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不滅のアトラ  作者: 鉄すらぐ
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まだ見ぬ神々(へんたい)たち

 前回のあらすじ、略して前あら。

 永きに渡る因縁の相手、アウードュラの思惑を窺い知り、歩み寄れるかもしれない…なんて考えていたら、いきなり背の高い神秘的な雰囲気の女性が目の前に出現した。


「何をやっているのですかアウードュラ。あなたは我々「神會(ワズ)」が選出したエンシェントの一柱、いわば北世界の隠し中ボス的存在のひとりなのですよ」


「(うわ、よりによって小ウルセェのが…)」


 出現した女性は自分の数十倍も大きいアウードュラ相手に全く物怖じせず、強気の姿勢で容赦なく詰め寄っている。奴…彼も女性とは面識があるらしく、ポロリと漏れた言葉からは、ゲンナリとした色が滲んでいた。


「…ねえ、この…ヒト?知り合いなの?」


「(知り合いっつか、エンシェント(オレら)直属の上司みてぇなもんだ)」


「へぇ…」


 と言うことは、前に神の膝元で会った神様とやらのお仲間かな。もっと大仰な姿をした存在かと思ったら、案外ヒトの成りしてるんだ。

 しかし迫力のある美人さんだなぁ。顔立ちはどちらかといえば穏やかめなのに、背筋を伸ばして凛と佇む姿は彫刻作品のように美麗だ。

 女性は私を一瞥して、若干頬を緩ませた。しかしすぐに表情を引き締めて、容赦なくアウードュラに詰め寄る。


「しかもよりによって配属されている遺跡を吹き飛ばして出てきてしまうなんて…罰則は避けられませんよ」


「(別にいいだろ。あそこに配属されてから誰一人として挑みに来ちゃいねえんだからよ)」


「うぐ…確かに、今までエンシェントとしての本懐を遂げさせてあげられなかったことは謝ります。しかし、それとこれとは別の問題です」


 上司とやら、早速言い負かされかけてる。

 しかし遺跡を吹き飛ばす、か。イスとミアちゃんが聞いたら卒倒しそうな行為をいともたやすく行ったのか、こいつめ。

 というか遺跡って人智を超える頑丈さで有名な超古代建造物のはずだけど、作為的に壊せるものなんだ。

 私やワイグの熱じゃびくともしなかったのに…なんかちょっと悔しいな。


「ともかくあなたには罰則として、一週間の神の膝元の清掃を申し付けます。それと、新たな配属先を与えねばなりませんね」


「(へいへい、ったく面倒くせぇなぁ…)」


 バツ軽っるぅ。

 仰々しく登場したわりに、イタズラした子供に与える程度の罰則で済ませちゃうんだ。私達が和解の道を歩みかけていた展開から察すると、まずアウードュラが死罪に処される可能性がバカ高だったのに…判断基準どうなってんだろ。 


「(そうだ。せっかくだからよ、次は遺跡みてぇに窮屈な場所じゃなくて、戦いに事欠かねぇ屋外に配属してくんねぇか?)」


「ふむ…あなたの生態と体格を鑑みると、妥当な提案ですね。この近辺でご要望に添える場所となると…かつて魔物の強化実験を行っていた「クレイオルデン」という廃都市があるのですが、そこには現在もなお遺伝子汚染された異形の魔物が多数棲息しており、生態系に多大な悪影響を与え続けていて我々神會も困り果てているのですよ」


 もう罰則の話が終わって、辞令の話に移行してる。

 うだうだ続けられるよりはマシだけどさぁ…ノリについていけないや。

 …ん?てかこのヒト今…


「上司の方、今クレイオルデンって言った?」


 聞き流せない言葉を耳にして、二人の話に割り込み問いかけると、上司の女性は流麗に踵を返して私に会釈した。


「ご挨拶が遅れてしまい申し訳ございませんソダム様。音声のみで失礼致します」


 と、額面上は貞淑な女性の言動をしているが、その表情は何か淫猥なものを見つめるように、だらしなく蕩けきっていた。

 …なんかこのヒトからは、イスに似た変態性(けはい)を感じる。


「あの、音声のみってどういう…がっつりお姿見えてるけど」


「え゛」


 女性からいきなり汚ったない声が出た。とたんに顔色が悪くなり、一旦空を仰いで数秒深呼吸をした後、再度貞淑そうに居直した。


「これはこれは失礼致しました。私を視認可能なほど祝福が馴染んでいるとは、思いもよりませんでしたので…」


「(気をつけろよアトラ。こいつは性愛の神で…特にテメェみてぇなちっさい女が好きすぎて、エルフとか言う種族を創っちまった、ドが付く変態だからな)」


「オ゛ッ!?ちょっと、変な言いがかりはおやめなさいアウードュラ!」


 反応が完全に犯人のそれなんだが。

 いかにもやましい気持ちを隠したいって思いが全挙動ににじみ出ている。


「でも私の起源特定スキル・オリジンサーチで調べた限りだと、エルフは異常性癖のオッサンが精霊の宿る古木のウロで致した結果生まれた、って出てるけど」


「(こいつ神の姿だとこんなだがよ、現世に介入する時ゃなぜかオッサンの姿になるんだとよ)」


「アウードュラ!!」


 いきなり声を荒らげた…てことは図星か。

 じゃあこのヒトがイスたちの創造主…種の起源なんだ。

 この場合は種の父なのか母なのか、どっちなんだろ。


「(余談だが、現世のヒトに分類される生物の祖は全部こいつらしいぜ。基本女なら見境ねぇらしい)」


 エルフだけじゃなかったんか。博愛主義者というより、ただ性欲がやべぇヒトみたいだ。


「ヒトの祖ってことは、私達ドワーフやそれ以前の古代人類も、あなたが創り出したの?」


 ふと気になった質問をぶつけてみたところ、女性はシンプルに顔を横に振った。


「いえ、私が意思を持ったのは今から40周期ほど前でして…そもそも我々神會メンバーの中に、ソダム様よりも永く活動している者はおりませんよ」


「まじすか」


 私、神様達よりも永生きなのか。じゃあ実質、私がこの世界で一番の古株ってことになるのかな。

 …いや、待てよ?エンシェントは各周期を支配した最強個体が寄り集まっているんだったよね…なら、私の時代で最強と謳われた戦士、ワームドレッドも現世に顕現しているのでは。


「あの、上司の方」


「私のことはリセルナとお呼び下さい、ソダム様」


「ああ、うん…じゃあリセルナ。私の時代の最強個体、ワームドレッドもエンシェントとして復活してたりするかな?」


「ワームドレッド…」


 私の最も古い友人の名を口にしたとたん、リセルナの眉根に深いシワが刻まれた。まるで怨敵の名を耳にしたような…憎悪に満ちた視線をこちらに向けてきた。

 そういえばイスも、ワームドレッドの名を聞いた際に不快そうな感想を漏らしていたっけ。

 彼の名は一体、どんな広まり方をしているのだろうか。


「…ごめん、私なにかまずいこと言ったかな」


「あっ、いえ申し訳ありません。ワームドレッドといえば、この世界の空を永劫閉ざしたとされる大罪人の名でして…ソダム様からそのような名が飛び出すとは思いもよらず、つい身構えてしまいました」


「空を…奪った?」


 リセルナの言葉を受け入れた瞬間、昔からずっと、ずーっと抱いていた違和感の正体にようやく気付けた。

 私の時代と地下の古代都市にはいくつか存在し、既に使用こそされていないが今なお現存している、外の世界には技術の欠片も見当たらない「空の乗り物」、そして「空の生き物」。

 北世界はとてつもなく広大でありながら、いかなる時代も示し合わせたかのように主な移動手段が陸路と海路しかなかった…これが絶大な違和感の正体だったんだ。

 けど、ワームドレッドが「空を奪った」という話はどういった経緯で生まれたのだろう。

 彼はドラゴンスレイヤーとして名を馳せ、遠方でドラゴンにやられて命を落としたと聞いた。まるで空との繋がりが見出だせないんだけども…。


「そもそもどういう意味なの?その、ワームドレッドが「空を奪った」って」


「…実のところ、我々神會にも分からないんです。ただ、各地の遺跡にて「空を奪い我々をこの地に閉ざした大罪人の名をここに記し、永劫の呪詛とす。グル=ロ=ワームドレッド」と記載された碑文が多数確認されておりまして、神の膝元よりも更に上空層には、いかなる力でも干渉できない力場が形成されているのです」


 グル=ロ=ワームドレッド。間違いなく私が知っている、竜殺しことワームドレッドの名前だ。


 「『我々』をこの地を閉ざした?遺跡の碑文ってことは、私達の時代よりもずっと昔に刻まれたもののはずだけど…なんでそこに彼の名が?」


「神會の遺跡研究者によると、現在見つかっている遺跡は最も古いものでもソダム様の時代に建造されたものである、との研究結果が出ていますので、その頃刻まれたのだと思われます」


「…え?」


 いや、それはありえないはずだ。

 遺跡は私の時代には既に超古代の建造物と呼ばれていて、その構築方法は失われていた。

 私達、原種のドワーフはものづくりが得意な種族ではあったが、材質も不明な遺跡を建造出来る者なんて一人もいなかった。

 …でもそれは、私が不滅になった16歳時点の記憶…あれ、肉体は18歳なんだっけ。

 自分の記憶にすら齟齬があるのだから、一概にありえないとは言い切れないか。


「…なんだか一度に濃い話を聞きすぎて、よくわかんなくなってきた。ごめんリセルナ、続きはまた今度神様たちに招待された時にでもお願い出来るかな」


「ソダム様がそうおっしゃるのなら、また都合の良い頃合いを見計らってコンタクトを取らせて頂きます。話に聞いていたよりも祝福が馴染んでいるみたいですから、また近日中に」


「(話は終わったかよ?んじゃオレぁ新しい配属先に行くぜ)」


 おっと、アウードュラのことを忘れてた。

 予想以上に濃い話が飛び出してきたからスルーするところだったが、私的にはこいつとの話が重要だったんだ。


「ちょっと待ってアウードュラ、クレイオルデンに行くならお願いしたい事があるんだけど」


「(あん?…まぁテメェはオレに勝ったんだし、ひとつぐれぇなら聞いてやるよ)」


 ぶっきらぼうだけど、義理堅い奴だ。

 せっかく掴み取った勝者の権利なんだから、無駄にはしないよ。


「今から…四日後、私は仲間と一緒にクレイオルデンを縦断する。だからそれまでに廃墟街中の魔物をとことんぶっ叩いて、往来の手助けをして欲しいんだ」


「(…つまり、暴れまくりゃいいんだな?)」


「うん。なるべく魔物たちが大人しくなるように、容赦ない嵐でわからせてやってよ」


「(っしゃ、その話乗った。久々に本気で嵐を起こしてやんよ)」


 好戦的な奴を乗せるのはなんと容易いことか。

 まぁ四日もあればこいつのガス抜きにもなるだろうし、進路も確保できてお得…昔風に言えば一石二鳥ってやつだ。

 かくしてまたひとつこの世界の謎に触れた私は、リセルナと共にアウードュラを見送り、良きところで解散…何事も無かったように街へと戻り、心配そうにしていたイスたちを適当になだめてゲームショップとやらに再び来店したのであった。


続く。

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