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不滅のアトラ  作者: 鉄すらぐ
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レア確だと逆にテンション上がらんね

 イベントスペース内の六階建てビル。

 現在は人が出払っていて閑散としているけれど、ここは主にイベント主催者たちがミーティングを行うため建物らしい。

 一階はイベント用具を一時保管しておける貸倉庫、二階は出演者たちがリハーサルを行える広々とした稽古場、三階と四階は会議室で、五階と六階がフリースペースになっている。

 んで、私達の現在地は四階。通路の大窓からゴミゴミとした外の景色を眺めつつ歩いていると、イスが「第二小会議室」と書かれた部屋の前で足を止めた。


「宝箱はこちらの部屋の中にあるようですわね。しかし機械錠でロックされておりますわ」


 機械錠。現代ではごくポピュラーな様式の錠で、専用のカード型キーか登録デバイスでしか正式な解錠が出来ない、セキュリティ性高めの鍵…だそうだ。

 これはドアノブと一体化したタイプで、四角く白いカバーから生えたノブの隣に細い縦の切れ込みが入っている。ここにカードキーとやらを読み込ませるみたいだ。しかし。


「しかもレルテアSS(セキュリティサービス)社製と来ましたか…弱りましたわね」


 基本自信に満ち溢れているイスが、ここに来て初めて弱気な発言を溢した。


「天下の盗賊王の娘さんをも手こずらせるほどの鍵なんだ」


「ええ、まあ…レルテアSSの機械錠には不正アクセスを検知する機能がデフォルトで備わっておりまして、我々盗賊の機械錠用ピッキングツール、ダミーカードキーに正規解錠プログラムをインストールしても検知されてしまい、警備部隊を呼ばれてしまいますの」


「鍵としてはすこぶる優秀だけど、盗賊にとっては天敵ってこと?」


「ええ。盗賊特約によって、イベント開催範囲内でセキュリティシステムを作動させても逮捕はされませんが、代わりにチャレンジに失敗したと見なされてしまいますので、ここからは少し慎重に…」


「そういえば先程、撃破した団員の方から渡されたカードキーがあるのですが…もしかしてこちらの扉の鍵なのではないでしょうか」


 そう言ってテティスが取り出したのは、ドアの機械錠に似たデザインの一枚のカードだった。


「後で必要になるので、と仰っていましたから、恐らく間違いないとは思うのですが」


「まあ…」

 

 イスは差し出されたカードキーを手にして、表面と裏面を念入りに調べた。


「間違いなくレルテアSS社製のカードキー、しかも本エリア全域の機械錠に対応したマスターキーのようですわ」


「えーと、つまりは…」


「小細工の必要が無くなりましたわ」


 イスはすかさずカードの向きを正しく持ち、機械錠の切れ込みにカードを挿し込んだ。

 すると機械錠から「ピピッ」と甲高いジングルが鳴り、ドアを縛めていた鍵が何の苦労も無く解かれ…ドアノブを回すと、実にあっけなくドアが開いた。


「でかしましたわテティス、あなたは本日のMVPですわ」


「いえいえ、わたしは何も…ただイベントを楽しんでいただけですから」


 テティスはここぞと言う時に幸運を手繰り寄せる…いや、どちらかと言うとイスの幸運を引き寄せる効果の残滓がテティスにも影響を及ぼしているのかな。

 どちらにせよ、これでいよいよレア確定の宝箱にたどり着けたわけだ。


「失礼しまーす」


 小会議室なだけあって室内は狭く小ぢんまりとしている。部屋の中央に隅に長机が一つと、会議で使う椅子が隅に積み重ねられているだけの質素な空間だ。


「パッと見、宝箱は見当たらないね」


「左の壁に小さな収納スペースがありますわね。ほらここに」


 イスが壁に触れると、壁紙の一部がぱこっと左右に開いた。

 中には彼女が判断した通り、赤と金で装飾された絢爛な手箱こと、宝箱が置いてあった。


「おお、全然わかんなかった」


「隠遁スキルで隠されておりましたから、視覚的に把握することは難しいんですのよ。けれどアトラのスキルなら見切れると思いますわよ」


 カモフラージュを見破るスキルなら…ってことかな。

 とりあえず最初に思い浮かんだ知覚系スキル「暴き目」を発動してみた。


「あ、ほんとだ。本来は木目調の扉になってるんだね」


「そこまではわたくしもわかりませんでしたわ。ともかく、これでようやく新生ピッキングツールの使い心地を試せますわね」


 イスは浮足立ちながらも宝箱や付近にトラップが仕掛けられていないかチェックして、慎重に宝箱を取り出した。

 錠前の構造はこれまでの見てきた宝箱と同じで、アナログな鍵穴がついたこれ以上ないくらいシンプルなもの。

 …てかこれ装飾だけ豪華にしただけで、箱自体は今までの手箱と同じものなんじゃ…。


「さて、トラップの最終確認も済みましたので、早速解錠を進めて」


 かちゃん。

 不純物を取り除いた新生ピッキングツールをウキウキで鍵穴に挿した瞬間、いきなり鍵が時計回りに回転し、今日何度も聞いた解錠の音を閑静な室内に響かせた。

 イスは真顔で自身の手元をじっと見つめて、次に私とテティスの顔を眺めた。そして再び手元の宝箱を凝視して、ピッキングツールを引き抜き、宝箱の上蓋を持ち上げた。


「…開きましたわ。」


「開きましたね…」


 イスは開けたばかりの蓋を箱に被せて、宝箱の自動ロックをかけた。そして今度はゆっくりとピッキングツールを挿し込み、僅かに手を動かしただけで、あっさりと鍵が開く音が聞こえた。


「…凄いですわこれ。まるで鍵穴に神経が通ったような感覚で、どこのピンをどう押せば開くのかが一瞬で理解できますわ」


 どうやら不純物を取り除いたことで、ピッキングツールに良い変化が起きたらしい。


「手指に伝わる振動がより鮮明化して、内部構造の解像度が格段に上昇したと言いますか…このピッキングツールが世に出回れば、盗賊業界に革命が起きますわよ」


 興奮気味に語るイスだったが、私にはあまりピンと来なかったので、箱の番号札を取ってからそこそこに話を流しておいた。


「悪い方向に変化してなくて良かったよ。それじゃ札も手に入ったことだし、そろそろここを出ようか」


「そうですわね。番号札もある程度集まりましたし、あとはイベント終了時間までゆっくり過ごしましょうか」


「それもいいねぇ。テティスはどうしたい?」


「十分楽しませて頂いたので、わたしもお昼はゆっくり過ごしたいです」


 テティスはイスの仕事っぷりを間近で見られて、自分自身も団員相手に健闘を繰り広げたからか、すっかり満足顔に浸っていた。

 彼女が楽しめたのなら何よりだ。


「それじゃ受け付けの人にマスターキーを返して、後は適当に遊ぼっか」


「いいですわね。でしたら今日はアトラの趣味に合わせて、近くのレステ図書館に行ってみませんこと?」


「え、私の趣味に合わせてもらっていいの?」


「わたしも鉱物について調べたいことがあったので、大賛成ですよ」


「わたくしも論文の参考書物を探したいですわ」


 三人とも基本的に本をよく読むほうなので、無理矢理付き合わせる…ってことにはならないか。

 だったら気兼ねなく、イスが提案したプランに乗っからせてもらおう。

 こうして私達は無事にレア確定番号札を手に入れ、イベント終了時間前まで図書館にて有意義な休息を楽しんだのであった。


---------


 数時間後、冒険者ギルドにて。


「交換お願いしまーす」


「イベント参加お疲れ様でした。こちら、引き換えアイテムになります」


 日が暮れるなか、宝探し大会は大きなアクシデントに見舞われることなく無事に終了し、番号札を手に入れたパーティがギルドカウンターで一喜一憂しながらアイテム交換を行っていた。

 番号札を渡してアイテムを交換するだけなら全員で行かなくても良さそうなので、代表としてイスに並んでもらい、私とテティスは入り口あたりで彼女が戻ってくるのを待っていた。

 その間私は他のパーティの会話に聞き耳を立てて、時間を潰していた。


「それにしても高難度エリア、難しかったねー」


「やっぱ騎士団は敵に回したらダメだな…これからもまっとうに頑張ろうぜ」


 いくつかのパーティも他の高難度エリアに挑戦したようだが、結果は惨敗だったそうだ。

 しかし彼らに負けたからこそ活路を見出した者も多いみたいで。


「やっぱ騎士団の入隊試験、受けてみよっかな」


「冒険者稼業も楽しいけど、憧れるよねぇ…」


 再び帝国王政の悪夢を再来させないために、圧倒的な強さと誠実さを誇示し続けなければならない騎士団の仕事は言うまでもなく過酷だが、それだけやり甲斐もある。

 知らんけど。


「では次のパーティの方、こちらにどうぞ」


「よろしくお願いいたしますわ」


 お、とうとうイスの番だ。

 彼女は束ねた番号札を受付嬢に渡して、にこやかに佇んでいる。


「えーと、通常の番号札が七枚…そして、レア確定札が一枚ですね。少々お待ち下さい」


 レア確定札と聞いて民衆がどよめき立った。


「レア確定札ゲットしたんだ…流石はイス様のパーティ」


「てことは団員たちを撃破したのか…戦士としても盗賊としても超一流だなぁ。格好いいぜ」


 妬みや嫉みを生ませる前に、実力でねじ伏せるのがイスのスタイル。彼女もまた、人々の規範となる佇まいを体現し続けなければならない者の一人だ。


「おまたせ致しました。こちら番号札のアイテムと、レアアイテムになります」


「どうもありがとうございますわ。また機会があれば、イベントに参加させて頂きます」


 イスはギルドのトートバッグを受け取り、柔らかくお辞儀をしてからカウンターを後にした。

 そして民衆の視線を集めながら私達の元へと戻り、一緒にギルドを出た。


「なんだかんだ充実した一日だったねぇ。ところで、どんなアイテムが貰えたの?」


「マテリアル、治療薬、武器屋の割引券などですわね」


「貰うとちょっと嬉しいシリーズだね」


「マテリアルはいくらあっても困りませんからね。ああそれと、こちらがレアアイテムの…」


 と、イスがトートバッグから取り出したのは。


「超貴重なドレステミル原産の「ハトゥーサ鉱石」三つですわ」


「地元の石じゃねぇか。」


 ハトゥーサ鉱石。ドレステミルの地面を掘ればだいたい見つかる、魔力を秘めた薄緑色の石だ。

 武具やマジックアイテムに加工すれば町の外で高値がつくと言われていたが、個人的にこの石には、庭仕事をしていた時期に幾度もセクシー根菜を量産された恨みがある。

 取ってもすぐに新たなハトゥーサ鉱石が地中で形成されるので、畑を諦めるハメになったんだ。

 それでもこの石がレアと呼ばれる由縁は、外部から来た者が好き勝手にドレステミルの土地を掘り返せないので、土地の所有者がハトゥーサ鉱石を売りに出す機会を持たなければならない。


「うわぁ…うわぁ!本物のハトゥーサ鉱石、初めて目にしました!」


 ご多分に漏れずテティスは鉱石を目の前にして興奮を抑えきれずにいる。ガン萎えの私とは対照的過ぎだわ。


「三つあるので、一人一つずつ分けましょう」


 いらねぇ。


「…私には必要ないから、テティスにあげるよ」


「いいんですか!?ありがとうございます!」


 どうせ実家に帰ったら腐る程手に入るんだし、貰って喜ぶ人に使ってほしい。

 ちょっと残念なオチにはなったものの、一日平和に過ごせたから良しとしますかね。

 と、フラグが立ちそうな台詞を心のなかで呟いた瞬間、私のデバイスがポケットの中で震え出した。

 この振動パターンは…スコット君からのメッセージだ。

 私はこっそりとデバイスを手にして、画面を立ち上げた。

 そして届いたばかりのメッセージをタップすると、そこにはこう記されていた。


『アトラ様。まだレステシティに逗留しているなら、執行者の急務をお願いしたい』


 …どうやら私の一日は、平穏無事には終わらなそうだ。


続く。

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