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不滅のアトラ  作者: 鉄すらぐ
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手掛かり

 荷台が可変するキャンピングカー…動画で見たことはあったけど、実際目の当たりにするのは初めてだった。

 約二.五倍に拡張されたそれはもはや私の実家より広くて、生活に必要な設備が整えられていた。

 全体的に木目調とシンプルな白い壁紙で淑やかに誂えてある、モダンで親しみやすい空間だ。

 通常時の荷台には窓が無いが、可変することで各所に透明パネルが出現し、外の景色を楽しめる仕様になっている。もちろん引き下ろし式のブラインドもついていた。

 可変後の荷台内は二階構造。一階にあたる場所の後方にはダイニングキッチンが。区画を隔てて荷台を引く牽引車両に近いところにトイレとシャワールームが配置されている。

 どちらもイスが建築に使っているタイプの、どこからともなく水が出現する魔法アイテムだった。

 そして荷台上部、ラダーを登った先には左右にひとつずつダブルベッドが設置されている。

 イスでも足がはみ出さないゆったりサイズだが、必然的に二人ずつ眠ることになりそうだね。

 時期的にこれから更に暖かくなってくるはずだけど、私達は北東に向かって進んでるから夜は少し冷えそうだし、ちょうどいいかな。

 一通り設備を見て周ったところで、私達はダイニングの長方形備え付けテーブル脇にあるコの字ソファにいつもの並びで座り、テーブルを隔てたキッチン側にオットマンを移動させて、エヴィ君がそれに座った。


「えらい豪華な車だなぁ。俺らの輸送車とは大違いだぜ」


 朗らかに室内を見渡すエヴィ君だが、イスは真面目なトーンで語りだした。


「世間話は結構ですわ。そんな話をする為だけに、わざわざ個室へ移動した訳では無いのでしょう?」


「んー…まぁそうだな。支部に置いて来た仲間を放置すんのも悪ぃし、単刀直入に聞くが…アトラちゃんよ」


「ゼルガ・ベルティネスの手掛かりに関して、だよね」


 先程のリアクションを見る限り、エヴィ君の目的がゼルガに関する情報だと気づかない方がおかしい。

 先手を取ってそう述べると、エヴィ君は重々しく頷いた。


「…ああ、そうだ。俺が第三師団に配属されてからずっと追ってた獲物なんだが、相手は元騎士団の重鎮…しかも厄介な遺物を持ってやがるせいで、こっちの手口はおろか現在地まで見透かされ放題で、何一つ掴ませちゃくれねぇんだ」


「厄介な遺物って?」


「ゼルガが王政から与えられた「彼方の五感」っつー遺物の事だよ。一度でも肌に触れた相手の居場所を把握出来る代物で、あいつが在籍してた時代の団員は全員徒手格闘ん時に触れちまってるんだ」


「…なるほど、そういう絡繰りだったか」


 エヴィ君から顔を背けて腕組みしてたレンが、嫌々ながらも腑に落ちたといった感じでため息をついた。

 エヴィ君はそんな彼女を注視して、ん?と溢した。


「黒髪のお前さん、どこかで会った気がするな。えーと、どこだったか」


 エヴィ君はレンの顔をじろじろ眺めながら必死で思い出そうとしていた。彼女は元同胞で、国家転覆に繋がるレベルの反逆行為を巻き起こした張本人なのだが…レンも騎士団在籍時より成長してるだろうし、思い出せなくても無理はないか。

 なかなか答えが出ないエヴィ君に痺れを切らしたレンは、またもやため息をついて立ち上がり、剣に巻いた布を解き始めた。


「…貴殿が仕える騎士団長に刃を向け、所有する剣を奪った愚かな反逆者だ」


「あー、そうかそうか。前にスコットのケツをブッ叩いて目ぇ覚まさせたっつー、フュリウスさんとこのご令嬢か」


 元気にしてたか?と、レンの重々しい言い回しをまるで意に介さず、エヴィ君はヘラヘラした態度を崩さず接した。

 彼女は過去に起こした謀反について叱責されるだろうと踏んでいたようだが、あまりにも普通に対応されたものだから分かりやすく困惑していた。


「…騎士団の反逆者を前にして、捕縛しようとは考えないのか?」


「そらお前さんにゃ何の罪もねぇし、除名処分にすらなってねぇから同胞として…いや、むしろ救国の英雄として大手を振って凱旋すべきと俺ぁ思うがな」


「…俺は帝国を救ったつもりも、救うつもりも毛頭無かった。今更戻ったところで家名と騎士団の評判に傷を付ける厄介人でしかない」


 騎士団に対する評価には変化が起こり始めているが、未だレンの自己評価は低いままだ。

 私もクレイオルデンを更地にしてから同様の呵責に苛まれた経験…というか今まで自分を恨みながら生きてきたので、気持ちはわからなくもない。

 いくら自分を疎んでも全く空虚な行為だということもね。


「籍を残すのも除名処分にするのも、好きにすればいい。だが俺はもう騎士団へは戻らない」


「ま、お前さんがそう言うなら好きにすりゃいいさ。…けど親父さんにゃ一言ぐれぇ伝えてやりな、ずっと心配してたからよ」


「…出来ない。少なくとも、ゼルガが生きている内は」


 レンは懐から刺客への指令書を取り出しきつく握り締めた。

 刺客騒動を裏で操る黒幕、ゼルガ・ベルティネスの身柄を確実に押さえるまで、レンの日常に平穏は訪れないのだ。

 家族に危害が加えられないという確証が得られるまで、彼女は接見しないつもりなのだろう。

 レンは相当な頑固者みたいだけど、エヴィ君も意見を強要する気はなさそう。あまり険悪な雰囲気にはならずに済んだ。

 彼女は握り潰したばかりの指令書を机の上に置いて、再び剣に布を巻き付けてから座った。


「…どこまで役立つかわからんが、その暗殺指令書がゼルガの手掛かりかもしれない物品だ」


 エヴィ君はくしゃくしゃになった指令書を広げて、簡素な文面と旧師団長の印章を冷静に分析した。


「ふむ…印章は間違いなく本物だな。それに筆圧、文字のクセ、インクを付け足した箇所…時間経過で生じた誤差を計算に入れても、ゼルガ本人が書いた可能性が極めて高いな」


「見ただけでわかるの?」


「生半可な気持ちで第三師団師団長やってるわけじゃねえんだぜ?ゼルガに関するデータは全部頭に叩き込んであんだよ」


「…しかしゼルガ本人が指令書を書き、刺客を差し向けた犯人だと判明したところで、奴の潜伏場所を特定する手掛かりになるとは思えないが」


「いや、これだけゼルガと濃い繋がりを持つ証拠がありゃ十分だ。後は「彼方の五感」の効果さえどうにか出来りゃあ、すぐにでも踏み込めるんだが…」


 遺物の効果に対処する術を持ち合わせた人物…となれば、適任は一人しか浮かばない。


「破滅…ミアちゃんなら効果を打ち消せるんじゃないかな?」


「!!」


 ミアちゃんの通り名、「破滅」と聞いた刹那、イスとレンとエヴィ君がそれぞれ物凄い剣幕を披露した。

 イスはともかくとして、レンとエヴィ君まで反応するのはどうしてだろう。面識があったのかな?

 少し考えていると、イスが私の方を向いてそっと肩に手を添えてきた。


「アトラ、お言葉ですが気軽に奴を頼るのはいい加減お止めになったほうがよろしいですわよ。絶対にろくなことになりませんから」


「や、ミアちゃんはちゃんと対価を支払いさえすれば脅威にはならないよ。砂漠の遺跡で分けてもらった物資について、お礼も言いたかったし」


「…遺跡の物資とは、もしや俺達が食べた保存食や、衣類といった備蓄品の事か?」


 何やら青ざめた顔でレンが聞いてくる。

 どこか訳ありのようだが、私は頷いて返した。


「そうだよ」


「…最悪だ。今度はいくら搾り取られる事になるやら…」


「あー…破滅なら確かに適任だが、私事に騎士団の経費は割けねぇし…自腹となると、ちと痛ぇな」


 エヴィ君なら騎士団関係者としてミアちゃんを把握していてもおかしくないか。

 しかしレンはリアクションから察するに、ミアちゃんの「客」として接した経験があるようだ。


「もしかしてレン、過去にミアちゃんと取り引きしたことあるの?」


「…ああ。相場より値が張るものの、取り扱っている遺跡・遺物関連の情報は界隈で最も信頼性が高いと聞いて、ここより北にあるドスルの街でコンタクトを図ったのだが…対価として所持金全てを巻き上げられたのだ」


 ああ、想像しなくても光景が目に浮かぶ。

 レンほどの剣豪相手でも変わらない調子で絡むミアちゃん…流石と言うべきなのかな。


「でもミアちゃんは物資の使用に対価は必要ないって言ってたし、後から都合よく意見を変えたりしないだろうから、心配はしなくてもいいと思うよ」


 デバイスを取り出してミアちゃんの連絡先を選んでいたら、テティスが力強く私の意見に賛同した。


「そうですよ。ミアさんは人として少しズレていますが、情報の取引相手として語るならこの上なく誠実なお方ですもの」


「それフォローになってる?」


 まぁミアちゃんの悪評は意図して広められたものだから、別に訂正とかしなくても良いんだけどね。

 私は不安がる三人を置いて、スピーカーモードにしてからミアちゃんに通信を入れた。


『はいはァい、今度はどしたんアーちゃん?』


「連日ごめんねミアちゃん。実は相談があって…」


 私はミアちゃんにゼルガの遺物の効果を消せるかどうか相談してみた。

 すると。


『なーるほどねェ。うん、遺物による効果ならボクの力で抹消出来ると思うよ』


「それは僥倖。…とはいえ、レモナスからミアちゃんに会いに行くには時間がかかり過ぎるしなぁ」


「現在地さえ教えてくれりゃ俺がパッと迎えに行くぜ、破滅さんよ」


 そういえばエヴィ君は北世界各地に瞬間移動するための遺物を支給されてるんだっけ。

 …私たちをその遺物で帝国まで移動させてくれたら早いんだろうけど、せっかくキャンピングカーを買ったばかりだし、野暮だから黙っておこう。

 彼の声を聞いて、スピーカーの向こうのミアちゃんが「アハッ」と笑った。


『お、その声は第三師団長くんじゃないか。何か面白そうなネタがあるなら買うよォ?』


「残念だが今んところ目ぼしいネタは上がって来てねぇな」


「なァんだ。…じゃあ三分後、レステの騎士団南支部前で待ってるから、遅れないでよね?」


 迎えの地点を伝えた途端、ミアちゃんは一方的に通信を終わらせた。

 後は直接会ってから話を進めるつもりなのだろう…特に報酬について、ね。


「んじゃま、破滅さんを迎えに行くとしますかねぇ」


 エヴィ君は青白い光に包まれながら立ち上がり、単身でミアちゃんとの合流ポイントに瞬間移動した。

 ミアちゃんに直接会うのはクレイオルデン以来…私も若干の不安を抱いたが、きっと大丈夫だろうと己を鼓舞して、襲来する破滅に備えるのであった。


「せっかくの新車に奴を招くなど、不愉快極まりないですわ」


 …この上なく不機嫌なイスと共に。


続く。

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