歴戦古代種(エンシェント)
ギュィィィィィギュグ(前回のあらすじ、ミアちゃん達と訪れた遺跡にて、昔の知り合いと再会した)
あ、ここはデスワーム語じゃなくてもいいのか。
見た目がド派手でいかにも敵キャラって感じの彼、ドレステミル・デスワームのワイグ。
ワイグっていうのは、彼らの時代の言葉で「灼熱」を表す単語。
ドレステミル近辺では誰よりも強く、高温の熱波を放つ彼に私がつけた名である。
…そろそろデスワーム語のやりすぎで顎が痛くなってきたので、私は試しに普通に喋りかけてみた。
「あー、あー…ワイグ、この言語で私が何て言ってるかわかる?」
「(…なんでか分からんが、普通に理解出来るぞ。なんでだ?)」
「ごめん、私にもわかんない」
一か八かやってみたところ、現代の言葉でもワイグに通じた。
現在の公用語は彼らの時代にはもちろん存在しなかったし、この遺跡には長いこと誰も訪れていなかったはず。
でもまぁ、遺跡やら遺物やら隔絶海層やらと、不思議なもので溢れかえった世界だから、このくらい起こり得るか。
話が進まないのでこの現象を受け入れ、私は以降公用語で語りかけることにした。
「まさか別周期の生き残りが居たなんて驚きだよ。周期変化時に起こるあの転換現象、どうやって回避したの?というかどうしてこれまでドレステミルに顔出さなかったのさ」
「(ちょちょちょ待て待て待ってくれ、しばらく会わない内にえらくお喋りになったじゃねぇの。質問は順を追って、一つずつ頼む)」
「ああ、ごめんね。初めて観測した現象だったから、ついテンション上がっちゃってさ」
こいつが単なるドレステミル・デスワームの子孫や生き残りだったら、私もそんなガツガツ質問攻めにしたりはしなかっただろう。
人間からすれば気が遠くなるほどの大昔…私にとってはちょっと前くらいの感覚だけども、周期の変化が17回巻き起こっていて、なおも死なずに時代を超えた生物が私以外にも居るなんて、前代未聞だよ。
逸る気持ちを抑えながら、私はワイグの熱波によって焼け石と化した内壁に向かい、心拍数を落ち着けていた。
すると彼は地面の穴から巨体を伸ばし、キョトンとした様子で質問を聞き返してきた。
「(それでその、周期の変化?とか「転換現象」って、なんのことなんだ?俺にゃサッパリわかんねぇんだが)」
「え?いやいや、現にこうして生きてるんだからわかるでしょ。9兆年…ワイグたちの時代だと「ロルア:ジョルジュマナ」毎に世界の理が変化する現象と、それに伴い引き起こされる極大重力圧による生命体の圧死のことだよ」
極大重力圧。周期変化が起きる瞬間に突然発生する、生命体のみを必ず圧し潰す強力な重力の名称…私が勝手にそう呼んでるだけだけどね。
巨大な生物も極小生物も、屈強な外殻を纏う生物も、柔軟な肉体を持つ生物も、一分の抵抗すら許されない圧力によって満遍なく圧死する謎現象で、ご多分に漏れず私も幾度となくグチャってきた。
一応ドレステミルの地下古代都市に生命体を生体のまま長期保存出来る装置があるから、親しかった人々やその子孫を保管して現代にまで血統を絶やさず繋いだ人も何人か居るが、それ以外の生物は周期毎に淘汰されたはずなんだ。
ワイグは先端の花弁のようなパーツをうねうねさせて、大人しく語った。
「(そもそも俺らの寿命はロルア:ジョルジュマナも生きられるほど長くはねぇ。せいぜいルア:リスティフアナくらいだぞ)」
ルア:リスティフアナ、現代の年月に換算すると約4億年。
現周期の生物(エルフなどの不老不死種族を除く)と比べたら格段に長い寿命を持つが、周期の前期~中期頃に現れたワイグが、こうして現代を生きている筈がない。
となると、不滅の呪いのように遺物か何かの超常的な力が彼を生かしたのだろうか。
「(それに俺はここと違う大陸の北側、雪山で寿命を迎えたから、極大重力圧とやらも経験したことないぜ)」
「えっ、でもワイグは今こうして目の前に居て、私の友達を焼き殺そうとしたじゃない」
「(友達?俺に殺気向けながら、顔を覗かせてきた奴のことか)」
「そうだよ。こないだ友達になった考古学者のミアちゃんと、その仲間のメポタ」
もう少しで全員焼け死ぬ(二人は死なんけど)所だったと伝えると、ワイグは素直にしゅんと項垂れた。
「(す、すまねえ。ここにヒトが入ってくんのが久々だったのと、昨日はしゃぎすぎてさっきまで爆睡しちまってたから、つい加減を間違えちまった…アトラってわかってたら攻撃なんかしなかったんだが)」
不意討ちしてこなかったのは種族のプライドとかじゃなく、単に寝てただけかい。実にワイグらしい理由だわ。
「(つかアトラ、ヒトの友達が出来たのか!よかったなぁ!)」
どうせ自分は一人で生きるから友達なんていらない、と病んだ狼みたいな台詞を吐いていた私を知るワイグは、まるで自分のことのように喜んでいた。
…けど、新たな疑問が浮かび上がる。
「ちょっと待ってワイグ、君の時代に私以外の「ヒト」は居なかったよね?」
「(ああ、色んな場所を巡ったがどこにも居なかったぞ)」
「私も君に、私が「ヒト」だと伝えた事は無かった。なのになんで私やミアちゃんがヒトだと理解出来てるのさ?」
「(んー…悪い、それは俺の口から説明することじゃねえんだわ)」
ワイグは明らかに私たちが知り得ない謎を隠している。
それは恐らくこの風変わりな世界に関わる、重要なファクターなのだろう。あまりしつこく追求するのは止めておこう。
「わかった、ワイグにも何か事情があるんだね。これ以上は踏み込まないでおくよ」
「(別に説明するだけなら簡単なんだが、信じて貰えねぇだろうからなぁ…あ、そうだ。この遺跡の奥に置いてあるアレ、遺物を使やぁ確か…)」
ワイグは何やら独り言を呟いて、ちょっと待ってろ、と私に告げた直後、穴に潜って地響きと共にどこかへ行ってしまった。
その間に私は火の門を開いて壁の熱を取り除き、我々が常温だと感じられる温度まで冷ました。
ミアちゃん達を覆っていたドーム型熱防御も解除して、ようやく外に出してあげられた。
「二人とも大丈夫だった?」
「やー、アーちゃんマジ凄いわァ。音聞こえなくて何話してんのか全然わかんなかったけど、あんなヤバそうな魔物を追っ払うなんてさ」
どうやら話し声が届いていなかったらしく、ミアちゃんから尊敬の眼差しを向けられた。けど、熱防御シールドに音を遮断する効果なんてあったっけ?
…まぁいいや、説明し直せばいいだけだし。
「私が追っ払ったんじゃないよ。彼…ワイグ、話の途中で遺物がどうとかって言ってたから、多分それを取りに行ったんじゃないかな」
「あのヤバいやつまた戻ってくんの?」
「大丈夫、さっきは寝ぼけて攻撃してきただけだから、私が居る限り手出ししてこn…あいつ出せる手無かったわ」
現在の公用語はヒト基準によるものだから、魔物に当てはめるのが難しい場合もあるねぇ。
…あ、だから現代人が古代語の解読をするのが難しいのかな。ヒトとかけ離れた存在が支配していた時代の言語とか、人類にはただの雑音や落書きとしか認識されないものもあったし。
こうして考えると、各時代の言語を全て覚えた私って相当な変人なのでは…とか思っていたら、再び地鳴りがこちらに近付いてきた。
ミアちゃんとメポタが反射的に武器を手にするが、ワイグが顔(?)を出す直前に納めさせた。
「(悪ぃ悪ぃ、あの部屋に行くの久々なもんで道間違えちま…おお、こいつらがアトラの友達か!)」
「え、なにこいつ、めっちゃ威嚇してきてない?」
ワイグはテンション高めかつフレンドリーに口を収縮させながらミアちゃんとメポタに近付くも、デスワーム語が理解できない二人には威嚇行動と取られてしまった。
「これはデスワームが仲間と認識した相手に行う、友好の挨拶みたいなものだよ。多分二人の言葉もワイグに伝わると思うから、挨拶してみて」
「それ以上近付いたら殺す。」
「マスターに危害を加えるなら容赦しません。」
「あんたらの挨拶物騒だな。」
「(オメーらの挨拶物騒だな。)」
あ、ワイグと感想が被った。ということは二人の声もちゃんと届いてるんだ。
「…なんて冗談だよォ。メポタも居る状況で、どこ攻撃すりゃ倒せんのかもわかんない、あんなヤバい熱波放つ魔物にケンカ売るほどボクもバカじゃないよ」
「(ほう?自分の実力をきっちり把握していて、無謀な戦いは挑まねぇ、か。いいねぇ、的確に状況を判断出来る奴は長生きするぜ)」
ワイグのお眼鏡に敵ったようだが、ミアちゃんの場合、強制的に長生きするしかないんだけどね。
判断が遅れて背中に火傷を負ったことは黙っておこう。
ミアちゃんが臨戦態勢を解除すると、メポタもつられて警戒を解いた。やれやれ、ようやく話を進められる。
「…で、ワイグよ。あんた急に席を外してどこに行ってたのさ?」
「(おっといけねぇ、忘れる所だったぜ)」
ワイグは口をモゴモゴ蠢かせて、何かをペッ、と吐き出した。
私の足元にキィンと転がったそれは、手のひらに収まるくらいの、金属製の鍵みたいなものだった。
私はまず水の門を開き、付着したワイグ汁を洗い流してから拾い上げた。
「…随分と小さいけど、これがワイグの言ってた「遺物」なの?」
「遺物とな?」
「(そうだぜ)」
私が遺物と呼んだ物質を見て、早速ミアちゃんが反応した。
小さいけれど、お馴染みの青白い金属で出来た代物。特に何の効果も感じないけれど、肌触りは遺物のそれだ。
「…触ってみても特に何も起こらないね。これ本当に遺物なの?」
「(もちろんだ)」
「ねぇアーちゃん、それちょっと見せてもらってもいいかなァ?」
十秒くらい大人しくしていたミアちゃんが、好奇心を抑えきれずに手にした鍵を覗き込んできた。
そしてすぐに眉を潜めて、不満げに「うげっ」と溢した。
「なァんだ、ハズレの遺物じゃんか」
「ハズレ?」
「遺物と同じ材質で造られてはいるけど、これといって何の効果も持たないから、冒険者や学者の間では「ハズレの遺物」とか「スカ」って呼ばれてるものだよォ。そのくせ遺物の中でも発見率が高いから、見つけ次第破滅させてるんだよ」
遺物の効果には当たり外れがあると聞くが、この遺物はそれら以下の代物ってことなのかな。
ミアちゃんは途端に興味を無くして、メポタの胸に後頭部を預けた。
「…と、遺物に詳しいミアちゃんは仰有ってますが?ワイグさんや。」
「(それに何の効果もねぇと分かるなら、嬢ちゃんの見る目は確かだぜ。…ただな、その遺物は手に入れただけじゃ本来の効果が発揮されねぇよう、ちょいと細工されてんのさ)」
おっと。話の途中で抜け出し、わざわざ運んでくる程の価値がこれにはあるってことかな。
「遺物に細工かぁ。それって一体どんな?」
「え、細工?」
私の呟きを耳にしたミアちゃんの興味が、再びこちらに向いた。
「(その遺物はな、俺たち「歴戦古代種」って呼ばれてる奴らに実力を認められねぇと、効果を発揮しねぇんだ)」
「エンシェント…初めて聞く名称だねぇ」
「(言わば「魔物の殿堂」って感じの奴らだ。俺が聞いた説明じゃ『各時代で「最強」の称号を得た生物が各地に呼び戻され、鍵を求める者に門番として立ちはだかり、実力を見極めたのち遺物に祝福を与えると、真の効果を発揮し、神の膝元へ到達する門を開く』…だったかな)」
…私が町を出られたことよりも、遥かに重大な情報を得た気がする。
「(各時代ってのがなんなのか今まで良くわかってなかったんだが…さっきのアトラの話を聞いて、ようやく理解できた気がするぜ)」
「…つまりワイグの言う各時代ってのは各周期を指していて、それぞれの周期代表生物がワイグ以外にも存在している…ってこと?」
「(多分そういうこった。顔に傷のある俺よりもデケェ二足歩行トカゲとか、やけに気が立ってるムッキムキの二足歩行ウシとか…あと、魔物にしちゃえらく真面目な雰囲気をまとった、上半身ヒト・下半身ウマの男も居たな)」
「…マジか。」
いずれも私の記憶に該当する生物ばかり。てか多分どれも私が知ってる個体だわ。
特に最後の、ヒトとウマの混成生物。
そいつは恐らく、私が最も心穏やかに暮らせた周期の立役者…ドレステミルから世界を統治したとされる「セントール族」の長、ケイロール=サンアンディウス。
通称ケイローン。
かつて私が………した相手。
「…ねぇワイグ、そのエンシェントたちに会うにはどうしたらいいの」
「(ん?もう体があの町に縛られてねぇなら、その鍵使って神の膝元に行きゃ会えると思うぜ。アトラの実力はさっき身をもって体感したし、鍵にも祝福を与えといたからよ)」
…まさか祝福って、さっきのワイグ汁のことじゃないよね?ばっちぃから洗い流しちゃったんだけど。
「(そろそろ祝福が馴染んだ頃かな。アトラ、その鍵に魔力を流してみ?)」
「え、ええと…こう、かな」
言われるがまま握った鍵に魔力を流してみた。
するといきなり視界が明滅し、目の前の景色が一瞬で変化した。
「…あれ、ワイグ?」
一見透明にしか見えない、澄み渡る群青の床…らしき力場。
空には遮るものがなく、どこまでも暗黒が広がっている。
そして私の眼下…というより真下に広がる、バカでかい青と緑と白で形成された物体。
「ちょ、ま、えぇ…なにここ…」
こんなん戸惑うしかないでしょ…ミアちゃんもメポタも居ないし、心細さMAXなんだけど。
いきなりの超展開に右往左往する私…果たしてここはどこなのか、それはまた次のお話に続きまぁす…。




