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魔法少女クリミナル  作者: 影野龍太郎
episode12【侵蝕――それは気づかぬうちに】

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ep12-3 心を癒す友との時間

「梨乃ちゃん。教えて、何があったの?」


 放課後、『アミーガ』で会おうという美幸のメッセージを受け取ったあたしは、なんとかいつものように付きまとってくるキョーコを撒いて『アミーガ』へと向かった。


 そして、いつものカウンター席ではなく奥の二人用の向かい席で待っていた美幸に促されるまま、正面に座らされたのだが、頼んだ飲み物(ちなみに今日は暑いのでアイスコーヒー)が運ばれ店員が離れたのを確認した彼女が真剣な表情で発したのが、先ほどの質問だった。


(あちゃぁ~、やっぱり聞かれるよねぇ)


 あたしは心の中でため息をつく。今日のあたしの言動は誰が見てもおかしかったと思うしなぁ……。


「何がって……何が?」


 とりあえずすっとぼけてみるけど、美幸は「誤魔化さないで!」と強い口調で言う。


 その勢いに気圧されながらあたしは再び口を開いた。


「あ、あたしのおかしな言動についてなら、昼休みにも言ったでしょぉ、キョーコとゲームして負けた罰ゲームで、キョーコの言いなりになってただけだってぇ」


「違うでしょ! そんなんじゃないよね? 梨乃ちゃん、本当は何か隠してるんでしょ!?」


 美幸はあたしの目をまっすぐ見ながら言う。その目を見てあたしは思わず顔を下に向け視線を逸らす。


 だけど言えない、言えるわけがない。


 あたしの異変の原因があのドリンクにあることは間違いないのだけど、それについて説明するという事は何もかもをぶちまける必要が出て来る。


 魔法少女、暗黒魔女……そしてアントリューズについてだ。


「な、何も隠してないわよ」


 顔を下に向けたのはこのためだったんですよと言わんばかりにミルクとシロップを手に取りアイスコーヒーにドバドバと注ぎながらあたしは言う。


 そして心の中で一つ大きく深呼吸をしてから、顔を上げ真正面から美幸の顔を見据えると言葉を続ける。


「美幸……あんたとあたしってさぁ、なんだっけ?」


「え……友達……というか親友だけど……」


 戸惑いながらそう答えてくれる彼女にあたしはやれやれと肩をすくめるようなポーズを取りながら、


「そう、親友。あんたは親友の事を信じられない? あたしが別に何でもないと言ってるのだから、あんたはそれを信じてればいいのよ」


 と、ちょっと偉そうに言った。


「梨乃ちゃん……。でも……」


 それでも食い下がろうとする美幸にあたしは思わずため息をつくと、彼女から視線を外さないよう注意しながら続ける。


「考えてもみなさいよ、確かにお昼休みまでのあたしは変に見えたかもしれないわよ? けど、今のあたしはどう? どこか変なところでもあるかしら? あんたが何を想像してるのか知らないけど、仮に何らかの要因でおかしくなったんだとしたら、ずっとおかしいままのはずでしょ?」


 美幸に真実を告げたくないから、そして心配をさせたくないから、そんな理由で出た言葉だけど、同時にこれはあたしの見解そのままであった。


 確かにあのドリンクはあたしを一時的におかしくさせた、あれだけの回復効果だもの、少々の副作用があっても不思議ではない。


 だけど、あくまでも一時的、風邪薬を飲んだ後に眠くなるようなものだ、とあたしは考えている。


 実際あたしは今何ともない。しいて言えばあのドリンクの事を思い浮かべたと同時に口の中であの味が再生され、飲みたくて飲みたくてたまらなくなってきたけど、それはあれがあまりにも美味しすぎるからであって、そんなものは他のドリンクや料理に対してだって感じるような欲求だ。


 この後特訓のためにまたアントリューズのアジトに行くつもりだし、そこでドリンク貰って飲めばすぐに治まるだろう。


「だからあれは罰ゲームだったってわけ。なんでそんなゲームをすることになったのかと言えば、それはあの子があの子だからとしか言いようがないわ」


 キョーコ普段の言動、エキセントリックっぷりを考えればあたしに対して何をしたところで不思議ではない。


 あいつにあたしの奇行の責任を全て被せて、あたしは素知らぬ顔でやりすごす。


 ……うん、我ながら完璧な作戦だ!


「……」


「まーさかと思うけど、あんたもしかしてあたしが何か怪しいことをしてるとか考えてるんじゃないでしょうねぇ? ああ、あたしは悲しいわ、親友に変な疑いを持たれるなんて、よよよよ」


 それでもまだ何かを考えこんでいるようなそぶりを見せる美幸だったが、あたしがわざとらしく泣きまねをしてみせると、彼女は慌てた様子で「ち、違うの! そんなんじゃないの!」と言いながら両手をぶんぶんと振る。


「ただ……私は心配で……」


 ううう、美幸ぃ……なんて優しいの……。


 昨日ライブの時に(あかり)に対して大好きとか言ってるのを聞いて裏切り者とか思っちゃってごめんねぇ……。


 思いがけず美幸のあたしに対する友情の深さを実感したあたしは思わず目頭が熱くなるのを感じた。


「わかった、ごめんね梨乃ちゃん……。わたし、梨乃ちゃんを信じる」


「うん……ありがとぉ……」


 うう、それにしても美幸の優しさに触れれば触れるだけ罪悪感がぁ……。


 だけど、ダメなの、言えないの……あたしが悪の組織の構成員で、暗黒魔女マギーオプファーに変身して魔法少女と戦っているなんて……。


「だけど、心配なのはあんたの方よ。昨日あんたが灯と行った『フュテュール』のライブが悪の組織の襲撃を受けて、魔法少女との戦闘があったそうじゃないの。怪我とかなかったの?」


 この話題はあたしにとっては触れたくないものだ、思い出すだけでブリスやカレッジへの怒りが湧き上がってくるし、下手なことを言えば美幸にあたしがその襲撃犯の中の一人、暗黒魔女マギーオプファーだと気付かれる恐れがあるから。


 しかしあたしはあえて自らその話題を切り出した。そうすることで今日のあたしの奇行の話から話題を逸らし、まさか犯人自らが自分の犯行を話題にするわけはないという心理を利用して、万が一にでもあたしとアントリューズとの繋がりに気付かれる可能性を少しでも下げるためだ。


 こんな暗い計算をしているあたしはもうかなり悪の組織に染まってきてるんだろうなぁ……。


 ただ、美幸のことを心配しているというのだけは紛れもない事実である。


 裏切られたと勘違いして暴れておいて今さら何だという話だけど、あたしはあの時暴走していた状態でも美幸を傷つける意思なんて一欠けらもなかったのだ。


 ただ、マギーオプファーという『ぼっち魔女』が語る恨み節を聞いた美幸があたしを思い出し、灯と出掛けたことを後悔してくれれば、あたしはそれで満足だったのだ。


 今日の会話で、そんな必要はなかったとわかったのだけど……。


「うん! そのことなら大丈夫だよ! あんな暗黒魔女なんかにわたしがやられるわけないし!」


「そう……。ならよかったわ」


 そう答えるあたしだったけど、なんだろう、美幸の言葉にあたしは僅かに違和感を覚えた。


 何がと言われても上手く説明が出来ないのだけど、美幸の今の言葉は()()は暗黒魔女より強いと、そう宣言しているように聞こえたのだ。


 そんな言葉を吐ける者がいるとすれば、それは実際にあたしに勝った魔法少女、ブリスかカレッジくらいなものだろう。


 う~ん……?


 ハッ! まさか……!? まさか……美幸がブリス……!


 ――にそこまで自己投影してたなんて……。


 以前釘を刺したのに全くもう……まあ、気持ちはわかないでもないけどね、あたしだって自分がブリスたちと敵対する立場でさえなければ、あのリアル魔法少女たちにたっぷりと自己投影して、暗黒魔女をボコる妄想をしてただろうし……。


 ブリスの顔に自分を当てはめてみるけど、ボコられてる暗黒魔女の方もあたしの顔――しかもこっちは紛れもない現実――なせいでむしろムカムカッとしてきた。


 ああ、もうっ! くそっ!! 思い出したらまた腹が立ってきたぁぁ!!


「どうしたの? 梨乃ちゃん?」


 そんなあたしの様子を見て美幸が首を傾げるが。あたしは慌てて笑顔を作ると、なんでもな~いと言って誤魔化した。


「梨乃ちゃんってさ、なんというか感情の起伏が滅茶苦茶激しいよね、わたしと話してる時も好きな話題の時には物凄くご機嫌で、ちょっとでも気に入らない話題になると、あからさまに不機嫌になるし」


「そ、そうかしらぁ……?」


 美幸の言葉にあたしは思わずギクッと身体を震わせる。うむ、確かにこれはあたしの悪い癖だ。


 暗黒魔女になる前からそうで、なってからはさらにその傾向が強まった気がする。


 今だってまさにそうなんだけど、自分から話を振っておいて、美幸の何気ない一言から変な想像、昨日の回想という段階を経てすさまじく不機嫌になってしまった。


 だけど、そんなあたしに対して美幸は「でも」と続ける。


「そういう感情表現がはっきりしてる所とかわたしは好きだよ? あ、もちろん梨乃ちゃんの性格がね!」


 そう言ってニカッと笑う彼女にあたしは思わず赤面する。


 あたしはそれを誤魔化すようにテーブルに肘を突くとそれに顎を乗せながら言う。


「だけど、それを上手く表に出せないんじゃああんまり意味ないのよね」


 あたしが陰キャだのなんだの言われる最大の理由はそんな激しい激情を秘めてるくせにそれを表に出せない、そんな性格のせいだろう。


 こうやって心の中であらゆる出来事に一喜一憂しては、それを表に出さないように押しとどめている。


 しかし、『はみ出し』までは止められない、だからあたしはいつも独りでニヤニヤしたり怒ったり、そんな姿に好感を持てる者などいるはずもなく、結果としてあたしはぼっちで陰キャなのだった。


「でも、だからといってあたしはあんたみたいにしようとは思わないけどね……ねぇ、あんたは疲れないの? いつもニコニコして他人と接したり、自分の本心を表に出すのを我慢したり……。あたしなら絶対にごめんだわ」


 そんなあたしの言葉を受けて美幸は「そうだね……」と小さく呟く。そしてしばらく考え込んだ後彼女は言った。


「確かに梨乃ちゃんの言う通りかもしれないね、だけどわたしはこれでいいと思ってるの。それに梨乃ちゃんはちょっとだけ勘違いしてるみたいだけど、わたしは別に我慢してるわけじゃないんだよ?」


「どういうこと?」


 あたしが首を傾げると美幸は続ける。


「自分の本心――本当の自分を曝け出すってある意味人前で裸になるようなものでしょ? 人前で服を着るのを我慢とは誰も言わないよね、わたしがやってるのはつまりそういうことだから……」


 だから苦痛ではない、とそう言いたいのだろう、しかしあたしは僅かに逡巡してからこう言い返した。


「確かにその通りかもしれないわね。裸は恥ずかしい、それはわかるわ。だけどあんたの例えに乗っからせてもらうなら、あんたは常にお姫様の衣装を着て歩いてるようなものでしょ? いくらなんでもそれは疲れるとあたしは思うけど?」


「あ、あはは……」


 そんなあたしの指摘に美幸は苦笑を漏らす。だけどすぐに笑顔に戻ると彼女は言った。


「確かにわたしはちょっと着飾り過ぎてるのかも知れないね……。でもね、だからこそそんな衣装を脱ぎ去って本音で語り合える梨乃ちゃんや灯ちゃんとの時間はすごく大事なんだよ」


「……」


 微笑みながら告げられたその言葉はあたしにとって本来ならとてつもなく嬉しいもののはずだ。いや、実際に嬉しい、あたしは今、心の底から喜んでいるのだ。


 ただ一つだけ、(あいつ)と並べられて言われたのが気にくわない。


「ねぇ美幸……あんたさぁ、前にあたしに言ったよね? 『梨乃ちゃんはわたしの唯一無二の親友』だって……『これから先もきっとそうなんだろうね』って……」


「梨乃……ちゃん……?」


 自分で言ってあまりの声の冷たさとその内容に驚いたが、言われた美幸も目を丸くしている。


 あたしはハッとすると慌てて笑顔を浮かべた。


「い、いや、えーとね、そんな美幸が何で灯には比較的あっさり心を開いたのかなぁって、ちょっと疑問に思っただけよ」


 自身の不穏な発言をフォローするあたしの言葉に美幸は安堵したような笑みを浮かべる。


「あ、ああ……そういうことかぁ……」


 そして彼女は少し考えるような仕草をしてから言った。


「まあ、梨乃ちゃんも察しがついてるだろうけど、灯ちゃんって物凄く明るい子でね、さっきの例で言うなら、自分から平然と服を脱ぎ捨てて、本音でぶつかってくれる人なの。だからわたしも安心して素の自分を見せられるというか……。梨乃ちゃんとはまた違った意味で本音でぶつかることが出来てね、灯ちゃんのこと大好きなんだ」


 そんな美幸の言葉にあたしは思わず顔をしかめるが、彼女はそれに気付かず続ける。


「それに灯ちゃんは……仲間……」


 そこまで言ったところで美幸はハッとすると慌てて口を塞ぐ。


「仲間って……どういうこと?」


 あたしはそう尋ねると美幸はしまったとばかりの表情を浮かべるが、少し視線を泳がせてから、「そ、それはねぇ……」と口を開いた。


「え、えーと、実はわたし最近ちょっとしたボランティア活動みたいなことやってて……」


「ボランティア活動?」とあたしは首を傾げる。確かに美幸は学校でも人気者で、正義感も強いから、そういう活動をしていても不思議ではないのだけど……。


 あたしがさらに追及しようとするのを察してか彼女は慌てたように続ける。


「そ、そう! なんていうか、街の清掃活動……という害虫駆除? 猛獣退治? とにかくそんな活動してるの! で、灯ちゃんはそれを一緒にやってる仲間というか……同志? みたいな?」


 なんだかよくわからないけど、美幸がボランティア活動とはねぇ。まあ確かに彼女はそういう活動に率先して参加するタイプではあるけど、そんな活動をしてたなんて初耳だったわ。


「そういうことね、それにしても、なんか大変なのねぇ……」


「う、うん! そうなの! 特に害虫の方がもうしつこくって退治しても退治しても全然諦めてくれなくて……もうほんとうんざりしちゃう」


 虫嫌いなのにそんなのを相手にしなきゃならないなんて、かなり大変な活動のようね……。


 しかし、美幸の話を聞いてるとこう変な気分になってくる。おそらくそれはあたしの裏の顔である暗黒魔女マギーオプファーのコスチュームやその力のモチーフが害虫だからだろう。


 しつこくて退治されても諦めない害虫というのがまるで自分のようだと、そんな風に思ってしまったのだ。


 特にブリスからしたらあたしはそう見えるだろうというのは想像に難くない。


 ブリスと似た雰囲気を持った美幸から発せられる『害虫』への嫌悪感に、


『そこまで言わなくてもいいじゃない、その害虫はもしかしたら、キラキラした世界に憧れて、だけどそんな世界に生きることは出来なくて、もがき苦しむ、そんな哀れな存在なのかも知れないんだから……』とか『もしかしたら、その害虫は本当はあんたの事が大好きで、でもどうやって違う世界の人間であるあんたにその想いを伝えればいいのかわからなくて、だからそんなふうにキラキラした世界に攻撃的な態度を見せるしかないのかもしれないわ……』とかそんな想いが湧き上がってくる。


 ……あたしもとうとうヤバイ域に達し始めてるわね、害虫に感情移入するなんて……。


「そ、そう言えば、梨乃ちゃんもそんな活動してるんだっけ?」


 心の中で苦笑していたところに急に話を振られあたしは硬直する。


 そうだ、アントリューズの活動について誤魔化すために美幸には世界をより良くするためのバイトをしてるって言ったんだった。


「ま、まあね……あたしの方もなかなか大変よ。何しろあたしたちの活動を阻む連中がいてね……二人組なんだけどとにかくいやーな奴らなのよ。自分たちは正しいことしてますみたいな顔して、正義のためだとか言ってあたしらの活動の邪魔をするのよ。ほんと迷惑な話よね」


 その二人組、ブリスとカレッジの顔を思い浮かべてあたしは苦い表情を浮かべる。


「アニメじゃないんだから絶対的正義なんてあるわけないのに、あいつらときたら『悪は絶対許さない』とか言っちゃって……。あたしたちは誰もが自由に生きられる『幸せの国』を作ろうとしてるのに、それを邪魔して……。あ~もうっ! ほんと腹立つわ!! あいつらさえいなければもっとスムーズに活動出来るのに……」


「そ、そうなんだぁ」と引きつった笑みを浮かべる美幸を見てあたしはハッとする。しまった……! つい熱くなり過ぎて余計なことまで口走ってしまったわ……。


「な、なんだかよくわかないけど頑張ってね。わたしも、頑張るから。わたしたちが駆除したい害虫たちがいなくなって、梨乃ちゃんたちの目指す『幸せの国』が完成したら、きっとみんな幸せになれるよ」


 そんな美幸の言葉にあたしは複雑な気分になる。


 だってあたしの倒そうとしてるそいつらは美幸も大好きな正義の魔法少女であたしは悪の――


 違う……!


 あたしは心の中で強く否定する。


 確かに世間一般の常識に照らし合わせればあたしたちアントリューズは悪の組織で、あいつらは正義の魔法少女で間違いないだろう。


 でもさっきあたしは自分で言った、アニメじゃないんだから絶対的正義なんてあるわけない、と。


 なら、正義の魔法少女だって絶対的じゃないはずだ。


 マリス様も言ってたじゃない、今は悪でも勝てば正義、と。


 そうだ、あたしたちは悪だけど悪じゃない、正義が勝つんじゃない、勝った方が正義になるんだ。


 その時こそ悪の女幹部暗黒魔女マギーオプファーは正義の使者として、あたしが望んだとおりの夢の姿に生まれ変わるんだ。


 とはいえ『その時』が来るまでは、美幸にも誰にもバレないように気をつけないと……。


「あ、ああ……ありがとね」


 あたしはそう言ってぎこちない笑みを浮かべると心の中でそう決意を固めたのだった。


 ふうとあたしは息を吐き、目の前のアイスコーヒーを喉に流し込む。


 またも無意味に熱くなってしまったが、その冷たさがあたしの心を冷静にさせていく。


 熱が去ったあたしの頭の中に浮かんだのは別の事である。


 それにしてもあたしの『活動』のことはともかくとして、美幸と灯が一緒に『ボランティア活動』をしてたなんてね……。


 そりゃあ仲良くなるわけよね。一緒に同じ目標に向かって汗を流す仲間、しかもすこぶる性格のいい子ときた。


 美幸が灯のことを大好きになるのも無理はないわ。


 あたしがあの無茶苦茶な変態娘キョーコを嫌いになれないのは、同じ目的に向けて邁進する仲間だからだ。


 美幸にとっての灯はあたしにとってのキョーコ以上なのだろう。


「ねぇ、美幸……そのボランティア、あ……」


 あたしにも紹介してよと言いかけてギリギリであたしは言葉を飲み込んだ。


 ついつい、もしあたしがそれに参加することが出来れば、美幸との関係も今以上のものに……。なんて考えてしまったが、あたしにはアントューズとしての活動があってそんな余裕はない。


 それにその活動に参加するなら、すなわち灯とも一緒に行動しなきゃならないということでもあり、それはなんか嫌だった。


「ん? なんか言った?」


 美幸はちょうどアイスコーヒーを口に運んでいたところで、あたしの呟きは聞き取れなかったらしい。


「いや、なんでもないわ……。それより、あたしはそろそろ帰るわね」


「え? もう? もう少しお話しようよ」


 腰を浮かしたあたしを引き留めてくれる美幸だったけど、あたしは首を振る。


「さっき話してた例の『バイト』今日もこれからあったことを思い出したの。だからもう行かなきゃ」


「あ、そっか……それじゃあしょうがないね……」


 残念そうに言う美幸にあたしは思わず苦笑すると立ち上がり、伝票を摑む。


「あんたももう帰るでしょ? あたしが払うわ」


「え? ちょっと、今日誘ったのはわたしだよ? わたしが払うって!」


「いいのよ、あんたに変なことで心配かけたお詫びよ、ここは素直に奢られなさい」


「で、でも……」


 なおも食い下がろうとする美幸にあたしはため息を吐くと少し口調を厳しくする。


「いいから! それともあたしからのお詫びの気持ちは受け取れないってこと?」


 その言葉に美幸はハッとした表情を浮かべると慌てて言った。


「そ、そんなことないよ。うん、じゃあお会計はお願いしよっかな……」


 そんな美幸にあたしは背を向けつつ、最後に一言だけ言い残しておくことにする。


「そういうとこ、あんたの美徳だと思うけど、たまには少しくらい図々しくなることも覚えなさい。じゃないと今後あたしが奢られるときに『遠慮』しちゃうかも知れないでしょ?」


「梨乃ちゃん……うん、わかった! ありがとう!」


 そんな美幸の声にあたしは思わず笑みを浮かべつつレジに向かうのだった。

お読みいただきありがとうございました。

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