ep9-4 一転、今度はあたしが大ピンチ!!
ヴァーンズィンの爪によってカレッジは重傷を負い、ブリスはあたしの鞭にからめとられ動きを封じられている。
勝利を確信しグッと拳を握りしめるあたしだったが、今まさにヴァーンズィンが言ったカレッジの負傷要因と同じことを自分がしてしまっていることに気づいたのは、背後から感じるとんでもない魔力の高まりに思わず振り返った時だった。
「はぐっ……」
ブチッブチブチブチブチ――
全身を襲う電撃をものともせずにゆらっと立ち上がったブリス、その体に巻き付いていた鞭が音を立てて引きちぎられていく。
「許さない……許さない……! カレッジを、大切な仲間を傷つけたあなたたちを、わたしは絶対に許さない!」
怒りに満ちた瞳であたしを睨みつけながらそう叫ぶブリス。その体からは今までとは比べ物にならないほどの魔力が迸り、彼女の身体全体を眩い光が包んでいた!
「くっ……! そんな……!?」
あたしは慌ててダークウィップの出力を上げようとするも、鞭に込めていた魔力は全て霧散してしまっている。どうやら今の一撃で魔力を根こそぎ吸い取られてしまったようだ。
「うああっ!!」
バチィッ!! と一際大きな電撃が走り、あたしは思いっきり吹き飛ばされてしまう。
「え、あの、ちょっとセンパイぃ……!?」
そのままあたしはカレッジを見下ろし勝ち誇っていたヴァーンズィンの元まで飛ばされ彼女に激突すると、もつれあいながらごろごろと地面を転がる。
「あいたた……ちょっと、大丈夫?」
「うう、痛いぃ……あ、でも、センパイと密着出来てヴァーンズィンちょっと幸せです♪」
「アホか! そんなこと言ってる場合じゃないわ! カレッジにダメージを与えたのは失敗だったようよ、ブリスが、本気で怒っちゃったみたい!!」
頬を染める変態娘の頭に拳を落としてやってから、あたしはブリスの方を指差す。
「え……?」
あたしの指差す先を見てヴァーンズィンが言葉を失う。そこには全身から眩い光を放ちながらこちらを睨みつける魔法少女の姿があったからだ。
「う、うう、ブリス……凄い、凄い力だね……」
肩口を押さえ顔面蒼白になりながらも、カレッジが笑う。
「カレッジ! 大丈夫!? ひ、酷い傷……でも大丈夫、すぐに癒してあげるから……ブリスヒーリング!」
ブリスはカレッジの傍に駆け寄ると、その手を取り癒しの魔法を使う。
流石『幸せ』を司る魔法少女……簡単な回復魔法ならあたしも使えるのだが、ブリスのそれはあたしのものよりもずっと強力のようで、カレッジの肩の傷が見る間に塞がっていくのが見えた。
「ありがとうブリス! おかげで治ったよ!」
カレッジは完全に傷の癒えた肩を確かめるように腕をグルグルと回しながらブリスへと礼を言う。
「カレッジ、無理しないでね。傷は治っても失った血や体力まで戻ったわけじゃないんだから……」
「うん、わかってるよ。今後は油断しないさ。でも、あいつらとの戦いで実感したよ、個対個の戦いではあいつらはアタシたちを上回ってる、あのヴァーンズィンって奴の素人染みた戦いは演技だったんだ」
「わたしも、危うくオプファーにやられちゃうところだった……」
自分たちの敗北を認めるような発言をしている奴らだけど、一体どういうつもりなの……?
「つまり、それぞれがそれぞれの相手と戦っていても、アタシたちは、勝てない……」
あたしの疑問を余所にカレッジが続けると、ブリスはカレッジの言葉の意図を察したのかニコッと笑い、カレッジもそれに答えるように笑みを浮かべる。
「だから力を合わせて戦おう! もちろん、あいつらもコンビネーションで仕掛けてくるだろうけど、所詮は急造コンビ、アタシたちの力ならきっと打ち勝てるさ!」
「うん、そうだねカレッジ! わたしたちの絆があればどんな敵にも負けるはずがないよ!」
そして二人は同時にこちらを睨みつける。あたしは思わずずずっと後ずさる。
しかし、そんなあたしを庇うかのようにヴァーンズィンが立ち上がり叫ぶ。
「随分好き勝手言ってくれますねぇ! 確かにヴァーンズィンとセンパイは今日会ったばかりですけどぉ、ふかーい愛で結ばれた絆はぁ、さながら熟年夫婦のように固いんですぅ! センパイの愛はヴァーンズィンのもの、そしてヴァーンズィンの愛もぉ……センパイのものなんですからぁ!!」
そう言ってあたしに擦り寄るヴァーンズィンの言葉を聞きながらあたしは思った。
こりゃダメだ、こいつにとっては残念な話だが、あたしはこいつの愛とやらに応える気は全くない。つまり完全なる一方通行だ。
こんな状態で正義と友情という確かな絆で結ばれているあいつらのコンビネーションに勝てるわけがない。
「なら、試してみる? 行くよブリス!」
「うん!!」
二人は同時に地を蹴り走り出す。そしてそのまま拳を繰り出してきた!
「くっ……!」
あたしは咄嗟に攻撃をかわそうとするも、纏わりつくヴァーンズィンが邪魔で一瞬反応が遅れてしまう。
「あうっ!」
あたしはブリスの拳をモロに顔面に受けてしまい、そのまま吹き飛ばされる! そしてそこにカレッジの蹴りも加わりあたしの身体は地面に叩きつけられた。
「ぐはっ!!」
二人の攻撃の威力は凄まじく、あたしの意識は一瞬で刈り取られそうになる……。
「こ、こらぁヴァーンズィン! あんたのせいでかわせるはずの攻撃がかわせなかったじゃない!」
「え、えぇ? そんなこと言われてもぉ」
自分だけちゃっかり攻撃を避けやがったヴァーンズィンが、あたしの剣幕にビクつきながらも言い訳をしてくる。
それどころか両手を口元に当て、くねっとしてぶりっこポーズまで決めてきやがる。
このクソ娘ぇ! あんたはあたしのサポート役でしょうが!!
早くも露呈してしまったコンビネーションの差にあたしは泣きそうになってくる。
「こ、このぉ!」
あたしは起き上がりながら鞭を振るうが二人はそれをひらりとかわし再びこちらに近づいてくる!
ええいっ、もうこうなったらあたしが徹底的にヴァーンズィンに指示を与え、その行動をコントロールするしかないわ!
フレキシブルな動きは望めなくとも好き勝手動かれ足を引っ張られるよりも遥かにマシだ!
「ヴァーンズィン! あたしの言う通りに動きなさい! 余計な動きは一切なし!!」
ビシッとさながら奴隷に命令を下す女王様のように鞭を地面に叩きつけながら叫ぶと、ヴァーンズィンは「はぁい」と言いながら素直に従ってくれる。
そしてあたしはブリスとカレッジの攻撃を避けつつ指示を出す!
「ヴァーンズィン! カレッジのみ……」
「遅いよ!」
うがああ、ダメだぁ! あいつらの動きが速すぎる! 指示を与える暇もない!
右側に回って攻撃を加えなさいの一言すら言えないなんて!!
しかもヴァーンズィンの奴ときたら余計な動きは一切なしの指示のせいであたしを助けることすらしやがらないし! なんなのよ一体! まるで融通の利かないAIアシスタントじゃない!!
おまけにブリスもカレッジも巧みにあたしとヴァーンズィンが一直線上に並ばないよう立ち回ってくるし!
「はあっ!!」
ブリスの蹴りをすんでのところでかわすが、その隙を突いてカレッジが攻撃を仕掛けてくる。
あたしはそれを鞭を振るってなんとか受け流すのだが……ぐうっ!! ああもうっ! なんであいつらこんなに息ぴったりなのよ!?
「センパァイ、ヴァーンズィンはどーしたらいいんでしょうかぁ?」
それはこっちが聞きたいわ! 勝手に動けと指示を与えたらどうせわけのわからない動きするんでしょ!? 下手したら敵を放り出してあたしに(性的な意味で)襲い掛かってくる恐れすらあるし……。
かと言って命令を与えようにも敵が速すぎてそれどころじゃないし……ああもうっ!
というかなんでブリスたちはあたしばっかり狙うのよぉ! ヴァーンズィンを狙いなさいよ、ヴァーンズィンを!
などと思っては見たものの、考えてみれば当然か。こちら側のリーダー格は明らかにあたしで、どっちを先に倒せばいいかなんて一目でわかるんだもの。
「なーんか、無視されてる感じがして、ヴァーンズィンちょっと悲しいですぅ」
ヴァーンズィンのそんな言葉を聞きながら、あたしは仲間がいるにもかかわらず孤立無援の状況に絶望していた。
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