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不滅のアトラ  作者: 鉄すらぐ
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開門ってか鍵作り?なんだよ

 テティスとの組手に付き合ってくれたミアちゃんが要求してきたのは、闇魔法の門の開き方について教えてほしい、というものだった。

 いやー…ようやく魔法面で私を頼ってくれる人物が現れて、嬉しさのあまり小躍りしたくなったよ。

 テティスは「神通力」という特殊能力を備えているから魔法への興味が薄いし、イスは私が昔書いた魔法の本を自力で解読して習得すると言って聞かないし。

 永き時を経て、ようやく伝導師ソダムの本懐を遂げられるってものだよ。

 というわけで私はミアちゃんに、魔法の門の開門方法と諸注意について説明していた。


「開門と言うけれど、門を開く際に必要なのは魔法に対する適正や一定の魔力量じゃなくて、それぞれの門に適した「鍵」を造る手順を踏むことなんだよ」


「ふむふむ」


 普段ふざけがちなミアちゃんが真面目に私の講義を受けながら、デバイスに要点をまとめて記録している。

 やっぱりこの子、根はすこぶるいい子だ…キャラ性でだいぶ損してるけどね。


「開門方法はいずれも古代から変わっておらず、門によっては当時と開門条件が異なっている場合もあるけれど、今回ミアちゃんに教えるのは、最も安全かつ完全に門を開放出来る、ソダム直伝の開門方法だよ」


「安全かつ完全っていうとさァ、開き方によっては危険だったり、不完全だったりするの?」


 さすがミアちゃん、いい指摘だ。


「そうなのです。かつて魔法の門を無理矢理こじ開けて魔法を使役する、バカみたいな方法がバカみたいに流行った時期があったんだけどさ。こじ開けられた門は当然開閉が効かなくなるから、一度使用すると同じ門の魔法を二度と扱えない状態になってしまって、それはもう大変だったんだよ」


「あァ、一時的な力に溺れるタイプの奴らね。遺物を手にして強大な力を身に付けたと勘違いした、みたいな」


「そうそうそんな感じ。あくまで魔法の門は私たち人類に備わっている身体機能のひとつで、扱い方を誤れば秒で命に関わるってことを忘れないようにね」


「了ォ解」


 遺物の力で不死身になっているからこそ、ミアちゃんには慎重に開門に臨んで貰いたい。

 門は最初に開いた時の感覚を記憶する性質を持っていて、癖のある開き方や不完全開放をしてしまうと、一生本来の力を発揮できないまま過ごす事になるから。

 …などなど、頭に入れておくべき注意事項を伝えたところで、本題に移ろうか。


「それじゃいよいよ、お待ちかねの闇の門の開門方法について説明するね」


「はァい」


「闇の門を開くにはまず、既に闇の門を開いた魔法使いの協力が不可欠…まぁこれは私が居るからクリアとして、次に手に収まるくらいの刃物が必要なんだけど、ミアちゃん小型ナイフとか持ってるかな」


「対魔物用のやつでもいーい?」


「刃物ならなんでも大丈夫だよ」


 ぶっちゃけ刃がついてた方が効率的ってだけで、獲物は何だっていいんだよね。

 ミアちゃんは腰のベルトに留めていた蒼いグリップの折り畳みナイフを手にして、こちらに差し出してきた。

 借りるね、と伝えてナイフを受け取り、刃の長さを確認する。

 白銀に光る本体の刃渡りは8cm。これから行う儀式にはもってこいのサイズだ。


「それじゃあちょっと準備するね」


 私は右手でメロイックサインを作り、闇の門を開いて光を遮る闇粒子を召喚。刃渡りに見合うよう出力を調え、刃全体に染み込ませる。


「闇魔法は基本この闇粒子、通称「黒モヤ」を操る魔法でね。戦闘時に相手の視界を奪ったり、日照り時に日陰を作ったりと、私は主に補助として用いることが多かったよ」


「主戦力にはならなそうだけどォ、奇襲メインのボクと相性よさそうだね」


 話しているうちに、刀身はすっかり暗澹たる闇色に染まっていた。

 これにて下準備は終わり。私の見立てが正しければ、ミアちゃんはもうすぐ闇の門を開けるだろう。


「扱いに慣れてきたら、攻防一体の戦術を組めたりもするよ。まぁ門を開かなきゃ無駄話にしかならないけどね」


「アッハハ、言えてる。それで、後はどうすれば」


 ドスッ。

 私は無警戒に笑うミアちゃんの腹部に、黒ずんだナイフを突き立てた。


「…っあ、え…?」


 一瞬遅れてミアちゃんの顔が苦痛に歪んだ。

 傷口から少量の血液が流れ出て、額からも冷や汗が噴き出している。

 どうやら破滅も不滅と同じで、正常な痛覚を味わえるらしい。



――――――――


 一方、その頃のイスたち。


「やりましたわね、大物ですわよ」


「み、湖に引きずり込まれるかと思いました…」


 アトラがミアに連れていかれて約10分。時間潰しに湖岸で行っていたのべ釣りにて、テティスが60cm超えのレステ湖固有魚「レステパーチ」を釣り上げていた。


「なかなか白熱しましたわね。…一般の方もここ一帯で釣りが楽しめるよう、ギルドとレステの漁協にかけあってみましょうか」


「遊歩道に芝生エリア、遊具、釣りスポット…あとは宿泊施設も整備出来れば、街の外からも観光客を呼び込みやすいかもしれません」


「いいですわね。その案、採用させていただいても宜しいでしょうか?」


「もちろんです」


 建築好きと作業好き。二人の目的は完全にレジャー施設開発に推移して、大いに盛り上がっていた。


「…開発が早く終わったら、バトリエに遊びに行っちゃいましょうか」


「えっ、いいんですか?」


「いいんですの。アトラには連絡を入れておくので、わたくしたちもこの休日を満喫しちゃいましょう」


 この後二人は急ピッチで大型宿泊施設を二棟建てて、昼前にバトリエへと向かい存分に遊び尽くすのであった。


――――――――


 同刻、遺跡にて。


「…ミアちゃんが無警戒で助かったよ。安心して、急所は外してあるから」


「んんっ…ぐっ!?」


 ミアちゃんが暴れないように、高密度の黒モヤで手足を拘束。ナイフが途中で抜けてしまったら一連の準備が無駄になるから、きちんと刃の根本まで突き刺した。


「あ…アー、ちゃん…いきなり、何すんのさァ…」


「ごめん、びっくりしたよね。けどその一瞬の驚き…魔力の揺らぎが、闇の門にアクセスするために必要でね」


 少しだけ痛みに慣れてきたのか、ミアちゃんは食い縛っていた歯を解いて、深呼吸を繰り返し息を整えた。


「ふー…ったたた。これ、ボクじゃなかったら死んでたかもよォ…?」


「私が闇の門の開門に乗り気だったのは、ミアちゃんが不死身だったからってのもあるね。おかげで狂いなく正確に刺せたよ」


「…アーちゃんも、闇の門開くとき同じことしたの…?」


「私の場合は今と少し状況が異なるけど、刺されたのは同じだよ。この方法は…えーと、今の言語で表すと「リゥドラゥレェウェセ」っていう古代の魔物の生態に基づいていて」


「その辺りの話はあとにしてェ…。てかコレ、いつまで刺したまんまにすんの…?」


 いけない、つい語りたい欲が湧いてしまった。

 ミアちゃんは痩せ我慢してるだけのようだし、今は儀式に集中して手早く終わらせてしまおう。いい頃合いみたいだし。


「…実はヒトの魔力って、命を奪った者に残留する性質を持っていてね」


「え…今度は、何の話ィ…?」


 ミアちゃんの腹部に突き刺した闇ナイフが、突如赤黒く光輝きだした。

 やはり、私の見立てに間違いはなかったようだ。


「闇の門を開くために必要な鍵…それは、108人分の異なる魔力。このナイフに施したのは、ミアちゃんの体内に残留し続ける「殺害した者の魔力」を吸い上げ、鍵と成す闇魔法だよ」


「…そういやもう、軽く200人以上は殺ってきたっけェ…」


 これが乗り気だった二つ目の理由。

 刃物に同じ魔法を施して、ヒトを108人斬りつけていけば同じように魔力を貯められるが、それは後から生み出された方法。こちらが正規のやり方なのだ。


「後はそのナイフ…鍵を、ミアちゃん自身の手で背中側に貫通させられたら闇の門が開くよ」


「うわー…チキンにゃ無理そうなやり方…けどォ」


 ミアちゃんの拘束を解くと、彼女は躊躇せずにナイフの柄を手のひらで押し込んだ。

 甚大な痛覚を伴いながらナイフの鋒が背中から飛び出し、吸い上げた亡者の魔力を糧にして、闇の門の閂が破壊されていくのを感じた。


「ぐ…っ!」


 鍵はただちに効力を発揮し尽くして、その禍々しい輝きを失った。

 ミアちゃん自身も鍵がただのナイフに還ったと察したらしく、またもや躊躇わず一息で引き抜いた。


「んんっ…っ!!」


 力任せにナイフを貫通させ、乱暴に引き抜けば周辺の血管や臓器にダメージが入ること受け合いだが、そこはさすが不死身のミアちゃん。

 あっという間に出血が止まり、傷口も修復されて傷ひとつないきれいなお腹に。


「あー、痛かったァ…」


 ミアちゃんはナイフを手にしたまま治ったばかりの患部を撫でさすっていた。気力も体力も回復が早いね。


「改めて、刺してごめんねミアちゃん」


「だいじょぶだいじょぶ。ちょっと焦ったけど、なんか謎の力が湧いてくる感じがして、ワクワクが収まんないからさァ」


「ちゃんと開門されたかどうか、触れて確かめてもいいかな?」


「また刺したりしないィ?」


「しないしない」


 ハイテンションなミアちゃんの絡みを交わしつつ、私は彼女のお腹に触れた。

 手順や方法、手際に至るまで完璧に事を運べたが…果たして。

 私はミアちゃんの体内に魔力を忍ばせ、門の状態を確認した。


「…ふむ。どうやらこれは、完全に開放されてるみたいだね」


「マジで?やったァ」


 彼女の闇の門にはガタつきも歪みもなく、封印だけが綺麗さっぱり無くなった状態だ。

 儀式に対する躊躇の無さと迅速な条件の達成が功を奏したみたいだね。

 しかし門の封印が解かれたといっても、まだ開門のコントロールが上手くイメージ出来ないらしい。


「…けどこれってさァ、どう扱えばいいの?」


「んー…普段意図して動かさない筋肉を、魔力の流れでピンポイント操作する感じというか…ひとまずは、その謎の力が沸いてる箇所に魔力を流してみて」


「ん~…?」


 ミアちゃんはお腹をさすりながら、手探りで闇の門を探している。しかしピンポイントに絞るのがどうしても難しいようだ。


「これ、けっこう時間かかるかもォ」


「まずは感覚を掴むことが大事だから、焦らずゆっくりやっていこう。今日帰りが遅くなってもいいように、イスたちには連絡を入れておくから…」


 デバイスを取り出して画面を立ち上げると、中央に「新着メッセージ:イス」との表示が。

 タップしてテキストを読んだ。


『アトラ、わたくし達はこれから気晴らしにバトリエへ向かいます。そちらでの用がお済みでしたら、アトラも是非おいでくださいませ』


 …とのこと。これは好都合だ。

 私はすぐさま入力画面に文字を打ち込んだ。


『こっちはまだ時間がかかりそう。今日は帰れるかわからないから、気にせず二人で遊んでおいで』


 送信、と。

 イスからのメッセージはついさっき届いたばかりだから、今ごろバイクを運転してバトリエに向かってるところかな。気付いたら返信してくるだろう。

 私はデバイスをしまって、ミアちゃんの初開門補助に専念することにした。


「お待たせ。イスたちはこれから娯楽施設に向かうそうだから、私たちも時間を気にせず練習しようか」


「アーちゃんは行かなくてもいいの?」


「いいのいいの。バトリエは先日行ったし、何より初弟子をほったらかしたまま放蕩する気にはなれないよ」


 初弟子…甘美ながらむず痒い響きだ。

 心なしかミアちゃんも嬉しそう。


「弟子想いの師匠に恵まれてボクは幸せ者だねェ。その誠意に報いるために、本気でがんばんないと」


 要望に応えるためとはいえ、ついさっきナイフで腹ぶっ刺したのに、ミアちゃんは私を恨んでいないようだ。

 私は少なからず相手にイラッとしたのに。


「…しかしアーちゃんも同じ方法で闇の門を開いたのかァ。見かけによらず、たくさんのヒトを殺してたんだね」


「ん~…不滅になってからは一人も殺ってないはずなんだけどなぁ。疫病や戦争で倒れた重篤患者が処置中に命を落とす事がざらにあったから、それがカウントされてたのかも」


「アーちゃんって医者だったの?」


「いや、人手が足りなすぎてちょっとした手伝いをしてただけだよ。食事を配ったり、包帯やシーツを洗ったり、専門知識が無くても参加できることばかりね」


「十分立派じゃん。アーちゃんに看取ってもらえた人たち、きっと嬉しかっただろいなァ」


「やー…大抵が不滅への不満や恨み言を口にしながら果てて行ったからなぁ…あ、だからカウントされてたのかな」


「んなアホ、なっ?」


 ぼわんっ。

 雑談の途中、ミアちゃんの背中から薄い煙のようなものが発生した。

 煙はすぐ空気と混ざり消えてしまったが、今のは間違いない。

 黒モヤだ。


「なんか今、ちょっと手応えあったかもォ…」


「ミアちゃん、感覚を忘れないうちにもう一度っ」


「あ、うん。えーっとォ…」


 魔法はまず最初に感覚を掴むのが難しい。

 何度も何度も試行錯誤して、取っ掛かりを見つけていくのがセオリーだ。

 しかしたった一度でもコツを掴んでしまえば、開門する感覚は面白いように体に馴染んでいく。


「なーるほどォ…こういうことね」


 特にこのミアちゃんは…真の天才かもしれない。

 ついさっき開いたばかりの闇の門を、たった二回の反復練習で扱いこなしてしまうなんて。

 彼女の背中から出現した黒モヤは、体の周りや部屋の中を縦横無尽に駆け巡る。まるではじめての操作とは思えない、熟練者でも困難を極める精度の挙動だ。

 ここまで完璧に操ろうとすれば、かなりの魔力量が必要になってくる…あ。


「ミアちゃん、いま魔力量の制御とかちゃんとしてr」


「あるェ…なんかフラフラするぅ…」


 ばたん。

 さっきまでピンピンしてたミアちゃんが、力なくその場に崩れ落ちた。同時に黒モヤもピタリと動きを止め、霧散していった。

 どうやら門を開く感覚は覚えられたものの、どう閉じていいかわからず門内に魔力を流し続け、体内の魔力を使い果たしてしまったらしい。

 言わば出血しすぎて貧血を起こしたような状態である。

 使える魔力が無ければ門は自動的に閉じる。しかしある程度魔力が回復しなければ意識は飛んだままという…ここがセキュリティに優れた場所で良かったよ。


「魔力欠乏による気絶…新米魔法使いが必ずと言っていいほど経験する現象。久々に見たなぁ」


 私は目を回す初弟子を抱え上げて、ソファに寝かせた。

 さっきはスタートダッシュの格の違いを見せつけられて、もう私に教えることは無いんじゃないかと危惧したが…まだまだ師弟関係は続きそうだ。


「さて、ミアちゃんが起きなきゃ私もこの部屋から出られないし…暇潰しに冒険者の動画配信でも見ようかな」


 デバイスの人気機能のひとつ、動画配信&視聴アプリ。

 冒険者がリアルタイムで動画配信しながら攻略を行っていたり、記録・編集した映像を投稿していたりと、チェックする度に新たなラインナップが更新されている、最近の私のお気に入りだ。

 これさえあれば、北世界中のどこにいても各地の最新情報をチェック出来るとイスに言われて、軽い気持ちで覗いてみたら多彩なコンテンツに驚かされ、秒で虜になってしまった。

 …まぁ何よりも驚いたのは、私が町を出た日にドレステミル元老院の爺さんたちが配信活動を始めてた事だけどね。しかもド真面目な説法とかじゃなく、若者の間で流行ってるチャレンジ動画に挑戦して、年甲斐もなくはしゃいでいるものばかり。そこそこ人気が高いのが地味に腹立ったよ。

 …けど、外界に触れられない私のせいで、彼らの生活を無為に締め付けてしまっていたんだと、深く反省もした。

 なので私名義のアカウントで、メッセージを送信しておいたのだ。


『君たちもこういうことして過ごしたかったんだね。これからは機械や種族の規制などはせず、村のみんながしたいことをして暮らしてほしい』と。


「あ、また新作動画アップされてる」


 私は元老院チャンネルに昨日投稿されたばかりの「大好きは永遠不滅」という、懐かしい町並みをバックに、見知った人々が元老院作のオリジナルソングを歌い繋いでいく動画を眺めて…情緒もなく寝落ちしたのであった。


続く。

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