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不滅のアトラ  作者: 鉄すらぐ
30/76

新米魔法使いの魔力修行

 私が寝落ちしてから二時間後。

 目を覚ますと、ソファの上からミアちゃんの姿が消えていた。


「ミアちゃん、もう魔力が回復して動けるようになったのか。若者は回復力が違うなぁ」


 以前私が必殺技的な魔法で魔力を使い果たした時は、目を覚ますまでに丸一日、動けるようになるまで三日を要した。

 現在はとある禁術のおかげで魔力欠乏に陥りにくくなっているが、心地よい室温と人気の薄い空間、そして純然たる睡魔には勝てなかった。

 寝落ちする直前に動画アプリを閉じたものの、そのまま床に放り出して寝こけてしまうとは。

 のそのそと起き上がり、デバイスを拾ってポケットにしまった。


「…起きたはいいけど、ミアちゃんの権限が無いと部屋の入り口は作動しないよなぁ」


「あ、起きたんだァ。おはよアーちゃん」


 席を外していたミアちゃんがいきなり目の前に出現した。ここにも新天瞬地のポイントが打ち込まれていたらしい。


「おはようミアちゃん。もう魔力は回復したみたいだね」


「全快には程遠かったから、レステの病院でヒト向けに調整された人口魔力(マテリアル)を注射してもらったんだよォ」


「へぇ、現代じゃ魔力欠乏も人力で治せるんだね」


「最高位の医療スキル持ちでないと扱えないけどねェ。街の瞬間移動ポイント付近に、騎士団直轄の総合医院があったのを思い出して、パッと行ってきた」


 もしかして私が検査を受けさせてもらったあの病院かな。フライル先生、医療系スキルにかなり長けてた印象だったし。


「ボクもまがりなりに騎士団の一員だから、先輩団員である先生にきつくお灸を据えられたよ。これからは団の印象を悪くする行動は慎め、ってさァ」


 あの先生も騎士団員だったのか。だからスコット君直々に指名が入ったんだね。


「そら200人以上殺ってたらお灸も据えられるでしょうよ」


「殺ったのは悪人ばっかだったし、遺物の管理責任者として正しい行動をとっただけだよ。ダンチョーの判断でヤバい遺物破滅させられて、寿命が18万年も伸びちゃったんだから、多少のヤンチャは見逃してくれる約束だしィ」


「18万年とかすぐ過ぎるじゃん…私感覚だと数秒だよ」


「ヒトの尺度じゃ永遠みたいなもんなんだよ。」


 早く大人になりたいのになれないもどかしさ。ミアちゃんは上限が見えているから、余計に辛いんだろうなぁ。

 私はいつまでこの命が続くのかわからないまま、ダラダラと生き続けてきただけだし。

 …そのおかげで、今になってようやく直系の弟子をとることが出来たわけだが。


「さてと。駄弁るのはこれくらいにして、次の修行を再開しようか」


「あ、マテリアルが体に馴染むまで一日はかかるから、魔力を大きく消費する行動はしないでって先生に言われてるんだけどォ…」


「大丈夫。これから行うのは古式の魔力量底上げ特訓で、ミアちゃんは基本寝てるだけでいいから」


「…寝てる「だけ」ってのが、地味に怖いんだけどォ」


 言いつつもミアちゃんはソファに仰向けで寝転がった。

 …非力な私でも持ち上げられるほど細く軽い体には申し訳ないが、これもしきたりの一部なのでね。


「それじゃ、上を失礼するよ」


「おっふ」


 私はミアちゃんの下腹部を跨ぐように座り、魔力が生み出される起点、へその下辺りに両手を置いた。

 俗に言うマウントポジションだ。


「この光景さァ、イスちゃんに見せたらキレ散らかすと思わない?」


「烈火のごとくキレるだろうねぇ」


 見た目誤解されそうな体勢だが、これは古代に師匠から新米魔法使いへの手向けとして施された、通過儀礼の一種だ。

 魔法の扱いに慣れないうちは、体が魔力を生み出すスピードよりも、消費してしまう量の方が圧倒的に多い。

 なので魔力の扱いに長けた師匠が、まず弟子の魔力生産量を半永久的にブーストさせるというのが、古来ゆかりしきたり。


「むりやり身体機能を拡張するわけだから、度合いに応じて当然苦痛も伴います。しかし効果は恒久的に続くので、死なないミアちゃんには多少無茶をしてでも「超ガバガバ拡張コース」に挑んでいただきたく」


「ネーミングがなんかヤだなァ。けど、それをやってもらったら扱える魔力が増えるんだよね?」


「試算だと今の8000倍ぐらいまで増えるよ。さらに無理したら1万倍はかたい」


「じゃあさらに無理しちゃって。中途半端で妥協してちゃ、ダサいからさァ」


「…その覚悟しかと受け取った。それでは常人なら爆発四散するくらい辛いコースで、拡張を始めるよ」


「ア。」


 選択を誤った、とミアちゃんが顔に出した時は既に遅し。

 手のひらから魔力を流し込み、ミアちゃんの魔力の起点へと浸透させる。


「あ、あっ、あっ!」


 ミアちゃんの体が電撃に撃たれたように大きく跳ね上がる。しかし彼女の倍ほども重い私が押さえ付けているから、逃げることは出来ない。

 中途半端はダサいと彼女自身が言ったのだ。ならばこちらが妥協するのは失礼に当たる。


「(ミアちゃんの概算限界値、出力20%で…)」


「はっ、あぁっ、あ~!!」


 イスに施してもらった優しい魔力譲渡による結石解消と違って、この拡張の苦痛は魔法使いの裁量と、魔力の質に依存する。

 私の時は魔法使いの魔力の質がとことん合わなくて、ぶっとい荊が回転しながら体内を駆け巡る感じの痛みが伴った。拡張が済むまで軽く十回は死んだと思う。

 おかげで他に類を見ないほど膨大な魔力を生み出せるようになったから、結果としては良かったがね。

 …しかしミアちゃんの表情やリアクションを見る限り、とても苦痛を感じているようには見えないなぁ。


「んあぁっ、くっ、んふっ!」


 てゆうかむしろ性的なニュアンスの気持ち良さ感じてそう。なんでだ?

 試しにミアちゃんの体が耐えられるであろう、限界値を少し超えた出力で魔力を流し込んでみた。


「ああぁぁぁんっ!!」


 やっぱり気持ち良さそう。私の魔力の質とミアちゃんの魔力の質、相性がいいのかな?

 快感によってどんどん表情が不健全になっていくミアちゃんだが、拡張はもう十分施せた。というか当初の限界を大幅に超えて、160%くらい拡張してしまったよ。


「んんっ…はぁ…はぁ…」


 目標を達成したので、私は魔力の注入をやめた。全身が強張りビックンビックン跳ね回っていたミアちゃんは、急激な脱力感に苛まれて汗だくのままぐったりと横たわっていた。

 褐色の肌がほんのり紅潮してるの、なんだか妙に色っぽいなぁ。


「はぁ…はぁ…コレやっばい…めっちゃ気持ち良かったァ…♥」


「やっぱり気持ち良かったんだ。私の時は激痛しか感じなかったから、正直羨ましいなぁ…」


 開門の感覚を掴むセンス、黒モヤを扱う技術、魔力欠乏からの回復速度、想定以上の魔力拡張。

 ミアちゃんの体はとことん魔法使いに向いているみたいだ。


「ほんとサイコーだったァ…またやって欲しいくらい気持ち良かったよ」


「何度も拡張すると魔力回路が歪んで、かえって循環効率が悪くなるから、もう出来ないよ」


「ちぇー…」


 強くなろうとして拡張を希望する人々は大勢見てきたが、快感目的で希望する者は初めて見た。それほどまでに気持ち良かったのか。

 役目を終えたので、私はミアちゃんの上から退いた。

 そしてミアちゃんの頭側に腰を下ろした。するとすかさず脚の上にミアちゃんが頭を乗せて、なついてきた。

 後頭部が汗でじっっっとりしてるわ。


「かなり無理に拡張しちゃったけど、痛みとか違和感とか感じない?」


「んー…そういうのは特に無いねェ。でも体に芯が通って、安定した感じならするよ」


 ミアちゃんは自らのへその下をさすりと撫でた。


「まるでアーちゃんから注がれた魔力が、ここに宿っているような…」


「間違ってないけど誤解を与える言い方だね。」


「今のもイスちゃんからかうのに使えそうじゃない?」


「どんだけイスを怒らせたいんだ君は」


 いつも穏和でずっとニコニコしているイスを、恐らく唯一ブチギレさせられる存在、それがミアちゃん。

 イスは思ったことを何でもはっきり言うが、私やテティスに怒りをぶつけたりはしてこない。

 そういった意味では、イスに特別扱いされているようで正直羨ましい。まぁ過度に煽るのはやりすぎだと思うけどね。


「…そういえばさ、なんでミアちゃんはあんなにもイスに嫌われてるの?一時期は一緒に旅をしてた仲なんだよね?」


「うん、まァね。遺跡・遺物の考古学界では競うべきライバルであり、お互いラルハール様と縁を結んだ、よき共同研究者でもあったよ」


 ここでラルハール君の名前が飛び出すとは。

 いや、彼も優秀な考古学者だったみたいだし、どんな人の懐にもすぐ飛び込む性格だったから、顔が広いことには納得がいく。


「ミアちゃんもラルハール君と面識あったんだね」


「そりゃそうだよォ。ボクが故郷の禁足地から出られたのは、16年前に訪れたラルハール様の船に乗せてもらったからなんだもん」


 16年前というと、ミアちゃんが約8歳の頃かな。ラルハール君がイスを養子に迎えるよりも少し前だ。


「昔からアクティブな子だったんだね」


「闇妖精族は小さな村で小さくまとまって、娯楽も贅沢もしないでお祈りばっかして生きてるようなつまんない種族でねェ。他の子達はそれが当たり前のように過ごしてたんだけど、ボクにはどうも息苦しくて…」


「でも基本全裸なんだよね、闇妖精族。」


「大きめの祭事だとボディペイントくらいは施すよォ。顎の下と腋と脚の裏に」


「見えにくっ。何のためのペイントだよ」


「ね、普通そう思うでしょ。けどそれを疑問に思わないのが()()の闇妖精族なんだよ」


「あー…そんだけつまんないなら、コミュニティを抜けたくもなりますわな」


 禁足地。主にエルフ族や妖精族が住む孤島の楽園であり、基本的に外部の者は立入禁止とされている。

 …ラルハール君の事だから、持ち前のフレンドリーさで島の要人とたちまち仲良くなって、立ち入りを許されたんだろう。

 刺激を求める幼いミアちゃんの目には、さぞ彼が輝いて見えた事だろう。


「それからボクは大陸本土に渡る船の中で、ラルハール様から法律や常識とか、遺跡や遺物について教わったんだァ。そんで二年ほど一緒に旅をして、一人で世界を見て回りたくなったから、彼の元を離れた」


 時系列を見ると、ラルハール君はミアちゃんと別れてから一年後にイスと出会った。

 そしてミアちゃんは一人旅を始めて六年後に私と出会い、破滅の呪いを受けた…と。


「イスちゃんと出会ったのは偶然じゃなくてねェ。三年くらい前、噂で「ラルハール様の娘」が近くに来てるって聞いて、どんな奴か気になったから会いに行ったんだよ」


「ほう。で、どうだった?」


「驚いたさァ。容姿も振る舞いも全然違うのに、一瞬ラルハール様が居るんじゃないかって錯覚したよ」


 やっぱり、ミアちゃんもそう感じたんだ。

 イス自身がラルハール君を慕って育ったからか、彼女の雰囲気は彼にそっくりなのだ。

 ミアちゃんはふいに伸びをして、再び脱力した。


「ん~…っはぁ。ボクたちは同じ人から考古学を学んで育ったもんで、経験の差による見解の相違はあっても、不思議とウマが合った。会った日に語り疲れて、同じベッドで寝落ちするくらいにね」


 ここまでは二人とも仲が良さそうだ。


「おっぱい揉ませてって言ったら困惑しながら揉ませてくれたし、遺跡探索中には時に意見をぶつけあって、魔物が出たら背中を預けあって…アーちゃんが嫉妬するくらい仲睦まじい日々を過ごした」


「微笑ましいなーとは思うけど、別に嫉妬はしない。そんな仲良しだったのに、なんでイスはあんな殺意剥き出しでミアちゃんに突っかかるようになったのさ?」


 ミアちゃんは目を閉じて「ん~…」と鼻から声を漏らし、額に右手の甲を置いた。


「…きっかけはほんの些細な一言でねェ。実を言うとイスちゃん、前に使った遺物の効果で「運命レベルの確率を確実に引き当てる」体質になっちゃっててさ」


「ふむ?」


「彼女が行く先々では必ず希少な遺物が発見されて、ボクたちの共同研究はトントン拍子で進んで行ったんだけど…本人はその効果を自覚していなくてさァ」


 遺物の効果解析などは、イスよりもミアちゃんの方が上手だと言っていたね。

 確率を操る効果と言うと、イスが天地成獄の秤(ネティとポティ)の効果を引き当てるために使ったという、一度きりの使い捨て遺物のことか。

 イスがその遺物を使ったのは六年前…だとすれば、遺物鑑定スキルも今より未熟だったはず。効果を見誤っていたんだ。


「てっきり自覚してると思ったから、ボクはその前提で「イスちゃんと居ると効率がよくて便利だね」って言っちゃったんだァ。…あの子がボクを、無二の親友として慕ってくれてたとも知らずにさ」


「…つまり、イスはミアちゃんを親友と思って心を許していたけれど、ミアちゃんは研究の効率しか見ておらず、便利な道具扱いされてた…と思われちゃってるってこと?」


「うん。何度も弁解したんだけど、確率を引き当てる効果はイスちゃん自身が感知出来ないくらい薄れてて、最終的にお金目的で近付いてたと勘違いされ、結局喧嘩別れ…ってオチだよ」


「うーむ…多感なお年頃だったのと、イスが措かれていた状況を鑑みると、過敏になりすぎとも言いづらいね」


「わりとあるんだよォ、近すぎて気付けないことってさ。アーちゃんも気を付けなね?」


「不滅の肝に命じとくよ」


 他人が聞いたら、なんて小さいことで怒ってるんだと言われても仕方ない、本当に些細なきっかけだ。

 けれど各国への資金提供を行っていた当時のイスにとって、同年代の気のおける友人はかけがえの無い存在だったのだろう。

 多少ムキになって引っ込みがつかなくなった感も否めないが、これは当人同士の問題だ。

 いつかまた二人が仲直りして、手を取り合う日が来ることを少なからず祈ろう。


「けどイスちゃんの怒った顔って妙に興奮するんだよね。NTR風動画撮ってイスちゃんに送っちゃおっかな」


 …うん、二人が仲直りする日は当分来なさそうだ。

 このあと私はミアちゃんに付き合わされて、件のネタ動画を撮影する羽目になったのであった。


続く。

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