ep8-1 崩壊寸前! あたしの心はグチャグチャだ!
バスッ! バスッ! バスッ!
アントリューズのアジトビルの地下にある訓練施設。
そこに鈍い音が響き渡る。
「梨乃、今日はまたいつにも増して気合が入ってるクリね~」
虚ろな目でひたすらサンドバッグを殴り続けるあたしを見て、クリッターがそんなことを言ってくる。
「別に……何も……」
あたしはそう答えるとさらにサンドバッグを殴りつける。
ドッ……ズシャアア……ほどなくしてサンドバッグに大穴が開き、そこから砂がとめどなく溢れ出した。
落ちていく砂を眺めながら、あたしはこれまでの事を思い出していた……。
衝撃の光景を目撃してしまったあの日から10日ほど、美幸と灯の仲は深まる一方だった。
灯は別のクラスだというのに休み時間になるたびに当然のように美幸の元に現れ、時にはお喋りに興じ、時には彼女を校庭に連れ出し共に汗を流す。
そんな彼女の存在を美幸の表面上の友達たちは意外にあっさり受け入れた。
その理由は灯という少女もまた美幸に匹敵するほどの人気とハイスペックさを兼ね備えていたからだ。
オールマイティーな美幸と違い、勉強は苦手のようだったが、その分運動能力は美幸の上を行っていた。
体育の時間のサッカーのクラス対抗戦での美幸との競り合いはあれから数日経った今でもクラスメイトの話題に上るほどだ。
さらに性格も明るく、人懐っこい。
そんな灯と美幸が親友同士になることに文句をつける者などいるわけもなく、むしろ二人の仲はクラス公認のものにすらなっていた。
冗談めかして『恋人』だの『夫婦』だの言う者までいる始末である。
美幸はもちろん灯もそっち系の趣味はないはずだが、そう形容されても仕方のないほど、そしてそれを当人たちも半ば肯定してしまうほど、二人の距離は近くなっていた。
「おやぁ、美幸と灯がお揃いのブローチ付けてるよぉ」
「きゃははっ、やっぱり恋人同士じゃん」
「もう、そんなんじゃないよ~、これはねぇ、灯ちゃんとわたしの絆の証なの」
「そうそう、美幸とアタシが同じ志を持った『仲間』であることの証明、ま、ある意味じゃ恋人より遥かに深い絆かな?」
「ふふ、そうだね」
こんな会話を聞いた時には思わず卒倒するかと思った。
あのブローチはいつの頃からか(と言ってもまだひと月も経っていないが)美幸が肌身離さず身に着けている彼女曰くの『宝物』である。
どこで買ったのか聞いても曖昧に答えるだけで教えてくれなかった。もちろんあたしは学校では付けるつもりはなかったが、同じものを購入してお揃いにしたかったのに……。
それが、それが、それが、灯があれを付けているという事は、美幸は灯には購入場所を教え、お揃いのアクセサリーを身に着けることまで許しているという事である。
それほど美幸はあの結城灯という女との友情にどっぷりハマってしまっているのだ。
当然そうなると割を食うのはかつて美幸の一番の、唯一の親友を自認していたあたしである。
ここであたしが今まで散々美幸に言い聞かせてきた、面倒事を避けるために学校では他人のふりをする、という約束事があたしに牙をむいてきたのだ。
あたしは美幸と灯の間に入ることも出来ずただ遠くで仲を深めていく二人を見ていることしか出来なかった。
美幸としても(優しいあの子にそんな意識はないだろうが)こんな『制約』の多い面倒臭いだけの自称親友よりも新しくできた何の気兼ねもなく付き合える真の親友の方を優先的に扱うようになり、恒例だった放課後の『アミーガ』でのひと時もあの日からなくなってしまっていた。
今もおそらく美幸はあたしの気持ちを知ることもなく、灯と共にあたしには縁のないお洒落なお店でのひと時を過ごしていることだろう。
たった10日ぐらいでグダグダ言うなよなと思われるかもしれないが、たかが10日、されど10日である! 美幸以外に友達と呼べる相手のいないあたしにとっては、その10日間は地球誕生からの46億年よりも長く感じられたのだ。
くっそ、美幸と出会う前はこんなんじゃなかったのに……独りでも耐えられたのに……なまじ美幸という親友が出来てしまったせいで、再び独りになる恐怖に耐えられなくなってる自分がいる。
友達というのはお酒やたばこのようなものだ、味を知る前は必要ないと思っていたが、一度知ってしまうともう二度と手放せなくなる。
もちろんお酒もたばこもあたしは一度も嗜んだことはないけど、それに依存する人の気持ちだけはよーくわかった。
……いや、あたしにはそれが必要だから依存してしまっているだけか? それともあたしがただ単に弱いだけなのかしらね……。
しかし、冷静になって考えれば、このあたしの孤独感、イライラを一瞬で解消するのは本当は簡単なのだ。
美幸に向かってただ一言言えばいいだけ、「寂しいよ」と。
そうすれば美幸はきっとあたしの望む通りにしてくれるだろう、あたしを最優先に考えてくれるはずだ。
だけど……あたしはそれを口に出すことが出来ないでいた……。
浦城梨乃のクソ馬鹿! プライドだけ高くて、勇気がなくて……。
その癖に嫉妬深くて、独占欲だけは人一倍で……。
「クリッターぁぁぁぁ、何をやってるの! 早く替えのサンドバッグを持って来なさい!!」
あたしの怒鳴り声が訓練場に響き渡り、クリッターがやれやれと訓練場を出て行く。
「まったく、梨乃は最近荒れてるクリね~。美幸と灯が仲良くしてるのに嫉妬でもしてるクリか?」
「黙れ邪悪クソ妖精!! あたしのプライベートに土足で踏み込んでくんじゃないわよ!!」
ほどなくして持って来た替えのサンドバックを吊るしながら言ってくる底意地の悪い妖精にあたしはそう怒鳴ると再びサンドバッグを殴り始める。
「そんな精神状態だからあいつらにも勝てないクリ、悪循環クリよ」
ピクッとあたし動きを止めると、「あぁ!?」とまるでヤンキーのような口調でクリッターを睨みつけた。
あたしがここまで荒れている原因は実はもう一つある、さっきのがプライベートでの悩みならこっちは仕事の悩みとでもいうべきもの。そう、マジカルブリスとマジカルカレッジとの戦いについてである。
2回、あれからあたしはあの魔法少女どもと戦った。
結果は聞くまでもないだろう、勝ってたら今ごろこんなに悩んでるわけがない。
プライベートでのストレスを力と変えあいつらに戦いを挑んではみたけどやはり一対二という戦力の差は如何ともしがたかった。
……オドモンスターはいくらでも作れるんだから数の上ではこっちが優位のはずなのだが、残念なことにオドモンスターはあたしの魔力によって生み出されるものだから、作れば作るほどあたしの魔力は消費していく、つまり一人分の魔力を分割してるようなものだから見た目上は多対二でも実質一対二になってしまうわけだ。
四天王の皆さんは相変わらず忙しくて助けなんか期待できないし、木偶兵士は戦闘力が低すぎて話にならない。クリッターは戦いが始まると即行で逃げてしまう(いても邪魔になるだけだけだからいいけどね!)。
つまり、あたしは完全なる孤立無援状態なのだ。
ともかく、ストレス解消のためのはずのマギーオプファーとしての活動はさらなるストレスを生むという悪循環に陥っていた。
「くそっ、くそっ、くそっ、くそっ!!」
おまけにあいつらの仲の良さそうなことったら……ブリスとカレッジを見てると美幸と灯の仲の良さを思い出して胃がムカムカしてくる。
「なんでっ! プライベートでも! 仕事でも! 他人の友情を見せつけられて! 孤独感と敗北感を! 味わわなきゃ! ならないのよ!!」
サンドバッグに浮かんでは消える憎いあんちくしょうどもの顔を目掛けあたしは叩いて叩いて叩きまくる!
あたしの明日はどっちなの……。
「あやや~、噂には聞いてたけど凄いですねぇ、でも、いい感じですぅ、キョーコ、ビンビンですぅ」
お読みいただきありがとうございました。
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