イスの盗賊家業
「つーわけで三日後にクレイオルデン縦断することになったから」
「あらあら、急に決まりましたわね」
アウードュラと別れてから一夜明けた早朝、イスが作ってくれたサラダとハムエッグとバゲットを頂きながら、私は昨日の出来事をかいつまんで二人に説明していた。
ややこしいからリセルナや神の膝元に関する話題は避けて、アウードュラ自身のことと、奴と交わした約束に重点を置きながら、ね。
「何らかの意図で復活した過去の魔物、歴戦古代種ですか。これまでに遺跡内部にて、派生元不明の強大な力を持つ魔物が何体か確認されてはおりましたが、そのような存在だったとは…」
「もしかしてわたしの故郷付近の山岳地に生息する、背から尾の先まで鎌のような刃に覆われた純白のドラゴン、守護竜ゼアルラギア様も、そのエンシェントなのでしょうか」
「ゼアルラギア…これまた随分懐かしい名前だね。特徴から言って、間違いなくエンシェントだよそいつは」
種族名は、発音すると「ルドゥーラィテ」。
現代語に訳すと「断刃蛇」と表記する、体長10〜20m程の大型の蛇。
213周期前に生息していた主要種族で、個体によって体色や背に生える刃が異なり、腹側にも刃を備えた両刃状だったり、背のみの片刃状だったり、ギザギザのノコギリ状であったりもした。
彼らは他の生物との共存を何よりも尊び、土地の開拓や町の建設、交易路整備に尽力して、ヒトビトは代わりに手指でしか行えない細やかな作業などを請け負って暮らしていたんだ。
「ゼアルラギアはその周期の中期頃にドレステミルへやってきた個体でね。当時、断刃蛇の中で最も美しいと称されていたんだよ」
「確かに…神事で一度お目にかかりましたが、遠目からでも思わず息を飲む美しさでした」
「それでいて物腰の柔らかい優しい性格だったから、種族問わず彼女のファンは山のように居たんだよね。だけど仲間を守るためなら無類の強さを誇って…」
語りながら、壁にかかっていたカレンダーにふと視線を遣った。そして日付を見た瞬間、あることに気付いた。
「…そういやアウードュラには「四日後」って伝えたけど、あいつちゃんと現在の時間経過速度で数えての四日後だってこと、理解してるのかな」
「そういえばアトラ、周期によって時間の経過速度が異なっていたとおっしゃっていましたわね」
「そうなんだよね。えーと、当時の一日にあたる時間がおよそで…」
脳内で当時と現在の時間経過速度をすり合わせ、パパっと答えを導き出した。
「…約八日、だね」
「嵐で足止めされるはずだった期間と、そう変わりありませんわね」
「あはは…」
後でリセルナ経由でアウードュラに確認を取ろう。
現在の時間経過速度だとしても、どのみちあと三日間は完全にオフなんだし。
「まぁ今日は三人でゆっくりする時間もあるし、当初の予定通りまったり過ごしますかね」
「これを予定と呼んで良いものかわかりませんが、お二人とも特にすることがないのでしたら、それもいいですわね」
すっかりレステでの暮らしに慣れた私達は、今日という日をまた無為に過ごすのもいいと考えていた。
そんな折、一足先に朝食を済ませたテティスがマグカップを置いて、手のひらをポムンと合わせながら語り始めた。
「もし他にご予定がないのでしたら、少し気になるギルド主催のイベントが近くで開催されるそうなのですが…」
「ほう、どんなどんな?」
「なんでも付き合いますわよ」
テティスの提案は基本何でも受け入れる私達。むしろ拒める事なんてあるだろうか。
なんて考えつつ、朗らかに彼女の話を伺う姿勢で待っていると。
「えっとですね、イスさんって盗賊じゃないですか」
「最近はあまり盗賊活動はしていませんが、はい」
そういや私もまだイスが盗賊らしい行為を行っているところは見たことが無いんだよね。
「なんでも「盗賊スキルを駆使した宝探し大会」が催されるらしく、宝の中には遺物も含まれているとのことでして…」
催し物の内容は以前イスから聞いた現代の盗賊行為とあまり変わりないようだが、何故かテティスは大きなお目々をキラキラさせていた。
「わたし、盗賊職の方がどのようにしてお宝を集めるのか一度見てみたいと思っていたんです。僅かな手がかりをヒントに宝箱を探すのって、採掘と通ずるものがある気がしましてっ」
ああ、この子の感性をくすぐったのは採掘との類似点か。ほんと採掘大好きだなぁ、可愛い奴め。
ワクワクするテティスを微笑ましく眺めていたイスは、卓上で指を絡めてから頷いた。
「そうですわねぇ。たまにはスキルを使っておかないと腕が鈍りますし、いい運動にもなりそうですから、参加しましょうか」
おっと、少し嫌な予感がしてきた。
「それじゃあ私は留守番しながらゲームでもやってるから、二人で楽しんでおいで」
「いい笑顔で送り出そうとしていますけれど、 もちろんアトラも来るんですのよ。たくさん歩いて少しでも体力をつけませんと」
「えぇー…私は後衛だし、魔法と遠隔武器も持ってるから別にいいよ…」
「あまり魔法に頼りすぎるのもよくありませんわよ。あらゆる場面で筋力は役に立ちますから」
「私にとっては魔法が筋肉みたいなものだから…てかイス、あんまり魔法に詳しくないのに「頼りすぎるな」って言われても、説得力ないよ?」
冒険者向けのイベントは体力が物を言う肉体系が多いから、ドレステミルに居た頃は極力参加を避けていた(町外に出られないから、という理由もあるが)んだ。
特にゲームをして過ごしたい気分でもないが、宝箱を探しつつ街中を駆け回るのはちょっとばかし遠慮したい。
そんな口だけの抵抗で論破した気になっていたら、イスが席を立ち、唐突に私を小脇に抱えた。
「…んぇ?」
「では無理にでも連れていきますわ。テティス、準備なさって」
「はいっ」
「え、ちょ」
私は有無も言えないままイスに連れ去られ、自室にて冒険者衣装に着替えさせられ…ものの五分で外へと連れ出されたのであった。
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冒険者ギルド、レステシティ支部の隣にある屋外広場。
デバイスの情報で宝探し大会の開催を聞きつけた冒険者が続々と集まるなか、いつも通り私達…主にイスへと視線が注がれていた。
「地方の緩い催しだと思って参加したはいいけど…まさか盗賊王の娘、イス様もご参加なされるなんて」
「一気に攻略難易度が上がったな…」
イスと同じ盗賊職と思しき方々が、あまりにも強力なライバルの出現により戦々恐々としている。
そりゃそうだよなぁ。外面的にはイスの莫大な資産は盗賊スキルによる財宝の発見ってことになってるんだから、同業者が知らないわけがないわな。
しかも実際彼女はハッタリを事実と思い込ませるだけの実力をちゃんと備えているのだからたちが悪い。
「…イス、くれぐれもやりすぎて他の参加者の戦意を削がないようにね」
「わかっておりますわ。どうせこの催しも用意された景品も、元はわたくしが出資・回収したアイテムなのですから、そこまで燃えませんし」
まぁテティスがイベントを楽しむ程度には頑張りますわ、と正直な心境を吐露したところで、ギルドの制服を着たお姉さんがマイクを手に登場。
見るからに即席で設置された壇上に上がり、冒険者たちに向かって一礼した。
「冒険者の皆様、おはようございます。本日はギルドプレゼンツ、宝探し大会へお集まりいただき、まことにありがとうございます」
冒険者たちの視線が一斉に壇上へ向けられると、会場内は一気に静寂に包まれた。現代の盗賊、ほんとに礼儀正しいな。
「早速ですが本大会のルールをご説明いたします。…まぁ景品が少し豪華というだけで、普段の盗賊行為とさほど差異はありません」
いきなりはっちゃけなさった。クソ田舎のドレステミルでも、こういった催しの時くらいはちゃんとしてたってのに。
砕けた説明でそこそこ笑いを取った進行役のお姉さんは、メモや台本も持たないまま記憶した情報を淡々と述べる。
「盗賊職の皆様には、我々ギルドが用意した宝箱を盗賊スキルで発見・解錠し、中に収められた番号札を持ち帰って頂くことで、番号と同じ景品と交換出来ます。なお他パーティとの番号札の交換や譲渡は認められておりますが、強奪や恐喝、並びに戦闘行為もかたく禁止とさせていただきます。もし禁止行為に及んだ場合…」
お姉さんがギルドの建物に視線を泳がせると、冒険者たちも同じ方向へと顔を向ける。
するとタイミング良く裏口の扉が開き、見知った褐色肌の少女がヘラヘラしながら現れたではありませんか。
「…こちらのグローデン騎士団団員、通称「破滅のソミア」様より罰則が与えられますので、ご注意下さい」
「はーい、不正は許しませーん。もし破ったら「痛い目」見てもらうから、覚悟してねェ?」
悪名高いミアちゃんの登場により、冒険者たちが一斉にどよめく。相変わらず露出度がバカになっている衣装のまま、彼女は邪悪な笑みを浮かべる。遺物絡みのイベントだから、何かしらの形で絡んでくるとは予想していたけども…まさか開催者サイドのご登場とはね。
わざわざ見なくても、イスが一気に不機嫌になっているのが手に取るようにわかるよ。
「なお開催エリア内には騎士団員を配置しておりますので、不正の報告があればソミア様がどこにでも駆けつけます。市民の皆様にご迷惑をおかけしないよう、マナーを守って存分に本大会をお楽しみ下さい」
不正の抑止力にしちゃミアちゃんは強すぎる気がしないでもないが…まぁ不正しなきゃいいだけだしね。
「あ、言い忘れてましたが…実はエリア内に四箇所、レアアイテム確定の番号札が設置されている場所がありますが、こちらには水風船を体につけたグローデン騎士団の実働部隊を配置しております」
え?
「団員を直接倒さずとも、水風船を割ると「撃破」したことになります。腕に自信があれば全員撃破を狙うもよし、見つからずに潜入して番号札を持ち帰るもよし…各パーティの判断におまかせ致します」
荒事のないゆるゆるな大会かと思ってたのに、いきなりバトル要素持ち込みやがった。
レア確定と聞いた冒険者たちの目の色が一気に変わり、やる気に満ち溢れ始めた。
どうやらのんびりエンジョイするだけじゃ終わらなさそう…早くも倦怠感に苛まれながら、宝探し大会は開催されたのであった。
続く




