ep13-4 キョーコもクリッターも好感触! この子は逃せない!
「センパーーーーイ!!」
あたしが木々の合間から姿を見せるなり、暴走特急がすごい勢いで突っ込んできた。
がばあっと抱き着いてくるのを、あたしは「うげぇ」と呻きながら受け止める。
「センパイ! キョーコがいなくて寂しかったですかぁ? もう心配いりませんよぉ~、キョーコがずぅっと側にいますからねぇ♡」
そう言ってあたしの胸に頬ずりしてくる変態娘。あたしはなんとか引きはがそうと試みる。
「あ~ん、センパイのいけずぅ」
そう言ってキョーコは渋々といった様子であたしから離れると、今度はあたしの腕に抱き着いてきた。
ふと、自分に向けられた変なものを見るような視線に慌ててそちらに視線をやると、あたしを案内してくれた黒い少女が半分閉じられていた瞳を見開いてあたしたちを見つめていた。
「……後輩に会えてよかった……それじゃ……」
僅かに顔を赤らめそそくさと立ち去ろうとする少女。あたしは慌ててその背中へと声を掛ける。
「待て待て待て待て待て!! 行かないで行かないで行かないで行かないで!!」
「でも……私……お邪魔……」
「違うから! そんなんじゃないから!!」
あたしは少女を引き留めるとキョーコに向き直る。
「ちょっとキョーコ! あんたのせいで誤解されちゃったじゃない!」
「誤解じゃないですよぉ~センパイとキョーコはぁラブラブなんですぅ」
「違うから! 絶対違うからね!」
そんなあたしたちのやり取りを、黒い少女は眠たそうな瞳でじっと見つめている。
「そ・れ・よ・りぃ~……センパイ、この子誰ですかぁ? まさか、森の中でナンパしてきたんですかぁ!? 酷いですよぉ、キョーコを邪険にしておきながら新しい……」
「あーうるさいうるさいうるさい! あんたちょっと黙りなさない!」
あたしはキョーコを黙らせると、改めて少女へと向き直る。
「え、えーとごめんなさいね、お見苦しい所をお見せしてしまって。この子はあたしの後輩なんだけど、こんな感じで……あんまり気にしないでちょうだい」
「はぁ……」
少女はキョーコに視線を向けると、気だるげな声で呟く。
「それでちょっと、ちょっとでいいから待っててくれない? ここまで案内してもらったお礼がしたいのよ」
「別に、いい……」
「お願い!」
首を振る少女にあたしは両手を合わせて懇願する。すると、少女はやれやれといった感じでコクンと頷く。
それを確認すると、あたしはキョーコの首根っこを掴み、少し離れた場所へと移動する。
少女がしっかりと待っていてくれることを確認し、あたしはキョーコの耳元に口を寄せると小声で言った。
「あの子、森の中で見かけた子なんだけど、あたしの中の何かがビビっと来たのよ」
「えぇ? それってぇ、まさか一目惚れですかぁ……?」
「ちっがーう! そうじゃなくて、なんかこう……暗黒魔女の素質があるっていうか……」
「暗黒魔女、ですかぁ……?」
あたしの言葉にキョーコはチラッと視線をそちらへと向ける。
「単なる直感みたいなもんだけど……あんたと似た雰囲気を感じるというか……。どう、あんたは感じない?」
「うむむ……確かに、言われてみればぁ、感じますねぇ。内に秘めた暗黒パワー……でも、それよりもぉ……」
と言葉を止めて、キョーコは少女をじーっと見つめる。
「な、なによ……」
「かぁ~わいいですねぇ~。キョーコ、きゅんとなっちゃいましたぁ」
「は?」
あたしは思わずそんな声を上げる。いや確かにかわいいとは思うけど……って! そうじゃない!!
「あんた節操ないわけ! 人に散々迫っておいてちょっと可愛い子がいたらコロッと落ちちゃうわけ!」
「センパァイ、もしかしてぇ、嫉妬、とかしてますぅ? キョーコがあの子に取られちゃうかもってぇ」
「ば、馬鹿! そんなわけないでしょ!」
慌てて否定するあたしにキョーコはニマニマと笑みを浮かべる。うぐぐ……この変態め……!
「安心してくださいよぅ、キョーコはセンパイ一筋ですからぁ。仮にあの子が暗黒魔女の仲間でもぉ、キョーコのセンパイ愛は揺るぎませんよぉ」
「あ、そう……」
あたしはもう何も言う気になれずため息を吐く。
「でもぉ、本当にあの子が仲間だったらいいですねぇ~。戦力が増えるのもそうですけどぉ、可愛い女の子が一人増えるのは大歓迎ですよぉ」
「それは……まぁ、確かに……」
キョーコの言葉にあたしは思わず同意してしまう。どうせ仲間にするなら可愛い子の方がいいに決まってる! しかし、あっち系のキョーコに問われてこう答えるとまるであたしまで『そっち』な子のように思われそうでちょっと癪だ。
「ともかく、クリッターが今どこかからあの子を見て、本当に暗黒魔女にふさわしい子かどうか見極めてるから、その結果を見て……」
「合格クリ~!!」
あたしがキョーコに次の話をしようとしたまさにその瞬間、社殿の影からもふもふが飛び出し、少女の前へと降り立つ。
「いいクリいいクリ! キミ最高クリよ! 今までの誰よりも深く暗い暗黒パワーを感じるクリ!」
興奮気味に叫ぶクリッターに少女はまたもあの眠そうな目をまん丸く見開き驚いている。
「な、何……これ……?」
「いきなり飛び出す奴があるか! ごめんねぇ、驚かせちゃって」
あたしは慌てて少女に駆け寄るとクリッターを怒鳴りつけつつ、謝罪する。
「あ……いえ……」と少女は小さく首を横に振るがその表情は困惑に満ちていた。まぁ当然だろう、いきなりこんなもふもふした生き物に興奮した様子で迫られたら誰だって驚くに決まっているのだ。
あたしはその様子を見ながら考える。あたしの考え通り、少女は暗黒魔女としての資質を持っていた、ここまではいい。
問題なのはここからだ、どうやって彼女をアントリューズに引き入れるか……。
う~ん、う~んと唸るあたしの肩をキョーコが叩く。
「センパァイ、彼女の勧誘ですけどぉ、キョーコとクリッターちゃんに任せてくれませんかぁ?」
「え? あ、うん。いいけど……」
キョーコの提案にあたしは思わずそう答えてしまう。すると彼女は嬉しそうに微笑み少女に歩み寄る。
「ちょーっと、向こうでお話しませんかぁ? あなたの今後に関わる重大なお話があるんですよぉ」
「重大な……話……?」
「とくにかくこっちにぃ……」
キョーコは少女の手を取ると、そのままあたしから少し離れた場所へと移動する。
クリッターもトコトコとそれについて行くのだが、ふと振り返り、「梨乃は待っててほしいクリ」と言ってきた。
のけ者にされたような気になって少し腹が立ってくるが、正直あたしには人を上手く勧誘する能力なんてないし、ここはキョーコとクリッターに任せることにしよう。
離れた場所で何事か話し始める三人を眺めながら、あたしはしばし手持ち無沙汰な時間を過ごした。
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