ep14-5 謎が謎呼ぶ『白井優希』失踪事件
「あなたたち、私の妹の話は知ってるでしょう?」
「え、ええ……」
優華の言葉に美幸がおずおずと頷く。優華には双子の妹がいる。優希といって別の学校に通っていたのだが、実は彼女は数か月前から行方不明になっているのだ。
失踪当時はかなりの騒ぎになっていたが、いつの間にかその話題は沈静化していた。その理由としては彼女の私生活、家族関係に問題があったからだ。
才色兼備を絵に描いたような姉とは違い、容姿こそよく似ていたが優希はそれ以外のすべての面において姉に大きく劣っていたと風の噂で聞いたことがあった。
「あの子は常に私と比べられることにコンプレックスを抱いていたの。私とは別の学校を選んだのもそのため。両親との仲も良好とは言えなかったわ……」
「要するにぃ、家出する理由には事欠かなかったってことですよねぇ~」
キョーコが口を挟むと優華は「ええ……」と言って頷く。
そんなわけで、警察が単なる家出と判断、あまり本気で捜査してなくても無理はないってみんな思ってるわけよ。どうもここ最近この阿久野町ではその手の理由での家出が流行ってるみたいだし。上原真理奈とか、キョーコがストーカーしてた指原麗華とか、その前だと……ってそれはいいか。
「それで、その件とアントリューズに何か関係があるの?」
灯が問いかけると、優華は、「何の確証もない、ただの憶測でしかないんだけど、私にはそう思えてならないのよ……」と顔を俯かせた。
その言葉にあたしたちは思わず顔を見合わせる。それはあまりにも飛躍しすぎてるんじゃないの? そもそもアントリューズのメンバーとして言わせてもらうけど、うちは別に家出少女を誘拐したりなんてしてないし、今後もしないわよ。
世間からはみ出したいたいけな少女(あたし)を騙して暗黒魔女に仕立て上げた邪悪妖精とか、女の子大好きで好みの子を集めて美少女だけの国を作りたいとか言ってる危ないお姉さんが所属してたりするけど、誘拐なんて――……するかもしんない……。
クリッターとアクアさんの邪悪な笑顔が頭の中に浮かんでしまいあたしは思わず頭を抱えてしまう。
いや、でも。仮にその子がアントリューズにいるんだとしたらあたしが知らないわけないし、少なくともその子のことも含めて最近の失踪にはアントリューズは関わってはいないはずよ。
「なんか根拠でもあるんですかぁ?」
あらぬ冤罪をかけられ腹でも立てたのか、ズバッと切り込むキョーコにあたしは思わず「ちょっと、あんた!」と声を上げてしまう。
しかし優華は特に気にした様子もなく、「根拠と言っていいのかはわからないけど……」と前置きをしてから自身の考えを話し始めた。
「これは、警察があの子を家出だと判断した理由の一つでもあるのだけど、失踪後あの子の部屋からあるものが見つかったのよ」
「あるものって?」と灯が問いかける。
優華は、「それは……」と少し言いよどむ様子を見せたがすぐに意を決したように口を開いた。
「それは古い本だったわ。魔術書って言うのかしらね? 怪しげな呪文なんかが書かれた胡散臭い代物よ」
「そんなものが……」
「あの子はオカルトに傾倒してたの。現実逃避の一環だったのかも知れないけど……。ともかく、その魔術書の中、“己の願いを叶える魔術”のページの片隅に優希の文字でこう書かれていたの、『願いはかなった、私は新たな世界へと旅立つ』って。警察はそれを家出の宣告だと受け取ったわけだけど……」
「新たな世界……?」
「そう。馬鹿馬鹿しい話だと思うでしょ? オカルトにはまって新たな世界とかわけのわからないこと言いだすなんて。でも、それからほどなくこの町にアントリューズというこの世ならざる力を行使する謎の集団、そしてそいつらと戦う魔法少女が現れた、果たしてこれは偶然なのかしら?」
美幸の呟きに答えるように優華が言うと、灯が、「それは……」と言いよどむ。
確かに、偶然にしては色々と一致しすぎている気がする……でも、そんなことがあるのかしら? それに、この話を突き詰めていくと……。
「もしかしてだけど、白井さんはこう考えてるの? アントリューズはその優希さんが実行した魔術のせいで現れたんじゃないかって」
美幸の言葉に、優華は、「ええ。あくまでもただの可能性。数字にして1パーセント未満の話ではあるけどね」と頷く。
おいおい、とんでもない話になって来たわよ。優華の妹がアントリューズ誕生にまで関わってるだなんて……。流石にそれは妄想が過ぎるんじゃない?
「確かに、白井さんの言う通り優希さんが失踪した時期とアントリューズが現れた時期は一致している。でも、それだけでは根拠としては不十分すぎるんじゃないかなぁ」
灯の言葉にあたしは思わずうんうん頷く。そうよね! いくらなんでも考えすぎよ!!
「わかってるわ。でもだからこそ私は真実を知りたいのよ。アントリューズがあの子の失踪に関わっていないなら関わっていないという確証を得たいの、何もわからないのが、一番苦しいから……」
少し強めの口調で一気に言うと優華はふうと息を吐く。
「ごめんなさいね、つまらない話をしてしまって。ともかくそんなわけだから、あなたたちもアントリューズについて分かったことがあればどんな些細なことでもいいから、教えてくれると助かるわ」
そこで言葉を切ると優華は立ち上がる。
「それじゃそろそろお昼休みも終わりだし、教室に戻らないとね。それじゃあね」
ひらひらと手を振ってその場を後にする優華。
美幸や灯は慌てて、「う、うん、じゃあまた」と返すが、あたしは呆然として何も言えなかった。
「ねぇ、美幸……」
「ん、どうしたの灯ちゃん?」
「あの子の……」
「やっぱり気に……」
「後で……」
背後では美幸と灯が何やらこそこそと言い合っている。
何を話してるのかしら、よく聞こえないわね。まあ、優華の話をどう思うかとか言い合ってるんでしょうけど、別にこそこそしなくてもいいじゃないの! なんでここであたし(とキョーコ)をハブるような真似するのよ!
苛立つあたしだったが、何かを口にするより早くキョーコが「そうだ、キョーコも教室戻らなくちゃ!」と声を上げる。
そして、あたしの前にぴょんと立つとガバッと両手を広げる。
「それではセンパイ。お別れのチューなどを……」
「やめんかーーー!!」
「あいたっ!」
あたしは思わずキョーコの頭にチョップをかます。まったく、油断も隙もあったもんじゃないわね! そんなあたしたちのやり取りを見て美幸と灯がクスクス笑う。ああもう、恥ずかしいったらありゃしないわ!
「じゃ、アタシも自分の教室戻ろっかな? 梨乃、今日はあなたと話せてよかった。あなたも、一人でばっかりいないでたまにはこうして誰かと話してみるべきよ」
灯がそう言ってあたしに向かってウインクをする。そんなこと言われてもねぇ、あたしはあんたみたいな陽キャとは違うのよ……。
だけど、まあ、ほんのちょっと見直してやってもいいかな……。
「じゃ、美幸またね。放課後は……わかってるよね?」
「うん、わかったよ」
放課後は、何!? まさか二人きりで『デート』でもしようってんじゃないでしょうね!?
結城灯……やっぱり、ムカツクわ……! 心の中で呟きながら、あたしは教室に戻って行くのだった。
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