やっぱ物語のようにはいかないね
グローデン騎士団。
一部地域を除いて、統治下にある国家の行政・立法・司法・軍事活動の一切を取り仕切る、ダムデル最大の組織だ。
災厄そのものであった元凶、帝国王政を討ち滅ぼし長きに渡る腐敗から脱却。
正義感の塊とも称するべき騎士団長・スコット君が玉座について以降、騎士団の平均戦闘能力がかつての数十倍にまで引き上げ
られたとか。
つまり何が言いたいのかというと、現在私達が対峙している相手は、物語でよく見かける端役として使い捨てられる雑兵たちではないってこと。
「ふッ!」
「はぁっ!」
「っとと」
一人、二人、三人、四人と次々折り重なって襲い来る鋭い連撃。
獲物はおもちゃなのに、まるで真剣を振り回しているようなこの気迫。スキルで動体視力を最大限強化していても紙一重で躱すのがやっとなくらい、一太刀一太刀が洗練されている。
これが宝探し大会開始直後、最初の宝箱を探しに行く道中でイスが語っていた、騎士団を敵に回したくない理由のひとつ…騎士団の真骨頂か。
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遡ること数十分前。
イスが探知した直近の宝箱に徒歩で向かっていると、世間話感覚で語り始めた。
「騎士団の真の強さはチーム戦にある…か」
「ええ。特にこの高難度エリア、セス=レモアへと派遣された団員は一人一人が屈強かつ並以上の戦力を有する上、スコット考案の二種の戦術を皆伝した猛者揃いでして…」
「スコット君考案ってだけでもう厄介な匂いしかしないね」
「個人戦術『単』も厄介なのですが、今回特に脅威と成り得るのが、複数人で死角をカバーしつつ怒涛の攻めを繰り広げる複数人表裏一体の型、『袷』ですわ」
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動体視力強化スキルはあまり長く持たないから、回想も必要最低限で済ませておこう。
袷の型…団員同士が背を預け合い、私達の死角で次の攻撃の準備を整え、対応策を講じる前に別の団員と入れ代わり、攻め手を弛めない攻防一体の戦術。
恐らくセス=レモアの魔物を相手にするために考案された戦術なのだろうけど、イスが言っていた通り対人でも十分な脅威となっている。
…ただそれはあくまで、近接戦闘が得意じゃない私に限った話だが。
「くっ!?」
「不覚…!」
我がパーティのゴリゴリパワーアタッカー・イスと、速技に定評のあるテティスが袷の型を掻い潜りつつ、団員たちの体に取り付けられた風船を正確に割って、次々と撃破してる。
「なんのッ!」
短いスカート姿で男性の団員相手に遠慮なく脚撃を繰り出すイスも相当だが、彼女の色香と知名度に惑わされず本気の攻撃を仕掛け続ける団員たちも大したものだ。
下卑た欲望に拐かされ、あっけなく命を落とす人はこれまでにウン無量大数と見てきたから、彼らがいかに誠実な者の下で誠実に過ごしてきたのか、身をもって体感できた。
…こういったイベント事ではしゃしゃり出ず、テティスたちが楽しめるよう極力手を出さないつもりでいたが…それは彼らに対する侮辱に等しい。
そろそろ動体視力強化スキルも切れる頃だ。
一人だけ惨めにやられる前に、少し抵抗させてもらうとしよう。
「(団員たちに傷付けず、風船だけを確実に割る方法なら…)」
スキルの効果切れ直前、私は風の門を開いて付近の団員十名に取り付けられた風船に照準を合わせて…
パンッ!
「えっ」
「ッ!?」
風船内部の空気を操り。数倍に膨張させ、風船だけを的確に破裂させた。
突然の事に団員たちは戸惑いを見せたものの、自身の風船が破壊されたことを確認して、振りかざしたウレタンソードを退けた。
「今、何が起こった…?」
「わからない…が、撃破されたのは確かなようだ」
「(ここの団員は魔法に疎いのか…けど助かった)」
私の周りの団員はこれで全員倒した。他の団員たちは…うん、イス達が圧倒してる。この広場を制圧するのも時間の問題だろう。
イスは既に宝箱がどこにあるのか把握しているから、次は団員たちの襲撃に備えつつそこに向かって移動すればいいだけ
プァーーーーン!!
「うわっ、なにこの音」
次の行動を思案している最中、いきなりイベントスペースにけたたましいサイレンが鳴り響いた。
それと同じくして、受け付け係の団員が手を叩きながらこちらに近付いてきた。
「はーいお疲れ様です。今しがたティス様が撃破された団員が本エリア最後の戦闘員でしたので、これにて全団員撃破となります」
「えぇ…」
ちょっと真面目に戦略立て始めた所だったのに、出鼻を挫かれた。と、気を弛めかけて即座に精神を律した。
「とか言いつつまだ建物に団員が潜んでいたり、あなたがいきなり斬りつけてきて「実は私も戦闘員でして」って展開に」
「奇襲は思わぬアクシデントに繋がる恐れがあるため、本イベントでは行われません。実のところステージエリアや建物エリアにも人員を配置していたのですが、皆様の猛攻が予想以上に凄まじく…急遽、こちらに人員を寄越したみたいですね」
今回自分はあくまでイベント係員ですし…と苦笑する彼も、この展開は予想していなかったらしい。
撃破人数は…合計で64人か。テティスと出会った採掘場の潜入団員よりも多いあたり、イベントに対する本気度が伺える。
「団員たちの太刀筋を見ていても、誰一人として手を抜いていなかったのは明白ですが…ソダム様相手では、我々の剣技など児戯に等しいと実感させられましたよ」
読み取ったギルドカードの情報から私が伝導師ソダムと知りつつも、大仰なリアクションを取らないでくれるのはありがたい。
そもそも伝導師ってのは、世間から勝手に呼ばれてるだけだからなぁ。
「いやいや、スキルを使ってなかったら秒殺されてたのはこっちだったよ」
暗に「てめぇら秒殺してやったぜ」的なニュアンスの発言をしてしまったが、彼はカラッとした笑いで受け流した。
ちらりと撃破された団員たちにも目を遣ると、彼らは前向きな顔で互いに健闘を称え合っていた。
…私のガラには合わないけれども、何というか…良いなぁ、こういう雰囲気。
「…対峙して改めて思ったんだけどさ。この街の人々が安心して暮らせているのは、君たちみたいに優れた人材が日々尽力してくれてるからなんだね」
「ははは、そう言っていただけると報われますよ。もっとも、現在まで続く平穏を作り上げた騎士団長とイス様の前で、偉そうな顔は出来ませんがね」
「何をおっしゃいますの。わたくしが安全に遺跡探索を行えて、国家に分配出来る程の富を無事に持ち帰れるのは、あなた方騎士団員が道沿いの魔物を定期的に討伐してくださっているからですのよ」
現代の街や国家が現在のレベルにまで発展出来たのは、現場で働く彼ら、縁の下の力持ちが活躍してくれたからなんだよね。
「私も胸を張って君たちの一員だと言えるように…いつか肩を並べても恥ずかしくないように、努力するよ」
「…はい!」
団員たちが醸し出すいい雰囲気。
私も少しは近づけるかな…なんてクサいこと考えてたら、グローブをつけたままのテティスが控えめに挙手した。
「あの…何やらもう大会が終わった雰囲気を出されてますが、まだ宝箱を発見していませんよね…?」
「…あ。」
いい感じなだけの空気感に感化されて、我々はすっかりやりきった気持ちになっていた。
団員を倒しても宝箱が手に入るわけじゃないのに、何やってんだか。
テティスの一声で現実に引き戻された私達は、イスが探知したレア確宝箱に向かって、敵の居なくなった高難度エリアをゆるりと進むのであった。
続く。




