ep11-9 闇を払う希望の歌声
「ほほ、おほほほ、おーっほっほっほっほっ! どう? これであたしの気持ちが少しはわかった!? キラキラした世界でみんなに愛される正義の魔法少女さんたちには、こんな気持ちはわからないでしょ! あたしはね、ずっと思ってたのよ。あんたたちみたいな子が苦しむ姿が見たいって!!」
あたしは床に這いつくばるブリスの背中を思いっきり踏みつけながら叫ぶ。
「ぐふっ……!」
というブリスのうめき声が聞こえたが、あたしは構わずに彼女の背中に足を乗せグリグリと踏み躙った。
ああ気持ちいい!! ああスッとする!! 我ながら陰険極まりないけど、いいのよ! この子たちは光あふれる世界で今までずっといい思いをしてきたんだから。
「きゃー♡ 今日のセンパイはいつにも増してやる気と暗黒パワーに溢れてますぅ! 最高ですぅ♡♡」
どさくさに紛れて抱き着いて来るヴァーンズィンを腕で振り払いながらも、あたしはさらにブリスに向けて言葉を投げかける。
「ブリス、あんたたちは夢よ……女の子の夢。魔法少女アニメが好きな子はもちろん、興味ない子、嫌いな子だって本当は心の中で思ってる『あんな風になりたい』ってね! そんな夢を手にしたいわば勝ち組のあんたたちが負け組――はみだしもののあたしたちの理想を否定し邪魔をする、こんな不条理が許されると思う?」
「か、勝ち組とか、負け組とか……そんなの関係ない……! あなたたちアントリューズは平和に普通に暮らしている人たちの幸せを脅かしている! だからわたしたちは戦うの!」
ググッとブリスの身体が持ち上がり、あたしは思わず足をどけて飛び退く。
「辛い思いをしたからって、誰かを傷つけていいなんて理屈があるわけない! それに、オプファー、あなたは一つだけ勘違いしてるよ。わたしもカレッジもそうだけど、キラキラした幸せだけの道を歩いてきたわけじゃない。辛いこと、苦しいこと、そういうのを抱えて、それでも必死に生きてきた、ただそれだけの普通の女の子だよ」
「な、なんですって……!」
あたしはブリスの言葉に思わず動揺してしまう。がすぐに首を振って叫ぶ。
「それでもあたしよりは遥かに幸せでしょうが! 魔法少女になれて、共に戦う、プライベートでも仲のいい仲間までいる! あんたたちは、その幸せの対価を支払うべきなのよ! 大人しくあたしの心の安定のための生け贄になりなさい!!」
「そんなの、お断りだよ!」
背後から聞こえた声にギョッとして振り返ると、カレッジがあたしを睨みつけていた。
「何故!? 地獄のメロディーで精神を蝕まれたはずなのに、何故立ち上がれるの!?」
「フ……あんたのおかげだよ」
「どういうこと!?」
「あんたのあまりにも身勝手な言い草を聞いてたら、ムカムカしてきてね、同時に思ったんだ、あんたたちみたいな連中に負けちゃいけないって。だから、アタシはあんたの呪いをはねのけられたんだ。あ・り・が・と、アタシに力をくれて、感謝しなきゃねぇ?」
たっぷりと皮肉と嫌みを込めて言うカレッジ。
くっ、なんて憎たらしい! ああもう、この子のこういうところが大嫌いなのよ!!
「同情する部分がないわけじゃない。100%共感できないかと言われたらそんなこともない。だけどね! やっぱり自分の怒りを他者にぶつけようとするあんたは間違ってるんだよ、そんな奴のサンドバッグ代わりになれなんて言われて『はいそうですか』なんて言ってられないね!」
「……あんたたちの意思なんて関係ない……! 正義の魔法少女としてアントリューズの前に立ちはだかった時点で、あんたたちの運命は決まっているのよ!」
「抵抗するのは自由ですよぉ、けどヴァーンズィンたちと敵対する以上痛い思いをする覚悟は――」
ボゴオッ!
ニタニタ笑いながらあたしの横に立ったヴァーンズィンの頬に、カレッジの拳がめり込む!
「い、い、い、痛ったあああい!! な、何するんですかぁ!!」
頬を押さえ怒りで顔を真っ赤にしながら叫ぶヴァーンズィン。
「敵対する以上痛い思いをする覚悟はしときなさい、ってね」
「きぃぃぃぃ!!」
見事に投げ返されてしまったブーメランに歯ぎしりするヴァーンズィン。
「セ、セリフの途中で攻撃とか、カレッジってば過激ぃ……」
ブリスが顔を引きつらせながら呟く。
「ちょっと『正義の魔法少女』らしくなかったかな? けど、これはアニメじゃないし、アタシたちのやってるのはお遊びじゃないんだ、心が痛むかもしれないけど、ブリスには我慢してもらうしかないよ」
「わかってる。大丈夫、覚悟はできてるもん!」
そう言ってブリスは力強く頷くとあたしに向き直り叫ぶ。
「オプファー、わたしはもう迷わない! あなたたちが誰かの幸せを奪おうとするのなら、わたしは全力を以ってそれを阻止してみせる! マジカルパワーで幸せ守る! それが魔法少女マジカルブリスの使命と覚悟!」
お馴染みの口上まで交えてそんなことを言ってくるブリスにあたしは思わずギリギリッと歯ぎしりをする。
くぅぅぅ! 腹立たしい!! これじゃ完全に逆効果じゃないの! フキョウワオーンとあたしの歌による精神攻撃はむしろブリスたちの正義の心をより強固なものにしてしまった!
「ヴァーンズィン! ぼーっとしてないで! もう一度! もう一度今度はさらに強度を高めた地獄のメロディーを!」
「は、はいぃ! もう一発行きますよぉ!!」
ヴァーンズィンがマイクに口を近づける。しかし……。
♪~
闇の中を歩き、
わたしたちは光を探し求める。
希望の灯りが、心の中に灯る。
それは、闇に負けない強さを示す。
~♪
あたしたちが歌い出すよりも早く、ブリスとカレッジが声を合わせて歌い出す……。
アカペラなのに……響き渡るフキョウワオーンのイカれた音よりも、ブリスとカレッジの歌声の方が遥かに力強くて……。
♪~
ど、どうせこの世は真っ暗闇~夢や希望なんてどこにもない~
~♪
なんとか絞り出すように口ずさむあたしとヴァーンズィンの歌は、ブリスとカレッジの歌声にかき消されてしまう。
♪~
光に満ちた世界へと、
わたしたちは歌い、踊る。
闇を払い、希望の道を照らす。
それが、わたしたちの歌。
~♪
いつの間にか……地獄のメロディーに苦しんでいたはずの観客たちも、ブリスたちに合わせるように歌いだしていた。
さらに『フュテュール』のメンバーが予備の楽器を持ち出して来て、彼女たちの歌にさらに彩りを加える。
♪~
闇に負けない、
光に満ちた世界を目指して、
わたしたちは、共に歌う。
~♪
「こ、これはマズイですよぉ! センパイぃ!」
ヴァーンズィンが慌てた様子であたしに言うけど……もちろんわかってるわよ!
だけど、どれだけ魔力を高めても、フキョウワオーンの音量を上げても、ブリスたちの歌声をかき消すことが出来ない。
「くうぅ……!」
あたしは歯がみするけど……もうどうすることもできない……!
♪~
そして、闇が消え、
光に満ちた世界が広がる。
それが、わたしたちの歌で描く未来。
~♪
あたしはいつしか歌うのをやめ、その歌に聴き入ってしまっていた。
しかし、足元から立ち上るキラキラした光の粒子にハッと我に返り背後を振り返ると、フキョウワオーンは二人の魔法少女の聖歌によって浄化され、元の音楽機器へと戻っていた。
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