信頼と証明2
「…いやはや、まさかの事態だね」
「ええ、全く」
戦闘準備万端で坑道から飛び出し、トロッコレールに沿って駆け抜けた私たちを待ち受けていたのは、採掘場の中央に建つ5棟のプレハブ小屋と、レールの終着点であるコンクリートの箱形巨大倉庫。
ここはトロッコを格納しておく場所でまず間違いないだろう。しかし何故かシャッターが内側から強い力を受けたように歪んでいて、隣接するプレハブ小屋との隙間、左側面の壁に人の手で掘ったとおぼしき穴が空いている。
そちらも気にはなるものの、この場で最も存在感を放つ濃厚な血の臭いと、軽くモザイクがかかりそうなくらいあれこれ散らかった無数の人間の死体を、無視したままでは居られなかった。
その場にしゃがんで、両足を切断されている遺体の傷口をまじまじと観察する。
「大の男たちの手足をこうも綺麗に切断するなんてね。相当の剣術の使い手の仕業か、えらく切れ味のいい刃物を使ったのか…」
「この泥と血の臭い…貧民区を思い出しますわ」
イスは死体から発せられる悪臭に少し顔をしかめたが、大勢の死体を前にしても案外平然と佇んでいた。
帝国王政時代の負の遺産、人の掃き溜めとも呼ばれていた貧民の終着点。その劣悪さを一瞬垣間見た気がした。
「死体の数は、ひーふーみー…全部で33人か」
ほぼ賊の数と一致する。いずれも服装はバラバラで、どれも切り裂かれる前から酷く傷んでいたみたいだ。
人によっては体と衣服のサイズが合っていないものまである。
趣味で古着を着ていたというより、これしか着るものが無かった、との印象を強く受けた。
「まずは遺体の顔と賊の情報を照合してみよう。イス、抵抗が無ければ、うつ伏せの遺体を仰向けにするの手伝ってくれるかな」
「かしこまりましたわ」
二人して死体を見慣れてるってのも妙な気分だね。
しかしイスの手を借りたおかげで確認作業は滞りなく進んだ。ついでに切断された部位を適切な位置に配置し直し、著しく顔を損傷した者は骨格を見て確認を行い…作業開始から15分後、33名全員の確認が終わった。
「ふー…どうやらここに伏せた全員が、賊の一味で間違いないね」
賊の主犯、ルイス・コナーという32歳の男性を除いて、対処目標であった一味の完全沈黙を確認した。
壮絶な捕り物になると意気込んでいた私には拍子抜けな結末だが、本件最大の目的はあくまで主犯ルイスの捕縛(もしくは処理)。
少なくともこの場にルイスの姿は無く、向かって左端の2階建てプレハブ小屋から人の気配が漂って来ているが、犯罪者特有の悪意は感じられなかった。
イスは小屋に気を向ける様子を見せないから、気配に気づいているのは私だけ…知覚系スキルばかりを習得し続けたせいか、素の感覚も多少強化されているようだ。
まずは一体ここで何が起こったのか調べて、真相を究明しなくちゃ。
「遺体の状態から見て、刃物状の武具が用いられたことは間違い無いね。しかし斬り方に特定の剣術等による規則性は認められず、賊も斬撃を防御した形跡が一切ないときた」
「凶刃を振るった者を仮に犯人として、賊の対応よりも速く動き、闇雲に斬り伏せたと?」
「所見では、ね。だけど30人以上を相手に刃こぼれせず連続で骨ごと断てるような業物が、人里から遠く離れた鉱山に都合良く存在するだろうか?」
「たとえ業物であっても、扱う者に相応の技量が無ければ武具はすぐに傷んでしまいますの。ですがアトラの見立てに従うなら、犯人は剣の扱いに不馴れな人物…結果との整合性が取れませんわ」
現時点までに得られた手がかりだけでは答えに辿り着けない。
そこで私は、先程からこちらに意識を向けている者から新たな情報を得るために、プレハブ小屋前まで足を運んだ。
念のためイスには静かにその場で待つようにジェスチャーで指示して、無言で軽合金の引き戸に手をかける。
すると戸の向こうから殺気…までは行かないが、自衛のためならこちらに危害を加える事も辞さない、という覚悟を感じ取り、一旦戸から手を離して、出来るだけ柔らかい声色で語りかけた。
「驚かせて申し訳ないね。私は冒険者のアトラ、ミールの代表に頼まれて賊を捕らえに来た者だよ」
「…悪いが信用出来ない。君が賊の一味ではないと証明されない限り、戸を開けるわけにはいかない」
精悍ながら若い男性の声、20代後半ってところかな。音の反響具合と小屋のサイズから彼の位置を算出すると、部屋の中央に近い場所に居て、私に背を向けた状態で発せられているのがわかる。何か手が放せない理由でもあるのだろうか。
それともうひとつ、酷く弱々しい気配を室内から感じる。
恐らく彼…らが、スコット君が言っていた採掘企業の作業員なのだろう。
今はとにかく彼の気を逆撫でしないようにと、スキルで室内を探るのは止めておいた。
私はジャケットの内ポケットに忍ばせたデバイスを手にして、世界各地のリアルタイムニュースが集められるアプリを開いた。
現時点でタイムラインを席巻しているのは…
「証明しろと言われても難しいね。グローデン騎士団のスコット君に聞けば身分を保証してくれるはずだけど、彼はいま緊急のライブ配信を行っている最中だから」
「スコット…騎士団長のスコット様?」
向こうの彼が反応を示した。
「そう、騎士団長のスコット君。いまデバイスを持っているなら、ニュースを確認してみて」
「すまないがデバイスは自室に置いてあるんだ。確認は出来ない」
騎士団長 緊急配信 新設部隊発足を発表と、どのメディアもこぞってスコット君の発表を記事にして報じている。
遠方の冒険者と短文でやりとりが出来る交流アプリを開いても、やはり結果は同じ。まぁこちらの内容については後でじっくり読もう。
事実確認を済ませて、私はデバイスをしまった。
「自室とは併設されているプレハブのいずれかにあるんだろう?これくらいの距離なら、すぐ取りに行けるのではないかな」
「…君はここで何が起きたのか、本気で知らないのか?」
「つい十数分前にここへたどり着いたばかりなのでね。賊の罠にかかって谷底へと落ち、大地の洞を数時間さ迷い、落盤に巻き込まれつつ坑道に出られていよいよ賊と対峙…と思いきや、私たちを待ち受けていたのは主犯を除く不可解な賊の死体の山と来たもんだ。訳がわからないよ」
語り部口調で説明がてら、イスに指で「こっちへ来て」と合図を送る。
彼が常日頃デバイスでニュースを仕入れているか不明なため、閉塞的環境であっても、彼女ほどの有名人なら顔が通じるだろうと考えたのだ。
尤も、こちら側に窓がないから見せられもしないのだが。
イスが鈍足でやって来る最中、向こうからもうひとつ質問が飛んできた。
「どうして死体が賊のものだとわかった?状況から鉱山勤務の作業員である可能性が、第一に浮かぶはずだが」
「スコット君から貰った賊の資料と照合しながら確認したのさ。彼が業務委託した企業にしては、服装があまりにもお粗末だった、し…?」
「アトラってば謙虚ですわね。わたくしたちは賊ではないのだから、遠慮なんてせずに開けちゃえばいいですのに」
静かに話を聞いていたイスがつかつかと私の隣にやって来て、いきなり戸に手をかけた。
そして恐らく施錠されていたにも関わらず、力任せにガラッ(バキッ)と開いてしまった。
「なっ…!?」
軽合金の戸は防犯性能を失い、イスは開け放たれた出入り口から容赦なく押し入った。行動的なのは美徳だが、時と場合は考えて欲しいものだ。
と言いつつ私も彼女の後をついて室内に侵入したのだから、文句は言えないか。
「失礼致しますわ」
「あ、なたは…イスさん?」
あ、人によっては強引な手ぇ使ってもまかり通るんだなぁ。
青い作業着を身につけた茶髪の青年が、長机に体を向けたままこちらに視線を遣っていた。
窓のシャッターが全て下ろされた薄暗い室内を照らすのは、彼の手から発現する澄んだ緑色の光。治癒スキル発動時の特徴だ。
「それ、治癒スキルだよね。誰か怪我人でも…」
イスの背後から顔を出して彼に近寄ると、私は絶句した。
長机に仰向けで横たわっていたのは、酷く焦げた布をまとった、毛むくじゃらの小柄な人型生物。
体毛も所々焦げており、特に体左側の損傷が激しく、左肩から下が失われていた。
傷口は重度の裂傷と熱傷で歪に焼けただれ、出血こそしていないものの、意識があれば甚大な激痛を伴っているはずだ。
「この子は一体…」
「猫獣人の…少女みたいですわね。可哀想に、なんて酷い怪我を…」
ねこ、獣人。
前々から「あり得ないほど可愛い」との噂だけを耳にしてきて、ついぞ見ることが叶わなかった「ねこちゃん」との初接触が、まさかこんなかたちになるなんてね。
「…彼女は今、辛うじて僕の治癒スキルで命を繋いでいる状況なんです。この子…テティスちゃんは、格納庫内に仕掛けられた爆弾から僕たちを守るために、爆風を一身に受けて…」
聞いてもいないのに語り始めた青年から飛び出した「爆弾」というワードにピンと来た。
だが、いま優先すべきは謎解きではないだろう。
目の前で消えかけている彼女…テティスの命は、まだこの手で救えるのだから。
「…君、本気でこの子を救いたいかい?」
「当たり前だろう。彼女は我々の大切な仲間…そして、暴走した彼を止めてあげられる、唯一の希望なんだ」
この現場では、まだ何か問題を抱えているのか。
しかし彼の「救いたい」という気持ちに偽りはない。彼女の居場所はちゃんとここにあるんだと、心を読まずとも伝わったよ。
私は魔力回路の流れを門にではなく、両手に向けた。
これをやるのは、かなり久しぶりだなぁ。
「イス、それと君…ええと、名は?」
「トラスト」
「トラスト君。…今から私が見せるのは、世に伝えていない古代の秘術だ。彼女の命を救う代わりに、ここで見た事は絶対に他言しないと誓えるかな?」
「…君はいったい、何を言って」
「誓うのかい?誓わないのかい?どっちなんだい?」
「仰せのままに、ソダム様」
イスはトラスト君よりも先に膝を折って、わざとらしい恭しさを見せながら誓った。
「ソダム様、って…嘘ですよねイスさん、こんな、可愛らしい女の子が…?」
トラスト君は到底信じられそうにないのか、イスに助言を求めた。すると彼女は得意気に口角をつり上げた。
「帝国に伝わる「白髪の長命なご老人」というソダム様のイメージは、スコットの目撃証言によって広まったものですの。御前におわすこちらの方こそが、正真正銘のソダム様なのですわ」
「早くしてくんないと、魔法漏れそうなんだけど」
「アトラのお漏らし!?」
「座ってろ変態。」
彼がうだうだしている間に、私の両手の平にはそれぞれ発光する緑色の液体が湧出し続けている。
本来なら手のひら一杯になるまで数時間かかるところなんだけど、やっぱり禁術も魔力結石の解消によって高出力になっているようだ。
まぁ溢れても勿体ないだけで、効能に変化は無いんだが。
「えっと、誓い…ます」
困惑しつつもトラスト君が誓いをたてたところで、私はテティスの口元に両手を近付け、二種類の液体を混合させながら、力なく開いた口内に流した。
混ざり合った液体はより強い光を伴い、テティスの全身に浸透し…負った傷と、失われた腕を見事に再生した。
禁術指定No.574、再生術・蔦繁。
二つの薬液を混ぜて服用することで、切断されて間もない生首くらいなら再び肉体を再生できる魔法だ。
元は24周期ほど昔の人類が生み出したもので、意図的に切り離した生首と肉体にこの魔法をかけて同一人物を複製しまくり、混沌の戦禍を巻き起こしたため禁術に指定した。
効果が無事発揮されたかは…まぁ、彼女を見れば語らずともわかるだろう。
「んっ…あれ、わたしは…」
頭を押さえながらむくりと起き上がり、鈴が転がるような可愛らしい声を発したテティス。
大きな瞳を何度もぱちくりさせて、まるで状況が理解できない、といった感じだ。
起き上がった彼女を見てトラスト君は膝から崩れ落ち、長机に顔を伏せ、すぐにテティスを見上げた。
「テ、ティスちゃん…どこも、痛くはないのかい?」
「ええ、もうなんともありません。けれどわたし、どうして生きているのですか…?爆発に巻き込まれて命を落としたはずでは…」
外傷が治ったとしても、負ったばかりの痛みと衝撃は簡単に忘れ去れはしないものだ。
私のような不死身ならともかく、致命傷で落命してしまう種族であれば、左半身を爆風で吹き飛ばされて意識を手放した=死と捉えても何ら違和感は無い。
あれは夢だったのでしょうか、と呟くテティスの獣そのものの手に触れて、トラスト君は私に一瞥をくれた。
彼の視線は「治癒魔法についての誤魔化しはお願いします」と語っていた気がした。
私が小さく頷き返すと、彼は語り始めた。
「テティスちゃんは裏返ったトロッコの中で見つかったんだよ。おやっさんの見立てだと、複数仕掛けてあった爆弾の爆発タイミングにはズレがあって、最初の爆発でトロッコと一緒に吹き飛ばされ、たまたまテティスちゃんに覆い被さり、以降の爆発から身を守ったんだろうって」
「でも、私の左腕は確かに爆発によって失われたはずで…」
おっと、私の出番のようだ。
トラスト君の隣に移動して、軽く一礼を済ませてから挨拶する。
「はじめましてテティス。私は冒険者のアトラ、こっちは仲間のイスだよ」
「お初にお目にかかりますわね、猫獣人のお嬢さん。わたくしはクインナート・Tf・ラピスマイン、イスとお呼び下さいまし」
「えっ、あ、はじめまし、て…?」
まぁいきなり知らない人と有名人が出てきたら困惑も深まるわな。更なる夢と疑われても仕方ないかもしれん。
今回君の身に起きたことは現実で、なおかつ禁術について触れずに落とし込むには…少しイスの知名度を利用させてもらうとするかね。
「テティス。君は爆発によって間違いなく致命傷を負い、ついさっきまでこちらのトラスト君が治癒スキルを駆使して、命を繋いでいたんだよ」
「…やっぱり、現実だったんですね…。けれど、どうして私は無事なのでしょう…?」
デバイスで世の様々な事柄を調べて見識を深め、仕入れた世間的なイスのイメージ。
世界的大富豪であり冒険者 兼 遺跡研究者 兼 遺物コレクター。
彼女が隣に存在するだけで、これから吐く私の虚言は真実と相成るのだ。
「イスが持っていた遺物の中に、高い治癒効果を持つものがあってね。使いきりタイプだったから、効果を発揮したら壊れてしまったんだけど、君の命と天秤にかけるまでもないってさ」
「そうだったんですか…わたしのために、貴重な遺物を…」
この虚言は彼女に存在しない罪悪感を背負わせてしまうが、もう二度と自らの命を賭してしまうような真似をさせないためには必要な重石だ。
「治癒系の遺物なら他にもございますので、お気になさらないで下さいまし。こういった事態に備えて、わたくしは遺物を収集しているのですから」
そしてノータイムで虚言に付き合ってくれるイス。たぶん彼女のは全部本音なのだろうけれども。
私の虚言を真実でコーティングしたら、飲み込みやすくなるわけで。
「その、命を救って頂きありがとうございます、イスさん、トラストさん」
これで彼女の命の恩人はイスとトラスト君、ということで完結するのであった。
めでたしめでたし、とここで終われたら楽だったろうなぁ。
テティスは長机から降りつつ周囲に視線を配って、三角シルエットの耳をピコピコさせながら、他に人の気配がないか探っていた。
「静かですね。トラストさん、他の方々や兄さんはどちらへ?」
テティスの口から出たいずれかのワードに反応して、トラスト君の表情が曇った。
「…実は、君に伝えておかなければいけないことがあるんだ」
「どうしたのですか…?」
重苦しい唇を裂いて、トラスト君は溢すように綴る。
「…テティスちゃんを救出した後、僕たちは格納庫地下のタリスマンが破壊されていることに気がついて…あっという間に賊が雪崩れ込んで来たんだ」
「え…っ」
「奴らの目的は、この採掘場の占拠…頭目が持つ遺物の力で、格納庫に注意を向けるための剣とタリスマン破壊用の爆弾を仕掛けて、誰かが侵入したら起爆するようにしていたと、高笑いしながら語っていたよ…」
やっぱり、それが今朝の地震を誘発した原因だったってわけだ。
至近距離で爆発を受けたにしては怪我の範囲が狭いと思ったが、地下のタリスマンに衝撃が集中するよう、爆発に指向性を持たせていたんだ。
間違った方向に冴えてはいるが、起爆トリガーにヒトを選ぶ辺り、ルイス・コナーのクズさが露呈しているね。
「…と、ここまでは賊も計算通り事を進めていたんだと思う。けれど、テティスちゃんを見て賊が放った言葉に、耳の治療を終えたばかりのレス君が、見たこともないくらい激昂して…最悪のかたちで、証明してしまったんだ」
レス君、証明…私たちには何の話かさっぱりわからない。トラスト君が言葉を濁している…訳ではなさそう。
語り部となった彼の告白を受けて、テティスの顔が絶望に染まっていた。
「…兄さんが、最悪の証明って…まさか、人を…っ!?」
「…ああ、テティスちゃん以外の全員が目撃してしまったよ。彼が自らの手で、頭目以外の賊の命を狩る瞬間を…」
「そんな…そんな、嘘ですよね…?兄さんが人を傷つけるなんて…あり得るはずがありませんっ…!」
いまいち事情は掴めないが、レス君という人物はテティスの兄で、トラスト君曰くルイスを除いた33名の賊を皆殺しにした犯人。となると彼も猫獣人か。
先程トラスト君が述べていた「暴走した彼」とは、彼女の兄君のことだったんだね。
相手が賊とはいえ、正当な権利もなく他人の命を奪ってしまえば立派な殺人…しかも33名もとなると、まず死罪は免れない。
せっかく九死に一生を得たいうのに、兄が殺人犯だと聞かされてさぞショックだろう。
「うう…あ…うああああああああ…!」
テティスは大粒の涙を溢し、嗚咽混じりの悲痛な叫び声を上げ、その場にうずくまった。
トラスト君も声こそ上げなかったが、悔恨を噛み潰す勢いで強く歯軋りしながら、テティスに寄り添う。
部外者である私とイスは空気を読んで、室内に二人だけを残し、鍵の壊れた戸をそっと閉めて小屋から離れた。
「…なんか今回の事件、全てが知らないうちに始まって、知らないうちに終わってたって感じだね」
「言い得て妙ですわね」
私たちはプレハブ小屋と壊れた格納庫を追い越し、死体の脇を通り過ぎ、大勢の足跡が入り乱れる轍に沿って歩いた。
いくら無限の時間があろうと、世の物事は私など無視して勝手に進む。それはドレステミルの中に居ようが外に居ようが関係無いのだ。
精緻に練られたフィクションのように、都合もタイミングも待ってはくれない。
いつだって私たちは現実を往く。
「きっとルイスも今頃はレス君の手にかかり、どこかで無様に絶命しているのだろう…」
しばらく歩いた先、採掘場の通用口らしきセメントの石柱に血塗れで寄りかかる、苦痛に歪んだ死に顔を浮かべる男性の惨殺体を視界の端に捉えながら、私たちは進路をレステに定めた。
イスは彼とのすれ違い様、手に握られたままのくすんだ水晶玉みたいな物質を拾い上げ、回収完了、と呟いた。
「さーてと。スコット君には報告だけ済ませて、後の対応は騎士団に任せようか」
「そうですわね。ここでわたくしたちに出来ることは、もうありませんし」
私たちは引き続き、帝国を目指して進む。
運命が一瞬交差しただけに思えた彼女らとじきに相見え、行動を共にする事になるとは知らずに…。
続く。




