日陰者(シャドウウォーカー)
光源の無い真っ暗な地下室で対峙したのは、血でぬらつく剣を携えた、見知らぬ少女だった。
「………」
前髪やサイドの長さは私と同じくらいのウルフカットで、襟足がふくらはぎにかかるほど長い。特徴的な桃色の髪を、恐らくテルジア・セルの真っ赤な返り血で濡らしていた。
服装は先日プレイしたRPGのクール系ヒロインが着ていたような、レースで装飾された紺色のミニ丈ドレスに、少しかかとが高くなったプラチナっぽいパンプス。
少女はゆったりと顔を上げて、真紅の鋭い眼光をこちらに向けてきた。まるで品定めをするかのように、全身にちくちくと視線が突き刺さる。
ここで視覚強化スキルが切れて、現実の進行速度に戻った。
彼女の視線は特に、私が右手に携えた遺物、光を斬り伏せる刃に集中している。少女は剣についた血を振り払い、鋭利な鋒をこちらに向けた。
まだ刃は形成していないが、この物質が武器であると直感したのだろうか。凄まじい威圧感を放っている。
この子がどういった思考をしているのか、記憶とともに読めばすぐ判明する…しかし。
「あー………あ……」
部屋の片隅を四角く切り取った鉄格子の中に、うめき声を上げて横たわる子供、男児四名と女児二名の姿があった。
いずれも服を着ておらず、酷くやせ衰えてはいるが、息はあるようだ。
それは何より…なのだが、最低でも七名の思考を同時に読んでしまうと、脳の処理が追いつかず確実に意識を失うだろう。
なので、彼女の思考を読む事は叶わない。それよりも速く子供たちを助けてあげないと。
私は光を斬り伏せる刃への魔力注入を止めて足元にそっと置くと、両手をホールドアップして見せた。
「…君が何者で、何のためにここへ来たのかは知らないけれども、私に争う意思は無いよ」
「………」
一応は極秘任務なので、身の上は隠したまま意思表示した。
すると少女は鋒を私に向けたまま、足音を殺して近付いてくる。
この暗がりで迷いなく私の姿を、そしてテルジア・セルを捉えていたところを見る限り、彼女も暗視スキルを習得しているらしい。ということは、スキル講習を受けた冒険者なのだろうか。
「………」
鋒が私のすぐ前まで迫ったその時、一瞬にして少女の姿が消えた。そして喉元にヒヤリとした感触が走る。
どうやら背後を取られたみたいだ。
それでも私は抵抗せず、沈黙と無抵抗を決め込んだ。
子供たちのうめき声だけが残響する空間で、状況が膠着したまま約一分ほど過ぎた。
すると背後の少女から、ようやくヒトらしい微かな呼吸音が聞こえた。
「…どうやらテルジアの一味ではないようね」
少しばかり少女らしさが残る、されど非常に冷えた声色が襲い来る。
彼女は私の喉元から剣を退き、そのまま後退して私のすぐ後ろの鉄扉を閉じていった。
閉じ込められた、と思ったが、まだ背後にはヒトの気配がある。どういうわけか扉だけ閉めに行ったらしい。
少女は私の右側を歩いて視界内に再び姿を現し、足元の光を斬り伏せる刃を拾い上げた。
「…まずは質問に答えてもらうわ。あなたは何者で、何のためにここへ来たの」
やや尊大で高貴な雰囲気が言葉の端から受け取れる。冗談や嘘が通じる相手では無さそうだ…かといって得体の知れない相手にポロポロと情報を与えるのはリスクが大きすぎる。
まずは交渉の余地を探りながら、ある程度情報をぼやかして…。
「私は…アトラ。さるお方から命を受けて、テルジア・セルの抹殺と、彼女が拐った子供たちを救出しに来た」
「………」
少女は腕組みをして、冷ややかな視線を私とテルジア・セルに注ぐ。この手合の人物はこちらからの質問や聞いてもいない事を話すと逆上しそうだから、ひとまず口をつぐんでおく。
少女の値踏みを兼ねた眼光に射られ、約十秒経過。
「…あなたはこの女…テルジア・セルに特別な恨みがあったから、殺しの依頼を受けたの」
「私が直接被害を被った事はないけれど、親しい人物が過去に命を脅かされ、大切な人を亡くしているから…完全に私怨が混じっていないとは言い切れない。でもそれが依頼を承諾した理由ではなくて、彼女が生きていたらこの先、大勢の人々が不幸に見舞われてしまう可能性が高かったからだよ」
「…口を開けば他人を心配することばかり。よほどのお人好しか、我欲を持たない操り人形なのかしら」
少女は途端に顔をしかめ、壁に向かって舌打ちを響かせる。そしていきなり雑に光を斬り伏せる刃を投げ返してきた。
「おっ、と」
「…あたしの邪魔をすることが目的じゃないなら、もうあなたに用は無いわ。テルジアの暗殺もあたしの存在も、雇い主に好きなように話せばいい」
少女はぶっきらぼうに話しながら、再びテルジア・セルの元へと歩いていく。私は光を斬り伏せる刃を腰のホルスターに収めて、密かに鉄扉に防護魔法をかけた。
テルジア・セルが噂通り狡猾で用心深い人物だとすれば、自身に万が一のことが起きた場合に備えて、防衛もしくは迎撃…最悪、自爆機構が発動する危険性があったからだ。
その間少女はテルジアに被さっていた黒い布を拾い上げ、身にまとった…あぁ、ローブだったのかあれ。
「話していいの?」
「…元帝国王政の要人たちを討つことは罪には問われない。あたしは現行の国越共通法に則った行動をしただけだもの」
彼女の目的はテルジア・セルの殺害のみなのだろうか。監禁された子供たちに危害を加えるつもりは無さそうだが…よし、ここは思い切って聞くしかない。
「一つだけ、聞いてもいいかな」
「…何かしら」
彼女は伏臥状態で事切れたテルジア・セルの首筋に指を当てて、脈と呼吸の有無を確認してから問いかけに応えてくれた。
気が変わらないうちに、少しでも情報を引き出せれば…。
「君はテルジア・セルの殺害に特別こだわっていたみたいだけど、どうしてそこまでして…?」
少女はテルジア・セルの死に顔を怨めしそうに睨みつけて、再度剣を抜いた。両手で柄をしっかりと握り、高々と振り上げ…ヒュンと風を切る音と共に、首を刎ね落とした。
ガキィンッ!
刃が床のコンクリートと激しくぶつかり、僅かに火花が飛び散る。私の経験上、人間は頭と体を切り離されるとそう長くは持たない。細身の剣で綺麗に首を刎ねるには技術が必要だが、確実に殺害出来る方法だ。
テルジアの頭は首の支えを失い、上向きにゴロンと転がる。
少女は振り下ろした剣を持ち上げ、付着した血液をローブの端で拭った。勢いが余ったのか、刃が少し欠けている。それでも彼女は気にせず、腰に差した鞘へと刀身を納めた。
それ以上は特に何もせず、私の側を通り過ぎて鉄扉へと向かった。そしてドアノブに手をかけた直後。
「…あたしの目的は賎しくも逃げ延びた旧帝国王政の要人全員を、この手で抹殺すること。ただそれだけよ」
先程の質問から時間を開けて、返答した。
「…もしあなたが今後も雇い主から同様の依頼を受けるのであれば、再び見えることもあるでしょう。けれど…」
少女は俯き加減にこちらへ振り返って、テルジア・セルへ送られていた殺意と同じ感情を剝き出しにした。
「あたしの邪魔をしたら、あなたも殺すから。」
…禍々しくもあり、それでいてあまりにも純粋すぎる殺意。
無邪気で自由奔放なミアちゃんの殺意とは違って、痛烈だ。
彼女の言葉を都合よく解釈するなら、今のところ敵勢力ではない、という認識でいいのかな。
「わかった。君の邪魔にならないよう、今後は雇い主としっかり相談しておくよ」
「…ふん」
理由はどうあれ彼女が身に宿す旧帝国王政への怨念は計り知れない。
いつかその身に抱えきれなくなって、自身を滅ぼさなければいいが…。
「………ッ」
テルジア・セルの抹殺を果たし、私に言いたいことを伝え終えた少女はドアノブを握りしめていた。しかし防護魔法によってロックされたノブが、ヒトの生身の力に負けるはずもなく。
「……ッなんなのよこれ。開かないじゃない」
「ごめん、開かないようにロックしちゃった」
軽いノリで応えたところ、少女は真紅の瞳に怒りの炎を宿らせて抜刀した。
「…早速殺されたいのね。」
「いやいや、君の邪魔をしたい訳じゃなくてさ」
これ以上死体が増える前に、テルジア・セルが仕掛けたかもしれないトラップの可能性について説明した。
すると少女は剣を下ろして、丸出しの殺気を消し去った。
「…一理あるわね。テルジアは帝国から落ち延びる際、自分のペットごと執務室を焼き払った女だから」
「ああ、本にも記載されてたよ。十五年近く連れ添った大型犬だよね」
本の情報によると、テルジア・セルは雲隠れする直前に自身の足取りを気取られないようにするため、ゲージに入れた愛犬が眠る自室兼執務室に火を放った。
もし彼女が愛犬を心底愛していて、当時の判断を毎分毎秒後悔していたとしても、ドクズには変わりない。
私は少女の反応を伺いつつ、子供たちが閉じ込められている檻へ向かった。
…うん、やっぱり彼女の行動を阻害しない限りは咎める気はないみたい。
「あ…あ………」
まずは檻に触れる前に、外から子供たちの身体を観察する。
汚物にまみれていて衰弱が激しいものの、皆呼吸はしている。不幸中の幸いだ。
檻の広さは1.6m程度の正四角形。壁の隅に便座があるため、面積は更に狭くなる…子供とはいえ、窮屈すぎる環境だ。
衣服すら与えられない彼らがいかに劣悪な扱いを受けていたかは、やせ衰えて浮き上がった肋骨や、体の至る所につけられた打撲痕がありありと物語っていた。
「ごめんね、すぐ出してあげるから」
テルジアは自分の愛犬をも手にかける奴だ。子供たちがの体内に爆発物や毒物が仕掛けられているかもしれないので、透視スキルで全員の肉体を隅々まで観察する。
…よかった、彼らにトラップなどは仕掛けられていないようだ。
システムがダウンしているとはいえ、檻も事前に調べておく。
む、こちらは鉄柵内部に発熱機構も熱線が組み込まれている。檻を高熱状態にして、脱出を阻止していたらしい。しかし私が放った電流で破壊されたみたいだ。
他にも壁や天井を隈なく調べ上げて、こちら側にトラップは仕掛けられていない事を確認した。
最低限の下準備は済んだ。後はこの子達を安心させるための光源を用意しないと。
まず光の門を開く前に、鉄扉調査中の少女に声をかけた。
「えーと、そこの君。いま暗視スキル使ってるよね?」
「…だったら何なのよ」
「今から光源用意するから、暗視スキル切って目ぇ瞑っといて。眩むよ」
「…ふん」
少女は愛想無く私に背を向けた。いやはや、背後を見せているというのに全く隙が見えない。
私は彼女が心変わりする前に暗視スキルを切り、光の門を開いて薄く発光する球を四つ召喚。それぞれ天井の四隅に設置して、徐々に光量を上げていく。
「ん……っ」
子供たちは光を目にしたとたん眩しそうに瞼を閉じた。皆ちゃんと意識はある。視覚も機能している。
…しかしこの地下室、光の下で見るとますます酷いな。
コンクリートの壁や天井には飛び散った古い血痕が染み付いていて、檻の隣にはあまり洗濯されていなさそうなシーツがかかった薄汚い金属のベッドが存在している。
子供たちはここでテルジアや男たちに性的暴行を加えられていたのか…心底反吐が出る。
今すぐ塵にしてやりたいが、これもテルジアが犯した罪の証拠…感情をグッと堪えて、ベッド脇の金属ロッカーを開いた。
中にはハンガーにかかった白衣が十着かけられている。何のために使われていたのかは、もう考えたくもない。
私は白衣を全て手にして、二枚ほどテルジア・セルの遺体に被せた。現状彼らがどこまで視覚情報を把握出来ているか不明だが、斬首された死体はショッキング過ぎるだろうからね。
残った八着の白衣を携えて、私は地の門を開いた。
檻の金属を液体のように操作して、左手の上に集約。ボウリング球くらいの鉄球に変換して、床にそっと置いた。
ようやく遮るものが無くなり、私は子供たちの側に駆け寄って膝をついた。
「よく頑張ったね。もう大丈夫だからね」
「あ……」
風の門を開き、鋭い風の刃で白衣を一着横に六等分。短めの布を六つ作った。残りの一着は袖を切り取り、縦に四等分。袖と合わせて長めの布を六つ用意した。
次に、出来上がった布を水温操作した水魔法で温かく濡らし、絞り上げた。
まず最初に特に衰弱が激しい、一番体の小さな女の子を抱きかかえて、体に負担をかけないよう付着した汚れを拭き取っていった。
皆脱水症状は起こしていないものの、見るからに栄養失調状態だ。ずっとトイレの水で渇きを凌いでいたのだろう…可哀想に。
「(魔力を栄養に変換して分け与える禁術はあるけど…あの子がいる前で使うのはリスキーだなぁ)」
遠巻きに少女を眺める。すると彼女は未だ扉の方を向いたままだった。
私はこれ幸いと彼女に背を向けて、なるべく目立たないように禁術指定No.44725『エテュケ』を発動した。
効能が強化されている事を念頭に置いて、抱えている少女のみならず倒れた子供たちにも栄養を付与していく。
今の私の残存魔力はかなり量があるため、いきなり多量に与えると肉体に負担がかかるから、点滴的な感じにじわりじわりと、時間をかけて浸透するように施して…と。
あと三十分もすれば栄養が全身に行き渡るだろう。
手を止めずに少女の身体を浄化していると、ふと背後に人の気配を感じた。
振り向くとそこには厳しい顔の少女が居て、私を見下ろしていた。
「うわ、びっくりした」
「………」
少女は無言で私を睨みつけて、傍に置いていた温かい布を手にした。そして自分が汚れることも厭わず、もう一人の女の子を優しく抱えて、体を浄化し始めた。
「手伝ってくれるの?」
「…どのみち部屋から出られないし、何もしないと時間の無駄だから」
少女は表情や言動とは裏腹に、とても柔らかい手つきでこびりついた汚れに布を当てて、ふやかしてから拭き取っていた。
この子もミアちゃんと同じく、根は優しいんだね。
たぶん性格上言葉にすると怒るだろうから、ありがとうとだけ伝えておいた。
少女の手を借りたことで、子供たちの浄化はスムーズに進んだ。綺麗になった子の身体を白衣で包んで、長い布を丸めた枕に頭を乗せて寝かせる。
徐々に栄養が行き渡り始め、最初に浄化した少女から小さな寝息が聞こえてきた。
どうやら無事に難は脱したらしい。最後の男の子を寝かせたところで、ほっと一息ついた。
「ふう、おかげで手早く済ませられたよ。ありがとう」
「…別に。あんたが扉のロック解除しないと出られないから、早く済むようにしただけよ」
あくまで自分の為にしたことだ、と念を押された。今はそういう事にしておこう。
「ごめん。トラップの有無を調べたらすぐ開けるから…と、その前に私達の汚れも落とさないとね」
子供たちの汚れに加えて、テルジアの返り血を浴びた少女は間違いなく通報ものの外見になっていた。私は少女に目を瞑って、少しの間息も止めておくよう指示した。
「…変な事したら、切り刻むから。」
「ちょっと温水で洗うだけだよ。私もやるし、すぐ済ませるからさ」
そう言って水の門を開き、召喚した温水で私と少女の全身を、絶えず動き回る水流で包んだ。
細かい泡と螺旋を描く水流は体と着衣の汚れを根こそぎごっそり洗い落とし、トイレに吸い込まれていった。
最後に残った水分を操作してきっちり乾燥させ、シワがパリッと伸びた美しい仕上がりに。
…洗濯屋をやるって手もあったな、これ。
少女は綺麗になった自分の体を眺めて、小さく鼻を鳴らした。
「…ふん」
どうやらお気に召したご様子。なんとか切り刻まれずに済んだ。
「それじゃあトラップを探ってみるから、子供たちのこと見てて貰っていいかな」
「…さっさとしなさい」
少女は子供たちの側で腕を組み、壁に寄りかかって目を閉じた。先程の調査で彼女たちの周辺にトラップらしきものは発見出来なかったが、不測の事態には備えておきたい。
炎、ガス、毒、湯、水、煮え油、崩落…思いつく限りのシチュエーションを想定して、私は少女と子供たちの体に防護魔法を展開した。
防護魔法は効果を発動しない限り極めて知覚しにくいものなのだが…魔法が少女の全身を包み込んだ瞬間、彼女は僅かに反応を示した。
しかしすぐにそれが害の無いものと判断したらしい。脅威的な勘の鋭さだ。
私は子供たちを少女に任せたつもりで鉄扉の前に立った。
扉の防護魔法を解除して、右手のひらを押し当てる。
魔力を扉から壁へ、天井へ、建物全体へと伝達させて、内部を事細かに探った。
すると。
「…やっぱり。扉を閉めたら自爆機構に接続した状態になって、カード型の鍵を押し当てて解除しないと上の建物が爆発…崩落して生き埋めになる仕組みだよ」
少女が扉を閉めなければトリガーはセットされずに済んだ…って単純な話ではない。どのみち一定時間開いたままだと勝手に扉が閉まるシステムが備わっていた。
当然、知り得た情報は少女にも共有しておいた。
「…チッ。死んでも面倒かけるなんて最悪な女」
「爆薬は骨子となる柱に五つ仕掛けられてるみたい。でも成分から見てシンプルな黒色火薬を使用しているみたいだから、これなら…」
魔力を巡らせて爆発物の位置を特定したまま、水の門を開きそれぞれの爆薬の周囲に濃霧を発生させる。
いずれも湿気を遮るシートで覆われているけれど、私の魔法の前では無いも同然。ナノ粒子化した水分を僅かな隙間から浸透させ、火薬を多分に湿らせていく。
そして扉内部と爆薬を繋げている金属コードを操作して切断すれば…ガチャ、と不用意に扉を開いても点火装置が作動することもなく。
「爆発物の処理は完了。もう外までトラップは無いから、出ても大丈夫だよ」
この子は時間の無駄が嫌いみたいだから、なるべく手早く事を済ませたつもりだけど…果たして。
「…良い手際ね」
仕事にご納得いただけたようだ。
少女は早速壁から離れて、開いた扉の先へ歩いてゆく。
…かと思われたが、私の隣に並んだ途端に歩みを止めて問いかけてきた。
「…あなた、これからも元王政関係者を追うのよね」
「え?んー…わかんないけど、雇い主から依頼されたら追うかも」
少女は高圧的にずいっと身を乗り出し、私の胸の中心に人差し指を突き立てた。
「…マテリアライズシステムの停止や多彩な魔法での適切な対処。テルジアの監視網をちまちま破壊することしか出来ず、手をこまねいていたあたしにとって利用価値が高い人材だわ」
「はあ…」
「…手を組ませてあげてもいいわよ」
「はぇ?」
いきなりの上から過ぎる提案に、気の抜けた声が漏れる。
「…手柄や報酬金は全部あなたの物にしていいわ。その代わりあなたが知り得た元王政関係者の情報や抹殺依頼、全部あたしに流しなさい」
「ちょっちょっちょ…いきなりそんな事を言われても私一人じゃ判断しかねるよ。せめて雇い主と話し合ってからでないと…」
「…きっと許可を出すわよ。あなたとよく似た、お人好しの団長ならね」
団長。現代の広義ではグローデン騎士団団長であるスコット君を指す場合が多い。
当てずっぽうにしてはあまりにも確信的な態度…となるとこの子は、最初から私とスコット君の関係を知っていた?
…そういえばこの子、私が使った複数属性の魔法を目の当たりにしても全く動じていなかったね。初見ならまず驚かれるものなのに。
「君、私のことを調べたの?」
「…別に知りたくて知ったんじゃないわ。日陰者の間で噂になってただけ…最近、破滅とつるんでる奴がいるって」
日陰者…アウトローや裏の人々がこぞって自称するという名称だ。破滅ことミアちゃんも日陰者寄りだから、彼女の悪名と共に私の存在も広まっているらしい。
「…破滅はヒトとしてクズだけど、情報の鮮度と確実性だけは信用出来るわね」
そう言いながら少女はスカートのフリルの隙間から、ボロボロの黒いデバイスを取り出した。
相当ひどい扱いを受けているのか、彼女が見せた画面には細かな亀裂が走っていた。
割れたパネルの奥に視線を集中させると、私の顔写真が添付されたテキストメッセージが表示されていた。
「えーと…「明日の日暮れ時、テルジア邸宅前にて待機。添付した画像の人物が突入の機会を生むので隙を突いて侵入するべし。…PS.ボクの大切な親友&師匠なので画像の人物には絶対に危害を加えないこと」…って」
…ミアちゃんめ。さては情報料のために私を利用したなぁ?
道理で少女が突入するタイミングがいやに正確過ぎたわけだ。
しかもこのメッセージ送信日、昨日の日付けだし。
私が依頼を受けたのは数十分前…そして先程彼女が溢した、騎士団長と面識があるような口振り。
これらから導き出される答えは。
「君も騎士団関係者…なの?」
「…いいえ全く。あたしはあたし個人の意志で動いているわ…現時点ではね」
多少含みのある言動ではあったが、少女は騎士団に属していないときっぱり言い切った。
んー…となれば。
騎士団関係者ではなくて、ミアちゃんとも面識があって、元王政関係者に強い恨みを持つ立場の人物…。
「物語でよく見るコッテコテな推察だと、悪の帝国王族の血統でありながらも義勇の心に目覚めて、謀反から落ち延びた王政関係者を討ち滅ぼすため密かに暗躍する亡国の姫君…なんてことは流石に無いよね」
「………」
少女は今日一番厳しい目つきで私を睨み付けて、顔を背けながら舌打ちした。
「…コッテコテで、悪かったわね」
「…マ?」
なんか私以上に主人公らしいドラマ持ってる奴出てきよった。
新たなファクター、コテコテ姫との出会いが私の今後にどう影響を及ぼすのか…それはまた別のお話なのである。
続く。




