ep12-5 なんで!? キョーコがあたしの隣で寝てる!!
「う、ううん……もう朝ぁ……」
カーテンの隙間から差し込む朝日にあたしは目を覚ます。
どうやらいつの間にか眠ってしまったようだ……。
「ん? あれ?」
眠い目とだるい体、そしてカーテンから差し込む朝日にあたしは違和感を覚える。
「ここは……あたしの部屋じゃない!?」
ガバリと跳ね起きるとそこは見覚えのない部屋だった。
「あ、あれ? あたし、どうしてこんなところで? いや、そもそもここどこ? あたしは昨日……」
「ん……んあ、もう朝ですかぁ……?」
混乱するあたしの耳に聞き慣れた声が飛び込んでくる。その声の方を見てあたしの混乱はさらに加速する。そこには……キョーコがいたからだ。
しかもただいたわけではない、彼女はなんと、あたしの横に寝ていたのだ……しかも、しかも、しかも……裸で……。
こ、これは……まさか、もしかして……。
「うがああああああああ、やっちまったあああああああああ!!」
あたしは頭を抱えて絶叫した。
そんなあたしの叫び声にキョーコが目を覚ます。
「んあ、センパイ……おはようございますぅ」
あふ~と欠伸をしながら起き上がる彼女の体を隠すものは何もない。そしてあたしも全裸だ……つまりはそういうことなのだろう……ああ!! なんてことなの!? この変態娘と一線を越えてしまうなんてええええええ!! しかも、それについての記憶がまるでないなんて!!
「あ、あの……キョーコ? あたしたち昨日……」
「はいぃぃ?」
恐る恐る尋ねるあたしに、未だに寝ぼけた様子のキョーコ。こいつぅぅ! もしかして低血圧!? 寝起き悪いの!?
「目を覚ませーーーー!! 答えろおおお! あたしとあんたは昨日何をしたぁぁぁ!? そう、あのドリンクを飲んだあたりからの出来事を全てこの場でぶちまけろおおおおおお!!」
あたしの剣幕にキョーコは目を白黒させつつも訝し気な表情を浮かべる。が、自分の身体とあたしの姿、そして部屋の中を見回して納得したように頷いた。
「あ~はいはいはい……なるほどぉ……」
そんなキョーコの様子にあたしは思わず息を飲む。ま、まさか本当に……?
「えとですねぇ、昨日センパイがあのドリンクを飲んでからぁ」
ゴクリとあたしの喉が鳴る。
「センパイったらぁ、いきなりキョーコに襲い掛かってきてぇ」
!!? な、なんですって!? そんなあたしの動揺を余所にキョーコは続ける。
「それでですねぇ、キョーコが抵抗するのも構わず服を脱がしてきて……ですぅ……」
あ~やっぱりか! いやでも、キョーコが抵抗? あの変態娘が!?
「でぇ、そのままベッドに押し倒されてぇ……そのまま……キョーコとセンパイはぁ、一つにぃ……」
そう言いながらキョーコは顔を赤らめてくねくねと体を捩る。
がーんがーんがーんがーんがーん
やっぱり……しちゃったんだ……。
しかも、あたしが襲った? いや、キョーコがあたしを襲ったんじゃないの? いくらドリンクでハイな気分になったからってあたしにはそっちの趣味なんてなかったはずなのにぃぃ……。
いや、よそう……もう現実を受け止めるしかない……。
「とにかくぅ、キョーコはぁセンパイと一つになれて嬉しかったですぅ」
「そ、そう……」
そんなあたしの言葉にキョーコがガバリと抱き着いてくる。
「そんなわけでぇ、昨夜みたいにまた可愛がってくださいよぅ。なーんかセンパイ昨夜の事、全然覚えてないみたいですしぃ、思い出すためにももう一度……ね?」
「う、うう……」
確かに昨夜の事は覚えてないし、キョーコにその気があるのはわかるけど、あたしとしてはこんななし崩しな関係はちょっと……。
しかし、こうなった以上責任は取るべきなのかもしれない……。
あたしは意を決して、唇を突き出してくるキョーコのそれに自分の唇を……。
「梨乃ー、キョーコー、起きてるクリか~?」
そんなあたしの決意は、突然に部屋に入ってきたクリッターによって中断されるのだった。
「ななな何よ!? いきなり!!」
思わずキョーコを突き飛ばすあたしをキョーコは不満そうに見てくるがそれどころではない!
「なーに、やってるクリか? 梨乃、キョーコにキスしようとするなんて……とうとう梨乃も観念したのかクリ?」
「……仕方ないのよ……記憶がないとはいえ、キョーコとそういう関係になっちゃたんだし……責任は取らなきゃ……」
「そういう関係? 何を言ってるクリ?」
首を傾げるクリッターに、キョーコがしまったぁという顔をする。
……? この反応……それにクリッターの今の言葉……そして、さっきから感じてたキョーコの話に対する違和感……。
「ねえ、クリッター? あたしって昨日何したの?」
キョーコに聞いても埒が明かないと踏んだあたしは直接クリッターに聞いてみることにしたのだ。
「覚えてないクリか?」
「どうもあのドリンク飲んでハイになった直後あたりから記憶が曖昧なのよっ……キョーコはその……あたしが自分に襲い掛かってそういう関係になったって主張してて……」
「ひ、酷いですよぉ、センパァイ、キョーコの話を信じてないんですかぁ!?」
非難のこもった視線を向けてくるが、明らかに焦った様子を見せるキョーコ。
あたしは今はっきりと確信した、キョーコは嘘をついている。
それを証明するかのようにクリッターはキョーコに呆れとも感心ともつかない視線を送る。
「よくとっさにそんな嘘八百を思いつくクリね……感心するクリ」
「う、ううう……」
呻くキョーコ、あたしはそれを一瞥してから改めてクリッターに問いかける。
「じゃあつまり、あたしはキョーコとそんな関係にはなってないってわけね? なら教えてよ、どうしてあたしたちはすっ裸で同じベッドの中で寝てたの?」
「僕が寝かしたからに決まってるクリ」
あっさりと、なんでもないことのようにクリッターはそう言う。
「え……?」
その答えにあたしの目が点になる。
「あのドリンクでハイになった後、梨乃はそれまで以上にハッスルして、キョーコとスパーリングなんかおっぱじめたクリ。それで二人とも汗だくのままリング上で寝ちゃったクリから、僕が二人をベッドに運んだんだクリ。服を脱がせたのは汗びっちょりだったからで、裸のままなのはここには二人のサイズに合うようなパジャマがなかったからクリ。ちなみに前も言ったクリけど、僕は人間には欲情したりしないから安心するクリ。そもそも性別とかもなく、分裂で増える妖精だから、そういう感情自体存在しないクリ」
「そ……そうなの……」
呆然と言葉を絞り出すあたしだったが、クリッターの話はその内容、説得力すべての面で納得のいくものだった。
記憶はないが、キョーコとスパーリングを始めるというその時の自分の感情、行動にも違和感はない。
マリス様の言葉でブリスら魔法少女打倒の意思に火が付いたあたしが、キョーコにスパーリングを申し込む……それは十分に考えられる話だ。
「キョーコぉぉぉ、あんた、よくもまああたしを謀ってくれたわねぇぇぇ」
「すいませぇん、これを利用すれば既成事実が作れると思ってぇ、つい」
「そんなこったろうと思ったわよ!」
しかし危なかった、危うく騙されしてもいないことの責任を取るとの名目でキョーコにキスするところだった。
あたしはキョーコに怒りの視線を向けるが、彼女はそれをどこ吹く風と受け流す。
「だけど梨乃もおバカクリね~、キョーコのでまかせにあっさりと騙されて。僕の時もそうだったクリけど、梨乃は見た目や雰囲気とは裏腹に純粋というかなんというか、騙されやすい性格みたいクリね」
「うぐ……」
そんなクリッターの指摘にあたしは何も言い返せない。確かに……我ながら迂闊だったわ……。
しかし、この邪妖精め、相変わらず余計な一言を加えてくれるわね、見た目や雰囲気とは裏腹に純粋って何よ! それじゃまるであたしは見た目や雰囲気は純粋じゃないみたいじゃないの!!
まあ確かに、年には似合わない大きな胸とスタイルの良さ、切れ長でキツイツリ目に黒髪ロングヘアと我ながら悪役の方が似合う容姿だとは思ってるけど……。
しかもこうやって腹立つ連中相手に怒りまくってるせいでますます表情が険しくなってるし……。
いつかブリスたち倒して魔法少女にしてもらう時には容姿も可愛らしくなるようにマリス様にお願いしなくちゃね!
「まあともかく、キョーコ! あんたもう二度とあたしを騙そうとしないでよね!」
「はぁい」
……ほんとにわかってんでしょうねこいつは……?
気の抜けたような返事を返すキョーコに訝し気な視線を向けるが……。
「それよりセンパァイ、もう朝なわけですしぃ、学校に行きましょう?」
キョーコのそんな言葉にふと我に返り時計へと視線を向ける。
「あ、ああ……そうね……」
「汚れてた梨乃たちの服は洗濯しておいたクリよ。感謝するクリ~」
頷くあたしにクリッターがそう言ってくるが、あたしはキッと睨みつける。
「何が感謝よ、どーせ魔法で一瞬のくせに」
こいつは隙あらば恩を着せようとしてきやがって、油断も隙もない!
ため息を吐きながらも、クリッターが差し出してきた制服に袖を通す。
横ではキョーコが同じように制服を着てるのだけど、考えてみたら不可抗力とはいえあたしこの子に裸見られて、この子の裸も見て……。
女同士とはいえ恥ずかしいなぁ……特にこの子の趣味の事を考えると、あんまり見せたくなかったというか……。
それにしても、キョーコってば、なかなか綺麗な肌をしてたわね……。って違う違う! 何考えてんのあたしは! でも、ま、同性だろうが異性だろうが、綺麗と思うことは悪いことじゃないし、うん。
「センパイ?」
キョーコの声にあたしはハッとする。いかんいかん、つい考え込んでしまった……。
「あ、ああごめん! すぐ行くから先に行ってて」
そんなあたしの答えにキョーコは首を傾げるがすぐに笑顔で頷くのだった。
「じゃあクリッター、行ってくるわ」
「車には気を付けるクリよ、ハンカチは持ったクリか? あ、そうそう傘は……」
「あんたはお母さんか……」
明かにからかった様子のクリッターの見送りにあたしはため息を吐きながらも、キョーコと一緒にアジトを後にするのだった……。
ちなみに、あたしは両親に連絡もせず外泊した形であるが、あらかじめ作り出してあった身代わりの分身がちゃんと家に帰っていたから問題はない。
聞いた話ではキョーコも同じような手を使っているらしい。
歩きながらあたしは昨日から今朝にかけて起こった出来事を頭の中で反芻する。
それにしてもまたあのドリンクでおかしなことになっちゃうなんて。クリッターが言ったように飲み過ぎないように注意しないとね……。
あれはどうも、そんじょそこらのエナジードリンクの数倍は効果が高く、かつ習慣性もあるみたいだから、常用しているといつかまたあんな事になるかも……。
自重しようと心に決めるあたしだったが、頭にあのドリンクを思い浮かべた瞬間に口元から涎が垂れてくる。
う……うう、飲みたいよぉ。またあのドリンクで気持ちよくなりたいよぉぉ……!
「センパァイ……今日もまた、アジトで特訓しましょうねぇ♡ 頑張ればまたクリッターちゃんからあのドリンクがもらえると思うとぉ、キョーコもますます頑張れる気がしますぅ」
「う、うん……」
そんなあたしの考えを読み取ったかのようにキョーコがそう提案してくる。
そうだ、早くつまんない学校を終わらせて、アントリューズとしての使命を果たすんだ! そしてあのドリンクをまた飲む!! ああ……考えただけでワクワクするよぉ♡
「ふふ……」
思わず笑みが零れるあたしにキョーコもまた笑みを浮かべる。
変な話だけどあのドリンクに対する欲求のおかげで、その日のあたしは今まで一番の集中力で授業をこなすことができたのでした。
お読みいただきありがとうございました。
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