未来を掴むために
まだ太陽が登りきらない未明の早朝
あたしは家から少し離れた道を歩いていた。
健康と美容のためにと始めた早朝のウォーキングは
いつしか習慣となっていた。
ちなみにとあるアプリを起動させているため、
バイト以外の副収入も兼ねている。
「はぁ~、やっぱり早朝は冷えるね〜」
「けど、人も車もほとんどいない、
この清浄な空気を取り込むのは好き」
「冬だとなおさらね」
あたしはもう一度大きく息を吸って、
ゆっくりと吐き出した。
「さて、今日は大学もないし、
買い物は昨日に終わらせたから自主学習ね」
そう言って、今日の予定を反復する。
小一時間ほど歩いて家に帰ったあたしは、
上着をハンガーに吊るしてキッチンへと向う。
「さて、まずは手洗いうがいを済ませてっと……」
ハンドソープで爪の中までよく洗って、
数回うがいを済ませるとコップを洗って片付ける。
「よし、朝ご飯ね!」
そう言って、毎週末に大鍋で作るお味噌汁を温めて、
白いご飯をよそい、キャベツの千切りに
生卵と鮭フレークを用意する。
丼によそったご飯にくぼみを作り、
先に醤油をかけてから生卵を加えて、
キャベツの千切りと鮭フレークを加える。
「いただきます!」
お味噌汁を一口飲んで「ふぁ〜」と漏らす。
「いやぁ~ 冷えた体に温かいお味噌汁は罪ね」
「旬の白菜にしめじにお豆腐とお鍋のようだけど、
お鍋を作る手間を考えるとお味噌汁がいいね」
お豆腐を食べて一口飲む。
そして箸を丼に向ける。
「ふっふっふっふっ〜」
生卵と醤油の絡んだご飯をキャベツと鮭フレークと
ともに掴んで口へと運ぶ。
「う〜〜ん! やっぱりこれね~~!」
「キャベツのシャキシャキ食感と、
鮭フレークのしっとりした旨味が卵ご飯と絡まる」
「鰹節や海苔ももちろんいいんだけど、
キャベツと鮭と卵は相性抜群だからね~!」
ちなみにご飯の量はお茶碗1杯分だが、
キャベツや鮭フレークを加えるので
こぼれないように丼に盛っている。
「卵かけご飯って人それぞれ好みや
こだわりがあると思うけど、あたしはこれね」
「卵の前に醤油をかけるのは漫画で読んで
やってみたんだけど、もう、ぜんぜん違うね!」
「何がどう違うかはやってみればわかるんだけど、
やらない人には一生わからないよね」
「小さなことだけど、一歩踏み出すだけで、
世界は広がっていくんだよね」
「ただ、やみくもにやればいいってものでもない。
自分がどうしたいのかよく考えて納得できるかね」
うんうんと自分の考えに納得すると、
あたしは食べ終えた食器を持ってキッチンへ向う。
「さて、これから夜まで自主学習ね」
「まずは講義の予習復習から……」
食器を洗いながらこれからの予定を組み立てる。
買い物は前日に済ませてあるから、
今日はもう出かける必要がない。
あたしは食器を片付け終わるとテーブルに向かい、
利き手である左手にシャーペンを持って、
栄養学専用のノートを開いた……
時は前日に戻り、スーパー店内
あたしは買い物かご片手に青果売場へ向う。
「あ! 白菜が安いね。しかも大きい」
「半分はお味噌汁にして、もう半分は常備菜かな」
「白菜とあわせるなら……キムチ!」
白菜を買い物かごに入れてキムチ売場へ向う。
「う〜ん キムチも種類多いしね~。
けど、できるだけ余計な添加物がないもので……」
「辛口……原材料は……よし、これにしよう!」
「で、辛口キムチなら……きゅうりかな」
キムチときゅうりをかごに入れる。
「お豆腐ももちろんいいんだけど、
お豆腐はお味噌汁に使うしね」
「それにきゅうりや大根のような、
低カロリーで水分の多い野菜と一緒に食べると、
塩分を薄めたり満腹感が得られるみたいだし」
「人参玉ねぎはおうちにあるし、
あとはお豆腐ときのこかな」
「お味噌汁に使うならしめじね」
イメージ通りの食材を購入して
あたしは気分良くおうちに帰った。
そして……
その日の内にお味噌汁を作り、
早朝のウォーキングを済ませたあたしは
栄養学の予習復習に勤しんでいる。
途中に休憩を挟み、きりの良い所まで進めると、
「う〜〜ん!」と大きく伸びをする。
「さて、そろそろ作ろうかな」
そう言って、キッチンへと向かい、
白菜やキムチを冷蔵庫から取り出す。
「まずは白菜を食べやすい大きさに切る」
「きゅうりを縦半分に切って更に横に切っていく」
「野菜を切ったらタッパーにいれて……」
「そこに辛口キムチを汁ごと加えて軽く和える」
「そして鰹節と醤油を加えて和えたら完成」
発酵食品を意識して食べるようになり、
キムチの美味しさを知ったあたしが
毎週のように作る白菜キムチサラダだ。
火を使わないで済むし、洗い物も包丁とまな板だけ。
キムチ単品で食べるよりも美味しさや栄養価も高いし、
常備菜としても重宝するお気に入りの腸活副菜。
「じゃ、これを夜まで冷蔵庫で冷やして……と……」
手を洗い、リビングに戻ったあたしは少し横になる。
「お味噌汁もサラダも作ったし、
雑穀ご飯も炊いてある……あとはまぁ簡単にね」
そして30分ほどお昼寝をして
自主学習の続きを再会する。
途中、息抜きに読書やストレッチを挟んで、
一人で過ごす楽しさと気楽さを満喫していった。
時刻は20時になろうとしている。
「よし、夜ご飯ね!」
あたしはキッチンに向かい、お味噌汁やサラダ、
雑穀ご飯などをテーブルに用意する。
「いただきます!」
あたしはさっそくお味噌汁を飲んでお豆腐を食べる。
「は〜〜っ やっぱり暖まるね〜」
「白菜にお豆腐は間違いないペアだしね〜」
「キャベツで作ることもあるけど、
今キャベツ高いしね〜。たまにセールしてるけど」
そしてキムチに箸を伸ばす。
「うん、辛口だけあって辛味が強いけど、
鰹節の旨味もしっかり効いてる」
「これはご飯が絶対あうね!」
あたしは雑穀ごはんを口に運ぶ。
「ん〜〜〜 言葉もないね~」
「雑穀のむちむちした味わいにキムチの辛味が良し!」
「今日は飲まないんだけどお酒にもバッチリね」
「キムチに海苔って組み合わせもいいから、
次はそうしてみようかな」
「納豆ご飯には言わずもがな」
市販の煮豆をときおりつまみながら、
雑穀納豆ご飯とキムチとお味噌汁の
発酵ご飯をゆっくりと味わいながら噛み締めていく。
「自炊で食事の楽しさ、美味しさを知っていかないと、
健康美容も体も頭も五感も育っていかないよね」
改めておうちご飯の大切さを再確認して
世の中に自炊の良さを広げようと決意した夜である。
数年後……
大学を卒業したあたしは子供たちの未来のために、
食育をコンセプトとした会社を設立。
栄養士兼経営者として料理教室やセミナー、
学校給食のメニュー開発や改善事業を進めている。
今もあの夜に決意した気持ちを燃やし続けて、
子供たちや親御様、これから産まれゆく生命のために
あたしの未来は始まったばかりである。