ep5-7 マリス様の宿敵と謎の計画
「極光の少女……ですか……」
トレーニングを終え今日のところは家に帰る旨を報告しようと総帥室の扉の前まで来たあたしだったが、ふと中から聞こえた声に扉を開けるために伸ばしかけていた手を止めた。
「街で見かけたクリ。しかも、今まで見たことないほどの強力な輝きだったクリ。オプファーに始末させようかと思ったけど、うやむやのうちに見失ってしまったクリ」
どうやらクリッターとマリス様が例の少女について話しているようだ。
盗み聞きするつもりはなかったのだが、なんとなく今部屋に入るのはまずい気がして、あたしは扉の前で聞き耳を立てる。
「そうですか……しかし情けない話ですね、それだけの輝きを持つ少女の気配すら察知できないほど衰えてしまっている……奴から受けた傷が恨めしい……!」
いつも冷静なマリス様には似つかわしくなくその口調には激しい怒りと憎しみが込められている。
奴……一体何のことだろう? ブリスのことではないようだけど、マリス様には彼女以外にも何か恨みを持つ相手がいるのだろうか?
「お、落ち着くクリ、それよりも極光の少女はどうするクリ? 放置しておくとまずいことになるかもしれないクリよ」
「対処したいところですが、どこにいるとも知れない少女を探し出すことなど不可能に近い、今は放っておきましょう」
「い、いいクリか?」
驚いたような声を上げるクリッターに合わせるようにあたしも心の中で「ほっといていいの!?」と思わずツッコミを入れる。
いや、探し出して始末しろとか言われたら困るからあたしとしてはいいんだけどね。組織的には、問題あるような気がするのよ。
って、やっぱあたしかなり悪の組織の構成員的思考になってるかも……。
あたしがそんなことを思っている間も扉の向こうでの話は続く。
「仮にその少女が『ノヴァ』の魂の継承者だったとしても覚醒など出来るはずがない。奴らが地球に来ることはあり得ないですし、ね。それに……」
「それに? 何クリ?」
「例の計画を遂行させ、私が『あの力』を手にすれば、『ノヴァ』であろうが誰であろうが敵ではなくなるのです、そんな少女に構うよりも計画を進めた方がよほど建設的でしょう」
「な、なるほどクリ……」
マリス様の言葉にクリッターが納得したような声を上げる。
例の計画? なんだろう、気になるなぁ……。
首を傾げるあたしだったけど、それについて考えるよりも早く再び扉の向こうから聞こえてくるマリス様の言葉……。
「そんなわけで、あなたにも更なる働きを期待していますよ? ねぇ、梨乃ちゃん……」
ドキィッ! と心臓が跳ねる。
「な……!?」
なんで、なんでバレてるの!? あたしは思わずその場から逃げ出そうとするがそれより早く扉が開きクリッターが顔を覗かせる。
「梨乃……盗み聞きとは趣味が悪いクリよ?」
「ぬ、盗み聞きするつもりはなかったんです、た、ただあたしは……」
咎めるような口調で言ってくるクリッターにではなく、マリス様に言い訳するようにあたしはペコペコと頭を下げながらそう言った。
しかしマリス様は穏やか口調でクスッと微笑んでくれる。
「構いませんよ、聞かれて困る話をしていたわけでもないですからね。部屋に入るタイミングを逸していただけでしょう? 問題はありません」
あぁ、なんて、なんてお優しいんだろう、厳しいところも、冷たいところも知っているけど、やっぱりマリス様は最高に素敵なお方だ。
暗黒魔女にされてからというもの嫌な目にばっかり遭っているけど、このお方と出会えたことだけは本当に良かったと思っている。
「あ、ありがとうございます!」
深く頭を下げるあたしだったが、どうしてもさっきの会話の内容が気になってしまう。
恐る恐る顔を上げあたしはマリス様に尋ねる。
「あ、あの、マリス様……例の計画とは? それに、『ノヴァ』って言うのは……?」
あたしの問いかけにマリス様は機嫌を損ねた様子もなくあっさりと答えてくれる。
「『ノヴァ』というのは私のかつての宿敵です。すでにこの世にはいないのですが、その力を受け継ぐ、あるいは同質の力を持つ者が出現する可能性がありましてね……計画とはそれに対抗するためのもの、とだけ言っておきましょう」
ただ、ノヴァという名を口にした時のマリス様は憎悪に満ちた、まるで親の仇でも見るかのような恐ろしい顔をしていた。
ノヴァ……そんな奴がいたんだ……もしかしてブリスより前に活躍していた魔法少女とかだろうか?
すでにこの世にはいないとのことだが、どうもマリス様の口調からして倒したという感じではない、自然とこの世を去ったという感じだ。
どっちにしろあたしの全く知らない存在と戦った経験があるということはやはりマリス様は見た目通りの年齢ではないのだろう。
まあだからと言ってあたしのマリス様への敬意が揺らぐことはないんだけどね。それどころか『流石マリス様! あなた様なら間違いなくその人ならざる素晴らしいお力で世界をより良い方向に作り替えてくれます!』とあたしはますますマリス様への崇拝を深くしたのだった。
「いつか梨乃にももっと詳しく話す日が来ると思うけど、今はあんまり気にする必要ないクリ、計画は僕たちが勝手に進めるから、梨乃はブリスを倒すことだけを考えてればいいクリ」
「う、うん……そうね……」
クリッターに言われあたしは素直に頷く。確かにその通りだと思ったからだ。
「ところで梨乃ちゃん、今日は負けたとはいえ随分と頑張ったようですね。ブリスにあれだけの屈辱と絶望を与えたあなたの手腕は見事です、これからも期待していますよ」
「あ、ありがとうございます!」
マリス様に褒められあたしは思わず顔が熱くなる。
もしかしたら負けたことでまた前みたいにお仕置きでもされるかも、と少し不安だったのだが、どうやらそれは杞憂だったようだ。
「それでは梨乃ちゃん、もう今日は遅いですからお帰りなさい」
「は……はい!」
あたしは元気よく返事をするとマリス様に一礼し総帥室を後にしたのだった。
ブリスに負けた悔しさもなんのその、マリス様から――他人から自分の努力を認められることの嬉しさをあたしは改めて感じていたのだった。
堕ちていく……底のない沼の中へと……深く……深く……。
それに気づいた時にはもう手遅れなのに……高揚感に包まれたあたしには、もう何も見えなくなっていた……。
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