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不滅のアトラ  作者: 鉄すらぐ
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データのために戦おう

 レステシティ旧漁港・廃倉庫街。

 先日ミアちゃんと邂逅した時には倒壊寸前の廃墟が建ち並び、息をするだけで何らかの状態異常になりそうなほど荒廃していたエリアだ。

 近くに有名な魚市場と小さな商店はあるものの、市街地から程遠く、交通網もろくに通っていない利便性の低い土地のため坪単価は安いが、廃屋の撤去費用が嵩むため長年買い手がつかず、名ばかりの管理で非合法取引の温床と化していた土地が…なんということでしょう。

 イスが土地を買い取り、私の氷レーザー砲で廃屋と古いコンクリート地の港を消滅させ、水魔法で大地の浄化&地魔法で栄養回帰。

 テティスの手も借りて広大な大地に芝生の種を撒き、木魔法の効果で瞬時に成長。

 そしてイスの建築スキルで湖の波打ち際に暖色レンガ畳の遊歩道を造り、落下防止用の鉄柵を並べて配置。

 レンガの雰囲気に合う木製のベンチと、夜を彩る背の高い照明も何機か設置して、柵から5mほど離れた場所に私のリクエストで花壇を置いて貰った。

 こちらもテティスの手を借りて数々の花の種子を植えて、同じく木魔法で急速成長。

 数時間前までゴミ溜め状態だった旧漁港が、清潔感溢れる湖岸緑地公園に生まれ変わったではありませんか。


「さて、お次はお子様と親御様向けアトラクションエリアの整備を」


「ちょーいちょいちょいちょいお待ちイスさんや。なんでわざわざこの土地を買ったのか、忘れかけてはいないかね?」


「レステシティの新たなランドマークを建設するためですわよね。テーマは『たゆたう清流』…」


 ダメだ、建築にのめり込み過ぎて本題を見失ってる。


「全く違う。例の移動補助装置完成に向けての改良と、他人に配慮しながらテスト運転を行うための場所造りだよ」


「ハッ…そうでしたわ」


 口では本来の目的を自覚しつつも、体は噴水をどこに設置するかで悩んでいた。こういうところは箱庭で遊ぶ子供っぽくて微笑ましく思う。

 まぁ既に使用された建築材の費用を念頭に置くと、浮かんだ微笑みは消滅するがね。

 イスは湖岸の遊歩道に近い、緑地化前の露地に円形の土台を敷いて、縦横2マスサイズのシンプルな円形噴水を設置すると、一旦建築を中断した。


「公園の開発は後ほど進めるとして、本題に入りましょう」


 イスは気持ちを切り替えて、アトラクション設置候補地の露地エリアに、縦横2マス、奥行きと突出部分合わせて7マス分の、トの字型合金製コンテナルームを設置した。

 やけに重々しい両開きの扉を開いて中へ入ると、室内には既に照明や空調システムのみならず、奥3マス分のエリアの壁に沿って机と工具類が常設されていた。


「ここで移動補助装置の改良を行いますわ。壁で仕切られた奥、横に突出した部分2マスが休憩&仮眠ルーム、更に奥の2マスはトイレとお風呂がありますわ」


「ドレステミルのマイホームより充実してる。」


「採掘場のプレハブ小屋に雰囲気が似ていて、なんだか落ち着きます」


 我々の追従基準、テティスが気に入ってくれたみたいで良かった。

 イスが買い取ったエリアを出て少し歩いた所には、新鮮な魚が並ぶ魚市場と、生活品や雑貨を取り扱う個人商店もある。

 周囲1km圏内に我々以外誰も居らず、暮らしに贅沢さを求めないのであれば、一等地に建てた拠点よりも遥かに居心地がいい。

 何より、毎日拠点とこことを往き来するのは大変だし。時間はあっという間に過ぎるから、有効に使わないとね。

 まずはこういった場合、より効率よく作業を進めるために、適正のある者に現場指揮を執って貰う必要があるのだが…私もイスも、その役割は彼女にお願いしようと考えた。


「それではわたくしたちの指揮官として、若冠14歳ながら採掘場に有能現場監督と名を馳せたテティスにお願いしたいのですが、引き受けてもらえますでしょうか?」


「わたしが…ですか?」


「うん。一連の責任は私たちが負うから、作業指示やペース配分の管理などをお任せしたい」


 私もイスも基本独断で動くマイペースタイプなので、実践経験豊富なテティスこそ我々をまとめる真のリーダーに相応しい。

 彼女は少し俯いて考え込む雰囲気を見せたが、すぐさま顔を上げて大きく頷き返した。


「わかりました。まだまだ若輩者ですが、頂いた大役に恥じないよう、精一杯務めさせて頂きます」


 仕事が出来る子ってやっぱり格好いいなぁ。

 トップに立つ人が物事に真摯に取り組む姿勢を見せると、こちらも背筋がピンと伸びるよ。

 テティスは瞼を閉じて一息置くと、目尻をキリッとつり上げて私たちを見た。これがいわゆる、現場監督モードか。


「まず製品の加工に取りかかる前に、試作品の失敗点をおさらいしましょう」


 私たちはテティスの指示でコンテナに入って、扉をしっかり施錠してから話を続けた。

 世間に出回っていない装備品についての話し合いなので、万が一第三者にアイデアを模倣されて、重大な事故を引き起こしてしまったら大変だから、とのこと。とことんしっかりしてるわ。

 テティスは机に置かれた移動補助装置の試作品を手に取り、実物を観察しながらつらつらと述べた。


「主な失敗の要因として挙げられるのは、十分な製作時間が確保できていなかったこと。そして左右の形状と加工石の状態にバラつきが見られ、靴との調和も取れていなかった。故に噴出する空気の風向きと出力が安定せず、制御を失ったのでしょう」


 さすが、彼女に監督を任せて正解だった。

 不要な会話は交わさず、本当に必要なことだけを並べていく。


「ですので今回は装置を取り付ける前に、靴装備の採寸と既存機能の重複チェックを行います。特にイスさんの靴はイスさん最大の攻撃手段ですから、後付け装置で本来の機能を損ねてしまうと、大幅な戦力ダウンと重大なアクシデントに繋がりますので」


「そうですわね。元々わたくしが提案したプランですし、ここで時間をかけすぎるのも好ましくありませんから、すぐ始めましょう」


 テティスの空気感に乗せられて、普段おっとりしているイスまでもがハキハキと喋り始めた。

 これは私だけのんびりしてはいられないね。


「採寸なら私に任せて。0.00001mmまで正確に計測できるスキルを持っているので」


「ではイスさんとわたしの靴の採寸はアトラさんにお任せします。まずは靴そのものの数値を測って、次に履いた状態で数値を計測し、変化を把握しましょう」


「了解、監督」


 イスとテティスは椅子に座って、それぞれブーツと白足袋を脱ぎ、軽く汚れを落としてから作業机に置いた。

 同じ目線で眺めてみると、改めてイスの紅い金属製ブーツはド派手に感じるね。

 一方、テティスが履いている革製の白足袋は全く飾り気の無いデザインで、清廉潔白な彼女の雰囲気をより強調させる。


「それじゃあ早速、採寸を始めていくね」


 私はスキル『検測(けんそく)』を発動して、ブーツと足袋の細部に至るまで、大きさや重さを如実に可視化させ、浮かび上がった数値を事細かに記憶した。

 次いで装備した状態の数値も計測。

 二人の足に誂えて造られた装備でも、やはり履いた状態だと細やかな数値に変動が見られるね。

 二人とも体を使って激しく動き回るバトルスタイルだから、ただ歩行したり走ったりするだけでなく、実戦のデータも取っておきたいところだが、判断するのはあくまでも監督だ。

 いま私が出来るのは、せいぜい意見陳述くらい。


「監督。装備と装置の親和性をより高めるために、戦闘を想定したモーションデータが欲しいのだが」


「あの、無理に監督呼びしなくても大丈夫ですよ。もちろん動きを交えた計測も行う予定ですが、先に測定値を記録しておいた方がよろしいのでは?」


「大丈夫だよ。不滅のおかげで記憶力が人並み外れて高いから、いつまでも覚えていられるんだ」


 そういうことでしたら、と溢してからテティスは扉を開いて外へ出た。

 私たちも彼女に追従してコンテナから離れ、開拓したばかりの芝生の上で立ち止まった。


「ここならわたしもイスさんも存分に体を動かせるでしょう」


「十分な広さはありますが、わたくしたちどうすればいいんですの?適当に動き回ればよくって?」


 潔く外へ出たはいいが、二人ともノープランだったようだ。

 まぁ動き回るだけでも有意義なデータは取れると思うが、どうせなら攻撃が対象にヒットした際の諸々の数値も計測しておいた方がいいかな。

 装置の動力源となるモーヴ鉱石は繊細で壊れやすいため、防護魔法を施したとしても、風の推進力とイスの脚力から生まれる衝撃で破損しないとも限らないからね。

 そこで私は考えた。

 より詳細なデータを得るには、どうするのが最適か。

 その答えがコレだ。


「よし。それじゃ私が二人の攻撃を受けるから、かかってきなさい」


「「…え?」」


 二人の間の抜けた声が綺麗に重なって、私の鼓膜を心地よく揺らした。


「え?じゃなくてさ。細かいデータを見るなら、やっぱり自らの身を以て知る方が早いと思うんだよね」


「でもそれは、わたくしたちがアトラを攻撃しなければならない…ということですわよね?」


「その通り。私は言わば全力で殴っても死なないサンドバッグ…たとえ死んでも今の魔力循環率ならすぐ復活するから、遠慮なくおいで」

 

「データのためとはいえ、無抵抗のアトラさんを攻撃するなんて、わたしにはとても出来ません…」


 テティスは自分の右手を左手で包み込み、胸の前でぎゅっと握った。

 二人とも聡明で善良な性格の若者ゆえ、自身の武器がヒトにどれ程のダメージを与えるか把握しているからこそ、仲間、ましてや無抵抗の相手に襲いかかるのを心底躊躇っている。


「心優しい君たちには酷だろうけど、これも安全に万全を期すため必要な事であると理解して欲しい」


「だからって、アトラに武器を向けるなど…」


 と、イスが私から視線を外した瞬間、突如視界が茶褐色に染まった。

 ふわりと鼻腔をくすぐる微かに酸っぱいヒトの汗の香り、そして唇に触れる温かくて柔らかい…なんだこれ?


「んむ?」


 ぼやけた視界の先で点滅する黒と青色、つい最近記憶したばかりの幼くて甘い声色…。


「ん~…?はむはむ」


 私の上唇を絶妙な力加減で食み、固い何かがついたヌメヌメの感触が這いずる…これは、ヒトの唇と舌だ。

 私は一歩後退して、眼前に現れたモノに焦点を合わせた。

 そこに立っていたのは、双つに割れた舌先を口端からだらりと垂らして、不思議そうにこちらを見つめる汗だくの少女。

 もうお分かりのとおり、破滅でお馴染みのあの子だ。


「あ、ミアちゃん」


「あっれェ、アーちゃんじゃん。なんでまた廃倉庫なんかに…って、なんかここめっちゃ綺麗になってない?」


 重厚なアタッシュケースを後ろ手に担いだ、汗だくのミアちゃんがいきなり真ん前に出現した。


「つかボク今、アーちゃんとキスしてなかったァ?」


「うん、してたね」


「…は?」


 急にイスが目を見開いて、ドスの効いた声でこちらを睨んだ。


「貴様、今アトラと何をしたって…?」


「わーお久々のガチ切れイスちゃんだ」


 ズンッ。

 紅ブーツの足首くらいまで、踏み出した一歩が地面に深く沈んだ。

 ミアちゃんは呑気にケラケラ笑っているが、こんなに禍々しい殺気を放つ生物、私は今までで一度も見たことが無い。


「やっぱり貴様はあの時始末しておくべきだった。よりにもよってアトラの唇を奪うなど…ッ」


「死なないし不可抗力だよォ。神天瞬地のワープポイントにたまたまアーちゃんが居ただけなんだから」


 イスの手がミアちゃんの細い首にかかり、全力で締め上げる。しかし全く苦しむ様子はなく、ノーダメージで楽観的に笑っている。

 これが破滅の寿命ストックによる不老不死の効果なのかな?ダメージすら受けないのは羨ましいけれど、教育に悪いからテティスの前で過激なプレイは控えて欲しいな。


「ホラホラ、ちっちゃい猫ちゃんも見てるんだし抑えて抑えてェ」


 ミアちゃんの存在を私たちの話でしか聞いたことがないテティスは、この状況に大いに戸惑っていた。

 まったく、大人げない。


「そうだよイス。後でキスでも何でもしてあげるから、とりあえず機嫌直してよ」


「え、何でも?今何でもするとおっしゃいました?」


 しまった、野獣に餌を与えてしまったかな?

 けど殺気が収まったからいいか。

 正気に戻ったイスはミアちゃんの細首から手を離し、召喚したお手拭きで手のひらを嫌そうに拭った。

 

「相変わらず汗かきですわね…汚ならしいですわ」


「だってボク元々全裸で生活する種族だしィ、社会に配慮して着なくていいはずの服を着てんだから仕方ないっしょ」


「そんな布面積では社会に配慮しているとは言いませんわ」


「あ…でもお気持ちわかります。わたしも社会に出るまで、儀式の時間以外は服を着ていませんでしたから」


 まさかのテティスが全裸談義に参戦した。

 まあ…テティスは全身もふもふだから、ケモセーフが適用されるもんね。

 獣人の賛同を得られたミアちゃんは、初対面にもかかわらずテティスの肩に手を回して絡み始めた。


「だよねェ~?わかってくれて嬉しいよ、猫ちゃん」


「ちょっ、汗まみれの汚い手でテティスに触らないでくださいませ!」


「いいんですよイスさん。採掘現場は常に汗臭かったですし、わたしも汗の臭いは嫌いじゃないので…」


 と、テティスがミアちゃんの腋に鼻を近付けて微かに鼻を動かした。

 なんだろう、この光景。物凄く見てはいけないものを見ている気分。てかテティスって匂いフェチだったの?


「すぅー…ふはっ」


 わずかに口を開けて恍惚の表情を浮かべるテティス。

 これまで抱いていた、清廉潔白で純真無垢なイメージがどんどん壊れていく。

 もしかしてこの子が採掘現場とかの過酷な場所で働いていたのって、汗の臭いを嗅ぐため…いや、考えるのは止そう。


「はぁ…たまりませんね…」


 この数秒でテティスの印象が変わりまくっていく。我がパーティには変態しかいないのか?

 ミアちゃんはミアちゃんで体臭褒められてなんか嬉しそうだし、イスもテティスの意外な一面を見て少なからずショックを受けていた。と同時にこいつもなんか興奮していた。

 これはもう一旦場を仕切り直さないと、まともな計画進行は難しそうだなぁ。

 それぞれ気は合うのに、この面子だと上手く話が進まない。それも楽しいんだけどさ、いつまで経っても装置が完成しないのは御免被りたい。

 …いや、どのみち私たちだけでは行き詰まっていた所だし、こうなったらいっそ彼女の手も借りてしまおうか。

 偶然とはいえ、せっかくやって来たのだからね。


「時にミアちゃん、ちょっと暇はあるかい?」


「ん?うん、今日はもうヒマだよォ」


「じゃあちょっと私に協力して貰ってもいいかな」


「…な~んか、面白そうなコト考えてる顔してんねェ?」


 ミアちゃんはしたり顔で私の側にやって来た。

 私は自分の考えを彼女にそっと耳打ちで伝える。

 すると彼女の口角が、いかにも悪役っぽく歪につり上がった。


続く。

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