ep11-11 無事の帰還もマリス様からの呼び出しが……
「熱いぃぃ! 痛いぃぃぃ! あたしの鼻がぁぁぁ!!」
「ああんっ♡ センパイ暴れないでぇ……縄が、縄が締まりますぅぅ♡」
なんとかアジトビルの一室に転移してきたあたしたちだったが、あたしは鼻先に受けた攻撃で悶え、ヴァーンズィンは縄が身体に食い込む感触に嬌声を上げていた。
「うるせぇぞ! この程度でピーピー騒ぐな! まったくこれだからガキどもは……」
エンさんに怒鳴られるけど、転移させてもらえる安心感で防御がおろそかになったところに攻撃喰らったんだから仕方ないじゃない!
「うう、酷い目にあったわ……」
少ししてあたしはようやく縄から解放されたのでほっと息をつく。
「センパイ、大丈夫ですかぁ? お鼻は?」
そんなあたしの顔を覗き込みながらヴァーンズィンが聞いてくる。
「大丈夫なわけないでしょ! まだ痛みでジンジンするわよ!」
鼻の頭を撫でながらあたしが答えるとヴァーンズィンは「そうですかぁ……」と心配そうな表情を浮かべる。
しかし、すぐに顔を上げると、にっこりと微笑みあたしにその顔を近付けてきた。
は? いきなり何!?
戸惑うあたしだったが、ヴァーンズィンはそのまま一気に顔を寄せそして……。
ペロッ
あたしの鼻を舐め上げた。
「な、ななな何すんのよ!?」
あたしは慌ててヴァーンズィンを突き飛ばすと、彼女は悪びれた様子もなく言う。
「ヴァーンズィンの愛の舐め舐めですぅ♡ センパイの痛みを少しでも和らげてあげようと思ったんですぅ♡」
「何が愛の舐め舐めよっ! 気持ち悪いことしないでちょうだい!!」
「でもぉ、少しは癒されたんじゃないですかぁ? 魔力を持つ者同士の粘膜的接触による魔力供給は、怪我の治りを早くしたりもしますしぃ♡」
「そ、それは確かにそうだけど……」
そう言われると強く言い返せない。事実あたしの鼻の痛みは、さっきより全然引いているし。
でもだからっていきなり人の鼻を舐めることないでしょ! そんなあたしの心を読んだかのようにヴァーンズィンが言う。
「あはっ♡ センパイったら照れちゃってぇ。でも、そういうところがホント可愛いですぅ♡」
「照れてない! あと可愛いとか言うな!」
そんなあたしたちのやり取りをエンさんとクリッターが呆れた表情で眺めていたのだけど、唐突に部屋の扉が開かれると名探偵コ〇ンの犯人のような全身真っ黒いタイツに身を包んだ見た目の怪しさ100%の奴が入ってきた。
「くりったー様、えん様、おぷふぁー様、う゛ぁーんずぃん様。まりす様ガオ呼ビデス」
怪しい奴こと木偶兵士が告げた言葉に、あたしの全身が硬直する。
こ、このタイミングでマリス様からの呼び出しとか、ヤバいフラグとしか思えないんですけど……。
「参ったなこりゃ、最近総帥は寝てばっかだから、勝手に出撃してもバレやしないと思ったんだが……」
「エ、エンさん! マリス様から許可貰ってなかったんですか!?」
「無理やり起こすわけにもいかねぇし、面倒だったんだよ」
悪びれる様子もなく言うエンさんにあたしは思わず頭を抱えてうずくまる。
勝手に出撃した上に負けて帰ってきたとか、絶対怒られるじゃん! いや、怒られるだけじゃなく前みたいにとんでもないお仕置きを……。
かつてマリス様とヴェントくんから受けた拷問紛いのお仕置きを思い出し、あたしの全身から血の気が引く。
「セ、センパイ……大丈夫ですかぁ?」
そんなあたしをヴァーンズィンは心配そうにのぞき込むけど、あたしはその顔をきっと睨みつけて叫ぶ。
「大丈夫なわけないでしょ! ああもうなんでこんなことに……!」
頭を抱えるあたしに木偶兵士の発する「早クシテ下サイ」という無機質な声が追い打ちをかけてくる。
「まあ仕方ねぇ、ほら行くぞ、怖ーい総帥もみんなで会いに行きゃ怖くないってね」
「うう……行きたくないけど、行かなきゃもっと怖いし……」
あたしは渋々とエンさんの言葉に頷くと、彼やヴァーンズィンと共に木偶兵士の後に続く。そしてクリッターもあたしたちの頭の上に乗っかりついてきたのだった。
暗闇と床に描かれた魔法陣の怪しげな光だけが支配する総帥室、その中央でマリス様は背を向けたままあたしたちを出迎えた。
「ふふ、その顔は何故呼び出されたかわかっているという顔ですね?」
「え……いや、それは……」
マリス様の指摘にあたしは思わず口ごもる。すると彼女はクスクスと笑いながらゆっくり振り返ると言った。
「まあいいでしょう、あなたがどんな想像をしていようと関係ありませんから」
穏やかな口調の裏に、どこか冷たいものを感じあたしは思わず後ずさる。
しかし、そんなあたしを庇うようにエンさんが前に進み出ると、腰を直角に曲げて頭を下げた。
「総帥、今回の事はすべて俺の責任です、オプファーやヴァーンズィンの敗北も、俺が急遽連れ出したことによるものです。罰なら俺だけに!」
「わぁお、エンさんってばカッコいいこといいますねぇ。ヴァーンズィン、男にはキョーミないですけどぉ、ちょっとだけドキッとしちゃったかもですぅ」
エンさんの発言を受けヴァーンズィンがそんな呑気なことを言うけど、正直あたしもちょっとだけときめきを覚えてしまっていた。
エンさんって口は悪いし態度もでかい、おまけに歌は死ぬほどダサいけど、意外と優しいところもあるし、顔も悪くないから……。
ギャップ萌えってやつかしらね、こういうの。
「ふふ、珍しいこともあるものですね、エン。貴方が他者に対して気を遣うなんて……」
「どーせ隠しても総帥にゃバレちまいますし、自分のせいでガキどもが拷問紛いの罰を受けるなんて目覚めが悪りぃ。だから正直に話したまでです」
「なるほど、そういうことですか……。しかし残念ですが、組織の規律を乱したものを許すわけにはいきません」
ががーん! マリス様から告げられた非情の言葉にあたしは思わずその場に崩れ落ちそうになる。
せっかくエンさんのおかげで助かりそうだったのに、やっぱり駄目なのか……。
「アントリューズ総帥マリスの名において、あなたたちに言い渡します、エン、オプファー、ヴァーンズィンの三名には……」
あたしはマリス様の言葉にぎゅっと目を瞑る。
しかし、次の瞬間……。
「三名には罰としてこのアジトビルの清掃活動を命じることにします」
「は……?」
思わず間抜けな声が漏れる。え、今なんて言った? あたしの聞き間違いじゃなければ……。
「お掃除ってぇ……そんなんでいいんですかぁ?」
ヴァーンズィンもあたしと同じ気持ちだったのか、そうマリス様に問いかける。すると彼女はにっこりと微笑みながら言った。
「ええ、そうですよ」
「総帥がそれでいいってんなら俺は構いませんけど……でもいいんですか?」
エンさんまでそんなことを言い出す始末だ。しかしそんなあたしたちにマリス様はニタッと底知れぬ悪意のこもった笑みを浮かべる。
「まさか、軽い処分でよかった~などと考えていますか? 休みなしの清掃作業というのはあなたたちの考えている以上の重労働ですよ? このビルは広いですからねぇ」
「あ、ああ……そうですよね……」
あたしは思わず引きつった笑みを浮かべる。確かに軽い処分なんて考えてたあたしがバカだったわ!
さらにそんなあたしに追い打ちをかけるマリス様のこんな言葉。
「ちなみに魔法や暗黒魔女としての力を使ってはいけませんよ? 変身を解いてから、手作業で掃除をすること。いいですね?」
うげぇ……最悪ぅ……せめて魔法や暗黒魔女の身体能力が使えれば少しは楽になるのに、それすら禁止って……。
エンさんはともかくあたしとヴァーンズィンことキョーコは変身無しじゃ普通の女子中学生だっつーのにぃぃ!
絶望に打ちひしがれるあたしの様子を見てマリス様は楽しそうに笑い声を上げる。
「いいですねぇ、部下の発する負の感情というのもとても甘美なものですよ」
そして、一旦言葉を切ると、バッと片手を上げまるで出撃命令でもするようなポーズで言った。
「さあそれでは始めてください。おっと、少しでも休んだり無駄口を叩いたりしたら今度こそ罰を与えますよ、私にはあなたたちの行動は筒抜けですからね」
「は、はいぃ!」
マリス様の脅しにあたしたちは慌てて敬礼すると部屋から飛び出したのだった……。
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