしはマリス様にどうやって話を切り出すかを考えていた――。
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