ep12-1 脳を侵す甘い蜜
「もうだめぇ、立てないぃぃ、動けないぃぃ!」
マリス様から指示されたビルの清掃を開始してから数時間後、すっかり夕日に染まったビルの一室で、あたしは大の字で横になっていた。
全身が痛いぃぃ、これ絶対明日筋肉痛になってるぅぅ。
「センパァイ、サボってるとぉ、マリス様からお叱りを受けますよぉ……」
「そ、そういうキョーコこそ、サボってんじゃないの……」
横であたし全く同じポーズで寝転がっているキョーコにそう突っ込みを入れる。
「キョーコ、これでも頑張ったんですよぉ……もしかしたら今後も含めて人生で一番身体を酷使したかもです……」
「そうよね……あたしもよ、もう指一本動かすのもしんどいわ」
あたしたちはお互いに顔を見合わせると力なく笑う。
「だらしねぇなぁ、この程度で音を上げるなんてよぉ」
そんなあたしたちの元へ、同じだけ清掃活動に勤しんだというのに疲れた様子が全くないエンさんが、手に何かの液体が入った小瓶を携えながらやってきた。
「エンさんはぁ、元気ですねぇ……」
「当たり前だ、てめぇらとは鍛え方が違う。ま、それはともかく総帥からの言付けだ、今日のところはこの辺で許してやるってよ」
「え、ほんとですか?」
エンさんの言葉にあたしは思わず飛び起きる。そんなあたしを見て彼は小さく笑う。
「総帥も鬼じゃねぇってことだ、それにいつまでもてめぇらを拘束してるわけにもいかねぇからな」
確かにそうだ、あたしもキョーコもいつまでも家に帰らないのでは、親に不審に思われる可能性がある。
そうなったら今後のアントリューズとしての活動に差し支えてしまうだろう。
分身を呼び出すだけの魔力も気力も残ってないし……。
「ほれ、これは差し入れだ、お馴染みの疲れがぶっ飛ぶドリンクだが、今日のは特に強烈な特別製だぜ、心して飲めよ?」
「あ、ありがとうございます!!」
エンさんの言葉にあたしは瞳を輝かせながらひったくるような勢いで瓶を受け取ると一気に口を付ける。
横ではキョーコがあたしと同じように受けった瓶に口を付けていた。
これよ、これこれ! 特訓した後や魔法少女どもとの戦闘後、毎回これを飲んでは、疲れを飛ばしているのだ!
なんの成分が入ってるのか知らないけど、美味しくて効果抜群! これを飲むと「ああ、これがあるから頑張れる」って気持ちにさせてくれるのよねぇ。
あたしは瓶の中のドリンクを一気に飲み干すと大きく息を吐く。
すると……あら不思議! さっきまでの疲労感が嘘のように消え去ったわ! いやほんと凄いわねこのドリンク! まさに魔法の薬よ!
しかも特別製というだけあっていつもよりもさらに効果が高い気がするわ。
だけど、それと同時に、いつもこれを飲んだ後に襲ってくる、あの感覚も……より……つ、よ、く……。
「あへ……えへ、えへ……エンしゃああん、これしゅごく美味しいでしゅねぇ、もっと、もっとちょうらあい……」
あたしは瓶をエンさんに返すと、よだれを垂らしながら彼にすり寄る。
「キョーコもぉ、キョーコにももっとちょうらあい」
どうやらキョーコもあたしと同じ状態になってしまったらしい。
「おいおい、クリッター。いいのか、これ? 流石に濃度が高すぎると思うんだが……」
「別に構わんクリ。どうせ遅かれ早かれ梨乃たちにはこれを与えるつもりだったクリよ、それがちょっと早まっただけクリ」
「は~ん、例の計画のためっつーわけか? ま、いっか」
クリッターの言葉に軽く返すと、エンさんはあたしたちの前で空瓶を振りながら言う。
「もっと欲しいなら今後も頑張って暗黒魔女としての任務に励むことだな、そうすればまたくれてやる」
「あへぇ、わかりまひたぁ……」
あたしはそう言うとその場に崩れ落ちる。キョーコもあたしの横でぺたんと座り込んだ。
そんなあたしたちを見下ろしながらエンさんは言う。
「それじゃあ俺はそろそろ帰るわ、お前らもほどほどにしとけよな」
「ふわぁい」
そしてその場を去って行ったエンさんの背中を見送ると、あたしはキョーコと顔を見合わせキャハハハハと狂ったような笑い声を上げるのだった……。
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