ep12-2 まだ、まだあたしの日常は……
「おっはよ~んお母さ~ん! 今日のご飯はなっにっかなぁ~!?」
翌朝、異様なハイテンションでリビングに飛び込んできたあたしを見て、お母さんが怪訝そうな顔をする。
「梨乃、あなた昨夜からなんか変よ? 食べてきたから夕食はいらないと言ってたけど、まさかどこかで変なものでも食べたんじゃ……」
「も~、お母さんってば心配し過ぎぃ! そんなんじゃないってぇ」
あたしはケラケラと笑いながら食卓につく。
お母さんはそんなあたしを薄気味悪い物でも見るような目つきで見ていたけど、それ以上は特に何も言ってこなかった。
もしかしたら、受験勉強のやりすぎでノイローゼにでもなったのかと思われたのかもしれないけど、まあ別にどうでもいいや。
それにしても昨日飲んだ特製のドリンクの効果は凄いわぁ、一晩経ってもまだ身体が軽いままだもん。
これなら今日の学校も、いつもより楽しくなりそう! そんなウキウキ気分であたしは家を出たのだった……。
「ああ~、美幸じゃぁん、あたしの誘いを蹴って灯と出掛けた裏切り者ぉ~」
いつもの通学路、前方を歩く見慣れた後姿に、あたしは思わずそう声を掛けた。
振り向いた美幸はその大きな瞳をさらに大きく見開いてあたしを見る。
「り、梨乃ちゃん……どうしたの? なんか変だよ、様子が……。それに、裏切り者って、わたしは……」
「あははっ、じょーだんじょーだん、そんなことであたしが怒るわけないじゃーん? 特にあたしなんかしんないけど、今もっのすごく気分いいしぃ!」
ケラケラと笑うあたしだったが、美幸はさっきのあたしのお母さんとそっくりの表情で不安そうなまなざしを向けてくる。
「梨乃ちゃん、本当に大丈夫なの?」
「え~? もう美幸ってば心配性なんだからぁ!」
ツンと美幸の頬を指で突くと、あたしはげらげら笑いながら、美幸を置いて歩き出す。
そんなあたしを、「梨乃ちゃ……」と呼び止めようとする美幸だったが、「おーい、美幸ぃ!」と灯が姿を現したことで、彼女はあたしを追うのを諦めたようだった。
あたしとの約束を律義に守っているのだ、ホント真面目ちゃんねぇ。
って、あたしが散々言い聞かせたからかぁ、あははっ。
「美幸、昨日は楽しかったね~、あんなことになっちゃったのは残念だけど……また今度一緒にライブ行こうよ!」
「え、あ、うん……」
背後でそんな会話が聞こえてくるけど気にしな~い。だって今日のあたしはめちゃくちゃ機嫌がいいんだもん♪
好きなだけいちゃいちゃしてればいいのよ、寛大なこの浦城梨乃様は裏切り者の親友も許してあげるんだから。
ケタケタ笑いながら通学路を歩くあたしを、道行く人たちは気味悪そうに見ているのだった……。
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なんで……どうしてこうなったの……?
誰か教えて、プリーズ……。
その日、あたしが完全に正気を取り戻したのは昼休みのこと、教室へとやってきた同じくテンションがおかしいキョーコとお互いの胸を揉みしだき合っていた最中だった。
「あれぇ、センパァイどうしたんですかぁ? もっともっとキョーコのおっぱいを揉んでくださいよぅ」
「いやあああっ!?」と叫びあたしは変態娘を思いっきり突き飛ばす。
「痛っ……なんてことするんですかぁ……? あれ? 今何してたんでしょうかぁ?」
キョーコは頭を擦りながら体を起こす、どうやら床に投げ出されたショックでこいつも元に戻ったようだけど、こいつの場合は素であのテンションだった気もするからいかんせ判断に困る。
しかし今はそれどころじゃない、慌てて周囲を見渡すと、クラスメイトたちが皆あたしたちを遠巻きに見てヒソヒソと何かを話していた。
その中には、美幸と灯の姿もあった……。
あああああ、最悪ぅぅぅ!! なんでこんなことにぃぃぃ!?
ただでさえ、キョーコが遠慮なく教室に来てベタベタしてくるせいでここ最近のあたしはぼっち陰キャオタク属性に加えてそっち系属性まで加わって、今まで以上にクラス内で肩身が狭い思いをしているのに、さらにこんな痴態をさらしてしまうなんてぇぇぇ!
「も、もう、キョーコったらぁ、いつまでゲームに負けた罰ゲームを続けさせる気よぉ、そろそろ終わりでいいでしょぉぉ?」
あたしはなんとか誤魔化すべく、キョーコの頭をペチンペチンと叩きながらそう言うが、キョーコは頬を膨らませる。
「えぇ~? 何言ってるんですかぁセンパイ、キョーコはそんなゲ――」
身に覚えのない話をされ不満を口にしようとするキョーコだったが、あたしは慌ててその口を手で押さえた。
「むごっ!? センパイ痛いですぅ……」
「お願いだから今は黙ってて! もうこれ以上あたしの評判を下げないで!」
とりあえずここはあの変態行為は罰ゲームによるもので押し切るしかない!
「み、みんなもしかしてあたしが好んであんなことをしてると思ってるの? そ、そんなわけないじゃん! キョーコがどうしてもって言うから仕方なく……ね?」
あたしは引きつった笑顔を浮かべながら周囲にそう言い訳をする。
「そ、そうなんだぁ……罰ゲームかぁ……な、なら仕方ないね……。で、でも浦城さん、いくら罰ゲームでもその……そういうのはあんまり教室では、やらないでね」
み、美幸ぃ……! 心の友よ! この苦しすぎる言い訳をあんたは信じてくれるんだねぇ!
「あ、あはは……そ、そうだよね……。ごめんなさいねぇ、福原さん……」
あたしはそう言って引きつった笑みを浮かべると、席に座りなおして一つ息を吐く。
そして、別になんてことありませんが何か? といった風を装いながら、教科書を取り出し授業の準備をする。
「キョ、キョーコぉ、あんたそろそろ自分のクラスに帰りなさいよ」
「ぶ~、仕方ないですねぇ、じゃあセンパイ、また後でぇ~♡」
キョーコは不満そうに頬を膨らませながら自分のクラスへと戻って行った。
(ふい~、たすかったぁ……)
いや、本当に助かったんだろうか? まあ、とりあえずギリッギリのところであたしはまだキョーコという変態娘に追い掛け回されてる被害者のポジションに居座れている。
だけど、それもいつまで保つことやら……。
(ああもうっ! なんであたしがこんな目に遭わなきゃいけないのよ!!)
心の中でそう叫びながらあたしは頭を抱えるのだった……。
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