ep12-4 決意、あたしは『正義の魔法少女』になる!
「センパイ? なーんか機嫌がいいですねぇ? もしかしてあのドリンクの効果がまだ残ってますぅ?」
アントリューズのアジトビルの訓練場、木偶兵士相手に汗を流すあたしにキョーコがそんな言葉をかけてくる。
「違うわよ、ただ、ちょっとした心境の変化があってね、今まで以上にアントリューズの活動に身が入るようになったのよ」
そんなあたしの返答に、キョーコは「きゃ~♡」と目を輝かせ、クリッターが「ほーう」と感心したような声を上げる。
「梨乃も完全に悪の組織の幹部、暗黒魔女としての自覚を身に着けたクリね! その意気クリ! これからも頑張るクリ!」
「へ~、何があったかは知りませんけどぉ、センパイがやる気になってくれて良かったですよぉ! キョーコも嬉しいですぅ♡」
そんな二人にあたしはひょいっと肩をすくめてから言った。
「ちょっとだけ違うわね。あたしがやる気を出したのは悪の組織の幹部としての自覚を身に着けたからじゃない、むしろ逆よ」
「逆……クリか?」
「そう、あたしは悪じゃない、正義になりたいの。だからあいつらに勝って悪と正義を反転させる。そしてあたしは悪の組織の幹部から正義の味方へと華麗に転身するのよ!」
あたしの発言に目を丸くしてるクリッターとキョーコにあたしはビシッと指を突き付けてからさらに言葉を続ける。
「だからあたしたちが行うのは悪だけど悪じゃない。アントリューズも悪だけど悪じゃない。あんたたちもそれをしっかり認識しなさい!」
ふんと鼻を鳴らして木偶兵士に向き直るあたしを余所に顔を向かい合わせ「クスクス」「クリックリッ」と何やら笑い合う二人。
「そうですねぇ、キョーコたちは正義ですぅ、誰もが……キョーコみたいな子でも自由に生きられる『幸せの国』を作るために、正義のために活動してるんですぅ」
「クリッターも悪じゃないクリ。キョーコと同じで誰もが自由に生きられる『幸せの国』を創るために活動しているだけクリ。つまりはこれは正義の活動なのクリ!」
「そうよ、あたしたちは『幸せの国』建国を目指す正義の組織アントリューズ! 世間よ、悪と呼びたければ呼びなさい! でも、あたしたちは正義なのよ!」
あたしはそう高らかに宣言する。
パチパチパチ……
その時、軽い拍手の音が訓練場に響き渡り、あたしたちの視線がその発生源に向けられる、そこには……。
「マリス様!」
「マリス様ぁ!」
あたしたちは一斉に声を上げ、そして慌てて頭を垂れる。
そんなあたしたちにマリス様は苦笑を漏らすと口を開いた。
「そんなにかしこまらなくてもいいですよ。それよりも梨乃ちゃん」
「は、はい!」
マリス様に名前を呼ばれあたしは思わず背筋を伸ばす。そんなあたしをニコニコと見つめながら彼女は続けた。
「今の宣言……とても素晴らしかったですよ」
敬愛するマリス様からのお褒めの言葉……。
瞬間、あたしの胸に熱いものが込み上げてくる。
「あ、ありがとうございます!」
思わず涙ぐむあたしをマリス様は優しく見つめて続けた。
「私も同じ気持ちですよ。世界をあるべき姿へと導く、そのためならばあえて悪の汚名を被ってもいい、そう考えているのはあなただけではないのです」
「マリス様……」
思わず涙ぐむあたしをクリッターとキョーコがニヤニヤしながら眺めているけど、今はそんなの気にならない。
そんなあたしにマリス様はさらに続けた。
「だから梨乃ちゃん……いえ、暗黒魔女マギーオプファー、これからもその活動に邁進してください。そして……私たちの理想が実現したその暁にはあなたには『魔法少女マギーオプファー』の称号と姿を授けましょう」
!!!!!!
その言葉にあたしの全身に震えが走る。
「ま、魔法少女マギーオプファー……!」
なんて……甘美な響きだろう……! なれる! なれるんだ!! 夢見た姿、だけどもう無理だと諦めていた正義のために戦う魔法少女に! そして、その証たる称号を頂ける……! ああ……なんて幸せなんだろう!!
「あ、ありがとうございます!!」
あたしは感涙に咽びながら深々と頭を下げた。
ただ一つ、一つだけマリス様に訊いておかなければ……あたしは恐る恐る顔を上げ、上目遣いで問い掛ける。
「あ、あの……もちろん、コスチュームも……?」
「ふふ、あなたの望み通りの物にしてあげましょう、今からデザインを考えておくといいかもしれませんね」
そんなマリス様の返答にあたしは再び頭を下げた。
あは……あは……あははははははは!! 何もかもが、何もかもが手に入る!! 誰にも馬鹿にされない世界も! 望み通りの魔法少女の姿も!!
「そのためにも、マジカルブリス並びにカレッジを……」
「倒します!!」
あたしはマリス様にみなまで言わせず、力強く宣言する。
「ふふ……期待しています」
そんなあたしの言葉にマリス様は満足そうに頷くと踵を返したのだった。
「センパイ……よかったですねぇ」
キョーコがニヤニヤと笑いながらあたしを見ている。そんな後輩にあたしは満面の笑みで応えた。
「ええ……! もう何も怖くないわ!」
「よし、なら前祝いでもしようクリ。いつものドリンク持ってくるクリよ~」
ピクンとあたしはその言葉に反応し、クリッターに向き直る。
「あ、あれ!? 飲みたい! 飲みたい!! 早く、早く持ってきて!! 浴びるほどに飲みたい!!」
涎が止まらない、キョーコも隣でクリッターに物欲しそうな視線を向けている。
「わかったわかったクリ。だけどあんまり飲み過ぎないように注意するクリよ? 今はまだ早いクリからね~」
言いながら去って行きすぐ戻ってきたクリッターから渡された瓶の蓋を開けると一気に呷った。
「んぐっ……んっ、んっ、んん~っ」
濃厚な甘さがあたしの喉を通って胃に流れ込んでいく。
ああ……! おいしい! 美味しい!! もう最高に幸せだ!!!
……えへ……えへ……えへぇ……。
しあわせ……しわあわせ……あたしはしあわせ……。
頭の中がピンク色に染まっていくのを感じながらあたしはだらしなく笑みを浮かべ、そして……。
「きゃははははははっ!!」
狂ったように笑い声をあげた。
その声は、しばらくの間、訓練場に響き渡るのだった。
お読みいただきありがとうございました。
よろしければ、評価やブックマーク、感想お願いします。




