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不滅のアトラ  作者: 鉄すらぐ
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エンジョイ勢のお宝探し

「盗賊スキル『クリアサーチアイズ』…見つけました、宝箱ですわ」


 レステシティの一画で始まった、冒険者ギルド主催の宝探し大会。

 宝箱の総数は不明だが、設置されているのはギルド支部を中心に据えた半径10km圏内。路地裏や物陰といった定番の隠し場所から、巧妙に偽装されたハリボテの壁の中など、わりとトリッキーなんだけど…


「鍵穴に罠…単純な電磁パルス発生装置ですわね。これは絶縁ピックで回路の一部さえ壊してしまえば無いのも同然…と、開きましたわ」


 わかりきっていたものの、曲がりなりにも「盗賊王」を自称するラルハール君の娘、と名乗るだけはある。

 街中に隠された手箱サイズの宝箱をピンポイントで見つけ出し、迷いなく入手して息をするように罠解除&解錠…手際が良すぎてただの流れ作業を見ている気がしてくる。


「これで七枚目の番号札ゲットですわ。さて、お次は…」


「さすが大した腕だねぇ。直に見てみるとより、ラルハール君の手癖が染み付いてるってわかるよ」


「そ、そうですか?」


 敬愛するラルハール君に手腕が似てると言われて、イスは本気で嬉しそうだ。

 彼女が使用する細長い金属棒、ピッキングツールはラルハール君が使っていたものとは違うけど、形状や金属の摩耗箇所までもが似通っている。今も彼の教えを遵守し、たゆまぬ努力を積み重ねてきた証だ。


「イスさん、少し道具を見せていただいてもよろしいですか?」


「ええ、構いませんわよ」


 テティスもイスの道具に興味が湧いたのか、彼女のピッキングツールを手にとってまじまじと観察し始めた。


「ピッキングツールの金属部分…堅固なラーレル鋼に柔のスダン重鉛とクロツアルミを混ぜた輝き…ファルトテック製鋼のロスレル合金ですか」


「まぁ。よくおわかりになりましたわね」


 あ、道具の金属に興味が出ただけだった。しかも当たってるみたいで、二人は謎の盛り上がりを見せている。


「現場で使用していた採掘具もロスレル合金だったんですよ。硬くしなやかで、岩盤の具合が手に伝わりやすいと作業員たちに好評でした」


「まさにその通りですわ。まるで延長した指の骨で鍵穴を探るかのような、あの直接的な感覚を知ってしまうと他の金属では満足出来なくなりますの」


 自らの技術はもちろんのこと、道具に重きを置く専門職たちは楽しそうに語らい合っている。

 特に専用武器や道具へのこだわりがなかった元案内人の私には、とても割り込めそうにない空気感だ。

 しかし私はこの、職人同士が交わす熱い専門的な会話が嫌いではない。使い所が分からない些細な知識でも、時代を経て何かしらの役には立つと知っているから。

 ただ、私が二人の会話に混ざれる要素を挙げるならば…


「けどこの…ロスレル合金だっけ。軽く探った限りでは、溶材とは別の不要な不純物の割合が高いね」


 魔法面からのアプローチくらいだね。

 ラーレル鋼、スダン重鉛、クロツアルミ…今と名称は異なるが、どの時代でも比較的よく見られた金属類だ。


「ほほう、詳しくお聞かせ願えますか?」


「わたしも、すごく気になります」

 

 専門職の二人に水を注すような切り出し方ではあったものの、特に嫌な顔をせず、興味津々に食いついてきた。


「大元のラーレル鋼…別周期に造られていた「トレバ鋼」と同じ金属でね。製造方法や環境の違いか、材料の変化によるものか…現時点での判断は難しいけど、結果として不純物が多く取り残されてて、本来の硬度に達していないみたいなんだ」


 トレバ鋼…いや、ラーレル鋼は不純物を取り除くほどに硬度が高まるため、鋳造過程よりも鍛造作業の方が重要視されていた。

 インゴットひとつ分のラーレル鋼を鍛造し続け、最高硬度に達するまでに必要な時間は、現代の気象環境や技術レベルを加味して換算すると約30〜45日程度。

 恐らくトレバ鋼とラーレル鋼の違いは、鍛造を中途半端な状態で終わらせてしまっているからなのかも。


「最高硬度に達したトレバ鋼を鎚で小突くと、聞くだけで煩悩を打ち消すとまで言われた涼やかな音色が響くんだ。当時の職人はこの音を聞くことで鍛造の疲れを癒やした、なんて言われるくらい美しい音だったんだよ」


「なるほど、鍛造時間の差…ですか。以前職場の付き合いでラーレル鋼の鍛造風景を見学しましたが、現代ではフルオートメーション化した工場で約半日程度鍛造を行ったものが、一般的な製品として出回っているようですよ」


 私の現代知識の欠けた部分を即座に補ってくれるテティスの工業系知識…実にありがたい。

 ただのピッキングツールからここまで話が広がるとは思いもしなかったが、彼女たちの領域の話に参加できて多少は打ち解けられたかな。


「まぁ現行のラーレル鋼でも、製品として問題が無いようなら下手に変化を起こす必要は無いよ。そういった性質の金属でした、ぐらいに留めておいて」


「わかりましたわ。…ちなみにですがこのピッキングツールから不純物のみを取り除いて、その最高硬度とやらに達するとどうなりますの?」


 やっぱりイスはそこに食いつくよね。地の門に属する魔法を用いれば、ピッキングツールから不純物を取り除くこと自体は容易だ。もちろん彼女にお願いされたら、二つ返事で施してあげられる。

 しかし。


「んー…更に頑強かつしなやかになるとは思う。でもそれは、これまでイスの手に馴染み、記憶してきた従来の感覚を無駄にしてしまう可能性が高いから、個人的におすすめは出来ないね」


 自分で指摘しておいてなんだけども、必ずしも洗練された道具=最高級というわけじゃない。

 ラルハール君の教えを活かすためにイスが選び、これまで使い込んできた道具だからこそ、このまま大切に使ってほしいと私は思う。

 …そう思うんだけど。


「壊れにくくなるなら多少の変化くらい受け入れますわよ。ある程度なら技術でカバー出来ますし、良い変化をもたらす可能性だってあるんですから」


 金持ちで自信家なのに妙に貧乏性なイスが、道具を長持ちさせられるかもしれない機会をみすみす見逃すわけがなく。

 苦楽を共にしてきた大切な道具を雑に手渡してきやがった。


「…まぁ再び元の混合率に戻せるから、別にいいけどさぁ。」


「さすがアトラさん、融通がききますね」


 製品から不純物を取り除けるなら、逆もまた然り。

 昔、地の門を開いたばかりの頃は、こうして金属の成分を抜いたり足したり変化させて遊んでいたからね。

 それでたまたまやべぇ性能の金属を創り出してしまって、その金属を鍛えて造った剣は今もこの世界の何処かにあるとかないとか…。

 軽く黒歴史を思い出しつつも、地の門を開いてピッキングツールの不純物を浄化。形状や使い込まれた傷はそのままに、金属のくすみだけが消えた状態に。


「…はい、取り除いたよ」


「ありがとうございますわ。ぱっと見、わずかに白くなりましたわね?」


「鍛え抜かれたラーレル鋼は純白に輝くものなんだよ。その合金には別の金属も混じってるから、外見の変化は乏しいけど…」


「使い心地は、かなり変化していますのね?」


「恐らくね」


 宝箱とか興味ないし、使い心地の変化に関しては正直よくわからん。吉と出るか凶と出るかはイスの感覚次第だ。


「早速新しい宝箱を見つけたので、試してみたいと思いますわっ」


「あ、ちょ」


 シュバッ。

 一人だけ盗賊スキルで宝箱を発見し、剛脚を活かした跳躍によって高さ2メートルはある塀を軽々飛び越えていく。

 好奇心に心躍らされたアクティブな彼女に、身軽さが自慢のテティスも続き、私は一足遅れて風の門を開き、ホバリングしながら二人の後を追った。

 時間が経過して街道を行く人々の姿も増えてきたから、ぶつからないように街中を駆け抜ける。


「ったく子供じゃないんだから、そう急くなっての」


「お二人とも流石ですわね。さぁ、宝箱はこの先ですわよっ」


 私もテティスもすかさずイスに追いつき、進行方向に見えてきたのは、確か少し前に地図を確認した際、イスが「要注意地点」と語っていた、ギルドが所有している貸しイベント会場。

 白塀と重厚な鉄門に囲まれた入り口の先に、商社風の六階建てビルが一棟。野外イベント用の広々としたスペースが三箇所。撮影用の倉庫が二棟備えられたそこそこ広いエリアだ。

 何故「要注意」と箔押ししたのかは、宝探し開始前の説明にあった「騎士団員を配置した四箇所のレア確定エリア」のひとつである可能性が非常に高いから…とのことだったが、どうやら当たりだったらしい。

 突然鉄門が左右にスライドして開き、中からグローデン騎士団の制服を身に着けた若い男性が姿を表した。

 イスは先手必勝と言わんばかりの特攻を仕掛けるつもりで加速していたようだが、私達は団員の前で急ブレーキ。突っ込む前にやむなく足を止めた。

 すると団員はにこやかに微笑み、礼儀正しく一礼した。


「おはようございます、ギルドの宝探し大会参加者の方々ですか?」


「ええ、そうですわ」


 流石は騎士団員、イスの登場に全く動じてない。

 まぁ今目の前に居る三人のうち二人が同じ団員同士だし、わざわざ騒ぐ程でもないか。

 団員は温和ながら事務的な態度で、携帯型のデバイス読み取り機なるもので私達のデバイスから冒険者情報を読み取り、正規の大会参加者であることを確認してから話を続けた。


「ようこそ本エリアへ。こちらは今大会難関エリアのひとつとして設けられたスペースでして、バトルエリアは敷地内全域になります。さて、エリアに入る前にいくつか注意点をご説明させて頂きますね」


 騎士団員とのバトルエリアって扱いだったから、もっと殺伐とした場所なのかと思いきや…始まったのは懇切丁寧な説明だった。


「まず本エリアへ立ち入る際、皆様が普段使用されている武器はこちらで責任を持ってお預かり致します。そして参加者の方々にはギルドが用意したウレタン製の非殺傷武器を装備して頂き、襲い来る団員の体に取り付けられた風船を割って全員を「撃破」するか、うまく身を隠しながら宝箱を発見し、中の番号札を入手した時点で参加者の勝利とします」


「思いっきりバラエティなんだね」


「冒険者といえど、市民の方々に我々が怪我を負わせるわけにはいきませんからね。当然騎士団員たちも非殺傷武器を装備しており、当たっても怪我は致しませんが、参加者の方々は体に三度ダメージを負った時点で「撃破」という扱いになりますので、注意してください」


「こちらは風船などの目印をつけなくていいのですか?」


「ダメージ判定は団員の武器に搭載された人感センサーと、特殊なライトで浮かび上がる透明な塗料によって行われます。もちろん人体には害のない塗料で、獣人の方の体毛に付着して乾いても、洗剤で洗えば容易に落ちますのでご安心ください」


 ふむ。ちゃんと獣人が大会に参加して楽しむことも事前に練り込まれているようだ。

 多分この大会を企画・開催したのはスコット君だろう。なんというか、配慮の仕方から見てそうとしか思えない。


「当エリア内では魔法の使用も可能ですが、狙いはあくまで風船に集中し、団員に怪我を負わせないようお願い致します。ちなみに団員に勝てないと判断した場合、「降参」と宣言していただくと、降参した方は即撃破扱いになりますが戦闘を終了出来ます。説明は以上になりますが、何か質問等はございますか?」


 聞きたいことはすべて聞けたし、説明に不足は無い。

 私達は顔を見合わせてそれぞれが装備していた武器を外し、団員に預けると、敷地内へと案内された。

 そして門のすぐ傍に用意してあった、青いスポンジ製の剣やパンチグローブ、プラスチックの弓とスポンジ矢じりの矢、レッグガードの中からそれぞれ武器を選び、装備した。

 拳擊メインのテティスはグローブ、イスはレッグガード。

 私は魔法メインだから武器は装備せず、これで難関エリアに挑戦する準備は整った。


「皆様、準備はよろしいでしょうか?」


「ええ、大丈夫ですわ」


「それでは宝探し大会、難関エリアへの挑戦を開始致します」


 団員の宣言から数秒後、入り口の門が閉じて退路は断たれた。

 これより先は勝つか負けるかの世界…なんてカッコつけてみたけど、やるのはただのチャンバラごっこなんだんだよね。

 かくして始まった難関エリア攻略戦。私はできるだけ手出しせず、やられないよう立ち回ろう。

 …心配事があるとすれば、テティスはともかくとしてイスが団員に怪我をさせないか、ぐらいだね。

 彼女の戦闘スタイルはゴリッゴリの魔物向け…対人相手にちゃんと手加減出来るかどうか、目を配っておかないと。


続く。

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