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鬼ヶ島へこっそりと上陸


 僕達三人と一匹は、港で買い込んだ食糧を載せた小舟に乗って讃岐の国、高松の港から真北ある女木島へと向かった。

 星座の位置は現代と変わらないから北極星を目印に僕とマサルが漕いで、目の良いキギスが島影を探した。幸い波はなく、月がそこそこ明るい夜だったから迷うこと無く上陸出来た。

 ……やっぱ主人公補正か?


 島に着いたら船を隠し、夜陰に紛れてマサルに情報を提供してくれた島民の家に行った。


「夜分すみません。俺っちマサルです。

 食料持ってきやした。あと、ちょっとだけ話を聞かせて下せい」


 しばらくしてから如何にも漁民といった風情の若い男が出てきた。


「おぉ、あんたか。ここは危ねぇから早よ逃げろや。

 鬼に見つかったらタダじゃ済まん……誰だ、後ろにいるのは?」


「突然申し訳ない。マサルの仲間のモモタロウという者だ。

 こっちがキギス、こっちがポチだ」


 男は突然の来客に戸惑っているみたいだ。

 しかしその表情はいかにも迷惑そうな顔をしていた。


「悪い事はいわん。あんたらは関わりにならん方がええ。

 とっとと出て行ってくれ!」


 だんだんと男の表情は険しくなっていく。

 しかしここで引っ込む訳にはいかない。


「俺たちは鬼退治のためにやってきた先発隊の者だ。

 鬼について知っている事を教えてくれ」


「人質がどうなるか分からないからやめてくれ。

 話すことなぞ無い!

 あっても話せん!」


 夜中なので大声を出せないが、男は激情を抑えるかのように声を絞り出す。

 たぶんこの男も人質を取られているのだろう。


「マサルここに来る前に『この島に鬼が居るらしいから詳しく調べている』と手紙を既に出してある。

 この島が鬼の住処になっているのはとうの昔にバレているんだ。

 オレ達が帰ったところでじきに本隊がやってくる。

 侍が漁民の人質を取ったからって怯むと思うか?

 人質を無事救出する為にも協力してくれ。

 オレも人質を助けたいんだ!」


「………人質を……お前さんはオレの女房を助けられるのか?」


 苦渋に満ちた表情で聞いてくる。

 心の底から苦しんでいるのがよく分かる。


「オレは鬼退治をするためにこの国にやって来た。

 ずっと、準備してやって来たんだ」



「……わかった。あんたを信じよう」


 長い沈黙の後、男は家の中へ入れてくれた。


 マサルに情報をくれた島民、面倒だから『島民A』と呼ぼう。

 島民Aに島の地図を書き写したノートを見せて、現在地や鬼の船の場所、鬼達の根城、そして人質が居そうなエリアを赤えんぴつで書き足した。


「ほ〜、あんたタダもんじゃないんだなぁ〜。

 ナリは若いがどっかのお偉いさんか?

 島の形がこんな風になっているって初めて知ったよ」


 島民Aは人質が助かるかもしれなという期待と元々の人の良さから口が軽くなってきた。

 何はともあれ、家に1人きりでいる島民Aの家を当面の前線基地ベースにすることが出来た。


 ◇◇◇◇◇


 昼間はマサルが物陰に隠れながら村と鬼の船の様子を調べた。

 キギスとポチは島民Aの家で留守番だ。

 キギスにはいざという時のため、のぼりに偽装して仕込んでいた槍を持たせた。


 夜は動き易い戦闘用の着物に着替えた僕が山に入って鬼達の行動を監視した。いつもの販促用の衣装ではなく、僕の初陣を喜んだ婆さんがしつらえてくれた着物だ。そして桃印の入った戦闘用ハチマキは自作の迷彩柄。

 ハチマキはモモタロウのアイデンティティ!

 異論は認めない。


 山での活動では爺さんと一緒に山へ柴刈りに行っていた経験が役に立った。

 爺さんは柴を拾うだけでなく、山に入った時のサバイバル術を教えてくれた。

 山の植生、食べられる草や実、マムシに咬まれないための注意、道に迷わないための方法、戦いになった時の心得、などなど。

 元々、爺さんが山に入るのは敵の侵入の気配があるかどうかを見張るためのものだ。


 山へ柴刈りへ行ったら僕は無敵なのである。(ウソ)


御伽草子の『桃太郎』で、船上での犬、猿、雉の役割は色々なパターンがあるみたいです。また船も帆かけ舟だったり、()を漕ぐタイプだったりします。

本作では()を漕ぐタイプの船を主にマサルが漕いで、キギスが舳先で島陰を探し、モモタロウが星を見ながら方向を確認するイメージです。

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