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不滅のアトラ  作者: 鉄すらぐ
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考古学者と行く、遺跡の歩き方。

 イスとミアちゃんの確執の原因が明らかとなり、魔力拡張後の疲労感が抜けてきた頃。 

 ミアちゃんが買ってきてくれたお弁当を2人で頂いて、まったりしていると、ふと彼女がこんなことを言い出した。


「だいぶ魔力も回復してきたしィ、入り口を発掘したばっかでまだ攻略してない近くの遺跡でも探索してみない?」


「未攻略の遺跡かぁ…面白そうだね、付き合うよ」


「よォし、そうと決まれば。」


 ミアちゃんはお馴染みのケースを持ち、すかさず私の手を握って、外に建てたテントの側にポイント移動した。


「おーいメポタぁー、お仕事の時間だよォ」


 テントの外からミアちゃんが呼び掛けると、出入り口のファスナーが勢いよく開いた。

 そして中からミアちゃんより少し明るい褐色肌の、薄ピンク色の長い髪を垂らした全裸女性、メポタが姿を現した。


「了解です、マスター」


「うん、まずは服着なねェ。これから遺跡に潜るからさ」


 ミアちゃんに促されて、メポタはもう一度テントの中に引っ込んだ。ごそごそとテントが揺れ動き、待つこと30秒。


「お待たせしました」


 再び姿を見せた彼女は、涼しげな水色ラインが入った紺色のぴっちり服…旅の途中で何度か立ち寄ったバイク用品店にて見かけた、ライダースーツという衣服に身を包んでいた。

 ただし種族としての意地なのか、上着のファスナーは裾の繋ぎ目を合わせただけで、上までフルオープン。最低限の抵抗として胸に白いバンド状の布をインナーとして巻いてはいるものの、お世辞にも防御力が高そうには見えない。


「(相変わらず不思議な雰囲気の子だなぁ…)」


 切り揃えた前髪は両目が隠れるほど長く、身長はイスより少し低いくらいかな。

 しかし胸の大きさはイス以上…デフォ全裸ってところ以外、ミアちゃんと同種族とは思えない発育のよさだ。ここまで大きいと、逆に羨ましく思わないね。

 メポタもミアちゃんが持っているのと同じケースを左手に携え、ミアちゃん側の準備が整ったところで、早速遺跡に向かう…のかと思いきや。


「メポタ、前にも会ったと思うけどこちらはアーちゃん。今回の遺跡探索に同行してもらうから、挨拶しときなねェ」


「その節はマスターがお手数をおかけしました、アトラ様。伝導師ソダムの手腕、陰ながら見守らせていただきます」


「や、そんな大それたものじゃないよ。こちらこそイスがご迷惑をおかけして申し訳ない」


 手のかかる仲間を持った者同士、メポタとシンパシーを感じてしまった。

 イスはミアちゃんと好みのロリが絡まない限り暴走はしないけど、ミアちゃんは本能のままに突き動いてそうだから、苦労が絶えないだろう。


「そんじゃ出発しますかねェ。すぐそこだから、歩きで行くよ」


 あいさつもそこそこに、私たちはミアちゃんの迷い無き足取りに任せて、道無き森の中を一直線に突き進んだ。

 緑がより深く濃くなる一方、正面に見える木々の隙間から、異彩を放つ白壁が姿を現し始める。


「おー、ほんとにわりと近くにあった」


「でしょォ?こんな近いのに、不思議とさっきの遺跡とは内部干渉してないみたいなんだよ」


建物の外観や地下へ続く入り口に至るまで、ミアちゃんが管理権限を取得した遺跡にそっくりだ。


「近くの遺跡と見た目瓜二つなのに、中で繋がっていない遺跡かぁ」


「直径1km以内に複数基の遺跡が存在するというケースは極めて稀で、セス=レモア以外では今のところ確認されていない。ちなみに遺跡はドレステミルに近いほど古く、帝国へ向かうほど比較的新しくなっているんだよォ」


「そうなんだ。ミアちゃんの話をそのまま飲み込むなら、この遺跡もかなり古い年代に建てられた…と見ていいんだよね?」


「うん。ついでに言うと、さっきまで居た遺跡と同じ方法で入り口が開いたから、2基とも同年代に建造されたと考えて問題ないよォ」


 外観がそっくりでも、内部まで全く同じ構造…とは限らないよね。あれやこれやと考察するのも楽しいけど、真相を掴むためにはまず探索しなくちゃ。

 私たちはミアちゃんを先頭に、地下へと続く暗い階段を下り始めた。


「やっぱこっちの遺跡は管理者の権限が通用しないねェ。メポタは暗視スキル持ってないから、照明のオンオフくらい出来たら楽だったのに」


「すみませんマスター」


「いいんだよォ。スキルに便りきるのも良くないし、簡易照明棒(グロースティック)も携行してるから…あ、昨日使い切ったんだった。」


 ここぞと言うときに締まりきらないミアちゃん。危うく古くさいリアクションをとって、階段から足を滑らせるところだった。

 二人の安全を第一に考えて、私は周囲を白く照らす光の玉をミアちゃんの頭上に浮かべた。


「光源くらいなら、すぐ用意出来るよ」


「そういやアーちゃん、光魔法も使えるんだったねェ。市販の照明器具より断然明るくて見やすいや」


「今は拡散光モードだけど、ミアちゃんの視界に連動してつけたり消したり、指向性を持たせたりも出来るから、視覚を持つ魔物の目を眩ませられるかも」


「みてみてェ、高速点滅」


「やめい。」


 説明しただけで光源をチカチカさせられるのは凄いけど、光を反射しやすい狭い空間では止めていただきたい。

 こういった悪ふざけも挟みながら、私たちは階段を下りきった。

 風通しの悪い地下空間には淀んだ空気が停滞している。外気よりは冷たいけど、微かに流動している微風からはカビと獣のような臭いが感じ取れる。

 ミアちゃんも同じ臭いを嗅ぎ取り、一気に表情を引き締めた。


「…魔物の臭いがするねェ。上からここまでの通路の幅は横2m、縦4m程度で、丸一日入り口を開けっぱなしにしてたけど、外と通路に足跡らしきものは認められず。このことから中~小型の魔物が遺跡内部を住処にしてる可能性が高いね」


 拡散光の有効範囲は半径3m程度。白壁の反射で天井まで光が届いてはいるが、前方にまっすぐ伸びた一本の通路を完全に照らし出すことは出来ない。

 ミアちゃんは奇襲に備えて、自分のお腹を自ら貫通させたあのナイフを手に取った。

 同時にメポタもケースを開いて、折り畳み式の細長い反り身の剣を取り出し、背後を警戒した。

 …そう、私もイス達とこういう冒険者らしい冒険をしてみたかったんだよ。 

 バイク移動や快適な住居での寝食に不満は無いのだけれども、せっかく外に出られたのだから遺跡の一つや二つ攻略しておきたい。

 とはいえドレステミル内のダンジョンみたいに、どこにどんなアイテムや魔物が居るのか全くわかっていないので、リーダーのミアちゃんに付き従うだけなんだけど。


「…ねぇミアちゃん、私は何をしたらいいかな?」

 

「そうだねェ…何かこう、魔物の奇襲を防いだり、魔物を炙り出したりする魔法とかある?」


「防護魔法と熱風…いや、遺跡へのダメージを考えると光と音で威嚇した方がいいかな」


「ほほゥ、面白そうな提案だね。ちょっとやってみせてよ」


 単純に魔物を退治するだけなら、地下全体に銅線を張って水で満たし、電撃を流せば大体の生き物は一発で済む。しかし今回の目的は遺跡の探索だ。貴重な史跡を破壊してしまったら、ミアちゃんに申し訳が立たない。

 なので私はメロイックサインを作り、水の門と風の門と光の門を同時に開いて、手のひらサイズの氷の玉の中に、圧縮した空気と光の種を閉じ込めた。


「即席音閃光玉(スタングレネード)…理論上、氷の玉にヒビが入ると、圧縮した空気が外側に膨らんで再び収束し、閃光と爆音を撒き散らす非殺傷アイテムだよ」


 あくまで理論上は、ね。

 趣向を変えて読んだ軍事小説のアイテムを真似ただけだから、うまくいくかわかんないけど。

 …しかし、ミアちゃんとメポタは完成したばかりの音閃光玉を食い入るように見つめていた。


「すっご、複数の魔法をこうも容易く扱うなんてさァ」


「さすが伝説として語り継がれるだけはありますね」


 まだ成功もしていないってのに、この子たちは。

 暴発したら危ないから、絶えず玉の周囲を冷気で覆って、万一のために私たち全員に防護魔法を施した。


「私がこれを投げたら、すぐにしゃがんで目と耳を塞いでね。まともに食らうとたぶん危ないから」


「了ォ解」


「わかりました」


 警戒しつつゆっくり前進していくと、前方からより濃い獣臭が漂ってきた。

 微かに何かがうごめく音が聞こえる。反響具合から、通路よりも広い空間が広がっていると見て間違いない。

 恐らくこの先に魔物が居る…私はミアちゃんとメポタに合図を送って、音閃光玉を前方に投げた。もちろん投擲能力は低いので、風で奥へと送り出す。

 二人とも言いつけ通りにしゃがんで目と耳を塞いだ。

 私もすかさず同じ行動を取る。すると。


 ズバンッ!!


 体を揺らす程の衝撃と、瞼が真っ赤に染まって見えるくらい強い閃光が迸った。

 前方のフロアでは何かしらの生物が「ギェー!ギェー!」と喚き散らしている。だが、駆け回ったり逃げたりする足音は聞こえてこない。

 私はミアちゃんとメポタの肩をポンと叩いて、もう大丈夫だと伝えた。

 二人は立ち上がり、警戒を解かないまま前方のフロアへと足を踏み入れた。


「さァて、どんな魔物が巣食ってんだァ?」


 ミアちゃんが悪人面でナイフを構えた先には、中央へ向かって緩やかなすりばち状になった、ドーム状の円形空間が広がっていた。

 最も低い場所には苔や暗所で育つ植物が芽吹いており、その上に五体の灰色毛玉…「モールラット」という中型ネズミが痙攣しながら横たわっていた。

 ギルドが発表している情報によると、こいつらは北世界全域に生息している草食の魔物で、討伐難易度はかなり低い。群れてさえいなければ、駆け出しの冒険者でも苦戦することはないと言われている。

 ドレステミルのダンジョンにも住み着いていて、屈強な冒険者の気配を察知するとすぐに身を隠してしまうほど臆病…つまり、雑魚魔物だ。


「なんだ、草食ネズミかァ。肩透かし食らった気分だよ」


 モールラットは生態系の中でもかなり下層に位置する魔物。強い魔物に追いやられて、安全な洞窟やダンジョンに身を潜めて生きるが、攻略にやって来た冒険者にだいたい狩られてしまうという何とも可哀想な生き物なのだ。

 しかし臆病な草食魔物といえども、体長1.5mはあるげっ歯類だ。防衛本能でヒトに牙を向くこともあるし、噛みつかれたらわりとエグい怪我を負ってしまう。


「こいつら色んな意味で美味しく無いんだよねェ」


 なのでミアちゃんやメポタみたいに、サクサクとどめを刺して倒すのがベター。てか二人とも手慣れすぎだわ。


「こいつらが棲息してるとなると、ここはそんな危険でも無さそうだねェ」


 モールラットが棲み着いているダンジョンは、他の捕食者や上位の存在が居ないことを示す指標の一部と言われている。

 …あくまで一部なので、例外はごまんとあるそうだよ。

 この指標を鵜呑みにして帰らぬ者となった冒険者も多いらしいので、私も気を抜かないようにしないと。

 遺跡探索はまだ始まったばかりだ。この先に何が待ち受けているのか、期待と不安が入り交じるなか、次回へ続く。

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