ep11-8 心を蝕む呪い歌
「ダンシングクロー!!」
横からヴァーンズィンの声が聞こえてくる。
横目でそちらに視線を送ると、ヴァーンズィンがその鋭い爪を使ってカレッジに襲い掛かっている姿が映る。
まさに踊るような動き! しかし、カレッジもさるもの、こちらもダンスのステップのような動きでヴァーンズィンの攻撃を華麗に躱し続ける。
「この間より動きがいいですねぇ、秘密特訓でもしましたぁ?」
「あんたに肩をえぐられたおかげで目が覚めたのよ、もっと強くならないといけないってね、アタシも、そしてブリスもこの間ほど甘くはないよ!」
「それは楽しみですねぇ……でも、ヴァーンズィンちゃんもこの間より強くなってますよぉ?」
「そうみたいね、ならどっちが強いかはっきりさせようじゃない!」
そんなやり取りに意識を集中していられたのはそこまでだった、ハッと気づくとブリスの綺麗な足が目前に迫っていた。
「くっ!」
あたしは慌てて身を捻るが、完全には避けきれずにあたしの頬をかすめていく。
「おしいっ!」
「ふ、ふふ。そんなミニスカで蹴りを繰り出したりして、パンツ見えるわよ? ふふ、そんなに見せたいのなら、前みたいにパンツずり下ろして中身を撮影、拡散してあげましょうか!?」
「なっ……」
あたしの言葉にブリスの顔が一気に赤くなる。
ふふ、案の定あの件はブリスのトラウマになってるようね。アクアさんに釘を刺されてるから実際にそれをすることはできないけど、脅しとしては十分効果があったみたい。
おそらく無意識にさっと両手でスカートをガードするブリス、その隙をついてあたしは手を振るい魔力を解き放つ。
「隙だらけ! だからあんたは甘いのよ、ブリス! ダークネス・ウインド!!」
繰り出された突風がブリスの身体を吹き飛ばす! もちろん、風に煽られたスカートも思いっきりめくれ上がり、ブリスの純白の下着は丸見えだ!
あいにく観客たちはあれからフキョウワオーンがずっと流し続けてる地獄のメロディーで、正気を失っているから気づいていないようだけど。
ってエンさんは二階席で戦いを見物中だっけ? まああの人はブリスは守備範囲外のようだし、どうでもいいか。
「甘いのはあなたよ、オプファー! えっちな攻撃ばっかりしてきて、肝心の威力は不足してるのよ!」
ブリスは飛ばされながらもニヤッと笑うと、空中で身体を反転させ建物の壁を蹴り、そのまま再びあたしに向かって突っ込んできた。
「なっ、何よそのアクロバティックな動きは! 魔法少女ってそんなことまで出来るの!?」
あたしは慌ててダークスティックを構えようとするが、それより早くブリスがあたしとの距離を詰め、片手を引き絞る。
「マジカルスターンプ!!」
バチーン!! 頬に走る凄まじい衝撃!
「きゃあっ!」
あたしはそのまま吹き飛ばされ、床に叩きつけられる。
「う、うう……」
なんとか意識を保ちながら顔を上げると、たまたま騒動で割れた鏡の破片が目に入る。
そこには綺麗に右頬にもみじのマークを張り付けた、あたしの姿が映っていた。
だから魔法の印章ってわけ? ふざけた技を……。
あたしはキッとブリスを睨み返すが、彼女はそんなあたしの視線を軽く受け流すと小さく笑った。
「ふふ、いい顔になったねオプファー、お似合いだよ」
くっ、この子意外とSっ気あり? てっきりMっ気のが強い子だと思ってたけど……。
悪に対する容赦がないってことなのかも知れないけど、ふふ、いいじゃないゾクゾクしてくるわ……。
ますますいじめがいがあるというもの……!
しかし、どうしたものか……彼女から受けたマジカルスタンプ、一見ふざけた技だけど実のところかなりダメージはあったようで、まだ身体がうまく動かない。
「オプファー、もう降参したら? 今のあなたじゃわたしには勝てないよ」
ブリスが余裕たっぷりに言ってくるが……。
いや、確かにその通りなのよね……。あたしは今かなり不利な状況にあるわ。でも! ここで諦めるわけにはいかないのよ!
「残念だけどあたしが諦めるのはその命尽きた時だけよ。あたしを止めたいのならこの目を刺しなさい、喉を突きなさい、胸を抉りなさい! あたしは絶対に屈したりしないわ!」
「なっ……」
あたしの言葉を受けて、ブリスが絶句する。
フッ……、かかったわね! 今のはほぼハッタリ、あたしには命を賭してまで戦う覚悟や勇気はない。
だけど、こう言われた『正義の魔法少女』さんが受けるショックは大きいはず。
「そ、そんなこと出来るわけ……」
案の定ブリスは視線を泳がせながら言葉に詰まる。あまつさえ、数歩後ろに下がる始末だ。
やっぱり甘かったのはあんたね、ブリス!!
あたしは勢い良く立ち上がりその身に宿る害虫パワーを利用して大きく跳躍するとステージ上に着地する。
そこには、不快な音楽を流し続けているオドモンスターフキョウワオーンが鎮座ましましていた。
「な、なにをするつもり!?」
ブリスが慌ててこちらにやって来てステージ下部からあたしを見上げる。
「ふふ、いい事よ。さあフキョウワオーン、今度はさっきとは比べ物にならないくらい魔力を注いであげる。もう一度あたしと共に奏でるのよ、一般人だけじゃなく、魔法少女の心すらも蝕む魔のメロディーをね!」
あたしはそう叫ぶとフキョウワオーンに魔力を流し込む。すると、その不快な音楽がさらに大きくなっていく!
「な、なんてことを……!」
ブリスがステージに飛び乗りあたしの方に駆け寄ってくるけどもう遅いわ!
「それではみなさんご拝聴、暗黒魔女の新曲行くわよ!」
あたしは高らかに宣言すると、再びフキョウワオーンに繋がるマイクを手に取る。
「センパァイ、今度こそヴァーンズィンも付き合いますよぉ!」
その横に、カレッジとの戦いを途中で切り上げてきたらしいヴァーンズィンが並び立つ。
あたしはそれを無視して――というよりブリスやカレッジが迫りつつあるので、それどころじゃなかった――大きく息を吸い込むとマイクに口を近づけた。
♪~
悲しみ苦しみ怒りに憎しみマイナスマイナスこの世はマイナスどこもかしこも闇だらけ。
~♪
あたしが歌い出すと、すぐにヴァーンズィンも続き、二人の邪悪なハーモニーがコンサートホールを満たしていく。
「な、なにこの歌……歌詞はふざけてるのに、聞いてると心の中がどんどんどんどん暗く染まって行くような……。オプファー、あなたは一体なにをしようとしているの?」
足を止め、両手で自分の身体を抱きしめるようにしながら呻くブリス。
ふふ、効いてきたわね……。
歌詞はたいして重要じゃないの、これは一種の呪術、フキョウワオーンが奏でる曲と、ネガティブなイメージをたっぷり盛り込んだ呪文を歌という形で詠唱することで、相手の精神に直接働きかけ心の中の闇を増幅させる。
ブリスやカレッジがいくら正義の魔法少女とはいえ、中身はあたしと同じ15の女の子、そんな子がネガティブな感情に飲み込まれればどうなるか……。
「う、うあああ、な、なに……わ、わたしの心の中に……闇が、広がって……」
「ブ、ブリス……こ、こんな、歌に負けちゃ……」
あたしの歌に苦しむブリスを見て、カレッジが歯を食いしばりながら必死に耐えている。その精神力は流石ね……だけど!
♪~
いじめに暴力、陰口悪口無視シカト。大好き大好き他人の不幸、心の中ではみんなホントは望んでる。
~♪
「ううっ……や、やめて……」
ついにはカレッジも片膝をつくが、それでも必死にマイクから顔をそらし耐えている。しかしもう限界が近いのは明らかだった。
お読みいただきありがとうございました。
よろしければ、評価やブックマーク、感想お願いします。




